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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
154/222

34



 夏だ!海…は来週だ!!今日は…



「「温っ泉っだー!!!」」


「走んな!!!」


 

 ひゃはーい!!!僕とネイがテンションMAXになっていると、お父様に首根っこ掴まれた。ぐえぇ。




 本日はぁ〜公爵家の家族旅行じゃーい!!!僕が以前温泉行きたいって言ったら…



「じゃ、行くか。宿を貸し切って…いずれ別荘でも買うか」



 と、お父様が流れるように高級宿を貸し切っちゃったよ!?金持ちってすごいわ〜。バティストが言うには、僕ら誰も贅沢しないから…予算余ってるんですって。



 旅行は公爵家の使用人も皆一緒!!アイシャももちろんいるし、ロイの奥さんもご招待。残念ながら、オランジュ夫妻はいないけどね。

 騎士は…うん。領地の治安を守ってもらいたいので…いつものジェイル、デニス以外留守番です。まあ、彼らにも近いうちに慰安旅行企画するからさ。


「俺も、いいのですか」


「もち!師匠もすでに公爵家の、騎士の一員さ。それに…」


 僕がちらりと目線を向けた先…師匠もつられて見た。



「ほー。まだ温泉街の入り口ですが、すでに硫黄の匂いが漂ってますねえ。では、まず何処から行きましょうかね!」



 と…元気いっぱいのタオフィ先生もいる。

 いやまあ、テオファのお兄ちゃんですし、呼ぶ気はあったんだけど。休暇前…僕が声を掛ける前に「此方もご一緒しまーす!!」と言ってきた。どこ情報?いや、いいんだけどさ。だって…



「兄ちゃん!全部入ろう、片っ端から入ろう!!お土産いっぱい買って!」


「こらこら、湯あたりには気を付けろよ?」


 超笑顔で先生の腕をぐいぐい引っ張るテオファの姿を見ると。まあ…なんでもいっか!と思ってしまうのであった。



 ちなみにパスカルも来たがっていた。いやだから君ら、どこから情報流れてんの!?今回は諦めてもらったけど。

 彼は膨れっ面で訴えていたが…僕がロッティのアドバイス通りに「これは家族旅行だから…家族になったら、いつか一緒に…ね?」と伏せ目がちに言ってみた。


 すると…その日は超笑顔で帰って行き、後日。新婚旅行の候補地とか言って、国内外50を超える観光地の資料を持って来た…。

「これでも大分絞ったんだけど。夏はここの料理が美味いって。ここは秋の紅葉が綺麗で…この地方はとても星空が美しいらしい。で、春には…」

 と、延々とプレゼンするパスカル。君は何ヶ月新婚旅行に行く気なの…?そう思ったが、パスカルが笑顔で語ってくれるのが嬉しくて。僕も一緒になって計画を立てるのであった。



 

「おーい、おじいちゃん!この温泉関節痛に効くって、膝悪いんでしょ?」


「ほっほ、お嬢様。お気遣い感謝しますが…儂に温泉はちと熱い。お若い人達で入って来るとよいでしょう、儂はマッサージでも受けましょうかねえ」



 そして今回はおじいちゃんこと、カリエ先生も一緒だ。

 最初は遠慮すると言っていたのだが…僕が全力で「行こうよ行こうよ一緒に行きたい!!やだやだやーだー!!行くのー!おじいちゃんも一緒に行ってくれなきゃいーやーーー!!!」と、彼の診療所まで乗り込んで駄々を捏ねた。おもちゃ売り場の子供にも負けていないと自負しているよ。

 めっちゃ呆れ顔されたが…彼は僕に甘いので、なんやかんや折れてくれた。もちろん彼が本気で嫌そうならここまでしなかったとも。


 それでも…カリエ先生は誰よりも長く、側で僕を守ってくれていた。だから…少しでも、恩返しをさせて欲しいな。

 




 で、現在地は温泉街と言っても日本の風景とは違う。温泉の建物は丸くて宮殿って感じだし…街並みはそうだな、勝手なイメージだけど地中海っぽい。

 この地方は避暑地としても有名で、冬は大雪が降ったり厳しいものだが…夏は過ごしやすいのだ。


 それにしても僕、温泉は冬って固定観念があったけども。夏温泉はまた違った良さがあるらしいね。




 で、肝心の温泉ですが。基本混浴で、入浴の際は専用の湯浴み着必須。もちろん更衣室は男女別で…なんというか、お風呂というよりプールの感覚かも?

