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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
183/222

59



 ……………………。




「ですから早くセレス様をお出しなさい!!あの方は未来の王配となられるのだから!」



 ………あ…意識が飛んでたな…危ない危ない。

 で、なんだって?わたし(女)と王女(女)の子?アハっ、なんつー幻聴が



「聞こえなかったの!?私のお腹の中に、愛の結晶である子がいるのよ!!」



 幻聴じゃなかった。



「シャーリィ……俺というものがありながら…」


「はっ!?違うのよパスカル!わたしが愛しているのはアナタだけですもの!」


「言い訳は聞きたくない!信じていたのに…!」


「いや…わたしを捨てないでパスカルウゥ!!」


「おふざけはそこまでね」


「「はい…」」


 バティストに怒られちった。だってー…ふざけてないとやってらんないよう。


 騎士の困惑が、背中から見て取れる。なんっで公表した日に凸って来ちゃうかなあ…?明日には社交界に知れ渡り、正月の挨拶時で確定するような段取りだったのに…。

 

 彼女は益々ヒートアップ。ジェイルを盾にして近付くと…また取り巻きおんのかーい!!お前らも自宅謹慎だろーーーが!!!



「……えーと。君は妊娠している…で間違いないのかね?」


「あら陛下。はい、間違いありませんわ」


 わ。皇帝陛下が出ちゃったよ!呆れ顔でヴィルヘルミーナ殿下に最終確認をする。


「その…父親は絶っ対に、うちの子って断言出来るんだな?」


「どちら様ですか?え、ラウルスペード公爵様?つまりお義父様?

 はい、セレスタン様の子ですわ!駄目よと申し上げたのに…あの方が情熱的に私を求めるから…♡」ぽっ


「「…………………」」


 こっち見るんじゃない、わたしの子じゃなーい!!!と首をブンブン左右に振った。

 取り巻きもなんか騒いでいるけど…はっきり言って、今の彼女らは滑稽だ。



「で…君はうちに何を求める?」


「当然、セレス様に責任を取っていただきますわ。私と婚姻し、セフテンスに来てもらいます」


 いやあ…断る。つかアナタ色んな男性と、その…えー。乳繰り合っていたらしいやんけ。その子がわたしの子である確証は無いし、そもそも妊娠すらも怪しいのでは?


「いや、いる。あの女の腹に魂が宿ってるよ」


「ヨミ!て事は、赤ちゃん本当にいるの!?」


「うん」


 ヨミが呑気にケーキを頬張りながら近付いてきた。その言葉にわたし達は愕然とする。じゃあ…誰だよ父親は!!


 もう埒があかないのでわたしが出る事に。パスカルとジェイルとバティストには下がってもらい…堂々とした足取りで玄関に向かえば、陛下もお父様も道を譲ってくれた。ふう…




 ヴィルヘルミーナ・アヌ・セフテンス。これまでの貴女の言動は、王族以前に人として許されるものではない。

 世間知らずのお姫様だから、と見逃される時期もとうに過ぎた。さて…覚悟してもらおうか。




「ヴィルヘルミーナ殿下。わたくしをお探しとの事ですが…」


「セレス様♡………え?」


 殿下も取り巻きも…目を見開いている。そしてアンタ誰よ?と言うので微笑みながら説明してあげた。

 これまでは意識的に声を低くしていたが…これからは。本来の声でお相手致します。淑女っぽい話し方はしんどいが。


「わたくしがセレスタン・ラウルスペードでございます。訳あって男性として振る舞っておりましたが…もう役目は終えました。これからはシャルティエラとお呼びくださいませ。

 この事は伯父である陛下もご存知ですので…何を訴えても無駄ですわ。

 どうして男性の振りをしていたのか…それはラサーニュ伯爵の陰謀、とだけお教え致します。皇国の貴族ならば、それだけで察しは付くと思いますが…」



 これは後ろの3人に向けた言葉。


 これが、最終通告。ここで違えたら…お前達の未来は無い。

 その意を込めて冷たい視線を送る。彼らはわたしがセレスタンの顔をしている事。陛下と公爵が両側に立ち、同じように睨み付けている事で…状況を理解したようだ。

 3人揃って顔を青くして…「申し訳ございませんでした!!!」とその場に土下座する。……はあ。



「自宅謹慎中である貴方方の処遇は、改めて伯父様にお願い致します。彼らをつまみ出しなさい!」


 強めに言い放てば、騎士達が取り巻きを拘束して連れ出した。そっちは陛下にお任せ、最後に…



「う、うそよ。あなたが…セレスタン様ですって?」


「そう申しましたが?ですので残念ながら、お腹の子はわたくしの子ではありません。

 先程から聞いていれば…わたくしに迫られただの。責任が、なんですって?ある事ない事言いふらし…名誉毀損って、ご存知?」


「………………………」


 彼女はぶるぶると拳を握り、わたしを睨み付ける。ああ…伯爵夫人の時も思ったけど。どれだけ顔の造形が整っていようとも…内面の醜さは、隠せないんだなあ…。



 もう彼女と話す事は無い。何せ精霊達ももう、限界なのだ。

 これまでの殿下の暴言の数々。わたしに対するストーカーばりの執着。今の…誕生日パーティーをぶち壊してくれた行動。特にトッピーがヤバい。影の中から可愛い声で「死ね…殺す…潰す…」って絶え間なく聞こえてくるのだ…!!



