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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
17/222

14


 馬車に揺られること約2時間。ついにエリゼの家に到着だ。ジスランの家以外、友達んちなんて初めてだなあ…ちゃんと挨拶出来るだろうか。


 ロッティをエスコートしつつ馬車から降りると、なんと使用人総出で出迎えてくれた。そんな上客じゃありませんが…!?逆に申し訳ないですわ。

 うちと人数は似たようなもんだが、全員生温かい目をしてらっしゃる??



 しかも応接間に通されて、「少々お待ちください」なんて執事さんに言われちゃ待つしかないよね。

 何を待っているのかと思いきや、ご両親まで出て来ちゃったよ!?いいんですよ、放っておいてもらっても?とは言えない。



「本日はお招きいただき、ありがとうございます」と僕とシャルロットは挨拶をし、ご両親も返してくれた。


 すると…お母様は泣き出してしまいましたが…僕らなんかやらかしましたかね?「うちの息子が、こんな子達と連むなんて!!」とか言われちゃう?



「んな訳あるか!母上、一体どうしたんだ?」


「だって…アナタが…!初めて家にお友達を連れて来たのよ!?いっつも友人が出来てもすぐに怒らせちゃって疎遠になるアナタが!!

 次男で甘やかしすぎたかしら?と諦めてかけていたのに…!こんな良い子が2人、いえ3人も…!!」


 ……エリゼ、君普段何やらかしてんの?

 色々聞きたい事はあるが、感激しているご両親に同じく涙ぐむ使用人達。うん、大体理解出来た。

 当のエリゼは顔を赤くしてぷんすこ怒ってる。


「ええい、今はそれどころじゃない!

 昨日送った手紙に書いた通り、ボク達は今から孤児院に行ってくる。父上、向こうに話は伝わっているか?」


 御父上にもその態度か君は。まあその本人もにこやかだからいっか。

 昨日の手紙とは、夜魔術で送った物だ。小さくて軽い物なら、簡単な魔術で送れるので手紙なんかにはよく使う。

 ただし途中で亜空間に紛失する事もあるので…大事な手紙はやっぱり人力になるね。



「ああ、院長が出迎えてくれるだろう。帰ってきたら今日はパーティーだ。楽しみにしていなさい!」


 はっはっ!!と御父上は笑った。彼はとても大柄で、豪快な人物のようだ。エリゼは完全に母似だね!

 しかしなんのパーティーかしら?…あ、息子の初友記念ね…。



「本当はね〜、ジスラン君も呼びたかったのよ〜。

 いっつもエリゼにセレスタン君のお話は聞いてるけど、たまにシャルロットさん、バジル君、ジスラン君も出てくるのよ」


「では僕から手紙を送って…」


「送らんでいいっ!!行くぞ!!」


 エリゼは耳まで真っ赤にして僕の首根っこを掴み引き摺った。こらこら、お母様が「お友達になんてことを!」って怒ってるぞ?

 僕はチラッとバジルに合図を送る。すると「心得ております!」と言わんばかりに紙とペンを取り出した。任せた!





 ※※※





 数分後、ブラジリエ邸のジスランの部屋にて。



「ぐうううう…まるで理解できん…!

 なぜこの兄弟は、わざわざ時間をずらして家を出る?なぜ片方が馬車で片方が徒歩なのだ、出発地も目的地も同じならば一緒に馬車で向かえばいいではないか!?

