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ビビ様がやって来て1ヶ月ちょい。今日は…剣術大会!である!!!
1年の頃は、緊張に圧し潰されそうになっていた。それでも皆の声援や対戦相手のジスランのお陰で、なんとか集中して試合に臨めた。
結局決勝でジスランに負けたけど…得る物は多かったと思う。
2年生では3回戦、3年生では1回戦でジスランに負けた!くっそう…今年こそは!
さてさて、4年生からは全ての試合をギャラリーのいる本会場で行う。4ブロックに分かれたトーナメント表を確認すると…
Aブロック:ジスラン・エリゼ
Bブロック:わたし・パスカル
Cブロック:ルシアン・バジル
Dブロック:少那
「はいオレ終わった!!!」
すでにエリゼは敗北宣言。2回戦でジスランだもんね!しかし皆綺麗に分かれたね〜。あ、アゼマ君はDブロックです。
そして…わたしの準々決勝の相手はパスカル。絶対勝ーつ!!気合を入れつつ、会場に向かう。すでに下級生の予選は終わっている。
選手が入場すると…黄色い悲鳴が会場を揺らす。
「殿下ーーー!!頑張ってくださーーーい!」
「ジスラン様、素敵ーーー!!!」
「おにーさまーーー!!急所を狙うのよー!!!」
「エリゼ様、格好いいとこ見せてくださーーーい!!!」
「パスカル様勝ってーーー!!」
「セレスタン様!こっち向いてーーー!!」
と…主に女子の声援が聞こえてくる。そしてロッティ、それ毎年言ってるね!
皇帝陛下を始め、お偉いさんもいっぱいいる。うへえ、相変わらずガタイのいい騎士団長達は圧巻ですね。ジスランのお父さんとお兄さんもいるわ。
総団長のモーリス様と目が合ったと思ったら、手を振ってくれた。なので笑顔で返しておいたら…
「「「きゃ〜〜〜!!!可愛いーーー!!!」」」
「……………これ、僕の事?」
「だろうよ」
どうして毎年こうなるのかな…?
ふと公爵家のスペースに目を向けると、お馴染みのメンバーが来てくれている。グラスは…いた。でもフードを目深に被り、顔は見えない。
他の知り合いにもちょいちょい手を振り、タオフィ先生司会のもと開会式が始まった。
皇帝陛下の挨拶時、ふとルキウス様の姿が見えた。彼は木華と並んで座り…よく見ると腕を組んでいた。お熱いねー!ひゅーひゅー!!
わたしの視線に気付いたのか、ルキウス様は顰めっ面になり「集中しろ!」と言っている風。でもシャーリィ知ってる、あれ怒ってるんじゃなくて照れてるんだって!
ルクトル様も婚約者のクラリッサ様と穏やかに微笑み合い、見せつけてくれるね!しかしこうなると…
「…?なんだ?」
ルシアンは結婚どうするのかな?隣に並ぶ彼にこそっと問い掛ける。
「ねえ…ルシアンの好きなタイプってどんな?」
「……(其方がそれを言うのか…全く)そうだな…頑張り屋さんだ」
ほう?ルシアンはそう言って顔を逸らす。それ以上は何を聞いても答えてくれないのであった。
早速始まった試合。サクサク進み、わたしの出番。
「「「きゃーーー!!!」」」
剣を手に位置に着けば、黄色い声援が響く。笑顔で手を振れば、更に盛り上がる。どうもありがとうございます!
以前は萎縮していたが、今はこのプレッシャー…緊張感も楽しめるようになった。女の子達の声援は嬉しいし!
「セレス様、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます、ビビ様」
その時、最前列で…パラソル、テーブル、ドリンク、付き人を完備したビビ様が優雅に手を振っていた。陛下よりも高待遇、最早突っ込む気も起きんわ。
さてさてわたくし、皆さんの応援の中あっさり勝利!ここから先は簡単にお送りします。
Aブロック2回戦、エリゼVSジスラン。エリゼは初撃を辛うじて防いだが、続く二撃であっさり剣を飛ばされた。でも一撃防いだだけで大したものだよ!
Bブロック準々決勝、わたしVSパスカル。一緒に会場に進むと…「夫婦対決」だの聞こえてくる。いやん…ほんまにバレバレやん…ポッと頬を染める。
ってパスカルのご両親は!?と焦れば、お2人共苦笑い。
「どうやら…俺達がただならぬ仲だと察しているみたいでな」
「おぉう…ご挨拶行かなきゃ…!」
ていうか。彼は今もわたしの腰を抱いている…そりゃ察するわ!!!
