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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
191/222

65



 ああ、今日は雲1つない快晴だ。旅立ちにはもってこいだね。



「少那、元気でね」


「シャーリィこそ。…結婚式、必ず参加するよ」


 箏からやって来た皆は、ついに国に帰る日だ。もう言葉は尽くした。後は…再会を願い、笑顔でお別れするのみ。皇宮の前で、少那と固く握手を交わす。

 ルキウス様なんかは港まで送るそうだが、わたし達はここまで。新学期も近いので。皆それぞれお別れをしている。グラスは公爵家と孤児院にはすでに別れを告げて来た。


 セージ達も皆、グラスが王子様だった事にすごく驚いていた。それでも…「立場が変わっても、一緒に苦境を乗り越えた家族だと思っている」って言ってくれたんだ。グラスは目に涙を浮かべていたが、笑顔でまた会おうな!と手を振った。

 今はバジル、フェイテ、テオファと話している。仲良し4人組だったからね…寂しくなるなぁ…。と、絶対に泣かないって決めたんだから!うし!



「咫岐、わたしの事忘れないでね?」


「忘れる筈がございません。…ありがとうございました、シャルティエラ様…!」


 ふふー。なんと咫岐は大粒の涙を流しながら、別れを惜しんでくれた。もっとお話ししたかったなあ。



「飛白師匠、貴方に教わった事は忘れません。孤児院の皆も寂しそうにしていたよ」


「俺こそ…貴女と過ごした日々を忘れません。子供達にも、ちゃんとお別れが言えてよかったです」


 特に女の子は大泣きで「かえっちゃいや〜!!」と言っていた。罪な男だぜ。



「ねえ薪名、ジェイルとどうなった?」


「……ルキウス殿下が箏にいらっしゃる時。両親に挨拶をしたいと言ってくださいました…」


 結構進んでんじゃねーか!あの後デートとかしてたもんねえ、ふっふー。ジェイルは現在漢語の猛勉強中。「学園を卒業しても勉強する羽目になるとは…」って笑ってたよ。

 ちなみにわたしも箏へ同行決定です!その為結婚式は夏から秋に先延ばしでっす。

 これはわたしが希望したのさ。箏に行ってみたいし…結婚式に、木華と薪名もいて欲しいから。


 来年の春にグランツを出発、2ヶ月掛けて箏に向かう。そんで1月滞在して…木華達を連れて帰って来るのさ。

 皇太子殿下の結婚パーティーは大々的に行われるだろう。そしてその後に、ひっそりと結婚式を挙げるのだ。



「でも、パスカル様は悲しむんじゃない?卒業したらすぐに結婚したい!って言ってたし。私は式に参加出来るなら嬉しいけど…」


「大丈夫だよ木華。先に籍は入れるから!まあ…子供は、式が終わってから…だけど」


 いざとなったらマタニティドレスでもいいけれど。ウエディングドレスを現在制作中なので変えたくないのさ。



「シャルティエラ嬢、弟達が大変お世話になった。君が箏を訪れてくれたなら、国を挙げて歓迎しよう」


「凪様…はい!楽しみにしています!」


「ところでな…」


 ?凪様が大きな体を屈めるので、わたしは耳を近付けた。


「私は命に王位を譲りたかったのだが断られてしまってな。その時「そうですね…もしも勇ましい女性が王妃になってくれたなら、お受けしたかもしれません」と言われたのだ。

 まさかとは思うが…?」


「……………」


 まさか…?じゃねーわ。そのニヤけ面、察してるでしょうアナタ…!オホホホホまたお会いしましょう!と言って逃げた。



 そして、グラス。涙は見せないよ、お互いにね。


「バイバイ…グラス。いつかまた会おう、諸国漫遊の旅も頑張ってね!」


「はい、お嬢様。大丈夫ですよ、弟達と一緒なんですから。それに、これ」


 ん?グラスは笑顔で、服の下からペンダントを出して見せてくれた。真っ黒な宝石が付いている…黒曜石ってやつ?綺麗…これがどうかした?


「これ、ヨミさんから貰ったんです。確か…お嬢様から、おれの記憶が封印されているって教えてもらったあの日。

 貴女の部屋を出たおれを追い掛けてきて、『君に必要なモノはきっとコレ。大して役立たないとは思うけど、あると便利だよ』って放り投げました。

 これには闇の精霊の力が宿っていて…なんと、ヨミさんのように影の収納が使えるんですよ!」


「おお!すごいじゃん!」

 

 生き物とかは入らないけど、これがあれば手ぶらで旅に出れるじゃん!

