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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
152/222

32



 放課後、生徒会活動中。今日の議題は?



「セレスタン君とパスカル君は聞いてるらしいけど。

 二学期にセフテンス国の第四王女、ヴィルヘルミーナ・アヌ・セフテンス様が短期留学にいらっしゃる」



 やっべ、完全に忘れてた…。一瞬誰よ?とすら思ったわ…。

 確か学長が言うには…僕とパスカルを狙ってるんだっけ?自分に惚れさせて〜ってやつ。よほど美人の王女様なのかな…。


 だが…パスカルは僕の事が大好きだし、僕は女なので惑わされない。残念だが彼女には手ぶらでお帰り願おう!!

 と言っても全ては憶測なので、決めつけはよくない。普通に仲良くなれるかもしれないし!


 会長は資料に目を通しながら頭をぽりぽり掻く。何か問題でも?



「それでさあ…その王女殿下が『学園で歓迎会を開いて欲しい』って言ってるらしいんだ。

 んでもスクナ殿下とコハナ殿下の時も、そういうのやってないじゃん?学園側としては、王族であろうとも特定の生徒を特別扱いは出来ませんって言ったの。皇宮ではキチンと晩餐会開かれるって言うし?

 なんとかそれで納得してもらったけど…今後も何言われるか分かんないから頑張ろう!っていう話…。


 それと来週は期末テストだから、生徒会は明日からテスト明けまで休みね、各々勉強頑張って。んで…」




 ………王女様、あんまり関わり合いになりたくないなあ…。





 ※※※





 帰宅した僕は、ロッティとバジルと勉強中。明日の放課後は学園で、皆でワイワイやるのさ。

 ジェイルに教えてもらおうと思ったが…彼は脳筋一族の息子。ジスラン程ではないが…勉強はむーりー!との事。

 んで…デニスは全然駄目。頭は良いんだけど…ロッティと同じく天才タイプ。


「ここはこの数字をなんとなくアレして。良い感じに計算したら、答えは6です」


「?????」


 計算式をすっ飛ばして答えしか分からない。しかも正解してるし…チクショウ。

 でも…やっぱりこういう勉強会って楽しいなあ。


 グラスにお茶を淹れてもらって休憩、ふぃー。

 と、そうだ!彼に大事な話があるんだった。





 寝る前にグラスを部屋に呼び出す。きょとんとする彼をソファーの向かいに座らせて…ヨミのお陰で発覚した事実を教えた。



 君は記憶を封じられている、鍵が無ければ決して解けない。その鍵はどのようなものかも分からないけど…



「もしも鍵が開いたとして。その記憶は…辛いものかもしれない。忘れていれば良かった、知りたくなかった!と絶望するかもしれない。

 だから…もしも君が今のままを望むなら。僕は…今後一切君の過去について言及しない。

 逆に記憶を取り戻したければ、僕は…あらゆる手を使って鍵を探し出す。そして君の過去がどのようなものだったとしても…絶対に受け入れる。変わらず接すると約束する」


「お嬢様…」



 彼は突然の話に、思考が追いつかないようだ。「記憶の、鍵?おれの…過去…?」と、僕の言葉を反芻する。


 

 戸惑うのも当然だろう、今まで…考えた事も無かったんだろうから。


 僕だって…今のグラスがいる暮らしに、すっかり慣れてしまっている。もしも記憶を取り戻して、家族や大切な人がいると判明したら。彼は、箏に帰る事になるかもしれない。

 

 グラスは以前、思い出の中より…僕の側にいたいと言ってくれた。その気持ちも…変わるかもしれない。それでも…



「……お嬢様。もしおれが記憶を取り戻して。箏に親兄弟、友人がいたとして。

 その上で…おれが全てを捨ててでも、お嬢様と一緒にいたいと願ったら。

 あなたは…おれの意思を尊重してくれますか?おれを、追い出したりしませんか…?」


「追い出したりなんてしない、絶対に。でも…一度は帰って、家族に顔を見せてあげて。

 その上で国に帰るか、公爵家に残るか。君が決めるんだ。

 君はもう立派な大人だ、自分で考えるの。ただ僕は、公爵家は君を拒まない。それだけは忘れないで」


「………………」




 命は僕の目を真っ直ぐに見つめる。僕も、逸らす事なく見つめ返す。




「…ありがとうございます。少し…考えさせてください」


「うん。でも考え過ぎると多分また倒れちゃうから…程々にね」



 彼はすくっと立ち上がり、就寝の挨拶をして部屋を出て行った。

 これで…後は彼の返事を待つのみ。返答次第では、今の生活が壊れてしまう可能性もある。


 僕はソファーの背もたれに体重を預けて大きく息を吐き、天井を見上げる。



 …グラス、命。別の世界の、僕の運命の人。

 もしかしたら並行世界の僕は。彼と手を取り合ったその後…箏に帰ったりしたのだろうか…?