「分かっていただけましたか?ではお帰り願い…」


「嘘よっ!!!」


「ぴえっ!?」


「分かったわ、本当は双子じゃなくて三つ子だったのね!!!セレス様、シャルティエラ、シャルロットの3人がいるのでしょう!?騙されないわ、セレス様を出しなさい!!

 責任逃れなんてさせないわ!あの方があの日、誰もいない教室で!!嫌がる私を押さえ付けて無理矢理純潔を奪ったのよ!!?」


 さっきと言ってる事違ってない?てか、よく大声で言えるなそんなん。




 ていうか、ペレちゃんがお茶の席で教えてくれた。



『その…ヴィルヘルミーナお姉様は。自分を否定される事を嫌い…物事を自分の都合よく解釈するのです。

 恐らくですが…ここ数年は…正気でないのかもしれません。もう私の事も、妹ではなく使用人と認識しておりますし。

 確実に皇国にご迷惑をお掛けすると分かっておりましたので、留学は最後まで反対したのですが…セフテンスに私の言葉を聞いてくれる人はおらず。

 申し訳ございません…目先の仕事に追われて、人脈作りや根本の解決を怠った私の責任です…』



 と…。確かに今のヴィルヘルミーナ殿下は普通ではない。そう考えていたら…



「だはっ!?」


「どきなさい!私が彼を探します!!」


 彼女の細腕からは想像もつかない程、力強く突き飛ばされてしまった。ここで「きゃあっ」と可愛らしく叫ぶ練習が必要だな。

 じゃなくて。ジェイルが受け止めてくれたし、わたしはノーダメージ。殿下はズカズカと屋敷内に足を踏み入れるが……ついに。



 精霊達が、キレた。




「きゃあああっ!!?」


「殿下!!」


 彼女は屋敷の外に吹っ飛ばされた!!またヘルクリスだな、マズイぞ!!彼女を急いで追い掛ける!



「彼女を取り押さえなさい!!なるべく優しく大人数で、急いで!!!」


 わたしの言葉に、ハリエット卿始め女性騎士総出で取り押さえる。


「離しなさい!!この私を地面に擦り付けるなど…!!」


「邪魔、邪魔。あるじ、騎士をどけて。あの女、殺す」


「まままま待って!ほら、取り押さえてるから…!」


 あかーーーん!!!ヘルクリスも、トッピーも、セレネも…真体になって威嚇してる!!こうして押さえて無ければ今頃、殿下は肉塊と化していただろう。

 ヨミだけは辛うじて理性的だが、「こいつムカつく」と怒りは感じているようだ。どうやって落ち着けようか考えていたら…バズーカを担いだロッティが。ゆっくりと…歩いて来た…?



「……もう…ここまで、ね…」


「ロッティ…?」



 彼女の顔は…完全にキレていた。




 その時ヘルクリスがバサッ!!と翼を広げた。うわっぷ、ドレス捲れる!!

 誰もが突風に煽られ、体勢を崩してしまう。とにかく殿下を守らないと…!と思っていた、次の瞬間。


 ヘルクリスが…わたし、ロッティ、セレネを乗せて。大空に飛び立ってしまった…?影の中には、精霊がたくさん。

 地上で呆気に取られ、空を見上げている皆の姿が見えた。が、ヘルクリスが猛スピードで何処かに向かっているので…気にする余裕は無かった。



「あの…何処行くの…?」


「決まってるでしょうお姉様?セフテンスを…滅ぼすのよ」


「……………はいいいい!!?」


 わたしは耳を疑った。いや、それはどうかと!!



「お姉様。お姉様にとって最上級精霊が身近すぎて、分からないのでしょうけど。セフテンスは引き返せないところまで来てしまった。かつての…ラサーニュ伯爵のように。

 いい?お姉様を侮辱するという事は…精霊様を貶すと同義。皆お姉様と契約した影響で、基本的に人間に危害は加えないけど。分かっているでしょう?

 そして、責任を取るのは国そのもの。今更あの女1人殺したところで、彼らは止まらない」


「う……」


 その通り。ヘルクリスは今も無言で飛んでるし…でも、無関係な民を傷付けなくない…!