 2人で盛り上がっていたら、ヨミがのんびり近寄って来た。彼は最近ほとんど影の外にいる。もう人間扱いしてるよ、わたしは。


「あー、それね。なんとなくだけど、あの時。君はこの国を離れるだろうと思ったから…餞別にね。ちなみにいい物入れといたから、困ったら売るといいよ」


「「いい物…?」」


 グラスもまだお試ししかしていないようだ。収納の使い方は頭の中で物を浮かべるだけでいいらしく…中に入ってる物全部出ろーと念じたら。


 ドサドサドサッ!と…大量の宝剣やら金塊やら、とにかくお高そうなモノが山のように足元に転がった…!!


「「な、なんじゃこりゃああーーー!!?」」


「やっぱ貧乏旅行はつまんないじゃん?いい宿に泊まって美味しい物食べて、綺麗な景色に感動して。色んな世界を、見てきなよ。

 これはぼくの…そうだな。お兄ちゃんからの贈り物。気が引けるんなら世界中のお土産を買って来てよ。影の中は時間経過とかしないから、ナマモノでもいいよ」


 お兄ちゃん…?あ、もしかして。まだバティストの親子設定引き摺ってる?グラスと顔を見合わせると…


「…ははっ!分かった、兄さん。お嬢様も、お土産沢山買っておきますね」


「うん!」


 彼と軽いハグをして、名残惜しいがお別れ。うん…笑顔でいられた。




「それでは、大変世話になった。これからもグランツと箏の変わらぬ友情を願う」


「ああ、こちらもだ。…ルキウスが必ず姫を幸せにするよ。顔は怖いけど…誰に似たんだろうか…」


「はっはっはっ!私も誰に似てこうなったのか…」


 あ、凪様覇王の自覚あったんか。

 王同士の挨拶も終わり、皆馬車に乗り込んだ。グラスは最後に笑顔を向けて…もう、振り返る事はなかった。



「ばいばーい!!また春…じゃなくて秋に来るねー!!」


「ばいばーい!!待ってるよー!」


 少那と木華は身を乗り出して手を振ってくれた。わたしも両手を広げて声を出した。

 



 そうして…完全に見えなくなった頃。


「……ぐす…」


「お姉様…もういいのよ?」


「そうだな。立派だったぞ、シャーリィ」


「ロッティ〜…お父様あ…!ふぐううぅぅ…!!」


 ずっと堪えていた涙が溢れてしまった。うぐぅ…お別れって、思っていた以上に辛い…!

 わたしは2人に縋って泣いた。パスカルは、ずっと背中をさすってくれた…温かい…。





 こうやって出会いと別れを繰り返し、わたし達は前に進む。それが、生きているってことだから。







 わたし達は5年生になり、忙しい日々を送る。だが…パスカルの情報が正しければ、スタンピードは今年の秋。どこ情報かは教えてくれなかったが、専門家の分析でも大体その辺。

 その時は…戦えるわたし達学生も駆り出されるだろう。もっと鍛えておかないと!



 そうそう、1学期のテスト。なんと!エリゼとパスカルが満点を叩き出したのである!こうして満点トップが3人という、異例の事態になったのだ。


「長かった…!ついに、ロッティに並んだ…!!」


「ははははは見たか!!オレは魔術だけでなく勉強でもトップに立ってやったぞ!!!」


「はいはいおめでとー」パチパチ


 2人はそれぞれ喜び、ロッティは感情の込もっていない言葉を贈る。いやあ、おめでとう!!




 今年の夏は忙しくて全然遊べなかった。そして今日、わたしは陛下に最上級精霊の召喚を頼まれた。出来れば全員、でも無理はしなくていいって。


「パスカルも喚びなよ?」


「君のほうが適任だろう。サポートはするよ」


 全く…!霊脈である教会を立ち入り禁止にして、パスカルとエリゼと3人で精霊をお迎えする。

 エリゼに誕生日プレゼントで貰った杖で陣を描く。ひい、1つに1時間掛かった…!


 残りの最上級精霊、フェニックス、ドライアド、リヴァイアサンをお喚びするのだ。わたし達の精霊も皆、並んで出迎える。

 クロノス様は半神なので強制召喚でも無理(しないけど)。絶対来ないってヨミも言ってたし。でもリヴァイアサンって、人間と契約してるんじゃないの?


「もう亡くなってるよ。だからフリー」


「そっか…じゃあ、いくよ!」


 わたしは両手を前に出し、魔力を送る。まず…フェニックス!!



「お願いフェニックス!どうか、皆を守る為に力を貸してください!!」


 と声を上げれば、魔法陣が強く輝き竜巻のように風が吹く。おっとと、相変わらずだな!