 くそう、こんな問題になんの意味がある、こうしている間にもセレス達は…俺も一緒に遊びたい!!」



「ジスラン様…そういうのはいいから早く解いてください」



 休暇が始まってまだ数日だが、ジスランはすでに心が折れかかっていた。家庭教師には四六時中張り付かれ、安まる暇も無い。

 慣れない勉強を朝から晩までさせられ、大好きな幼馴染には会いに行けない。こうしている間にも、彼は新たに友人となったあのピンク頭と過ごしているのかもしれない…!と。


 だが問題は解けない。ジスランは特に算術が苦手だった。何故わざわざ問題を作りそれを解かなければならないのか。理解出来ない。

 算術という学問を生み出した奴に一言言ってやりたい!!自分の納得のいくよう説明をしてみろ!と。

 今彼が解くべき問題はそっちではない。



 机に突っ伏す彼の頭上に、1枚の紙が舞い降りてきた。手紙のようだが、封筒にも入っていないメモ書きに近い。

 おおよそ貴族間でやり取りするにはお粗末な物だが…親しい友人や家族間ではよくある事なので気にしない。

 ジスランはゆっくり手を伸ばし、面倒くさそうに目を通す。だが差出人の名前を見ると、ガバッと身体を起こした。



「ん…セレス!?なになに…」



『今頃勉強地獄に囚われているでろう友、ジスランへ。


 早いとこ今日の課題を終わらせて、すぐにラブレー子爵邸に来るように。僕達はそちらで夕飯をご馳走になる。君の分もあるらしい、何がなんでも来い。

 ブラジリエ伯爵にはシャルロットが呼んでいる、とでも伝えるといい。課題さえ終わっていれば許可をくださるだろう。


 これに懲りたら、今度から落第点を取らないように!!頑張れよ。


 セレスタンより。代筆、バジル』





 頑張れよ…頑張れ…頑張ってね……君なら出来る!頑張って♡




 彼の脳内では、女の子になったセレスタンが自分を応援してくれている姿が。チア衣装で。(注:この世界にチアは存在しません)





「……ぅおおおおおおおっっ!!先生、早く問題を寄越せ!!」


「へ!?あ、はい…解けてる!?貴方なんでもっと早く…」


「次だ!寄越せ!!」


 こうなった彼は止められない。実は本能と勘で問題を解いていってるのだが…これが結構正解しているから侮れない。

 こうしてスイッチの入ったジスランは高速で問題を解き、父の許可をもぎ取り、馬に跨がり単身ラブレー領へと旅立つのであった。



 屋敷中の誰もが思った。もっと早く本気出せ、と…。





 ※※※





「坊っちゃん、言われた通りに送っておきました」


「ありがと。多分あれで来るでしょ」


「魂になってでも来ると思いますが…」


 それはやめれ。



 ラブレーの孤児院は馬車ですぐに着いた。うちとは違い教会ではなく、高校とかの寮に近いような造りだ。

 玄関にはすでに誰か…中年の女性だ、彼女が院長らしい。僕らが馬車を降りると、にこやかに迎えてくれた。



「まあまあ、ようこそいらっしゃいました。

 私、こちらの院長を務めております、イネッサ・オルロフと申します」


「はじめまして、セレスタン・ラサーニュです。本日はよろしくお願いします」


「まあまあ、私共に敬語など宜しいのですよ。

 ラサーニュ様は孤児院を新設する為の勉強としていらしたと伺っております。参考になると良いのですが…どうぞお入りくださいませ」


「ありがとう。早速色々見せてもらうね」



 オルロフ院長と握手を交わし、玄関からお邪魔する。すると早くも子供とエンカウントした。2人、3歳ほどのちびっ子が物陰からじーーーっとこちらを見ている。…可愛い。



「こらこら、アルロにサユ。お客様に失礼ですよ」


 院長にそう言われ、彼らはピューっと逃げていった。野良猫に逃げられた気分…それに反応したのはエリゼだった。


「ふ、このボクから逃げる気か!

 セレス、自由に見学してろよ!待てえー!!」


「「きゃ〜〜〜!!」」



 きゃーきゃー逃げる子供達に翻弄されるエリゼ。きっと、日常の風景なんだろうなあ。

 



