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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
186/222

62



 始業式の朝、学園に着くと…。



「……うう…見られてるう…」


「お姉様が可愛すぎるのがいけないのよ…罪な女の子ね…ふっ」


「何言ってんだお前?同じ顔しといて…」



 予想通り、女子の制服姿のわたしは注目の的だった。誰もが遠巻きに見ている…恥ずかしいのでお父様の腕を掴んだ。

 まず職員室へ向かう。職員会議の時に、先生方にお父様から説明してもらうのだ。皆噂は聞いていたようで、それほど驚きはなかった。



「という訳で…知っていた先生も何人かいたと思うが、この子は今日から女子扱いでよろしく。

 ただ…剣術の授業は出たいと本人が望んでいるから、任せたクザン」


「………………かしこまりました…」


 クザン先生むっちゃ悩んだな。でもわたし、やっぱり剣はやめらんねえ!



 今日は始業式だけで終わりなので、お父様は最後までいてくれる。セフテンス関連も、お父様とバティストの手助けは終了したようだ。



「では教室に行きましょうか、姫。此方のエスコートいります?」


「遠慮しまっす!」


「じゃあ俺が…」


「兄様は医務室行けや」


「しょぼん…ところで言葉使い、変えないのか?」


 え?ああ…女性らしくはないなあ。でも…必要な時は切り替えればいいし。


「面倒だからいいや」


「へいよ」


 さて…行きますか!


 教室に足を踏み入れると囲まれた。主に女子。



「きゃー!本当に女性でしたのねっ!」

「シャルティエラ様とお呼びしてよろしいですか!?」

「マクロン様と正式にご婚約したとは事実ですか!?」


 と、矢継ぎ早に質問が飛んでくる!!控えめに「はい…」と肯定すると…「きゃーーー!!」と大盛り上がり!ひええ。


 困っていたらタオフィ先生が手を叩き、席に着いてくださいねーと言う。皆解散し、ようやく席に座れたあ…。



「その制服、似合っているぞ」


「……いいんじゃないか?それより後ろ…」


「か、可愛いね!」


「素敵よシャーリィ」


 ルシアン、エリゼ、少那、木華が褒めてくれた。照れますなあ…後ろ?クルッと振り向くと…


「ヒエッ!!?」


「……………」


 び……っくりしたあ〜…!パスカルがわたしの真後ろに立ってやがる!!デカイから威圧感が!!そんでブツブツと「俺が一番最初に見たかった…」とか言っている。


 彼はわたしを持ち上げ、椅子を奪って座った。で、わたしは膝の上…なんなん?邪魔な机は自動的に前に蹴り出され、前の少那がうえっと唸った。


「王?貴方の席はそこではありませんよ?」


「椅子には座っています、問題ありません」


「問題しかねえわ!!」


「だグッ!!」


 教室の後ろにいたお父様も移動してきて、彼に拳骨を落とす。そんでパスカルの首根っこを掴んで後ろに引き摺って行くのだが…

 わたしを離してくれないもんで、彼の腹の上で一緒に連れて行かれた。クラスメイトの視線が痛い…!

 結局パスカルの席でわたしはホームルームを受ける。皆の生温かい視線が辛い。隣のジスランの胡乱な目も。



 始業式でも視線をめっちゃ感じたわ、でも生徒達にはわざわざ説明しない。

 わたしに話し掛けようとする生徒はロッティやパスカルの睨みが炸裂する。なんか…守られているみたいで嬉しい。



 というか、生徒は皆アッサリ受け入れてくれた。ええ…?わたしの緊張返せ。


「(だって…ねえ?)」

「(むしろ納得したと言うか)」

「(マクロン羨ましい…)」

「(可愛い…)」


 なんかボソボソ聞こえるような?嫌な感じはしないのでスルーする。



 そんな風に、わたしは学園でも順調に過ごせていた。元々乙女系男子的な扱いをされていたので、環境は大して変わらなかった。強いて言えば、女子からのお茶会の誘いが増えたくらい?

