sideパスカル
ついに?
俺は義兄上に特大の雷を落とされ、今は正座中。拳骨を落とされて頭が痛い…。大人しく、ボール遊びをするシャーリィとクレイグを眺めている…。
シャーリィは俺と目が合うと…プイッと逸らしてしまう。自業自得とはいえ、悲しい。
「(信じられん、あの性欲魔人!!暫く口利いてやんないんだから!!)」
「せーちゃ、あちー!」
「あっち?よーし、さあ来い!」
あー…天使が2人…。
対して俺の隣には大魔王が鎮座している…。
「なんだよー…義兄上だって、夫人が他の男の服を着ていたら嫌だろ?」
「当たり前だ。だが俺らは夫婦だから脱がせてもいいんだよ、お前は違うだろうが。しかもこんな外で…」
正論すぎる。
でも本当に、許可が降りてから手を出すつもりでした。本当です。俺に無抵抗の相手を襲う趣味はありません。
俺が猛省していると…義兄上が、こそっと声を掛けてきた。
「お前…どこまで見た?」
「どこって…インナーまでだけど。あ、下は脱がせてないからな!?」
「(…この様子じゃ、気付いちゃいねえか…)はあ…お前はまだ反省してろ」
彼はそう言って立ち上がり、シャーリィ達と合流した。俺も混ざりたい〜…。
休日の昼下がり、ちらほらと家族連れがいる草原。その中でボール遊びをするシャーリィ達。側から見れば、彼らも1つの家族のように見える。
その時ふと思う。俺とシャーリィじゃ…子供は生まれないんだよなあ、と。
それでもいいと思っていた。でも…やっぱり、欲が生まれてしまう…。俺とシャーリィの子供はきっと、とんでもなく可愛いんだろうな…。
俺は最低だな…。シャーリィだって苦しいに決まっている。今だって笑顔でクレイグと遊んでいるが、内心悲しいに違いない。
「(はああ〜、子供いいな〜。僕とパスカルに子供が生まれたら、絶対可愛いよねえ。
クレイグもその時には立派なお兄ちゃんになってるんだろうなあ)」
彼は昔から、笑顔の下に涙を隠す人だった。せめて俺にだけは…寄り掛かって欲しいな…。
「(そうだ、女の子が生まれたら…クレイグのお嫁さんに、なーんちゃって!当人同士の気持ちが優先だよね!)」
「(なんかさっきからパスカルが変な顔してるが…何考えてんだアイツ…?)」
本当にシャーリィが女性だったらなあ……と、そこまで考えて。
さっきの思考が戻ってきた。
シャーリィは昔から可愛い。だがエリゼのように成長すれば男らしくなると思っていたのに…歳を重ねる毎に、美しく成長した。それに…
シャーリィの隣に立つ義兄上にも目を向ける。
彼らは今走り回っている為、上着を脱いで腕を捲っている。その腕を見比べると…明らかに、シャーリィは細すぎる。
さっき見た腰だって、足だって…首も、義兄上と全然違う。まさか………まさか?
一度疑ってしまうと、全てが疑問に思える。そうだ、今までは…シャーリィとロッティを比較していたから、おかしいと思わなかったんだ。
ロッティは淑女のお手本のごとく、とても美しく完成されたプロポーションをしている。
ルネ嬢もだが白い肌に細い腰、優雅な仕草。それを俺は…女性の基準にしていたのかもしれない…。
もう一度シャーリィに目を向けた。
弾ける笑顔でボールを投げる彼は…健康的な女性にも見える。感情豊かでお転婆で、貴族令嬢には見えないが…明るい平民の女の子、という感じがする。
記憶を遡ると…俺は、彼が男性である証拠を見た事が無いな…?
彼の裸を見た事は無いし……もしも彼の言う「秘密」が、それだとしたら…?