 彼は放っておいて、僕らは先に進む。

 この孤児院には現在、16歳以下の子供が32人いる。この国の成人は17歳なので、大人になったら卒業だ。在籍中に、生活の見通しを立ててから送り出す。

 職員は院長含め10人。そのうち3人が住み込みらしい。


「僕の所は今子供が17人の予定だから…職員は最低でも5人は欲しいかなあ」


「でもセージはそろそろ成人しそうな年齢じゃない?彼が希望してくれれば職員として雇ってもいいんじゃないかしら」


「そのほうが子供達も安心ですね」


 ふむ。メモメモ。




「こちらがレクリエーションルームです。職員が常にいますが、大きい子が小さい子を見てくれるのですよ」


 そこは15畳はありそうな広い部屋。なるほど。本やボードゲーム、カードゲームか。




「こちらが子供達のお部屋です。15歳になると1人部屋を与えられます」


 ほほう。大きくなったらプライベートな時間も必要だよね。

 1人部屋は5畳ほど、2人部屋は8畳ほど。赤ちゃんなんかはまた別の部屋らしい。




「こちらお風呂です。大きいので5人ほどいっぺんに入ってもらいます」


 ふんふん。お風呂も含め、施設内の掃除は子供達が当番制でこなすらしい。もちろん先生も手伝うが、子供達の自主性を重んじるとか。

 サボったらお仕置き…おやつ抜きの刑らしい。それは嫌なのだろう、サボる子はほぼいないとか。逆に頑張った子にはご褒美…は無いのね。参考になります。




「ここが厨房です。食事は職員が当番で作ります。子供達も順番でお手伝いしてもらうんです。

 ただし小さい子は危ないので、10歳になってからですね」


「はい、質問!パンはどうしてる?作ってる?」



 僕が持って帰りたい情報の1つ、パンの作り方である!院長によると、本職には劣るが基本作っている。そのほうが安上がりだし、レシピも簡単だからと。


「早速今から作るみたいですわ。見学されますか?」


「はい、僕が!という訳で、2人は別のとこお願いね。洗濯とか外に遊具があるかとか、畑なんかを重点的に」


「わかったわ、行きましょうバジル」


「はい、お嬢様。では坊ちゃん、後ほど」



 2人と院長は厨房を出て行き、残った僕はエプロンと三角巾を貸してもらった。髪も邪魔だから上げよう。よし、気合い充填!!



「じゃあ面倒だと思うけど、細かい分量から教えてください!」


 今からパン作りをするという職員1人と子供1人。どちらも女性で、貴族で男の僕にちょっと緊張しているようだ。恐縮しながらも教えてくれた。

 だが僕は今生徒だ、ビシバシお願いしまっす!!



 パンの材料、分量、混ぜ方、順番…全部細かく説明してもらう。僕は片っ端からメモを取り、実際に捏ねて丸めて…発酵させている間に、大人数用の料理のレシピも教えてもらった。

 シチューやスープがメインだ。ま、カレーは無いよね。そもそも米が無いし。

 これは実際作ってる暇はないから…レシピを見ながらやるしかないか。そのうち本屋で、レシピ本を買って勉強しよう。農業についても。


 発酵も済み、丸めて焼いて…石窯の使い方、火加減、温度や時間もきっちり教わる。ふむふむ、ふむー。

 一緒に暖炉も説明を受けていて、彼の火加減は絶妙だった!でも暖炉に頼ってばっかりじゃあ、僕がいない時に困るしね。

 何より僕は、精霊をいいように使いたくない。手伝ってくれるのは嬉しいけど、利用はしたくないんだ。とか言いながら、ドワーフ職人とかには特にお世話になってるけどね…情けない。


 それより今はパンだ!いずれアレンジパンとか作れるようになりたいなあ。



「味に飽きてきたら、レーズンとかドライフルーツを入れるといいですね」


「でもはみ出ていると焦げますから、注意してください」


「ふむむ…メモメモ」



 一緒に料理しているうちに彼女らは肩の力を抜いてくれたようで、最終的に談笑しながら作業できた。

 うん、楽しい。子供の教育にいいかも…!


 完成したパンを温かいうちに食べてみる。…いいじゃん、美味しいよ!

 こんな簡単に作れるんなら、材料費だけで済むじゃん!!


「いえ、セレスタン様の手際が良かったのですよ。以前エリゼ様がお手伝いを申し出てくださった時は…おっと」


 え、その話詳しく!






 …とまあ、滅茶苦茶参考になりました!!経営状況とか金銭的な部分には踏み込んでないけど、やっぱり国から補助金は貰ってるみたい。なんとか父上を説得して、うちも申請しなきゃ…!