 皆わたしの話や、セフテンスの事を知りたがった。なので言える範囲で教えてあげたぞ。



 ペレちゃんは現在我が家に滞在している。毎週末はルシアンと一緒に島に行く予定だけど…平日は休め!と言われてしまっているのだ。


「其方の仕事はまず休む事!食事は3食キッチリ、睡眠は最低6時間!!」


「で、でも…!皆働いていますのに」


「私も平日はただの学生だ。それよりも今まで働き続けていたんだ。暫くは全部大人に任せて、ゆっくり休みなさい」


「……はい…」


 渋々だが彼女も了承した。皇宮で暮らしても良かったんだが、同年代の女子がいるウチのほうがいいだろうとルシアンが提案した。

 そんでペレちゃんがウチを選び、昼間は読書とか刺繍とかしてのんびりしている。外出時はグラスやジェイルが付き添うのだ。


 セフテンスの貴族は学校に通わず、皆家庭教師を雇うだけらしい。折角だから学園通う?と聞いてみたら…断られた。

 多分…姉の悪評が付き纏うからだろう。そうなったら全力で守るつもりだったけど、無理強いはしたくない。


 そもそもペレちゃんは、ヴィルヘルミーナ殿下の所為で婚約破棄等した人に負い目を感じている。人生を壊してしまった…と。

 まあ99%殿下が悪いけど、最終的に彼らは自分でその道を選んだんだ。ペレちゃんが背負う事ではないし、させない。



 なので今はルシアンの言う通り…ゆっくりして欲しい。ただ夜あまり眠れないようで…わたしやロッティが一緒に寝ている。安眠には誰かの温もりが必要みたいだね…色々あったもんね。

 いつか、彼女の心が完全に癒える日が来ることを願う。




 あ、そういえば環境は何も変わらなかったけど…困る事もあった。例えば…



「ふい〜、トイレトイレ…あっ」


「「きゃーーーっ!!!」」


「ん?シャーリィ、間違えているぞ」


「こいつぁ失敬。てかきゃーって…」


 いつもの癖で、男子トイレに入ってしまったのだ。偶然中にいた男子生徒は悲鳴を上げ、ジスランは普通に指摘してきた。

 男子の悲鳴がわたしより女子力高くてムカつ………なんとなく、そういった理由でオスワルドさんを振った女性の気持ちが分かった。





 他にも、生徒会活動中。


「シャーリィさん、コーヒー飲む?」

「先輩っ、これやっておきました!」

「そんな重いもの、僕が持つよ」

「マクロン席代われ」

「断る!!!おいこらシャーリィの肩に触れるな!!」


 えー…わたくし、生徒会メンバーに甘やかされています。特に会長副会長がめっちゃ話し掛けてくる、気分はサークルの姫。

 まあ彼らの場合、わたしに本気という訳ではない。どちらかと言うと…パスカルの反応を楽しんでいる。程々にしてね…。

 もうじきわたしも副会長か〜、パスカルのサポート頑張ろう!!



「あ、そだ。侯爵家に挨拶…今週本当に大丈夫?」


「ああ。両親も祖父母も待っている」


「おぅふ…」





 という事で週末、やって来ましたマクロン家!!婚約のご挨拶に伺いました、よろしくお願いします!!グラスもジェイルも抜きで、単身乗り込んで来ました!


「よく来てくれたな、ラウルスペード嬢」


「財務大臣様。本日はお時間を作っていただき、ありがとうございます」


「はは、そう緊張せずともよい。さあ中へ」


 早速お祖父様の出迎え!!彼は厳しい人だから、反対されるんじゃないかと思っていたが…今のところ大丈夫そう?

 でも…この後パスカルは、爵位継承を放棄するって話をするんだよね。それで絶縁とかなったらどうしよう…!


 不安を胸に抱えつつも、応接間のソファーにパスカルと並んで座る。ひい…お祖父様にお祖母様、ご両親がすでに揃っている…!し、深呼吸…!

 パスカルはわたしと手を合わせて…にっこりと笑った。それだけで、勇気が湧いてくる…!



「改めて紹介する。彼女はシャルティエラ・ラウルスペード。陛下が公証人となってくださり、正式に婚約を交わした女性です」


 ……………?今、なんと?


「俺は彼女を愛しています。そしてお祖父様は了承済みですが、彼女は卒業後騎士の道を歩みます。その為俺は侯爵位を辞退し、彼女を支えたいと思います」


 ………ちょい?お祖父様は了承済みて…?