「…夫婦対決とは、どういう意味かしら?」
「ラウルスペード君とマクロン君は、学園内で男性カップルとして有名なのですよ。賛否ありますが…皆最上級精霊様を恐れて何も言えないのです。
それにああして見ると…なんともお似合いだと思いませんか?」
「…つまり。片方は自動的に付いてくるという事かしら?」
「え…王女様…?」
「…うふふっ、それって素敵!」
そんなビビ様と男子生徒の会話があったとか。
さて、今度こそ距離を取り…試合開始!結論から言うと、猛攻したわたしの勝ち!ただしパスカルもかなり粘り、制限時間の5分が経過し判定勝ちですが。
「いえい、勝利!」
「うぐぐ…!(本当に女の子なのか!?防ぐので手一杯だった…)」
座り込み超落ち込むパスカル。だが…
「僕には幼少期から欠かさず鍛錬を続けたプライドがある。そう簡単に負けてあげない!」
そう言って手を伸ばせば、彼は目を見開いた後…微笑んで手を取り立ち上がる。
「(そうだな。俺は…勇ましく剣を振るう彼女の姿も、可愛くて仕方がないんだから…)」
手を繋いだまま歩く。周囲からヒューヒュー聞こえて来るので…繋いだ手を挙げて「夫婦対決、剣術勝負は僕の勝ちーぃ!!」と宣言するのであった。
Cブロック、ルシアンとバジルはそれぞれ3回戦で負けた。ルシアンはそれでも大健闘だったし、バジルも素手だったら絶対優勝ですから!
Dブロック準々決勝、少那はアゼマ君に敗北。本人は「負けたー!」と笑っているが、勝ったほうのアゼマ君が納得いかなそうな表情をしている?
「ラウルスペード君…なんだか自分、勝った気がしません。なんと言うか…殿下は力を隠している?いいや違う…」
何かブツブツ言っているが、わたしは次に大本命の試合!アゼマ君を放ったらかして、ジスランと共に会場の中央に向かった。
「よーし、今年こそ勝つぞ!」
「俺は誰にも負けん」
ふんだ!確かに彼は、去年の時点で3年生ながら総合優勝を果たしている。……正直言えば、勝てる気はしない。それでも…最初から、気持ちでも負けてたまるか!
ジスランと距離を取って礼をして…うん…集中出来てる……いける。
「始め!!」
クザン先生の合図と同時に地面を蹴る。2人の剣が火花を散らしてガキィンッ!!という音が響く、まだまだ!!
「………!」
彼に反撃を許したらこっちの負け、無数の斬撃を浴びせて隙を待つ!!
側から見れば、ジスランは防戦一方かもしれない。しかしそれは大きな間違い、追い詰められてるのはわたしのほうだ。なんせ体力に大きな差があるからね!
だが焦りは禁物。集中して…タイミングを…!
「そこだっ!!」
「!!?」
彼が剣を振りかぶった瞬間に、鋭い突きを繰り出す!!ふふ、防げまい!そのまま剣を弾き飛ばしてや…
「ふんっっっ!!!」
「はっ?」
飛ばし、飛、ば……お?彼は…またも超反応で躱し…わたしの剣を…脇で挟んだ。
「「「「…………………」」」」
会場も静まり返る。あの…びくともしないんですが。
「えいえい」ぐいぐい
「………………」
抜けない。何これ選ばれし勇者しか引き抜けない聖剣?君は台座だったの?なんかプルプル震えてるけど…
「ふ…ふ、んぶんん……!」
「ふんっ、ふん!!」ぐぐぐ…
もしコレが実戦なら、剣を捨てて魔術やら格闘なり相手の剣を奪うなり、戦法はいくらでもある。でも今は、ルールに縛られた試合ですから。
あの…負けの判定に「相手の剣を弾き飛ばす」ってのがあるけど。それは転じて「剣を手放したら負け」なのよ。つまり…このまま引き抜けなかったら、わたし負けなのよ。打撃は禁止ですし。
「……こんな間抜けな敗北あるかーーー!!!離せっ、はーなーせー!!!うんとこしょー!どっこいしょおーーー!!」
「は、ははっ、ぶふ…!!」
笑ってんじゃねーーー!!!いつの間にか会場も笑いに包まれている、見せもんじゃないよこっちは大真面目ですけどお!?ああ、時間が…!