 では…行きますか!早速僕らは着替えに向かうのでした。



【主よ。私を携帯していなくてよいのか?影に仕舞っては、いざと言う時に困ろう】


「あはは、問答無用」


【無慈悲な…】



 僕はカバルカズラに襲われてから、常にミカさんを腰に吊るしている。で、魔本はバッグに入れるか影に入れるか…だが。

 このミカさん、明らかに女子更衣室を覗こうとしている…。なのでヨミにお願いして、一時的に影にぶっ込んだ。


 なんだこの変態刀。なんというか…魅禍槌丸の制作者は禍月という男性らしいけど。ミカさんって…好色だったという禍月の人格なんじゃないだろうか?

 何せ僕が着替えている時ですら視線を感じるのだ、目無いのに。「自分無機物だし?下心とか無いし?女体に興奮とかしてないし?」という意思を彼から感じる。とにかく…錆びたくなければ、今日は影ん中で大人しくしてな!!



【しょぼんぬ】



 誰に教わったのそれ。


 



 着替えて大浴場に向かうと…広い!綺麗!!造りが…柱とか古代ローマっぽいトコある、ゴージャス!!!滝がある!


「すごーい、広い!!」


「お姉様、あっち行きましょう!あの滝源泉ですって!」


「こーら、走っては危険ですよ。それと、水分補給はしっかりしましょうね」


「「はぁーい!」」


 アイシャに注意されつつ、僕らはどの湯に入ろうか迷っている。おお、薔薇風呂ある!セレブっぽい!僕らがきゃっきゃしていたら…男性陣の姿発見。あれは…



「脱げ、早く!!」


「きしょい。胸隠すなコラ」


「ちょ、やめ、あーーー!!!いやー!!」



 …ジェイルとデニスが飛白師匠の湯浴み着をぐいぐい引っ張り、脱がせようとしている…?

 とても面白そうな事になっているので近付き、事情を聞いてみよう。



「それが…カスリ卿が女性用の湯浴み着を着てるもんで」


「なんか腹立つんです。誰も気にしやしない」


「いや…俺の体、不快。お客さんも…びっくりする」



 ああ…身体中にある古傷を、少しでも隠したいんだ。確かに僕ら以外にもお客さんはいるけども。師匠も温泉は好きだと言っていたから…入りたいけど、人の目が気になるんだね。

 

「うーん…まあ、師匠がそうしたいんなら。でも…他のお客さんに遠慮しなくていいんだよ?傷のある人は不可なんて決まり無いし、何も知らずに非難する人なんて…無視だよ無視。

 それに…ぶふ。うん、似合ってる。可愛いよう、飛白ちゃん!」


 僕の発言に、師匠は自分の格好を改めて見直し…僕に軽くチョップを喰らわせ、「着替えてくるです!」と更衣室に消えた。いやん、本当に似合ってるわよー!!


「ありがとうございます、お嬢様。…で、あっちも…」


 ん?ジェイルは何を見ているんだろう?つられて顔を向けると…



「おー!凄い、泳げそう!」


 と。僕ら3人の視線の先には…同じく女性用を着用しているテオファの姿が。彼は師匠と違って本当に似合っているから…ビビる。


「男子更衣室でもすっごい目立ってました…」


「二度見三度見されていたな。俺もした」


「側から見れば、女の子が紛れ込んでいるみたいだもんね…」


 テオファは別に、肌を隠す理由は無いはずだ。気になった僕が訊ねてみると、彼は頭を掻きながら答えた。



「うーん、ボクも最初は男物着てたんですよ。でも…すれ違う人全員がボクの顔を見て胸を見て…もう一度顔を見て。

 その視線がやかましいのでこうなりました。今度は別の視線を感じますけど…」


「そ…か…」


 僕はそれ以上何も言えず…薔薇風呂に飛び込むテオファを見送るのだった。

 


 この施設の中では皆自由行動。ジェイル、デニス、師匠はサウナ我慢対決してるし。おじいちゃんはマッサージ中かな?