 さっきからパスカルの発言に、わたしは目を丸くするばかり。初耳ですが?


 わたしが頭に大量のハテナを浮かべていると、お祖父様が口を開く。



「そうだ、お前の覚悟は確かに伝わった。ラウルスペード嬢」


「はいっ」


「どうか…孫を頼む。これまで散々縁談を断り続けていたのも、君を諦めたくなかったからだと聞いている。卒業後、駆け落ちをしてでも君と結ばれたかったそうだ。

 …今まで私の言う事を全て聞いていたパスカルの反抗には、私も驚いた。思わずカッとなった事もあったが…今は。

 パスカルが諦めなくてよかった。…君の隣で幸せそうに笑えているようで、何よりだ。…そろそろ年寄りは隠居しろという事だな。もう、侯爵家の方針に口出しはせん」


 お祖父様はわたしに向かって頭を下げた。……許してくれんの!!?


「…わたしこそ、これから家族としてよろしくお願い致します!お祖母様、お父様、お母様も。どうか結婚を許していただけますか?」


 何も発言していない3人に、そっと視線を送る。するとお父様達も皆、笑顔で祝福してくれた。



「ふふ、久しぶりに本邸に呼ばれたと思ったら…こんなに可愛らしいお嫁さんに会えるなんて!どうか、パスカルちゃんをよろしくね」


 姉様達のちゃん付けは、どうやらお祖母様の影響らしい。


「剣術大会の時は戸惑うしかなかったが…そういう事だったんだね。頭の堅い息子だけれど、よろしく頼む」


「ええ、この子があんなにも結婚相手は自分で決める!と主張した理由が分かったわ。

 私達も、貴女の将来を応援したいわ。頑張ってね!」



 ………!自分でも緊張がほぐれていくのが分かる。好きな人の家族に拒絶されたら、立ち直れないかもって思ってた。でも実際は皆受け入れてくれた…嬉しい!

 えへへ、ニヤけちゃうのが抑えられないよう!頬を両手で覆い、なんとか隠す。そんなわたしの事を、家族は皆穏やかに見つめている。うへへ。



 緊張の挨拶が終わり、お祖父様とお祖母様は退室した。わたし達は結婚式について話し合う。


「「結婚式?」」


 ご両親とも首を傾げる。皇国は結婚式ってしないもんね!なので、わたしの知識を総動員してイメージを伝える。



「えーと…教会の礼拝堂ってあるじゃないですか。新郎、パスカルは先に入場してもらいたいんです。それでわたしが後から、お父様と腕を組んで入場します。

 今まで育ててくれた父親と共にヴァージンロードを歩き。祭壇の前で…花嫁は父親の手を離れて、旦那様の腕を取るんです。

 そして牧師さんが誓いの言葉を述べて、わたし達は誓うんです」


「誓いの言葉って…まさか、以前の?」


 覚えてたんかい…嬉しいじゃないか。


「うん。楽しい時だけじゃなくて、苦しい時もずっと夫婦2人で支え合って。死が2人を分つまで、愛します…って神様に誓うの。

 わたしは真っ白なドレスでね、パスカルは白いタキシードで…昔からずっと、憧れてたんだあ…」


 専門的な知識は無いので、わたしなりの解釈だけど。伝わったかな…?と、ちらっとご両親の反応を見てみる。

 おや?お母様は頬を紅潮させて、目を輝かせているぞ。



「まあ…素敵!特に父親から旦那様に花嫁を託すところが!」


「そうだね。大切に育ててきた娘を自分の手で送り出すなんて…メロディとレティシアの時もやりたかったなあ…」


「いいわあ、そんな文化があったなんて!どこの国の風習なのかしら?」


「んと……小さい頃本で読んだだけで…覚えていないんです。ただすっごい印象的だったから。いつか女の子に戻れて、好きな人が出来たら…こうしたいなって胸を躍らせたんです…」


「…ふふ、その夢を叶えるお手伝いが出来るなんて、光栄だわ!…他には?それだけじゃないでしょ!?」


 うをっぷ、お母様の圧が凄い。お父様は苦笑いだが、楽しそう。

 えっと…讃美歌?ブーケトスは…やめておこう。そもそも最近はブーケトス自体無いって聞いたけど。投げるんじゃなくてプレゼントするとか、他のもんを投げるとか。わたしはロッティにあげたいな〜!他には〜…


「指輪の交換。誓いのキス…」


「え、キス?」


 あ、パスカルの目が輝いた。こうして見ると親子そっくり〜…じゃなくて!どうしてそこに食いつく!!