「……………っ!!」
う…自分の顔に熱が集中するのが分かる…。シャーリィのあの服の下、俺には無い膨らみを想像して…ヤバい。
「パスカル?どうしたの、熱でもあるの!?」
「うわっ!?」
俺が自分の世界に没頭していたら、目の前にシャーリィが座り込んでいた。
そしてその小さな手を俺に伸ばし…額に当てる。
後退りする俺に迫り、心配そうに俺の顔を覗き込む。運動したからか、上気した顔が…色っぽくて。その血色の良い唇を貪りたくなる衝動を必死に抑え込む。
無意識に、ごくりと喉を鳴らした。俺はさっき…何をしようとした?
シャーリィを女性だと仮定して。
俺は…彼女を、その肌を…この広場で…太陽の下に露にしようと………
「うわあああああああああっっっ!!!!」
「パスカルーーー!!!?」
ガスガスガンガンガンガンッ!!!
あああああああ、ぎゃああああああぁぁぁっ!!!
俺は幹に頭を打ち付ける。死ねえええ!!俺ええええっ!!!
「どうしたのパスカルーーー!?」
「シャ、シャ…しゃああああああっ!!!」
最低だ最低だ最低だあああ!!!
最愛の女性を辱めようとするなんて、俺は、俺はあああ!!!
「ぱーぱ?」
「見ちゃいけません。クレイグ、お前はああなるなよ」
「あいー」
義兄上を始め、俺の奇行に周囲の人はドン引きだったらしい。お陰で全員広場から逃げて行き、俺ら4人だけが取り残される。
「待って、落ち着いてー!!」
うっ!!シャーリィが背後から俺を抱き締めた。
彼女を巻き込む訳にはいかない、一度俺は行為をやめた。
「あーあ、血が出てる…。もしかして…さっきの反省してた?」
「……………」
促されるままに後ろを向くと、シャーリィがまた俺の額に手を伸ばし…傷を癒やしてくれた。
やめてくれ…俺は、君のその優しさを受けていい男じゃない…!!
「……その。僕が怒っているのは、場所を選んで欲しかったからで。そのう…えーと、君が僕を求めてくれるのは…嬉しい、です。
だから…今後は…僕の意見を聞いてもらえれば…いいな、と」
…シャーリィは目を伏せながらそう言った。
あんなに酷い事をした俺を…許すと、言ってくれているのか…?
俺は自分が情けなくて、シャーリィを正面から強く抱き締めた。すると…ふわりといい香りが…俺の鼻腔をくすぐる。
あ…頭がクラクラする…。打ち過ぎたのか、彼女に対して興奮し過ぎているのか。いや、どっちもだろう。
彼女に少しもたれ掛かると…「ふんぬぅ〜…!!」と、重い俺を支えようと頑張ってくれている。さり気なく肩やら背中、腰に手を回すが…やはり。
線の細い男、なんて…とんでもない勘違いだったな……。
「わっ!?」
「はああ〜〜〜……」
シャーリィを巻き込み、俺は仰向けに倒れた。あー、空が青い……。
彼女から手を離し、両手を広げて横たわる。すると…シャーリィも俺の上で仰向けになり、「むふー」と言いながら同じく両手を広げた。可愛すぎる………。
あーーー……一応、心の中で言い訳をしておこう。
俺はシャーリィが女性だと知っていたら、死んでも絶対に脱がしはしない。
脱がすんだったら俺の部屋のベッドの上だ、そこは譲れない。
さっきは…シャーリィが男だと思っていたから。何せ…学園でも剣術の授業中とかは、結構皆上を脱ぐ。
汗をかいたり、暑くなったり。ジスランに至っては授業が始まる前から脱いでいる。
だから…他の男には見せたく無いが、今は俺しか見てないし。シャーリィも上半身くらいいいかな?と思ってしまった…。
でも普段シャーリィは、そうやって脱いでる連中には背を向けていたな…。顔が赤いのは体が温まっているからだと思ってたけど…照れてただけ、じゃないのか…?
まあそんなん、体育会系の奴ばっかりだけど。現にエリゼやルシアン殿下なんかは脱がない。俺は夏は汗かいたら脱ぐな。
…………エリゼ…?
そういや、エリゼは。シャーリィの裸を………見た、な……?