「もちろんよ。まあ…首都は火の海待ったなしよね。でも…知ってる?

 セフテンスって、クーデター寸前なの。国民が徒党を組んで、城を落として王族を皆殺しにする。ペトロニーユ殿下も例外ではないわ、民にも多くの犠牲が出るでしょう」


「えっ!!?だ、駄目だよ絶対!!!」


「だからこそ、私達が滅ぼす。王族も高官も全員捕らえ、正当な裁きを下す。精霊様達は容赦なく攻撃するでしょうけど…そのほうが遥かにマシなのよ」


「うぅ…!じゃあ皆、暴れるのは避難させてからにしてね!?」



 精霊達と打ち合わせをしていたら、もう着いてしまった…!

 セフテンスは地図で見る限り…北海道くらいの大きさの島国だ。それが大小の島に別れ、長い橋で繋がっている。それと周囲に小島が3つ。

 大きいほうの島、海に面しているあれが王城かな…?




 グオオオオオオォッ!!!



 とヘルクリスがブレスを吐いた!!それで城の屋根は吹っ飛び…ねえ人死んでない!?

 当然ながら人が集まってきた!どうしよう…と慌てていたら、ロッティがヘルクリスの上から堂々と名乗りを上げた!!恐らくヘルクリスが声を風に乗せているのだろう、首都中に響き渡っている。



「私の名はシャルロット・ラウルスペード!!!グランツ皇国を代表し、精霊様と共に滅びを届けにやって来た!!!

 こちらに座すのは風の最上級精霊エンシェントドラゴン様!!

 地の最上級精霊ベヒモス様!!

 闇の最上級精霊死神様!!

 光の最上級精霊フェンリル様!!

 そして…彼らを統べる精霊姫、シャルティエラ・ラウルスペード!!」


 やめてー!!恥ずかしい…!!



「貴様らはこちらの精霊様を敵に回した!!最早謝罪も命乞いも届かぬ!!!

 これより30分の猶予を与える。その後首都に、彼らの総攻撃が降り掛かる!!暮らしを捨てるか国と運命を共にするか、選択せよ!!!」



 彼女の声がビリビリと響く。だが動きが少ない…本気にされていないな?そこで痺れを切らしたロッティが…下に向かってバズーカを構えた!!



「4(キャトル)!!!」



 ドゴオオォン!!!と轟音が響き、城が抉れて庭にクレーターが出来ている…!!今ので何人か死んでない!!?



「これを見てもまだ信じられぬか!!ならば貴様らは、城と共に滅びよ!!!」



 あーーー!!!しかもセレネに乗って飛び降りた!!

 ロッティは向かってくる騎士を、とっとと避難しろ!と叫びながらバズーカで薙ぎ払い…強いなうちの子!!!って眺めてる場合じゃねえ!!


 わたしもヘルクリスから飛び降り、上空に浮かびドレスを靡かせながら言葉を発する。例の炎の翼は、薄暗い中でよく目立つ。




「エア、わたしの声も広げて!!


 …あー…セフテンスの皆さん、聞こえていますか!?セフテンスの王族は彼ら精霊達の逆鱗に触れました。もう逃れる術はありません!!

 速やかに避難を開始してください!家は壊れますが…今後の生活は皇国が保障致します!!慌てず騒がず、押さない、駆けない、喋らない。お・か・しを守って…おはしだっけ?なんでもいいわ!!

 騎士は避難経路を確保!!子供や老人、病人怪我人身重の女性などの手助けをする事!貴重品を持ち出している暇はない、急ぎなさい!!ていうか何処までが首都なの!?」



 その言葉に、ようやく人々が動いた。

 すると…派手な格好の男性が、壊れた城の合間からわたしを見上げて叫んでいる。



「貴様!!このような事をしてただで済むと思っているのか!!?」


 服からして…国王か?そりゃこっちのセリフだ!!!



「あんたの娘がわたしに喧嘩売った結果だよ!!!最上級精霊を怒らせてはいけないって、子供でも知ってんだろうが!!?」


「貴様が精霊姫だと言うのなら、精霊を制御出来るだろうが!!!」


「出来るかバーーーカ!!精霊の契約ってのはな、主従契約じゃねーんだわ!!!彼らは自主的にわたしを主と言ってくれるけど、対等な関係なの!!!

 今まではわたしのお願いを聞いてくれて大人しくしてたの!!それにあそこまで侮辱されてお咎め無しは、国も精霊も示しがつかないの!!」


 一度国を滅ぼすくらいしないと、彼らは落ち着かない。それが互いの為に一番いいんだ、聞き分けろ!!



 すると国王は歯軋りをした後…一目散に逃げ出した!!お前避難誘導しろやーーー!!?