 

「と、とにかく!詳しい事はまたいずれ!場所はサントシャペル教会で、披露宴は…会場が無いなあ。ガーデンパーティーみたいに、教会の庭でってなるかな」


 教会には立派な厨房があるし、そこで料理も作れるでしょう。司会者はなんとなく、バティストにお願いしたい。余計な事言いそうだけど。

 牧師さんは…?……そのうち決めよう。進行とかドレスとか、沢山考える事はある。


 いざこうして話してみると…結婚するんだなあって実感する。大好きな人と…ふふ。


「…?どうしたんだい、シャーリィ?」


 パスカルがわたしの手を握り、微笑みかけてくれた。たったそれだけで、胸が高鳴って幸せになれる。


「んーん、なんでも。大好きだよって、思っただけ」


「…………………」


 ん?パスカルは無言になり…わたしを抱き締めた。温かいなあ…。



「(はあ〜〜〜…可愛い。今すぐその結婚式をしたい…喜ぶ顔を見たい…)」


「(うーん…息子のこういう姿を見るのは複雑な気分だなぁ。なんだあの緩みきった笑顔は…)」


「(はあ〜…いいわあ、結婚式!私も今からでも旦那様と挙げたいわあ)」



 和やかな空気の中、話し合いは終了。パスカルの部屋に遊びに行く事に。すると…


「…あれ?何この写真!?」


 わたし達の写真が飾ってある!!いつの間に…建国祭の時のやつやんけ!!今まで隠していたが、やっと堂々と飾れる!と彼は笑った。はあ…仕方ないなあ。

 ベッドに並んで腰掛けて、色んな話をする。最近忙しくて…こんな風にゆっくり話せなかったからね。



「…………ん?」


 だが、ふと何かが目に入った。彼の机の上…の箱。そこからはみ出ている布が…何あれ?


「あっ、それは…」


 パスカルの静止は無視して机に向かう。その布を手に取ると………!!!?



「な…な……!なんじゃこのセクシーなスケスケナイトドレスはーーーっ!!!?」

 

「バレたか…実はシャーリィに着てもらいたくて…」


 パスカルはポッと頬を染めてこっちを見る。多分わたしの顔は更に真っ赤だろう。コレを!!着ろと!!?わたしが!!!!

 無理無理無理恥ずかしい!!!と言えば「俺しか見ないから大丈夫!!」といい笑顔で返された。そういう問題じゃねーーー!!!


「てかコレ、お店で買ったんだよね!?その場で選んだんだよね!!?一体どんな顔してレジに持って行けるのっ!!?」


「この顔だけど…」


「そーじゃねーんだわーーー!!!」



 思わずパスカルの顔面にドレスを叩き付け、わたしは挨拶もせずに屋敷を飛び出した。ヘルクリスに乗り本邸まで帰り、自分のベッドに倒れ込む。




 ……やり過ぎたかな?傷付いてたらどうしよう…。というか、真剣な顔でドレスを選ぶパスカルの姿を想像すると…ぷっ。

 でもアレはなー…流石に恥ずかしい。いや折角買ってくれたんだし…1回くらいなら…いやいやいや。


 あれこれ考えていたら疲れてきちゃった。パスカルが気にしていたら申し訳ないので、決死の覚悟で『結婚した後なら着てあげる』と手紙を送った。

 すると即座に返信が…



『よかった!愛してるよ、シャーリィ』



 だけだった。なんか拍子抜け…でも落ち込んではいないみたいでよかったあ。……初夜が怖い。考えないようにしよう!!

 さて、刀でも振ってこようかな〜と、わたしは立ち上がり部屋を出るのであった。




 ……陛下が公証人の婚約ってなんだよ!!!?




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