「…………パスカル、なんか震えてない…?僕重い…?」
「………いや、軽い…」
ああ、ああああのの、あの、あのやろろ、やろろろろう…!!
思い出せ俺、そうだあの時…エリゼは「上から下まで全部見た、柔らかかった」とか吐かしてたなあ……?
それは、つまり。奴はシャーリィの性別をそこで知った……?しかも……ドコを、触りやがった……?
そうだ、今にして思えば…エリゼの反応は異常だった。奴の性格から考えると…例えば俺がシャワーを浴びていたとして。そこに奴が入って来たら…
「ん?おお、悪い。あのさー…」
くらいでなんとも思うまい。なのにあの時は…真っ赤になって奇声を発し、床を転げ回っていた。
同級生の女の子の裸を見てしまったとしたら…正常な反応だ。
当時異変に気付けなかったのは、俺がすでにシャーリィへの恋心を自覚していたからだ。そして同じくシャーリィに恋をしていたジスランも…!俺達も見たかった!!としか考えてなかった!
だから寮監の反応は冷めていたのか…!!「コイツら男同士で何言ってんだ?」って目をしていたな。ぐああ…!
「わ、パスカル?」
「…………ごめん、シャーリィ。俺……もう限界だわ…」
「………え?」
これ以上彼女の温もりを感じていたら…今度こそ襲ってしまう。それに…急用が出来てしまった…。
彼女を乗っけたまま、ぐるんと寝返りを打つ。必然彼女はうつ伏せ状態で芝生に転がったので…腹と胸に手を添えて支えた。そして…覆い被さり、耳元で囁く。
「シャーリィ。すまないが…今日はもう帰る。それと…
次に2人きりでデートをするその時は……君の全てを俺のものにする。マフィンの代わりに、君を美味しく頂くよ、いいね?」
「……!それ、って…ひんっ!?」
「こういう事だよ。だから…覚悟の上で、ね?」
俺はシャーリィの服の上から、胸と股座に手を這わせた。……やっぱり、下は付いてない、か。そりゃそうだ。胸が硬いのはサラシか何かで潰してるんだな。
彼女の顔は見えないが、耳まで真っ赤になっている。俺の言いたい事は伝わったみたいなので…首にキスをいくつか落とし、名残惜しいが離れた。
もちろんこのまま彼女を放置も出来ないので、丁度いいから義兄上に送ってもらおう。
多分、彼も真実を知っているんだろう。それと…公爵家の面々、かな?
「義兄上、シャーリィをお願いします」
「それは構わねえが…セレスを放ってまで、どこに行く気だ?」
「いえ…ちょっと、エリゼの息の根を止めてくるだけですので」
「なんで!!?」
「——セレネ!!」
俺が名前を呼べば、セレネが空中から姿を現した。
「なんだ?まだ昼過ぎだぞ、もう帰るのか?」
「いや、デートは中断だ。エリゼの所に向かってくれ」
「なんでだぞ…?」
セレネには狼の姿になってもらい、とっとと背に乗る。チラッとシャーリィに目を向けると…彼女はその場にぺたんと座り込んで、俺を見上げている。
ふっと笑い掛けると分かりやすく動揺したので…ああ、次のデートが楽しみだ。
俺はセレネに乗り疾走する。
ああ、シャーリィは女性だった!!嬉しい、嬉しい!!
もう俺達にはなんの障害も無い。エリゼを半殺しにしたら…正式に婚約を申し込もう!!
きっと俺は今、物凄く締まりの無い顔をしている事だろう。仕方ないだろう、抑えられないんだから!!
「待ってろよエリゼ、血祭りに上げてやる!!」
「………パル、セリフと顔が合ってないぞ…」
セレネの上で風を感じながら、俺は…明るい未来に思いを馳せるのであった。
これで残るはジスランですが…奴は無意識に気付いています。
「ロッティにとって姉だろうと兄だろうと、俺にとっては大事な幼馴染で初恋の人である事に変わりはない」という風に考えてます。




