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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
157/222

37



 それでは今度こそ…やって来ました大海原!!!テンションMAX、アゲアゲで行きましょう!!!

 では早速、水着に着替え……られないんだよなあ!!だってわたし男装女子ですから!(ヤケ)


 

 この世界の一般的な水着は…男は普通に下だけ隠すトランクスタイプ。女は…ビキニは存在しない。そんなモン着たら、痴女扱いされるのがオチさ。

 じゃあどんなのかって?うーん…タンキニというか、体型カバーのような?ほぼ服に近い形状だ。ロッティ、ルネちゃん、木華、薪名は…そんな可愛い水着を着ている…。


 対してわたしは。下はトランクスで…上は胸を潰して、厚手の半袖Tシャツを着ている。…羨ましい!!わたしも可愛い水着がいいいい!!!と心の中では大号泣。そして皆がきゃっきゃと遊ぶ中、1人…パラソルの下に膝を抱えて座るのだ。



「隣、いいか?」


「エリゼ?君は泳がないの?」


「オレは日に当たると、赤くなってヒリヒリするんだよ」


 わたしが1人寂しく「本とか読むかな…」なんて考えていたら、エリゼもやって来て隣に座った。なるほど肌白いもんねえ、仲間が出来て、少しだけ元気出た。

 しかし…てっきりパスカルが一緒にいてくれると思ったのに…。隣に座ってくれると思っていたのに、彼は全然見当たらない…悲しい…。



「…パスカルなら…その。えっと…今吊るされてるぞ」


「………んんん!?なんで!!?」


「…………(セレスの着替えを覗こうとして…シャルロットに見つかって。まあ、後は…お察しだ)えと…まあ、夏だからな」


 意味が分からないよ…

 まあパスカルは置いといて。わたしはエリゼと一緒に遊ぶ皆を眺めたり、雑談をしたり…



「あ、そうそう!僕ねえ、お父様からラウルスペード騎士団の副団長補佐をやってみるか?って言われたんだ!」


「補佐?ああ…普段学生だから、そっちに掛かりきりになれないからか。てか副団長ってどんな人だっけ?」


「名前はハリエット・テーヌ。50代の女性なんだけど…すっごい強い人。ああ、剣の腕じゃなくてね。剣だけだったら僕も負けないし!

 なんというか…かかあ天下?じゃなくて…皆を纏めるのが上手いの。騎士達皆、子供扱いしてるし。この間、騎士達が朝まで飲み歩いていたら…」




 あれは夏期休暇に入る前。若い騎士が隊舎の前で酔い潰れていたのだが…


「あんた達イィィーーー!!!騎士ともあろう者がその体たらく、誇り高きラウルスペード公爵家の名に泥を塗るつもりかああーーーーーっ!!!?今すぐ顔を洗って着替えて来い!!!」


「「「ぎゃああああっっっ!!!サーセン姐御おおっ!!!」」」


「副団長と呼びなあっ!!!!」



 と…その日非番だったはずの騎士達は、一日中鍛錬をしていたよ…。

 そう、肝っ玉母ちゃんって感じ!?見た目はシュッとした…まさに姐御、いや極妻?そんな人!

 


「よく分からんが…すごいというのは伝わった」


「確か…息子さんが皇室騎士団所属って言ってたな」



 姐御…じゃなくて。ハリエット卿はわたしにはすっごく優しい。公女だからとかじゃなくて…わたしの境遇を聞いて、涙を流して抱き締めてくれた人。


 以前お父様と…「年頃の女の子の誕生日に剣を贈るう!?そりゃシャルティエラお嬢様はお喜びになるでしょうがね、センスがなさ過ぎます!!!」「ひ、ひえ…」とかいう会話をしているのを聞いた時は…小さく吹き出してしまった。まあ確かに、剣を貰っても嬉しいけど間に合っている。

 そして彼女は女性騎士にも慕われている。わたしはたまに女性騎士だけ集めてお茶会をするのだが…そこでも色々面白くてタメになる話をしてくれるぞ。確か、こんな事も言ってたな…



「はあーあ…シャルティエラお嬢様がフリーだったらねえ。息子のお嫁さんになって欲しかったですねえ。なーんて!

