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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
170/222

48



 ビビ様がやって来て1ヶ月ちょい。今日は…剣術大会!である!!!



 1年の頃は、緊張に圧し潰されそうになっていた。それでも皆の声援や対戦相手のジスランのお陰で、なんとか集中して試合に臨めた。

 結局決勝でジスランに負けたけど…得る物は多かったと思う。


 2年生では3回戦、3年生では1回戦でジスランに負けた!くっそう…今年こそは!



 さてさて、4年生からは全ての試合をギャラリーのいる本会場で行う。4ブロックに分かれたトーナメント表を確認すると…


 Aブロック:ジスラン・エリゼ

 Bブロック:わたし・パスカル

 Cブロック:ルシアン・バジル

 Dブロック:少那



「はいオレ終わった!!!」


 すでにエリゼは敗北宣言。2回戦でジスランだもんね!しかし皆綺麗に分かれたね〜。あ、アゼマ君はDブロックです。

 そして…わたしの準々決勝の相手はパスカル。絶対勝ーつ!!気合を入れつつ、会場に向かう。すでに下級生の予選は終わっている。




 選手が入場すると…黄色い悲鳴が会場を揺らす。



「殿下ーーー!!頑張ってくださーーーい!」

「ジスラン様、素敵ーーー!!!」

「おにーさまーーー!!急所を狙うのよー!!!」

「エリゼ様、格好いいとこ見せてくださーーーい!!!」

「パスカル様勝ってーーー!!」

「セレスタン様!こっち向いてーーー!!」



 と…主に女子の声援が聞こえてくる。そしてロッティ、それ毎年言ってるね!

 皇帝陛下を始め、お偉いさんもいっぱいいる。うへえ、相変わらずガタイのいい騎士団長達は圧巻ですね。ジスランのお父さんとお兄さんもいるわ。

 総団長のモーリス様と目が合ったと思ったら、手を振ってくれた。なので笑顔で返しておいたら…


「「「きゃ〜〜〜!!!可愛いーーー!!!」」」


「……………これ、僕の事?」


「だろうよ」


 どうして毎年こうなるのかな…?




 ふと公爵家のスペースに目を向けると、お馴染みのメンバーが来てくれている。グラスは…いた。でもフードを目深に被り、顔は見えない。

 他の知り合いにもちょいちょい手を振り、タオフィ先生司会のもと開会式が始まった。


 皇帝陛下の挨拶時、ふとルキウス様の姿が見えた。彼は木華と並んで座り…よく見ると腕を組んでいた。お熱いねー!ひゅーひゅー!!

 わたしの視線に気付いたのか、ルキウス様は顰めっ面になり「集中しろ!」と言っている風。でもシャーリィ知ってる、あれ怒ってるんじゃなくて照れてるんだって!

 ルクトル様も婚約者のクラリッサ様と穏やかに微笑み合い、見せつけてくれるね!しかしこうなると…



「…?なんだ?」


 ルシアンは結婚どうするのかな?隣に並ぶ彼にこそっと問い掛ける。


「ねえ…ルシアンの好きなタイプってどんな?」


「……(其方がそれを言うのか…全く)そうだな…頑張り屋さんだ」


 ほう?ルシアンはそう言って顔を逸らす。それ以上は何を聞いても答えてくれないのであった。





 早速始まった試合。サクサク進み、わたしの出番。


「「「きゃーーー!!!」」」


 剣を手に位置に着けば、黄色い声援が響く。笑顔で手を振れば、更に盛り上がる。どうもありがとうございます!

 以前は萎縮していたが、今はこのプレッシャー…緊張感も楽しめるようになった。女の子達の声援は嬉しいし!



「セレス様、頑張ってくださいね」


「ありがとうございます、ビビ様」



 その時、最前列で…パラソル、テーブル、ドリンク、付き人を完備したビビ様が優雅に手を振っていた。陛下よりも高待遇、最早突っ込む気も起きんわ。




 さてさてわたくし、皆さんの応援の中あっさり勝利!ここから先は簡単にお送りします。





 Aブロック2回戦、エリゼVSジスラン。エリゼは初撃を辛うじて防いだが、続く二撃であっさり剣を飛ばされた。でも一撃防いだだけで大したものだよ!




 Bブロック準々決勝、わたしVSパスカル。一緒に会場に進むと…「夫婦対決」だの聞こえてくる。いやん…ほんまにバレバレやん…ポッと頬を染める。

 ってパスカルのご両親は!?と焦れば、お2人共苦笑い。


「どうやら…俺達がただならぬ仲だと察しているみたいでな」


「おぉう…ご挨拶行かなきゃ…!」


 ていうか。彼は今もわたしの腰を抱いている…そりゃ察するわ!!!