 結構長居しちゃったので、何度も何度もお礼を言って孤児院を後にする。

 帰りの馬車の中、思い出すのは子供達の様子。


「やっぱり…皆笑顔だったね。肌の色が悪い子も、痩せすぎて骨が浮き出ているような子もいなかった…」


 僕は窓の外の景色を眺めながら、教会の子達も、早くああなってもらいたいな…と考える。



「…言っておくが、ラブレー(うち)が特別なんじゃない、ラサーニュが特別酷いんだ。うちは平均だ、普通」


 はは、それフォローになってないよう。でもエリゼとしては気を利かせたつもりなんだろう、ありがたく受け取っとくよ。

 大丈夫、落ち込んでなんてないから。むしろ、やる気いっぱいだから!


  

 そう言ってみせたら、3人共控えめにだが笑ってくれたのだった。





 ラブレー邸に到着し、玄関を開けると…



「「「「…はああああっっ!!?」」」」



 思わず叫んだ。


 いやだって…玄関ホールが、数時間前まで普通だった玄関ホールが、パーティー会場に早変わりしてますが?

 いや、初友パーティーってここまで大袈裟なもんだったの!?音楽も奏でられ美味しそうな料理が並ぶ。すると…むしゃむしゃと肉を貪る見覚えのあるアメジスト頭がいるのだが?


「…む?セレス!遅かったじゃないか、待ちくたびれたぞ」


 やっぱり、ジスランだあ。来れたんだね、やれば出来るんじゃない。

「何でお前がここに…!セレス!?」というエリゼは無視。わーい、お腹空いたー。


 僕達も料理を堪能し、エリゼのご両親にお礼を言い、パーティーを楽しむ。

 僕は本来ダンスパーティーとか苦手なんだけど、今の参加者は僕、ロッティ、バジル、ジスラン、エリゼ、エリゼのご両親とお兄さん、そして子爵家の使用人達。

 お母様が「皆一緒だけどいいかしら?」と言うので、もちろんオッケーしたのだ。こういう気楽なパーティーは好き。


 しばらくすると、ダンスの音楽が流れ始めた。するとロッティが、「お兄様、踊りましょう!」とホールの真ん中まで僕の手を引っ張って行った。もう…しょうがないなあ。


 今の服装はドレスでもないし礼服でもない。動きやすい服、感覚で言えばジャージに近いものだ。

 それでも…音楽に合わせて踊るロッティは、その軽やかな動きも相まって本当に天使に見えてくるのだ。

 ちょっとステップをミスしちゃっても、こうして踊るのが楽しくて仕方ない。いつもは失敗しないように気を張っているが…そういう空気じゃないから、むしろ失敗するほうが楽しいかも。

 他の使用人達も楽しげに踊ってるし、エリゼのご両親は男女逆で踊ってるし。こういう小さな町のお祭りの雰囲気って感じ、いいなあ。



 ロッティは僕と踊った後、バジルと踊りだした。彼も楽しそう、いつも夜会なんて参加出来ないもんね。

 踊る2人を眺めていたら、ジスランが側に寄って来た。なんだか頬を染め、僕と目を合わせようとしないが。



「その…俺と踊らないか?ステップとかは適当でいいから…」


 なんだ、そんなに踊りたいの?まあロッティはまだまだ終わらなそうだしね。

 よっし、お相手しますか!


「いいよ!でも僕、女性パートも踊れるから!行くよー!」


「え、え!?」

 

 今度は僕がジスランの手を握り、ホールに躍り出た。無駄だとは思いながらも…僕は女性のステップも練習したのだ。いつか、綺麗なドレスを着てヒールを履いて、踊れる日を夢見ながら。


 実際はドレスも何もありゃしないね!それでもいい、今すっごく楽しいから!

 最初は戸惑っていたジスランも、次第にノってきた。クルクル回ってターンして、楽しすぎて…いつまでもこんな時間が続けばいいのに…って思っちゃう。


 ジスランとのダンスが終われば次はエリゼに、そしてバジルに誘われた。えへへ、僕モテモテ?なんつって!

 


 そうしてこの日は、僕にとって忘れられない夜になった。

 これが泡沫の夢だろうと…それでも、確かに僕の胸には刻まれたんだよ。





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