 あの息子20過ぎても反抗期なのか…私の事をババア呼びするのですよ。ムカついたので首都のあいつの部屋に忍び込み、パンツから何から何まで私物に名前書いてやりましたよ」



 あっはっはっ!!と豪快に笑っていたけど…息子ねえ。いい年してパンツに記名…ぶふっ。それで、なんて名前だっけ?忘れたあ。

 


「もしかして…ハーヴェイ卿の事か?ハーヴェイ・テーヌ」


「あー、それそれ!…ってルシアン?知ってるの?」


 エリゼと話をしていたら、トイレ帰りのルシアンが浮き輪を装備したまま声を掛けて来た。どうやら彼は泳げないらしい。



「丁度よかった、皆にも紹介するつもりだったんだ。ハーヴェイ卿は最近私の専属騎士に任命されてな。ほら、丁度ジェルマン卿と話しているぞ?」


 ルシアンが指差す先を、エリゼと一緒に見てみると。そこには…ちゃっかり水着姿(ジェイルや他の騎士は皆隊服姿)の若い男性が。

 ハリエット卿と同じ白緑の髪で…ちょっとチャラそうな人だな。ルシアンが呼ぶと、小走りで近寄って来た。



「お呼びでしょうか、殿下」


「ああ、お前の紹介をしておこうと思ってな。彼女はセレスタン・ラウルスペード。母親から聞いているだろう?本名はシャルティエラだ」


「初めまして、ハーヴェイ卿。シャルティエラです」


「これはこれは…ご挨拶が遅れました。俺はハリエット・テーヌの息子、ハーヴェイ・テーヌと申します。この度栄誉あるルシアン殿下の専属騎士に任命されました、以後お見知りおきを」


 彼はそう言ってわたしの手を取り、口付けをした。サラッとやるね…流石騎士。しかし失礼ながら、もっとチャラいと思ったが…意外と礼儀正しくて紳士だ。

 わたしが見た目で判断しちゃイカンなー!と反省していた直後。



「それでこっちがエリゼ・ラブレー。2人の事は色々話してあるだろう?私の尊敬する友人達だ!」


「俺ハーヴェイ、よろしくエリっち!」


「お前っ、態度違すぎないかーーー!!?」


 んな…!ハーヴェイ卿はわたし相手と違い、エリゼに対して超フランクに右手をシュバっと上げて挨拶した。しかもエリっち!!!

 

「んだよ、ラブリンのほうが良かったか?」


「ふざっけるな!!!パンツに名前書いてあるくせにっ!!!」


「なんで知ってんだお前!!?てか見てほらココ!この海パンにも名前書いてんの!酷くねあのババア!?」


「やめろ捲んな見せんな!!!」



 エリゼとハーヴェイ卿はギャーギャーと言い合いを始める。やっぱ見た目通りの人だった!!


「すまないな…彼はあんな感じで。女性には紳士的なんだが、男相手だとな…。

 それでも皇族とか上司とか、きちんと相手によって態度は改めているんだが」


 ルシアンがこそっと耳打ちしてきた。それよりわたしは、さっきから…ハーヴェイ卿の名前、顔、態度に…どことなく既視感が…?





『……へーぇ、悲劇のオジョーサマってワケ?はっ、いーんじゃないっすか?俺カンドーしすぎて泣いちゃいますわー、およよ〜ん。

 …言っとくけどさ、その考え方きっしょいわー。自分に酔って周りを見なくて…そんなだから大事なモン失くすんですよ。

 俺が何言ってるか分かんない?分かんないだろーなー!そんじゃ、俺これ以上貴女と話す事なんも無いんで。さいなら、シャルロットサマ』





「……あ。漫画で…シャルロットに対して、嫌悪感を露わにしていたルシアンの騎士ハーヴェイ…?」


 そうだ。老若男女に愛されるシャルロット。セレスタンやゼルマなんかの悪役以外で、唯一シャルロットを嫌っていた騎士だ…。

 でも理由は明かされていない。ルシアンも暴言を咎める事はしなかった、彼はシャルロットの事が好きなのに?いや待て…?