これ反則じゃないのー!?と叫びたい気持ちを抑えつつ、全身を使って聖剣を引っこ抜こうとするわたし。だが…あゝ、時の流れは無常なり。
「……そこまで!時間切れにより、勝者ジスラン・ブラジリエ!!」
「ええぇーーー!!?そんなあ…!」
「ははっ、あっはははは!!」
「んもう、この馬鹿力め!!」
大笑いするジスランに蹴りをくれてやる。彼はひらりと躱し…むきーーー!!ガスガス殴っても余裕そうにわたしの頭をぽぽんと叩く、腹立つ!
こうして年に一度のリベンジマッチも、敗北に終わった………来年こそは!!!
※※※
他学年は、わたしの知り合いは誰も勝ち上がらなかった。
4年生の決勝戦、当然ジスランの勝利に終わる。総合優勝もジスラン…ちくしょーーー!!
非常に悔しいが、彼の実力は本物だ。はあ…後は閉会式とパーティー。
だが…実はまだ、わたしには大仕事が残っているのだよ!閉会式が始まらず、会場がどよめく中司会のタオフィ先生の弾む声が響き渡る。
『えー…閉会式の前にですね。ちょっとしたエキシビションマッチを行います。スクナ殿下、セレスタン君は闘技場に降りてきてくださーい!』
「「はい!!」」
わたしと少那は、手を取り合って闘技場に降り立つ。互いに和服姿でな!!化粧もバッチリ決めたぞ。
「セレス…!?その、格好は?」
「ふふ…これから僕と少那、刀の勝負さ!」
戸惑うジスラン達。わたしは女性用の着物なんだが、もう諦めた。
実は少那は剣はまだ不得手だが、刀の腕前はかなりのものらしい。本人も「凪兄上に鍛えられたんだ!」と語っていたし師匠もそう言っていた。
という会話をどこで聞いたのか、タオフィ先生とラディ兄様がこの予定を捻じ込みやがった…でも楽しそうなのでよし。夏期休暇の忙しい合間を縫って、結構練習したのよ!!グラスや師匠にも協力してもらった。
さあどいたどいた!闘技場に並んでいた生徒達は皆端に寄せて、少那と向かい合って立つ。そして礼をして、すらっと刀を抜く。当然、試合用に刃は潰されているやつね。
これは余興なので…まず、型の披露から。上段に構えて、まずわたしが少那を真っ向斬りにする!
ギィン…ガキッ!
それを彼が防ぎ、次は素早くわたしを袈裟斬りに…という風に繰り返し。しかし彼の型は、わたしが教わっているのとは違うなあ。
少しエンタメを意識して大袈裟に舞う。少那の黒い髪とわたしの赤い髪も靡かせ、カキィン、ガィン、と打ち合う。
更に木華や薪名、咫岐やら箏から来た人達が和楽器で演奏する。うーん気分は日本舞踊、詳しく知らんけど。
笑顔で、優雅にしなやかに…闘技場という舞台を独占だ。簪や袖も舞い、扇も使って観客に魅せる。シャンシャンという音楽に合わせて、型が終わっても舞い続ける。
そんなわたし達を、観客は感嘆の声を上げながら鑑賞する。
「……………」
その中に、怪しい動きをする者がいた事に…誰も気付かなかった。
音楽もクライマックス、最大の見せ場である!少那と視線を交わし、距離を取ると…
——ダンッ!!
「「!!?」」
っうお!?中央になんか、いや誰か降ってきた!!?会場はわああああっ!!と沸く。いや、これ演出じゃないから!!
その誰かさんは軍服に外套を羽織り…顔の上半分を仮面で隠している。しかも両手に刀…二刀流ですか!!
ていうか、髪の色に肌の色…その佇まい…君は!
「グ、グラス…!?」
小声で言えば、彼は小さく頷いた。そんじゃその服師匠のか!確かに彼らは体型似てるけども!!
演奏係もびっくりだ。え、聞いてないんだけどという心の声が聞こえる、本当にね!!
グラスは二本の刀を、それぞれわたしと少那に向ける。……やってやるよちくしょう!
戸惑う少那を見据え、頷いてみせた。すると彼も応えてくれて、同時にグラスに斬り掛かる!
