表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
188/222

sideパスカル




 庭までグラスを探しに来たら、なんか…剣が地面に刺さってた。メモが貼ってある、『抜け』とな?


 それを手に取ると、何処からともなくグラスが現れた?彼はカタナを手に…俺に向かって構える。…そうかい!



 俺達は合図も無く、同時に地面を蹴った。剣とカタナが打つかり、火花が散る。


「………!」


「ぐぅ…!」


 思わず呻き声を上げてしまう。奴の攻撃は軽いが、スピードは俺より遥かに上だ。なんとか猛攻を凌ぎ、一瞬の隙を突き叩く!!!


「なっ…!」


 ガシャン、とカタナが地面に落ちる。俺はグラスの首に剣を突き付け勝利宣言をした。


「俺の勝ちだ。だから……あーーーっ!!?」


 に、逃げた!!負けたなら大人しくサインしろやーーー!!

 急いで追い掛けるも、また見失った!!なんだあんの野郎ぉ…!





「ん…?」


 厨房の前を通り過ぎようとしたら…扉に張り紙があった。『中に入れ』…どう考えても俺に向けたものだろう。

 ノックをしてから開けると…コック帽を被りエプロンを着たグラスが、仁王立ちで俺を出迎えた。審査員席と書かれた椅子に、ロイ、ラッセル、ファロ殿が座っている。ま、さ、か…!



「勝負だパスカル。お題はこのさつまいもを使ったスイーツ」


「え。ちょっと待って」


「レシピは好きなもんを見ろ。制限時間は1時間だ!!」


 えーーー!!!奴は手早く調理を始めた…やってやるわ!俺も帽子を被りエプロンを装着し、レシピに目を通す。なんで俺だけフリフリエプロンなんだよ!!!

 えっと、えと…簡単スイートポテトにしよう。



 まず皮を剥く…あれ、本体が小さくなった。


「(なんつーベタな事するんだあの子。面白〜)」


 ファロ殿の視線が生温い。ちょ、ちょっと剥きすぎたかな?次、輪切り!


「硬いな…ソイヤッッ!!!」


 包丁を叩き付けたら、まな板まで切れた。まあいい、芋は切れたんだし。それを繰り返していたら、まな板が小さくなってしまった。

 ん?審査員席が…若干後ろに下がっている気がする。


「そして芋を潰す!!ふぐぐぐ…!」


「……(茹でる工程すっ飛ばしてる。生で潰せないだろう…)」


 今度はロイが哀れみの視線で鍋を見る。あ…茹でるのか。失敗失敗、よし!寸胴鍋たっぷりにお湯を沸かす!多ければ多いほどいいはずだ。


 ……中々沸かないな。



「はーい、残り30分でーす」


「え、もう!?」


 嘘だろ、この後オーブンで加熱もすんのに!?もう生でいいわ、後で焼くんだから!!

 力ずくでクラッシュして、適当に砂糖とか牛乳とかぶち込んで練って、時間が無いので300度に熱したオーブンでさっさと焼く。あちち!



 出来上がったものは…


「おかしい…なんでボロボロなんだ?写真と違うぞ…?」


「「「「………………」」」」


 俺は本気で疑問なのに、4人は呆れた顔をしている。ちなみにグラスはさつまいものパンケーキ。悔しいが、美味い…。


 で、俺のは?なんで審査員は誰も食べようとしない?無理矢理食わすと…全員口を手で押さえた。そんなに美味い?


 さて結果は…



『グラス』『グラス』『グラス』



「なんでだよ!!?」


「こっちのセリフだ。なんでコレで勝てると思った…?」


 グラスが俺のスイートポテトを食べながら言う。くそ、牛乳が足りなかったか…!?グラスは不味いと言いながらも完食、そのまま逃走。また追いかけっこかい!!!




 勉強、ゲーム、変顔等多様な勝負を挑まれ、勝敗に関係なくグラスは逃げる。なんなんだ一体!?

 さっきなんて持久力勝負で、30分間走り続けた…げほっ。廊下の真ん中で膝と手を突き休憩。あの男、絶対捕まえる!!