「…夫婦対決とは、どういう意味かしら?」


「ラウルスペード君とマクロン君は、学園内で男性カップルとして有名なのですよ。賛否ありますが…皆最上級精霊様を恐れて何も言えないのです。

 それにああして見ると…なんともお似合いだと思いませんか?」


「…つまり。片方は自動的に付いてくるという事かしら?」


「え…王女様…?」


「…うふふっ、それって素敵!」



 そんなビビ様と男子生徒の会話があったとか。




 さて、今度こそ距離を取り…試合開始!結論から言うと、猛攻したわたしの勝ち!ただしパスカルもかなり粘り、制限時間の5分が経過し判定勝ちですが。


「いえい、勝利!」


「うぐぐ…!(本当に女の子なのか!?防ぐので手一杯だった…)」


 座り込み超落ち込むパスカル。だが…


「僕には幼少期から欠かさず鍛錬を続けたプライドがある。そう簡単に負けてあげない!」


 そう言って手を伸ばせば、彼は目を見開いた後…微笑んで手を取り立ち上がる。


「(そうだな。俺は…勇ましく剣を振るう彼女の姿も、可愛くて仕方がないんだから…)」


 手を繋いだまま歩く。周囲からヒューヒュー聞こえて来るので…繋いだ手を挙げて「夫婦対決、剣術勝負は僕の勝ちーぃ!!」と宣言するのであった。




 Cブロック、ルシアンとバジルはそれぞれ3回戦で負けた。ルシアンはそれでも大健闘だったし、バジルも素手だったら絶対優勝ですから!




 Dブロック準々決勝、少那はアゼマ君に敗北。本人は「負けたー!」と笑っているが、勝ったほうのアゼマ君が納得いかなそうな表情をしている?


「ラウルスペード君…なんだか自分、勝った気がしません。なんと言うか…殿下は力を隠している?いいや違う…」


 何かブツブツ言っているが、わたしは次に大本命の試合!アゼマ君を放ったらかして、ジスランと共に会場の中央に向かった。



「よーし、今年こそ勝つぞ!」


「俺は誰にも負けん」


 ふんだ!確かに彼は、去年の時点で3年生ながら総合優勝を果たしている。……正直言えば、勝てる気はしない。それでも…最初から、気持ちでも負けてたまるか!



 ジスランと距離を取って礼をして…うん…集中出来てる……いける。



「始め!!」



 クザン先生の合図と同時に地面を蹴る。2人の剣が火花を散らしてガキィンッ!!という音が響く、まだまだ!!


「………!」


 彼に反撃を許したらこっちの負け、無数の斬撃を浴びせて隙を待つ!!

 側から見れば、ジスランは防戦一方かもしれない。しかしそれは大きな間違い、追い詰められてるのはわたしのほうだ。なんせ体力に大きな差があるからね!

 だが焦りは禁物。集中して…タイミングを…!


「そこだっ!!」


「!!?」


 彼が剣を振りかぶった瞬間に、鋭い突きを繰り出す!!ふふ、防げまい!そのまま剣を弾き飛ばしてや…


「ふんっっっ!!!」


「はっ?」



 飛ばし、飛、ば……お?彼は…またも超反応で躱し…わたしの剣を…脇で挟んだ。



「「「「…………………」」」」



 会場も静まり返る。あの…びくともしないんですが。


「えいえい」ぐいぐい


「………………」



 抜けない。何これ選ばれし勇者しか引き抜けない聖剣?君は台座だったの?なんかプルプル震えてるけど…



「ふ…ふ、んぶんん……!」


「ふんっ、ふん!!」ぐぐぐ…


 もしコレが実戦なら、剣を捨てて魔術やら格闘なり相手の剣を奪うなり、戦法はいくらでもある。でも今は、ルールに縛られた試合ですから。

 あの…負けの判定に「相手の剣を弾き飛ばす」ってのがあるけど。それは転じて「剣を手放したら負け」なのよ。つまり…このまま引き抜けなかったら、わたし負けなのよ。打撃は禁止ですし。

 


「……こんな間抜けな敗北あるかーーー!!!離せっ、はーなーせー!!!うんとこしょー!どっこいしょおーーー!!」


「は、ははっ、ぶふ…!!」



 笑ってんじゃねーーー!!!いつの間にか会場も笑いに包まれている、見せもんじゃないよこっちは大真面目ですけどお!?ああ、時間が…!