ギイィ…ン…と音が響く。彼は難なく受け止めて、そのまま大きく刀を振るった。それを見た演奏係は、アドリブで別の曲を奏でる。
突然の事すぎて、少那と上手く息を合わせられない!!せめてぶつからないよう…相手の動きを観察しながらグラスと刀を交える。
グラスは全て軽くいなし、外套をふわりと浮かせて優雅に舞う。その姿は…見惚れてしまう程美しかった…。
すると…少那がなんだか泣きそうな表情を浮かべている事に気付いた。なんで…?
笛の音が大きくなり、音楽が終盤に差し掛かっているみたいなので締めに入らねば!ああもう、本来の予定なら舞の後に刀試合だったのに!!
グラスが後ろに大きく跳び、腕を交差して構える。…こちらも後ろに下がり…スッと構える。少那…行くよ!
頷き合った瞬間斬り掛かり、演奏が盛り上がったところで四本の刀が音を立てて打つかる。グラスはわたしを見てふっと笑い…次に少那の事も、優しい目で見ていた。
「…………!あ、兄、う…」
「少那!」
小さく名前を呼べば、少那はハッとして…3人大袈裟に腕を振るい、弾かれるように離れて互いに背を向けて…
ジャン!という音と同時に、刀を鞘に仕舞う。
息を切らしているのを、なんとか隠し…暫くの静寂の後。
わああああああっ!!!と…ひび割れんばかりの歓声が上がった…なんとか、やり切った…!!
笑顔で手を振り、さり気なくグラスの事を睨み付ける。どーゆーつもりじゃい!!大成功に終わったからいいものの!!
「ちょっと、グラ…おう!?」
「………………………」
なんと彼はわたしを横抱きにして歩き出す。このまま帰るんかい!
「ま、待って!!」
会場は大盛り上がりで、今の少那の悲痛な叫びも…わたしとグラスにしか聞こえなかっただろう。
グラスは足を止めたが…振り返る事はしなかった。
「…貴方は、誰ですか…!名前を教えてください!!」
「…………………」
少那は目に涙を浮かべている。もしかして…知り合い?まさか…まさか、本当にグラスは…王太子、の……
わたしの視線に気付いたのだろう、グラスは微笑み…頬にキスをした。その行為に黄色い悲鳴が上がり、それに混じってパスカルの怒声も聞こえてきたような…?
グラスはわたしごとクルッと振り向き…少那を真っ直ぐに見つめる。口を開いたと思ったら…漢語で少那の問いに答えた。
『……おれは、グラス。グラス・オリエント。両親より授かった名は捨て、新たに最愛の方から贈られた』
「…………………」
少那はついに一筋の涙を流した。それはポロポロと溢れ…彼は口を結び体を震わす。
次第に観客も異変を察知し、歓声はどよめきに変わる。
「……嘘つき」
「…お嬢…セレスタン様?」
下ろすように言うと、グラスは大人しく解放した。わたしは手ぬぐいを取り出し…少那に駆け寄り濡れた頬を拭く。
少那はそのままわたしに縋り付き…泣き続けた。つられて泣いてしまいそうだけど、その前に。
「グラス。君は…わたしにだけは本当の名前で呼んで欲しいと言ったじゃない。捨てたなんて…嘘ばっかり」
「……………………」
彼は仮面の下で、困ったように笑った。そうしてこちらにゆっくりと歩き…わたし達の頭を優しく撫でる。
「今は、まだ…もう少しだけ、時間をください。まだ…おれはこのままでいたいんです」
「「………………………」」
少那と命、2人の黒い瞳が交錯する。少那はこくんと頷き…また泣いた。
そこに木華が息を切らしながら走って来た。後ろには咫岐と薪名も…次第に足を緩め、一歩一歩重い足取りで近付いてくる。
「……あ、貴方…は…?」
木華は服の裾を握り締め、なんとか言葉を紡ぐ。命は彼女と視線を合わせて頭をぽんぽんと叩き、にっこり笑った。後ろの2人にも視線を送り、微笑んだ後…逃げた。
「………気は済んだか?」
「ああ。師匠、この服と刀ありがとうございます」
「あ、うん…」
こっそり公爵家のスペースに戻ったグラスは、フェイテと何事か言葉を交わしているようだった。お父様とバティストは複雑そうな表情で、飛白師匠は戸惑いながらグラスを見つめる。
「旦那様、申し訳ありませんが…おれは先にタウンハウスに帰らせていただきます」
「……………おう」
言い知れぬ空気の中、閉会式が始まった。グラスは学園に背を向けて…自分の手を見つめた。そうして目を閉じ…
「…大きくなったな。少那、木華…」
1人呟き、歩き始めたのであった。