「あれ、シャルティエラ様?もしもーし?あの殿下、お嬢様の様子が…」


「え、あー…自分の世界に入っているんだろう。ご苦労だった、ハーヴェイ卿。持ち場に戻っていいぞ」


「かしこまりました。それでは失礼致します」



「……ルシアン。あいつ、騎士としてどうなの…?」


「いやあ…腕はいいんだよ。性格も…態度は悪いけど真っ直ぐな人物でな、エリゼに似てると思うぞ!」


「オレはあんなじゃねえわっ!!!」


「おっとっと、じゃあ私は海に戻る!!」



 騒がしい2人は放っておいて…駄目だあ、これ以上ハーヴェイについて思い出せないよう。元々サブキャラだから、情報少ないし!

 この後暫くハーヴェイ卿を観察していたけれど…ロッティに対しても紳士的に対応していた。じゃあ…やはりシャルロットとロッティは別、か。



「いやあ、そんな情熱的な目で見られちゃあ照れるっスよ〜!あ、俺はいつでもウエルカムですから!!」


 なんて言ってるし。まあ…考えても仕方ないか。

 この後わたし達はスイカを食べたり、ボートに乗ったり。沢山遊んで(わたしは海には入れなかったが)…1日目はあっという間に終わり、夜を迎える。





 ※※※





「それでは…肝試し、始めまーす!!!」


「「イエーーーイ!!!」」


 ノリノリで返事をしてくれたのはルシアン、少那のみ。どうもありがとうございます!!



「そんじゃ、簡単にルールを説明します。この林の先に、僕が昼間のうちにコインを置いておいたから…それを取って来るだけ!真っ暗だけど、灯りはこのランプ1つのみ」



 こういうのはやはり、男女ペアで行くべきでしょう!

 だが仮にわたしを女子に入れたとしても…まだ男が余る。と言えば、男が1人抜けるか、女子の誰かが2回行くか…とエリゼが提案してきた。


 うーん。出来れば全員参加して欲しい。そのほうが面白そうなので。

 皆には内緒だが、ヨミを始めとした精霊達が脅かし役で待機している。特にロッティとか超面白い反応してくれそうなので…ね?セレネとニナもお手伝いだ。

 ペアに関して、ロッティ&ジスランは譲れない。2人で暗闇の中存分にイチャついてくださいね。で…少那の相手はわたしか木華になる。兄妹で行ってもつまらんし…じゃあわたし?


 そんな感じで昼間のうちに話し合っておきました。



「じゃ、ペア発表するね。ロッティ&ジスラン。僕&パスカル。また僕&少那。ルネちゃん&エリゼ。ルシアン&木華!でいいかな?」


 誰も反対がいないので、これで決定!順番はくじで決めるが…おっと早速ロッティペアだ!



「じゃ、これランプね。男は女性をちゃんとエスコートするんだよ!いってらっしゃ〜い!」


 皆に送り出され…2人は少し照れながら手を繋ぎ、暗闇に消えて行った。念の為バズーカは回収した。邪魔になるだろうし…反射で精霊にぶっぱされては困るので。


 さてさて、後は任せたぞ精霊達よ!!