「ヨミ、城から逃げ出した人は全て捕まえられる?」


「任せて。全員?」


「うん。女性も子供も、避難誘導している騎士はいい」


 この機に王族に逃げられちゃ困るからね。

 わたしは避難を見守る。クーデターが起きる前でよかった…のか?少なくとも、人間の被害は抑えられるはずだ。



「……ん?」



「こちらです!金品を持ち出している暇はありません、ご老人の手を引いて差し上げなさい!!」


 あれは…ペレちゃん!?

 城の中で誰もが逃げ惑う中、見知った少女が声を張り上げていた。な…!国王はとっくに外に出て、ヨミに捕まっているというのに。破けたドレス姿のペレちゃんは必死に皆を逃がそうとしている…!



「もう誰もいませんね!?精霊様が慈悲をくださっているのです、無駄にしてはいけません!!」


「ペレちゃあーーーん!!!」


「ラウルスペード様!?……あれ、セレスタン様では…ないのですか?」


「セレスタンだよう!!詳しい話はこっちで…!」


 城の中の避難は完了したようで、わたしはペレちゃんを迎えに行った。絶対に…貴女だけは死なせない!!


 30分後…捕らえた人々は、ヨミが影でガードしている。そして…精霊達は攻撃を開始した。が。ノリノリでセレネに跨りバズーカをぶっぱするロッティは…完全にもの◯け姫。更にヘルクリスとトッピーが派手に暴れて…首都は壊滅した。


 王城もボロボロになって、わたし達はその上空にいる。ペレちゃんを抱えて、ヨミと共に全てを見守る。



「……もう…セフテンスは終わりなのですね。私は…」


「ペレちゃん…ごめんね…」


 彼女には30分の間に全て説明した。


「ラウルスペード様が謝罪される事ではありません…。こうなる事は、目に見えておりました。

 恐らく姉も両親も…精霊様がお優しいから、勘違いをなさったのでしょう。どれだけ見下しても怒られないと…それが…このような結果に…」


「…………………」


 彼女は泣きながらずっと自分を責めていた。


 その姿に…かつての自分が重なった。比べるべくもなく、彼女のほうが背負っている物は大きいけれど。

 全部自分が悪い…自分がこうするべきだった。自分は…なんの役にも立てない。華やかな姉達に比べて、地味で突出した才能も無い…と。



 わたしはペレちゃんをぎゅっと抱き締める。



「ね、シャーリィって呼んで。大丈夫、精霊達は本当に優しいの。結局避難が終わるまで30分以上も待ってくれたし…。

 ペレちゃんは何も悪くないよ。今後の事も大丈夫。一緒にグランツに行こう?」


「………私、なんかが…」


「駄目だよ、そんな事言っちゃ。君は最後までお城に残って皆を逃した。真っ先に逃げた王達なんかより…君は誰よりも誇り高い王族だよ」


「……………シャーリィ…さん…」



 彼女はわたしに縋り、泣き続けた。

 その時満足したヘルクリス達も戻って来て…はあ。



「ふう、暴れたわ。流石に腕が痛いわね…」


「ノリノリだったからね…滅国のロッティがほんとになっちゃったよ…」


「でもこれで、セフテンスも救われるわよ?これからは従属国…じゃないわね。吸収合併して、グランツ皇国の一部になるのかしら?」


 おぅ…また大きくなっちゃうのか。

 ちょっと気が遠くなっていたら…お?皇国の方角から、人が飛んで来る?あら、テランス様!!それに騎士の皆さんも。



「おお!!!エリゼから聞いたぞ、本当に女性だったとは!!!」


「は、はいぃ…」


「派手に暴れたねえ…」


「モーリス様!あ、王族とか纏めて吊るしときました!」


「意外と容赦無いね?」


 いやー援軍到着ですね!彼らは壊滅した街を見て、顔を引き攣らせている。

 早速だけど…この騒ぎで死者が0とは考え難い。最後まで上級精霊に手伝ってもらって見回りしたけど…一緒に滅ぶ事を選んだ人も、いるかもしれない。


 彼らに全て託し…わたし達は帰る。陛下に報告しないと…気が重いぃ…。



 それでも結果的にクーデターは阻止出来たし、ペレちゃんも助けられた。それだけでも…良かったと、心底思うのだ。



「もー、ロッティのドレスぼろぼろだよ!顔も汚れちゃって」


「お姉様こそ!大分セクシーになってるわよ…」


「お?………おぎゃーーーっ!!?」


 いやーん!!横が大胆なスリットのように破けちゃってるわ!!

 ヘルクリスに乗りながら、そんな会話をする。あーあ…楽しいパーティーが、どうしてこうなった?と考えながらね。



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