「………………」


「ヨミ?」


「…………ちょっと用事を思い出した」


 ヨミが突然部屋を出て行ったと思ったら、数分後…何事も無かったかのように戻って来た。そして僕の影に潜り…ふあぁぁ……もう、寝よっかな。


 照明を消して、布団に潜る。目を閉じて眠ろうとしたのだが…



 ………並行世界の僕の運命はグラス。



 …パスカル、どうなった?


 多分少那とは出会わないよね。ジスランは…?


 今の僕は、パスカルのいない生活なんて考えられない。でも…えーと、漫画では?セレスタンとパスカルって、会話シーンあった???

 セレネは?他の精霊はともかく、セレネはいるはず。だって5歳の頃に出会ってるんだもの。


 セレスタンはシャルロットとは…仲違いしていて?バジルはただの執事。エリゼは…なんだ?ルネは友人で、ルシアンは論外。



 えーと…じゃあ並行世界のパスカルの初恋はどうなった?相手がシャルロットだと勘違いしたまま…彼女と結ばれた?

 いやでも…だけど…んん?…シャルロットは……最終的に誰と結ばれるんだろう…??



 そんな事を考えていたら…僕はすっかり寝不足になってしまいましたとさ。





 次の日の朝、眠い目を擦り部屋の外に出ると…グラスは扉の前で待っていた。



「おはようございます、お嬢様」



 僕の姿を確認し、微笑むグラスはいつもと変わらない。

 もしかしたら…それが彼の答えなのだろうか。思い出さない道を選んだのかもしれない。


 それなら、僕は。



「おはよう、グラス。さ、行こうか!」



 全ての言葉を呑み込んで。何事も無かったかのように、これからも振る舞うのだ。





 ※※※





「少那、本当に大丈夫?」


「う、うん…!」



 僕らは普段、昼食は二手に別れている。僕、パスカル、ルシアン、少那、木華。それとロッティ、バジル、ルネちゃん、ジスラン、エリゼだ。

 当然、少那が女子2人に近付けないから。なのに…今日から一緒に食べようと、少那本人が提案したのだ!!


 

「シャルロットさんはセレスとそっくりだから…最初から抵抗は少なかったし。ルネさんも…綺麗な人だけど、怖い人では無いって…分かってるから」



 そう言って、2人に近付いても特に発作も出なかったのだ!!しかもギリギリ、ロッティには触れる事も出来たんだぞ!!

 最初は握手しようとして…でも無理で。結果E.◯.のように指同士を突き合わせるもんだから…僕は1人噴き出してしまった…。

 



 そんなこんなで10人の大所帯。楽しい…!!


「…あれ?そういえば近頃、咫岐を見かけないね?」


 賑やかな食卓、いつも少那の後ろに咫岐も控えているんだが…いないな?


「ああ…彼は私を心配して、いつも側にいた。授業中は廊下に控えて、移動時はついて来て。

 でも…もう心配要らないって判断したみたい。最近は薪名と一緒に、送り迎えだけしてくれるよ」


 ほう…そっかあ。彼は僕達を睨みつける事も無くなってるし…いい傾向だね。



 それで、今日は勉強会をする予定だが…どこでする?

 カフェにする?いや、教室でしょう。図書館塔は?と、案は色々出る。

 ルシアンが皇宮に来る?と言うが…丁重にお断りした。


 僕は暫く皇宮に近寄らん…少なくとも、スカーフが取れるまではな…!


「え、なんで?行こうよセレス!」


 す、少那!!誰のせいだと…いや、元凶は…うわあああん!!