 ※





「では行こうか、ロッティ」


「ええ」


 2人は手を繋ぎ、夜の林に足を踏み入れた。整備された道とは違いやや荒れている。その為昼間は問題ないが、今のように暗い夜道だと少々歩きづらい。



「きゃっ!?」


「おっと…大丈夫か?」


「え、ええ…」


 シャルロットが地面の窪みに躓いてしまうも、ジスランが反射的に手を出し支える。

 ジスランは力はあるが単純お馬鹿で騙されやすく、私がしっかりしないと…!とシャルロットは常々思っている。

 だがこういう時…シャルロットが窮地に立たされたり、苦しんでいる時。真っ先に飛んで来て優しく手を取ってくれるのもまた、ジスランなのであった。

 


 だからこそ…どうしても聞きたい事がある。シャルロットは繋ぐ手に力を込めた。



「…ロッティ?」


「ジスラン…あの、ね。今まで…有耶無耶にしていたけれど。

 貴方は今も…お兄様を愛しているのかしら…?」


「俺が、セレスを?」


 彼女はこくりと頷いた。


 そうだ。元々ジスランは…幼い頃からずっと、セレスタンに好意を寄せていたのだ。

 シャルロットに対しては恐怖心を抱いており、もしもセレスタンがいなければ…2人はとっくの昔に疎遠になっていただろう。

 

 

「……そうだったな。確かに俺はずっと…セレスが好きだった。自分の感情を誤魔化そうと必死になるほど、彼に夢中だった」


「…………!」


 シャルロットはその答えに俯いてしまう。やはり…ならば自分は、セレスタンの代わりだと…思われているのだろうか?同じ顔だから。それだけの、理由で…。



 最初は、それでもいいと思っていた。

 ずっと兄だと思っていた人物が実は姉だと知った時の衝撃。

 そんな姉が…自分の知らない所で傷付き苦しんでいたと知った時の怒り。

 …自分の行いが、存在が。無自覚に姉を追い詰めていたと知った時の…絶望。


 そのように姉に対して後ろめたい気持ちがあったからこそ…自分がジスランと結ばれる事すらも、互いに罰になるんじゃないかと考えていた。



 ジスランはセレスタンを長年傷付けた。心も、身体も。だからこそ…彼女が幸せになる姿を、愛しのセレスタンの妹である自分の横で、指を咥えて見ていればいい、と。


 それは自分も…。シャルロットは、長きに渡り姉を泣かせてきたジスランを、死んでも許せないと思った。自分自身、彼に悪い感情を抱いていなかったからこそ尚更。

 だから…姉に未練のある男…自分が彼の一番になる事は決して無いと理解した上で。殺したい程憎い、幼い頃より恋焦がれていたジスランと…夫婦になる事を決意した。




 ジスランは最愛の女性の代わりの女と。

 シャルロットは殺意と愛情が同居する男と結婚して。

 

 2人共…死ぬまで苦しむべきだ、と……



「でも…でも、ね。最近おかしいのよ私…。貴方を…本気で、愛してしまったから…!

 お姉様の代わりなんて嫌。私だけを見て欲しい、私が貴方の一番になりたいって…願ってしまうの…」


「ロッティ…」


 ついにシャルロットは涙を流し、持っていたランプを落として両手でジスランの襟を掴んだ。



「それに!!!私はお姉様を傷付けた貴方を許さない!!そう思っていたのに…!いつの間にか、そんな事も忘れて…ただ貴方の隣で笑っている時があるの…。


 それって厚顔にも程があると思わない!?罪は罰を以って償わなければならないわ。私は貴方と結婚する事が贖罪だとずっと考えていたの。なのに…

 今はそんな事も忘れて、ただ貴方と幸せになろうとしている!!それどころか…!