 さて…立ち上がろうとしたら


「ぐえっ!?」


「……………」


 背中に衝撃が…!思わず床に突っ伏した。なんだ!?と顔を上に向けると…



「グラス!!」


「…………」


 奴は俺の背中に横向きに座っていた。俺を一瞥すると、ふんと鼻を鳴らす。

 早く降りろ、サイン寄越せ!と言いたいが…そんな雰囲気でもなく。俺らはその体勢のまま、暫く無言でいた。




「…おれはお前が嫌いだ」



 疲れからか眠気がやって来た頃、ようやくグラスが口を開く。そうかい。


「俺はお前の事嫌いじゃねえぞ」


「はあっ!?」


 なんだその反応は。俺は…


「お前のはっきりと物言う性格も、気高いところも。

 …同じ人を好きにならなければ、きっといい友人になれたと思う」


「…なんだそれ。勝者の余裕かよ?お嬢様に選ばれたからって…!」


「違う。

 …俺は。お前が羨ましかった」


「あ?」



 シャーリィの従者として側にいるお前に嫉妬した。俺のいない間に取られてしまうんじゃないかって、焦った。だって…



「シャーリィも…たまにお前を慈しむように見つめていたから」


「…お嬢様が?」



 そうだ。彼女は時折、グラスをそんな目で見ていた。俺には見せてくれた事のない表情で。いや…その時はシャーリィが、別人に見えるんだよな。

 多分だけど。彼女も…無意識にグラスに惹かれていたんだと思う。しかも根っこのほう、本能と言うか…



「お前達が並んでいる姿を見る度に。俺は…自分が間違っている気がしてしまうんだ。

 本当はシャーリィの隣には、俺じゃなくてグラスがいるべきなんじゃないかって。それが自然なんじゃないかって…」


「…(精霊達も、似たような事を言っていたな…どういう事だ…?)それでも…お嬢様がお前を選んだのは確かだろうが」


「そうだよ。それでも不安は拭えなかった」



 だから毎日毎日スキンシップを取り愛を囁き、身体を求めた。そうする事で…安心したかった。



「あー…義兄上、ナハト先生も似たようなモンだな。この人は絶対安全だって思える。

 逆にお前には、シャーリィを奪われると怯えてしまう。これも本能か?」


「知るか。おれだって…お前を初めて見た時。おれからお嬢様を奪う敵だと認識した」


「そうか。なあグラス」


「……なんだ」


「お前が俺を殺したい程憎んでいても。俺は…絶対にシャーリィを諦めない。お前だって、理解出来る感情だろう?」


「………………チッ」


 仲間だからな。

 しかし…やべ、眠い…。緊張して昨日は寝てないし…もう2時間くらい歩いて走って上って下ってを繰り返して、いたから……



「あー、クソッ。理解出来るっつーのが悔しくて仕方ねえ。チクショウ…ん?」


「………ふわあぁ…」



 あー…意識が…



「どうせなら…シャーリィの膝枕で眠りたい…いや、彼女を腕枕したい…」


「そこは全面的に同意する。って…本当に寝てやがる…」


 薄れゆく意識の中。グラスが俺の懐を漁り…



「ああ、認めてやるよパスカル・マクロン。お前こそ、シャルティエラ様の隣に相応しい男だってな。

 でもな…絶っ対祝福はしねえ!結婚式だって出てやらん!」



 ああ…それで、いいよ…

 でもな。今日の勝負…どれも楽しかったぞ。本当に、そう思う…


 そのまま引き摺られる感覚が…その頃には完全に、俺の意識は…ぐぅ…




 ※※※




「…ん?」


 次に目を覚ましたのは、もう暗くなってからだった。月明かりを頼りに時計を見ると…午後10時!?6時間も…って、ここどこだ?

 俺の部屋じゃない…というか、温かくていい匂い…。俺の腕の中に、何か……!!?


「シャッ…!」


「…ん〜…」


 シャーリィがいる…!?しかも彼女は俺の背に手を回して、足を絡めて密着している!ここはシャーリィの部屋か!

 服は!?着てる……シャーリィの…ナイトドレス姿…ヤバい。


 この状況はまずい。俺は眠る彼女を見つめて…ごくりと喉を鳴らした。すると俺が動いたせいか、彼女もゆっくりと目を開けた。



「…?おお、起きたの〜パスカルゥ…」


「ああ…おはよう」


 心臓の鼓動が早い。聞かれないよう、離れないと…!だが彼女は微笑み、俺にキスをしてきた……殺す気か?


「えへへ、おめでとうパスカル!」


「ん…?」


 彼女はベッドの頭に手を伸ばし、ライトを点けて…紙を見せてくれた。そこには…『グラス・オリエント』のサインが追加されて、全ての枠が埋まっていた。


「グラスが君を、執務室まで引き摺ってきたんだよ。全然起きないから…わたしの部屋に運んだの」


「……それは…つまり。公爵も…認めているという事だな?」


「う…ん…」


 俺が上に覆い被さると、シャーリィは顔を赤くして目を逸らした。ん?紙の裏側…何か書かれている。



『もう俺は、お前らの行動に口は出さねえ。ただし結婚するまでは、シャーリィは家の用事を優先してもらうからな!』



 これは…義父上の字か?そうか…


「精霊達は?」


「あー…皆、ヨミの部屋だよ」


 そうか。


「…………………」


 シャーリィは俺を不安そうに見上げる。しかしその視線は熱を帯びていて…俺達は口付けを交わした。深く、何度も。



「…愛してる、シャーリィ」


「………うん…わたし、も…」



 そうして俺は、彼女のドレスに指を掛けたのだ。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