 これ反則じゃないのー!?と叫びたい気持ちを抑えつつ、全身を使って聖剣を引っこ抜こうとするわたし。だが…あゝ、時の流れは無常なり。



「……そこまで!時間切れにより、勝者ジスラン・ブラジリエ!!」



「ええぇーーー!!?そんなあ…!」


「ははっ、あっはははは!!」


「んもう、この馬鹿力め!!」


 大笑いするジスランに蹴りをくれてやる。彼はひらりと躱し…むきーーー!!ガスガス殴っても余裕そうにわたしの頭をぽぽんと叩く、腹立つ!

 こうして年に一度のリベンジマッチも、敗北に終わった………来年こそは!!!

 



 ※※※




 他学年は、わたしの知り合いは誰も勝ち上がらなかった。

 4年生の決勝戦、当然ジスランの勝利に終わる。総合優勝もジスラン…ちくしょーーー!!


 非常に悔しいが、彼の実力は本物だ。はあ…後は閉会式とパーティー。

 だが…実はまだ、わたしには大仕事が残っているのだよ!閉会式が始まらず、会場がどよめく中司会のタオフィ先生の弾む声が響き渡る。



『えー…閉会式の前にですね。ちょっとしたエキシビションマッチを行います。スクナ殿下、セレスタン君は闘技場に降りてきてくださーい!』


「「はい!!」」


 わたしと少那は、手を取り合って闘技場に降り立つ。互いに和服姿でな!!化粧もバッチリ決めたぞ。



「セレス…!?その、格好は?」


「ふふ…これから僕と少那、刀の勝負さ!」


 戸惑うジスラン達。わたしは女性用の着物なんだが、もう諦めた。




 実は少那は剣はまだ不得手だが、刀の腕前はかなりのものらしい。本人も「凪兄上に鍛えられたんだ!」と語っていたし師匠もそう言っていた。

 という会話をどこで聞いたのか、タオフィ先生とラディ兄様がこの予定を捻じ込みやがった…でも楽しそうなのでよし。夏期休暇の忙しい合間を縫って、結構練習したのよ!!グラスや師匠にも協力してもらった。



 さあどいたどいた!闘技場に並んでいた生徒達は皆端に寄せて、少那と向かい合って立つ。そして礼をして、すらっと刀を抜く。当然、試合用に刃は潰されているやつね。


 これは余興なので…まず、型の披露から。上段に構えて、まずわたしが少那を真っ向斬りにする!



 ギィン…ガキッ!



 それを彼が防ぎ、次は素早くわたしを袈裟斬りに…という風に繰り返し。しかし彼の型は、わたしが教わっているのとは違うなあ。

 少しエンタメを意識して大袈裟に舞う。少那の黒い髪とわたしの赤い髪も靡かせ、カキィン、ガィン、と打ち合う。

 更に木華や薪名、咫岐やら箏から来た人達が和楽器で演奏する。うーん気分は日本舞踊、詳しく知らんけど。


 笑顔で、優雅にしなやかに…闘技場という舞台を独占だ。簪や袖も舞い、扇も使って観客に魅せる。シャンシャンという音楽に合わせて、型が終わっても舞い続ける。




 そんなわたし達を、観客は感嘆の声を上げながら鑑賞する。



「……………」



 その中に、怪しい動きをする者がいた事に…誰も気付かなかった。





 音楽もクライマックス、最大の見せ場である!少那と視線を交わし、距離を取ると…



 ——ダンッ!!


「「!!?」」


 っうお!?中央になんか、いや誰か降ってきた!!?会場はわああああっ!!と沸く。いや、これ演出じゃないから!!

 その誰かさんは軍服に外套を羽織り…顔の上半分を仮面で隠している。しかも両手に刀…二刀流ですか!!

 

 ていうか、髪の色に肌の色…その佇まい…君は!


「グ、グラス…!?」


 小声で言えば、彼は小さく頷いた。そんじゃその服師匠のか!確かに彼らは体型似てるけども!!

 演奏係もびっくりだ。え、聞いてないんだけどという心の声が聞こえる、本当にね!!

 グラスは二本の刀を、それぞれわたしと少那に向ける。……やってやるよちくしょう!



 戸惑う少那を見据え、頷いてみせた。すると彼も応えてくれて、同時にグラスに斬り掛かる!


 ギイィ…ン…と音が響く。彼は難なく受け止めて、そのまま大きく刀を振るった。それを見た演奏係は、アドリブで別の曲を奏でる。

 突然の事すぎて、少那と上手く息を合わせられない!!せめてぶつからないよう…相手の動きを観察しながらグラスと刀を交える。


 グラスは全て軽くいなし、外套をふわりと浮かせて優雅に舞う。その姿は…見惚れてしまう程美しかった…。


 すると…少那がなんだか泣きそうな表情を浮かべている事に気付いた。なんで…?