 バジルとモニクは一緒に回ってるし、アイシャ達大人組は静かに温泉を堪能している。フィファ兄弟とナイル兄妹もお風呂に入ったりなんか食べたり。

 ここは精霊入浴禁止!でもないので、皆も自由にしている。



「いい湯…わいはここにいる」


「では私も。ほう…これは中々…おおぉう…」


 トッピーとヘルクリスがジャグジーなお風呂を占拠している…。他のちっこい子達も隙間に浮かんでいるので、ここは精霊風呂と化している。しかしお湯に浮かぶ皆は…可愛いなオイ。

 その中にはシグニも混じっていた。見た目ただの黒猫な彼だけど…気持ちよさそうに頭だけ出している。ここは放っておいてもよさそうかな…。



 ヨミだけは普通に湯浴み着姿で僕に同行している。この状態の彼を見て精霊だと気付く人はいまい。

 さて…僕らはロッティとグラスも一緒にお父様を探す。どこかなー、と周囲を見渡すと…すぐ見つかったわ。



「あのぅ、ご一緒してもいいですかぁ?」

「おいくつですかー?奥さんとか彼女さんとか、いないんです?」


 

 わーお、バティストと一緒に若い女性2人に逆ナンされてる。バティストは飄々と流しているけど、お父様がめっちゃ困ってる。

 お父様は僕と目が合うと、パアア…と顔を輝かせて手招きした。そんで僕とロッティの肩を抱き、すまなそうな表情を浮かべて見せた。


「わりーな、お嬢さん方。俺はこの子らの父親なの。今日は家族サービスだから遠慮しとくわ」


「それじゃあたしも…息子達が一緒だから、ごめんね〜」


 お?バティストはグラスとヨミを息子だと言い、ナンパを躱す。お姉さん達は「なーんだ、残念」と、潔く諦めていったぞ。

 そんでグラスは呆れつつも、楽しそうに声を発した。


「ジャンさん…いつからおれは息子になったんですか?」


「まーいーじゃん、パパって呼んでいーよ!闇の精霊殿にも迷惑を掛けてしまいましたが…」


「……………いや、まあいいよ。じゃあジュース奢って、パパ」


「「「ブッフゥッ!!」」」


 意外にもノリノリなヨミ。僕ら親娘は思わず吹き出し、バティストも一瞬目を丸くしたが…すぐ笑顔で「おっけー!!」と答えるのであった。





 ひとまず全員バティストの奢りで水分補給(お父様だけ自腹)。入浴場は飲食禁止なので、湯浴み着のまま移動出来る専用スペースに並んで座る。


「あのさ…全員、ぼくの事敬わなくてもいいから。好きに呼んでくれていいし…シャーリィの家族だし…普通にしてくれて構わないよ」


 その場でヨミがストローを齧りながら、頬を染めてそんな事を言うもんで…全員大層驚きましたとも。

 最上級の、それも幻の闇の精霊。そんな彼は人間社会で言えば、陛下よりも貴い存在であると言える。うっかり名前を呼んでしまえば殺されても仕方ない…それが今の彼は、まるで普通の青年のように見える。



「………なら、そうさせてもらおうかな」


 

 お父様はヨミの隣、僕に視線を向けた。それに対し笑顔で返すと…微笑みながらそう言った。ヨミも満足そうに笑っている。

 この日以降彼は、屋敷の中ではほぼ影の外で過ごし…人間のように振る舞う事が増えた。



 後にヘルクリスが教えてくれた。


「奴は人間性が増してから、家族というものに憧れを抱いているようだ。人間と一緒に必要の無い飲食をしたり、同じ目線に立とうとしたり。

 それにどうやら…肉体年齢の17歳に精神も引っ張られておる。奴の事を思うなら…まあ、1人の人間のように扱ってやれ」


 と。そっか、だから…バティストの事を父親扱いしているのも、その一環なんだろうか。

 この旅行中ヨミはずっとバティストをパパと呼び、終わった後も…何かおねだりをする時はパパ呼びするようになった。

 そんな変化が面白くて嬉しくて、僕はこっそりと笑うのであった。




 

 ※※※





 暫く色々なお風呂に浸かった後、お父様が「全員着替えて、宿に移動するぞー」と言った。その前に…



「……お嬢様、この3人はどうしたんでしょうねえ?」


「それが……サウナで…全員のぼせちゃったみたい…」


「「「………………きゅう……」」」



 今僕とおじいちゃんの足下に、騎士の3人が倒れている。施設のスタッフさんに運ばれて来たんだが、全身真っ赤に茹で上がり…まさかずっとサウナに…?


「何やってるんだろうね…僕も手伝うよ」


「……全く、仕方のない。儂に任せて、お嬢様は着替えていらっしゃい」


「よろしくね〜…」


 なんとおじいちゃんは、3人纏めてヒョイっと抱えてしまった!?す、すげえ…多分80歳くらいいってそうなのに、力持ちぃ!!