 土煙が晴れると…久しぶりに見た、美しい火の鳥がわたし達を見下ろす。

 フェニックスがバサっと翼を大きく広げると、火の粉が周囲に降り注ぐ。危険は感じないが…綺麗だなあ…。

 そして教会の屋根の上で羽を休めた。ありがとう!とお礼を言って、次に進む。



「では…ドライアド!!貴女の力を貸してください!!」


 次に姿を現したのは、これまたお久しぶりの緑の少女。わたし達ににっこり笑顔を向けてくれたので、こちらも笑顔でお返ししたぞ。

 彼女はわたしの隣にくっ付いた。では最後…初顔合わせのリヴァイアサン!!



「えーと、リヴァイアサン!貴方の力が必要です、どうかお応えくださーい!!」


 と、声を出せば…おばーーー!!?ま、魔法陣から水がー!!あばばばば、溺れちゃ…あ?

 水は空中で大きな球体となり…パアンと弾けた!ぎゃーーー!!雨のように降り注ぐもんでびっしょりだよ!?フェニックスが乾かしてくれたけど。


 水の中から出てきたその姿は…デケエ!!ヘルクリス程ではないが、海の怪物というか…ギョロっとした目、細長い体に翼のようなヒレが2つ。足は…4つかな?全体にトゲトゲした龍って感じ…格好いい!!

 リヴァイアサンはわたしの頭を顎で撫でた。うん、よろしくお願いします!!



「こいつらは契約する気は無いけど、魔物退治は手伝ってやるって言ってるぞ。

 意思の疎通が取れないのは面倒だから、シャーリィが仮契約をするといいぞ」


「そうなの?セレネ、仮契約って…仮称リヴァイさん、ドラちゃん、フェニっ君。通常の契約とどう違」


「仮契約終わったぞ、光の愛し子」


「よろしくね」


「暇つぶし程度にはなろう」


「シャーリィ、名前決まっちゃったぞ」


「仮称って言ってんでしょうが!!!」


 いやああーーー!!!これ契約終わるまで、あだ名みたいな呼び方しなきゃいけないの!!?


 落ち込むわたしを無視して、精霊達は話を進める。教会の奥に入り、旧わたしの部屋で作戦会議!年長者だというフェニっ君が色々教えてくれたぞ。



「まずスタンピードは大陸全土に及ぶという認識は違う。とある地域を起点に…毒素、瘴気が広がる。汚染された者は命を奪われ、魔物と化す。その魔物達が暴れ出すのだな。

 まあ人間は魔力を持っているから、具合が悪くなる程度で済むがな。地図はあるか?」


「はい、ここに」


 小さくなったフェニっ君は…完全にヒヨコだ。燃えているヒヨコ。エリゼの頭の上にいたが、ピョンとテーブルに広げた地図の上に降りる。


「この山脈が起点だな。瘴気は今もじわじわと広がっているが、ある日爆発するように広がるだろう」


「ここは…グランツの西部とテノーを隔てる山脈じゃないか…!」


 パスカルの言う通り、大陸でも中心部に当たる地域だ。ここから広がったら…!更にフェニっ君が「このぐらいまで瘴気は広がるだろう」と、炎でぐるっと丸を描く。小国のテノーは1/3覆われている…!!それとテノーの隣、リシャル王国も含まれている。

 範囲に山間部が多いのが救いだろうか。その地域に住まう人々を避難させるしかないな。


 テノーと言えば、フィファ兄弟の祖国にして…ルシファー様が嫁がれた国!!全ての魔物を倒してみせる…!



「クロノスを除くワタシ達全員が揃っているのよ?はっきり言って、今回のスタンピードは楽勝ね」


「いつも私とか、2〜3体しか応じないからな…」


「そうだな、エンシェントドラゴンは付き合いがいいものだ。ああ、ここにいい湖がある。我はここを拠点とする」


 ん?リヴァイさんが指すのはリシャルの湖か。小さい彼は翼と足の生えた蛇って感じ。可愛い。

 そしてドラちゃんはコロポックルのように、大きめの花を持った小さい少女。超可愛い。

 リヴァイさんの湖から、等間隔に7人の最上級精霊が並び迎え撃つ計画に決まった。



「指示する人間がいないと、皆好き勝手に暴れちゃうよ?1人ずつ相棒を決めといたほうが良くない?」


 ヨミはそう言うけど…彼らは聞いてくれるの?


「ま、今回は特別ね。どうしてもって言うなら聞いてあげてもよくてよ?」


「「「どうしてもお願いします!!」」」


 3人でガバッと頭を下げた。だって上手くいけば、犠牲者0で終わらせられるかもしれないもの!!

 するとドラちゃん達は、笑顔で受けてくれた!よし…ここから先は、陛下も交えないと。報告を待っているだろうし、まず皇宮に向かおう!!