 笛の音が大きくなり、音楽が終盤に差し掛かっているみたいなので締めに入らねば!ああもう、本来の予定なら舞の後に刀試合だったのに!!



 グラスが後ろに大きく跳び、腕を交差して構える。…こちらも後ろに下がり…スッと構える。少那…行くよ!

 頷き合った瞬間斬り掛かり、演奏が盛り上がったところで四本の刀が音を立てて打つかる。グラスはわたしを見てふっと笑い…次に少那の事も、優しい目で見ていた。


「…………!あ、兄、う…」


「少那!」


 小さく名前を呼べば、少那はハッとして…3人大袈裟に腕を振るい、弾かれるように離れて互いに背を向けて…


 ジャン!という音と同時に、刀を鞘に仕舞う。




 息を切らしているのを、なんとか隠し…暫くの静寂の後。



 わああああああっ!!!と…ひび割れんばかりの歓声が上がった…なんとか、やり切った…!!


 笑顔で手を振り、さり気なくグラスの事を睨み付ける。どーゆーつもりじゃい!!大成功に終わったからいいものの!!


「ちょっと、グラ…おう!?」


「………………………」


 なんと彼はわたしを横抱きにして歩き出す。このまま帰るんかい!



「ま、待って!!」


 会場は大盛り上がりで、今の少那の悲痛な叫びも…わたしとグラスにしか聞こえなかっただろう。

 グラスは足を止めたが…振り返る事はしなかった。


「…貴方は、誰ですか…!名前を教えてください!!」


「…………………」


 少那は目に涙を浮かべている。もしかして…知り合い?まさか…まさか、本当にグラスは…王太子、の……



 わたしの視線に気付いたのだろう、グラスは微笑み…頬にキスをした。その行為に黄色い悲鳴が上がり、それに混じってパスカルの怒声も聞こえてきたような…?


 グラスはわたしごとクルッと振り向き…少那を真っ直ぐに見つめる。口を開いたと思ったら…漢語で少那の問いに答えた。



『……おれは、グラス。グラス・オリエント。両親より授かった名は捨て、新たに最愛の方から贈られた』


「…………………」


 少那はついに一筋の涙を流した。それはポロポロと溢れ…彼は口を結び体を震わす。

 次第に観客も異変を察知し、歓声はどよめきに変わる。



「……嘘つき」


「…お嬢…セレスタン様?」


 

 下ろすように言うと、グラスは大人しく解放した。わたしは手ぬぐいを取り出し…少那に駆け寄り濡れた頬を拭く。

 少那はそのままわたしに縋り付き…泣き続けた。つられて泣いてしまいそうだけど、その前に。


「グラス。君は…わたしにだけは本当の名前で呼んで欲しいと言ったじゃない。捨てたなんて…嘘ばっかり」


「……………………」


 彼は仮面の下で、困ったように笑った。そうしてこちらにゆっくりと歩き…わたし達の頭を優しく撫でる。


「今は、まだ…もう少しだけ、時間をください。まだ…おれはこのままでいたいんです」


「「………………………」」


 少那と命、2人の黒い瞳が交錯する。少那はこくんと頷き…また泣いた。

 そこに木華が息を切らしながら走って来た。後ろには咫岐と薪名も…次第に足を緩め、一歩一歩重い足取りで近付いてくる。


「……あ、貴方…は…?」


 木華は服の裾を握り締め、なんとか言葉を紡ぐ。命は彼女と視線を合わせて頭をぽんぽんと叩き、にっこり笑った。後ろの2人にも視線を送り、微笑んだ後…逃げた。








「………気は済んだか?」


「ああ。師匠、この服と刀ありがとうございます」


「あ、うん…」



 こっそり公爵家のスペースに戻ったグラスは、フェイテと何事か言葉を交わしているようだった。お父様とバティストは複雑そうな表情で、飛白師匠は戸惑いながらグラスを見つめる。


「旦那様、申し訳ありませんが…おれは先にタウンハウスに帰らせていただきます」


「……………おう」



 言い知れぬ空気の中、閉会式が始まった。グラスは学園に背を向けて…自分の手を見つめた。そうして目を閉じ…




「…大きくなったな。少那、木華…」



 1人呟き、歩き始めたのであった。


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] セレスの試合が面白くて爆笑しましたww 相変わらずジスランは強い…! [一言] グラス、すごくかっこ良かったです☆ 私ももらい泣きしました( ノД`)… 実は、この時をとても楽しみにしてい…
[一言] グラスの正体が少那たちにバレましたね。あとビビはセレスとパスカルに目をつけたようですね。ルシアンに好みのタイプを聞いたセレスは無意識とはいえ罪深いですね。ルシアンの嫁候補はまともそうな末っ子…
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