 


 結局この日はサロンを借りて集まった。飲み物とか欲しいし、糖分も必要さ。

 咫岐と薪名が給仕をしてくれるというのでお言葉に甘えて、ね。バジルも手伝おうとしたが、君は勉強するほうでしょーが。


 全員同じ教科をやるか、それぞれ不得意な教科をやるか。話し合いの結果、バラバラの教科をやって頭の良い人が教える事に。


「あ、セレス。そこ計算違うよ」


「あらホント…ありがとう少那」


「どういたしまして」


 お〜…僕は隣に座る少那が間違いを指摘してくれて大助かりだ。彼は歴史とか地理系以外、勉強は結構得意らしい。

 ただ…逆隣のパスカルが黒いオーラを撒き散らしているような…?

 ってアラ?頭の良い2人に挟まれてる僕…お馬鹿さん認定されてます?ジスランはロッティとエリゼに。ルシアンはロッティとルネちゃんに挟まれてるし…むむ。



「…セレスタン。算術はその辺にして一緒に地理をやらないか?」


「そう?じゃあこのページ終わったらね」


 パスカルが唇を尖らせてムスッとしている。なんで不機嫌なんだ君…?



 向かいのほうでは、ジスランが歴史の勉強中。暗記が出来なくて困っているようだ。


「貴方1つ覚えたら1つ忘れるのね…」


「脳の許容量が少な過ぎるんだな…。こうなったら年表だけ覚えろ、後は捨てるしかないな」


「くっ…!」


 ジスランは毎回落第をギリギリ免れている。今も頭を抱えながら頑張っているぞ。



「うーん、ルシアン様は教科によって差が激しいのですよね…」


「歴史なら得意だ。算術と経済学は…ちょっと…。でも古語はいけるぞ」


「古語は必須じゃありませんわよ…。では、算術をしましょうか。

 姫様はいかがです?私がお力になれる範囲でしたら、見させていただきますわ」


「ありがとう。私は物理が苦手だわ…他はなんとかなるのだけれど」


 ふむふむ、ルネちゃんはルシアンと木華を見るのに手一杯か。木華の逆隣はバジルだけど、彼は可もなく不可もなく。パスカルがたまに口を出してくれている。



 

「…ん?ちょっと少那、それ僕のジュース!」


「え?…あ、ごめん!」


 少那は僕の飲みかけのジュースに口を付けてしまっている。慌てて返してきたが…これどうしようかな?流石にこのまま飲むのは…照れる。しかし捨てるのもなあ。

 僕が悩んでいると…にゅっと長い腕が伸びてきて、僕のジュースを奪った!?犯人はパスカルで、ストローを引っこ抜き直接グラスに口を付けて、ぐいっと飲み干した。

 タン!と空のグラスをテーブルに置き、咫岐のほうに目を向ける。


「ふい〜…すまないがセレスタンに新しいのをくれ」

 

「か、かしこまりました」


 呆然とする僕と少那。咫岐が新しくジュースを用意してくれたが…何やってんだ君?



「………………セレスタン、そこ地名間違ってるぞ」


「ほ?あらま…ありがとね」


 パスカルは何事も無かったかのようにしている。よく分かんないけど、面白かったので言及しないでおこうっと。




 さて、ひと段落ついたので休憩。

 テストも終わったらすぐに夏期休暇。今年は何しようかな?そういえば…少那は海水浴行きたいって言ってたな。どうしよう…と考えていたら、ルネちゃんがある提案をしてくれた。


「皆様、ヴィヴィエ家の別荘にいらっしゃいますか?海で泳ぐもよし、山でキャンプも出来ますわ」


 ほう…それはいい。僕は山に行こうっと!他の皆も参加するという事で、楽しみだな〜!

 肝試しとかしてみたいなあ!ぜひ精霊達に脅かし役をやってもらいたい。


「私は海で泳ぎたいけど…山で虫取りもしてみたいなあ」


 少那が少年のように目を輝かせている。ジスランと…咫岐は顔を引き攣らせているが。カブトムシ、クワガタ、蝉…いいね!

 そんな風に、皆で休暇の予定を立てる。ヴィヴィエ家には一週間程お邪魔するつもりで。帰ったらそれぞれ家族と過ごしたり…気楽な学生は来年までだからね、楽しもう!




 少那のいる夏は今年限りだろう。だから…箏に帰る前に、沢山思い出を作って欲しい。

 夏だけじゃない、秋も冬も。あの時は本当に楽しかったなあって、いつか笑ってもらえるように。

 

 この国に来てよかった。一生の思い出が出来た!という言葉が聞けたなら。それに勝る喜びは無い…僕はそう思うのだ。




グラスのターンは一旦終了(多分)

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