 貴方に…愛されているお姉様に…嫉妬、しているのよ…私…」


「…………………」



 シャルロットは勢いのままジスランを押し倒し、彼もまた受け入れて…2人は今、地面の上に横たわっている。

 


「私は…醜いわ。お姉様も今は幸せなんだから…もういいんじゃない?って…心のどこかで考えているのよ…」



 シャルロットはジスランの上に覆い被さり、涙を流し続ける。ジスランはずっと無言で彼女の言葉を聞き…地面に転がるランプで薄く照らされた、苦しそうに顔を歪める彼女の頬に手を当てた。



「……ロッティ。俺は頭が悪くて、セレスに言わせれば語彙力が無い。

 だから…俺の精一杯の言葉でお前に伝えよう」


 ジスランは身体を起こし…シャルロットを正面から力強く抱き締めた。そして…静かに、2人の唇を重ねた。



「俺は昔、お前が恐ろしかった。いつも俺を怖い顔で見るし…セレスにあげようとしていた贈り物は全部奪われるし。

 セレスに会いたくてラサーニュ邸に行く時も、なるべくロッティには会いたくないなとすら思っていた」


「うぐ…」


 シャルロットは突然の行為に顔を赤くさせたが…続くジスランの言葉に拳を握り締めた。いつもであれば今頃「悪かったわねこの野郎!!」と殴り飛ばしていたに違いない。

 


「それは学園に入学してからも続いた。そこで…俺は目を逸らし続けていたセレスへの想いを認めた。だが想いを伝える資格なんて無いと思った。

 セレスが誰かと幸せになってくれれば、それでいいと思っていた。まあ結局我慢できなくて…告白してしまったが…」


「……………」


 今度はシャルロットが黙ってジスランの話を聞く。


「…お前の言う通り、俺は苦しむべきだ。だが…その為にお前に婚約を申し込んだ訳ではない」


「………え?」


「……俺のロッティに対する感情が変化したのは…セレスの決闘の時。

 いつも冷静沈着なお前が、その細い肩を震わせて泣きじゃくる姿に…ああ、この子はか弱い(多分)女の子だったんだって…再認識したんだ」


「今なんかおかしな間がなかった?」


「気のせいだ。ともかく、それからは早かった。今まで恐怖の対象でしかなかったお前が…段々と愛しく思うようになった。

 でな…恥ずかしながら俺は、セレスに未練がある状態でお前に求婚した。でも…確かにお前の事も好きになっていた。つまり…好きな人が2人いる状態で、相手のいないお前を選んだ、という事になる。

 すまなかった。その時の俺は、誠実では無かった」


「……………!!」


 シャルロットは覚悟していた事ではあったが…やはり言葉にされてしまうと、辛い。

 反射的に身体を硬直させてしまったが…ジスランは彼女の背中と後頭部に手を回して、優しく撫でた。



「……覚えているか?確か…2年生の時だったか。女子だけの調理実習で…俺に、なんだっけ…炭のケーキを作ってくれただろう?」


「モンブランよっっっ!!!悪かったわね、料理がヘッタクソで!!!流石に最近は自覚してるわよ!!?」


「(ようやく自覚したのか…)と、とにかく、そのタンブランだけど。皆作ったお菓子を、特別な男に贈ったのだろう?お前がそれをセレスではなく俺にくれた事…凄く、嬉しかった。

 傷だらけの手で自信満々に「美味しいはず!だ、と、思う、ん…だけど…」と言いながら渡してくれた時。本当に…愛おしくて仕方がなかった(実際不味かったけど…)。

 

 そんな些細な日常の積み重ねで。俺の中で…少しずつ確実に、ロッティの存在が大きくなっていった。

 

 俺もセレスには、一生をかけて償わないといけないって思ってる。だが…シャルロットとの結婚を罰だと思いたくない。俺は本当に…シャルロット・ラウルスペードを愛しているから」



 ジスランは一息でそう言い切った。シャルロットはその言葉に驚きながらも…淡々と言われて「感情篭ってんの!?」と憤りジスランの顔を見上げると。


 ジスランは珍しく…薄暗い中でも分かる程耳まで真っ赤にしていたのだった。彼はその顔を見られたくないのか、シャルロットの後頭部を押さえて、彼女の顔を自分の胸元に埋めさせた。