「ワシの相棒はこの坊主だ。以前、ワシを呼んだな?」


「そ、その節は…申し訳ございませんでした…」


 あらま、フェニっ君はエリゼを選んだ。エリゼは気まずそうに視線を逸らすも、フェニっ君の背中に乗せられた。わたし達はヘルクリスに乗り、大空に飛び立つ。

 


「セレネの相棒は当然パルだぞ」


「ああ、頼むぞセレネ!」


「まあそうなるよねえ。わたしは…」


「わい、わい。あるじの相棒はわい」


 おっとトッピーか。お願いね!


「では私は…タオフィと共に戦おうか」


「むーん、ヘルクリスも決定かあ。ぼくは…パパにしようっと」


 あら、バティストか。残りのお2人は直感で決めるって。

 皇宮に着いたらすぐに、関係者が待っている会議室に通された。無事全員召喚出来たと報告すれば、室内に喜びの声が広がったぞ。



「ん?水の匂い…」


「リヴァイさん?」


 彼はフラフラと廊下に出た。ついて行くと向かった先には…



「シャーリィ?どうだった…って、もしやそちらが?」


「あ、ルシアン。帰って来てたんだね。彼は水の精霊、リヴァイアサンのリヴァイさんだよ!」


「ルシアン、ルシアンと言うのか。我の相棒はこいつだ」


「???」


 はい決定!!首を傾げるルシアンに簡単に説明すると、少し慄きながらも頑張る!と気合を入れた。

 会議室ではパスカルとエリゼが、さっき話し合った事を報告している。作戦に反対は無いようで、精霊に選ばれた人は今日から一緒に生活してもらう。心を通わせて、上手く連携を取れるようにと。


 ヘルクリスはタオフィ先生の元に向かい、説明しとくと言っていた。ただドラちゃんだけピンとくる相手が皇宮にいない〜とため息をついている。

 ひとまずわたしと一緒に帰る事に。ヨミも暫くはバティストにくっ付いて回るだろうな。




「お帰りなさい、お姉様。召喚はどうだった?」


「……この子だわ!!ワタシの相棒、この子ね!!」


「へっ!!?」


「へ…?」


 本邸に帰ると…ドラちゃんがロッティを見た途端そう言った。人間に拒否権は無い、はい決定!!!こちらが一覧となります。



 シャルティエラ&トッピー

 シャルロット&ドラちゃん

 パスカル&セレネ

 エリゼ&フェニっ君

 ルシアン&リヴァイさん

 タオフィ&ヘルクリス

 バティスト&ヨミ



 です!!もちろん他にもジスラン等騎士や魔術師も総出で迎え撃つ。特に範囲内の3国は警戒を強め…その日を待つ。


 わたし達の目的は2つ。魔物の殲滅と…犠牲者を出さない事!!



「もしも最上級精霊殿が力を貸してくれなければ、多くの人が犠牲となっただろう。このグランツも例外ではない、滅ぶ事だって有り得るのだ。

 だから…ありがとう、シャルティエラ。精霊殿を除けば、君が一番の功労者となろう。作戦終了までどうか力を貸して欲しい」



 秋が差し迫って来た頃、わたしは陛下に個人的に呼び出された。そんな、頭を下げなくても!



「陛下…いえ伯父様。わたしは、わたしに出来る事をしたんです。それが今回は国を救うなんて大きな事だったけれど…わたし1人の力ではありません。

 人々を避難させる、近隣諸国に通達をする等…人を動かせるのは陛下にしか出来ない事なんです。ですから…どうか、わたしにお手伝いをさせてください!」


「…ありがとう。君がそう言ってくれる子でよかった…」



 伯父様はそう言って、安心したように微笑んだ。

 それからもわたし達は精霊と心を通わせたり、魔術や剣の鍛錬を欠かさない。そして…作戦の時は、近い。



強制召喚された場合の、それぞれの対応:

フェニっ君◯1回は許す。次は無い。

ヘルクリス◯許すけど、超暴れる。

セレネ◯悪意が無ければ許す。あったら即殺す。

トッピー◯大地震を起こす。

ドラちゃん◯半径3km程にいる人間全て植物の苗床にする。つまり殺す。

リヴァイさん◯周囲を水に沈める。

ヨミ◯どう足掻いても術者は死ぬ。

クロノス◯呼べない。



シャ「うーん。わたしって結構凄いかも…?」

エリ「結構どころじゃねーよ…」

パス「セレネ達が喚んでもよかったんじゃ?」

セレ「それだと、あいつら人間の言う事聞かないぞ」

3人「なるほどー」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゲームでの話だった場合どうなっていたのだろう? 精霊が召喚できないから被害は圧倒的にでるとは思うけど
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