 ただ、少し歩いたと思ったら…立ち止まり、振り返らずに僕に声を掛けた。



「それと…お嬢様。そろそろ「僕」はやめなされ。貴女は女性なのだから、徐々に慣らしていかねば。

 いつかシャルティエラお嬢様が女性として世に出て。華やかな衣装に身を包み、最愛の男性の隣に笑顔で立つ姿を…この老ぼれは楽しみにしているのですよ」


「…おじいちゃん…」



 彼は僕の返事を聞かずに歩き始める。



「…うん!わたしの花嫁姿、ちゃんと見せてあげる!!子供…ひ孫が生まれたら抱っこしてあげてね」

 

「ほほ…これは、長生きしなくてはいけませんなあ」



 そう言うおじいちゃんの表情は見えないが、きっと微笑んでくれているのだろう。




 さて、急いで着替えるか!今日の夕飯なんだろなー、この辺の特産品はなんだっけな?そんな事を考えながら、わたしはロッティ達と一緒に更衣室に向かった。



「皆、楽しかった?」


「ええ!それにしても、モニクはバジルとずっと一緒で羨ましいわ〜」


「んもう、揶揄わないでくださいっ!普通にお風呂を回っておしゃべりしただけですし!」


「いいっすね〜。ネイもいつか、好きな人できるかなあ…」


「ネイはシャルティエラお嬢様のお嫁さんになるんじゃないのか?」


「な、なんでそれをテオファが知ってるっすか!?」


「「「あははっ!!」」」



 着替えようとしながら皆で笑い合う。そういえばそんな事もあったなあ、ネイに彼氏が出来たら…フェイテお兄ちゃんが嫉妬しちゃうぞ。なーんて考えていたら…



 ………ん?テオファ?

 わたしにつられて、女性陣全員が()を見る。おい…おい、お前…



「………………あっ…」


「「「「………きゃーーーーー!!!」」」」


 本人すらも気付かぬまま、ナチュラルに男が混じっとる!!!テオファは一瞬で顔を真っ赤に染めて「失礼しましたあっ!!!」と飛び出して行った。


 よ、よかった…まだ脱いでなくて…!他のお客さんも近くにいなくて、ほんっとうによかった!ただまあ、飛び出した先で…



「何をやってるんだお前は!?」

「見たもの全部忘れろ!!!」

「このどアホが!!」

「全く羨ま、けしからん!後でコッソリ教えろ!!」


「わーーー!!見てない、本当に見てないからー!!!」



 という…タオフィ先生、バジル、グラス、フェイテの声と、バシバシ何かを叩くような音がいくつも響くのであった。フェイテ、後で集合な。




「全く…テオファったら…」


 わたし達は呆れながら今度こそ着替える。その時…


「本当に困ったねえ。あ、シャーリィ。まだ濡れてるよ?」


「ありがとう…………は?」



 わたしにタオルを差し出して、自分もそのまま着替え始めるのは…ヨミ……



「…………出て行けーーーっっっ!!!!」


「なんでっ!?ぼくは精霊…」


「関係無いわーーー!!!」



 ヘルクリスやセレネもオスだが、動物型の彼らとは違うでしょうが!!特に君は初めて会った時より神秘性みたいのが薄れて…人間に近くなっている。だからどうしても同世代の男の子にしか見えないんだよ!!

 そんな君に裸を見られて平気な程図太くないんですう!せめて影の中から出てくんな!!



 ヨミも追い出し…今度こそ女子更衣室に平和が訪れた。

 


「あら…お嬢様?まだ着替えていなかったのですか?」


「ふふ、お若い方は元気ですもの。私達なんて、15分で出てしまいましたものね…」



 そこへ…先に上がり着替えまでとっくに終わっている、アイシャとケイトさん(ロイの奥さん)が現れた。ロッカーに手を突き、ぐったりしているわたし達に対して首を傾げているが…なんかもう疲れ切ってしまったわたし達は、無言で着替え始めるのであった…。



 はあ…温泉って、疲れを癒すものじゃなかったっけ…?

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ヨミがひたすら可愛かったです! セレスのお父様のパアア…な笑顔が尊いd=(^o^)=b サウナ組の人たち、誰がはじめにギブアップするか競ってたのかな?と思いました。
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