 するとシャルロットにはジスランの大きな鼓動がよく聞こえてしまい…つられて自分も心臓が早鐘を打つ。




「だから、その…。俺は…セレスの事はもうなんとも思っていない、訳じゃないけど。

 俺にとって大事な人である事に変わりはないけど。その…好きの意味が違うと言うか。

 俺の愛する女性は…シャルロットだけだ。セレスは俺の大切な友人で、今後兄弟になる人。2人共…俺にとって、命に代えても守りたい人なんだ。

 あの、だから…」


「もういいわ。貴方の心は…伝わったから」


 

 シャルロットはジスランの背中に手を回し…強く抱き締めた。



「………ありがとう。ジスラン…。

 私も貴方を愛しています。誰よりも…」


「……うん」




 彼らは長い間そうしていた。

 そして…最後にもう一度キスをして微笑み合い、静かに立ち上がるのだった。




「お兄様には悪いけど…肝試しやめて、このまま抜け出しちゃわない?」


「…俺は卒業するまで手を出さないと言ったはずだが?」


「は?………!!!!ち、違うわよ馬鹿っ!!!私が言っているのは、海を眺めたり星空をっ」


「ははは、分かってるって。すまんすまん」


「んもう…!!」


 シャルロットは本気で焦ったのだが、ジスランは愉快そうに笑い飛ばした。こういう所が可愛いんだよな、と思いながら。


「全く…(そういえば私さっきから…勢いでお姉様って言っちゃってるわね?でもジスランは何も言って来ないし…まさか、気付いていない…?)」



 当然気付いている。だが…違和感が無さすぎて変に思っていないだけだった。



 とりあえず灯りを…とシャルロットは地面に転がるランプに手を伸ばした。その時……



 ガシッ…



「へ…………」


 彼女の腕を…地面から生えた手のカタチをしたナニかが、がっしりと掴んだ。



「…………っきゃああああああああっっっ!!!!?」


「!!!?どうしたロッティ!!!」


「あ、あわ、あわばばばばば…!」


 ジスランが慌てて駆け寄ろうとしたら。



 ぼとぼとぼとっ



「ん?……………むしゃああああーーー!!!?」


「きゃーーー!!」


 なんとジスランの上から…芋虫が降って来た。



 ヒュンヒュンヒュンッ

「蔓がーーーっ!!!」


 そよ〜〜〜…っ

「風がーーーっ!!!」


 ガザガサ、ガサゴ

「「なんかいるううぅーーーっ!!!?」」


 それは当然…精霊達の仕業である。




「あーあーあー…いい雰囲気だったから放っておこうと思ったのに…あーあ」


「それい、もっと脅かせい!」


「セレネもやるぞ!」


「がんばる、がんばる。あるじも喜ぶ」

 

 ヨミは空気を読んで、何もせずにただ見守ろうと思っていたのだが。それを伝える前に…他の皆がセレスタンの指示通り、張り切って脅かし始めてしまったのだった。



「ごめーん…まあ…これも愛の試練という事で」(適当)






「「ぎゃああああああああああ………」」





「おー、始まった!よしよし、楽しそうで何よりだね!」



 その頃、セレスタン達が集まるスタート地点では。2人が帰って来るまで雑談を楽しんでいたのだが…突然2人分の叫び声が聞こえて来て、何事だ!!?と大騒ぎ。

 騎士は臨戦態勢に入り、いつでも林に突撃出来るようにしていたのだが…


「いーの。やっと肝試しが始まったんだよー!えへへ、こりゃー楽しみだぞ」



 1人ニコニコするセレスタン。いつもなら可愛らしい微笑みだというのに…今この場においては。悪魔の笑みだ……と、誰もが恐れるのであった……




 約15分後。ジスランが意識の無いシャルロットを抱えてヨロヨロと戻って来て。



「この…林には………が、いる……」



 とだけ言い残し。彼もその場に倒れるのであった…



いい雰囲気にはさせねえよ。という意志を感じる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりのジスランが本当に格好良かったです~(///ω///)♪ ありがとうございます! 安定のパスカルでちょっと安心しました笑
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