sideパスカル
パスカルが少し変態っぽいです。彼がお好きな方は諦めてください。
「う……?」
新緑の匂い、少し冷たい風…優しく俺の頭を撫でる小さな手が気持ちいい…。
ここは…?布団ではなく…硬い地面に俺は横たわっている。でも枕だけは温かくて柔らかくてすべすべで…思わず頬擦りしてしまう。…ずっとこうしていたい…。
「………!パスカル。起きたんなら、どいてくれるかなあ…?」
「んー…?」
寝惚け眼で見上げてみれば…顔を赤くして俺を見下ろす、愛しの彼の姿が。
ああ…俺は今、膝枕されているんだ……生足で…そうか。
絶対どいてやらん、もっと堪能する。
「ひう…っ!?」
「んん〜…」
寝惚けているフリをして、横を向き彼の腹部に顔を埋めた。ああ…いい匂い。香水かな?でも前失敗したから…下手な事言えねえ…。
そして右手を腰に回し…シャーリィの柔らかさを堪能する。さり気なく手を下のほうに移動させ…臀部を撫でてみた。バレないようにチラッと横目で見上げると…
「………!!ぁ、う……!」
彼は……更に顔を赤くし…口に手を当てて震えている。ああ……ヤバい。
とりあえず…怒られるまで触っとこう。しかし柔らかいな……???男のケツってこんなもんか?
「(こおおんの野郎おおおおい!!絶対起きてる、起きてるよね!?寝てる人間が、こんなしっかりとお尻つまんだり撫でたりしないよね!?
今日のデートは健全なモノって自分で言ってたよねこの男!?…いやまあ…求められて悪い気はしないけれど。
僕だって性に興味が無いかといえば嘘になる。パスカルが相手なら…全部、委ねてしまいたいとも思うけど…もう少し我慢して!!)」
シャーリィは暫くプルプルしていたが、俺の頬をぎゅううっとつねり上げた。いてててて。
「ええい、起きて!!風邪引いちゃうよ、移動しよう!!
少し先にある草原でお昼にするんでしょう!!」
「風邪を引いたら…君が裸で温めてくれたら一瞬で治る自信がある」
「キメ顔で言うんじゃなーい!!!」
「それと薬は口移しで…」
「しないよっ!!!」
彼の反応が可愛くて面白くて、俺は声を上げて笑った。
起き上がり…彼を持ち上げ、今度は俺の膝の上に向かい合わせに座らせる。
「君、前はもっと慎み深いというか…理知的でクールな男性って感じじゃなかった?」
おおう…いきなり褒められてしまっては照れるぞ。
まあ俺もそう思うけど。君に夢中になるまでは、自分がこんなに情欲にまみれているとは知らなかったわ。
でもまあ…他の女性はいくら美しくても蠱惑的でも、一切その気にならないんだよなあ。
「こんな事ばっかりする俺は嫌いか?」
と、シャーリィの耳にキスをしながら言ってみた。彼は肩を跳ねさせて反応してくれるから…全てが愛おしくて仕方ない。
「僕は…どっちのパスカルも好きだよ。紳士的なのも野生的なのも…」
「…………………押し倒していい?」
「駄目!!!」
あーもう無理…はあ〜可愛い。そんな柔らかい笑顔で好きなんて言われたら…はあ〜…抱きたい。
しかし…今これ以上は嫌われそうな気がする。なので最後に…彼の襟を広げ、鎖骨にキスをした。強く、長く。痕が残るように、彼の隣は俺のモノだと周囲に知らしめる為に。
シャーリィは恥ずかしがりながらも、俺の好きにさせてくれている。
君は知らないかもしれないが…鎖骨へのキスは欲情。耳は誘惑。という訳で、俺の理性が崩壊する前に返事よろしく。
そのまま彼を抱えてレンカに乗せた。俺も後ろに乗り、シャーリィの頭に顎を乗せて甘えてみる。
すると彼は手綱を握る俺の手を握ってくれて……はあああ〜手綱ぶん投げてえ〜〜〜。
次に来たのは、町からも程近い草原だ。その為休日は家族連れやカップルも多くいる。
俺達は一応平民っぽい服装にしているので、まあ貴族だとはバレないだろう。シート代わりの布を敷いて、木陰のある場所に座る。
弁当はシャーリィが用意すると言っていたのだが…
「じ、実は…これ、僕が作ったんだよ!まあロイやラッセル、アイシャにも少し手伝ってもらったけど…。
でもデザートは僕が頑張ったんだ。君の口に合えばいいけど…」
はあ〜…?毒でも全部食い切ってやる。
シャーリィは手際良く昼食の準備をしている。そういえば彼は…幼い頃から自分身の回りの事は全てやってきたらしい。
それが元になって…今の働き者のシャーリィになったんだよな。俺の部屋まで片付けてくれるし……申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが入り混じる。
エリゼに「なんなのお前ら、夫婦なの?」と言われた時は、1日中浮かれてしまった。
今だってシャーリィはほら、新妻のよう…新婚!?初夜は済ませたのか…!!?
「……あんまり見ないでよう…」
あっ。つい、シャーリィの動きを凝視してしまった。彼はじわじわと顔を赤くして…うん可愛い。
結局俺は見てるだけで支度が終わってしまった…せめて片付けは手伝おう。
彼は濡れたタオルで手を拭いている。俺にも差し出して来たので…両手を出してみた。
「拭いて」
「ええ〜…しょうがないなあ」
こうやって甘えると、シャーリィは眉を下げて笑う。そうしてお願いを聞いてくれるので…ついやってしまう。
小さな手で、俺の大きな手を拭いてくれる姿は…アライグマみたいで可愛い。今度一緒に動物園に行こうかな…。
さて、弁当は……え、美味そう。沢山の具材が入ったサンドイッチに、色とりどりのおかずが…これを、俺の為に?
はあああ〜……もう結婚した。そんで一緒にキッチンに立って料理したい。
「……………裸エプロンかっ!!?」
「急に何言ってんの君!!?する訳ないだろ馬鹿かっ!!!」
いでっ!シャーリィが真っ赤な顔で、弁当の蓋で俺の頭を叩いた。つい妄想が爆発してしまった…。他に人もいるのに情け無い。
でも……本気でお願いしたらやってくれそうな気がする。そん時は……「今日のメインは…僕、だよ」とか言ってもらいたい。
うん、いつか絶対叶えよう。
「(すんごい輝く目で見られてる…無視しよう)
それと彼は、無言でカップを差し出して来た。コンソメスープか…美味しい…。
じゃあそろそろ食べ始めるか。何から食べようかな〜と手を伸ばした時。また俺の欲が湧いた。
「シャーリィ、食べさせてくれ」
「うん?……………うんん?」
シャーリィがロッティに「あーん」としているのを…俺はいつも指を咥えて見ているだけだった。
だが今日は違う。他に誰もいないし、俺の誕生日祝いだし!(とっくに過ぎてるけど)
シャーリィは目を泳がせ、悩んだ末に…照れたように、はにかみながら「はい…あーん…」とサンドイッチを差し出して来た。よっしゃあ!!
俺は笑顔で口を開け、近付いたの、だが…!
「…うん、うまい」
「「……へ?」」
そのサンドイッチは、俺の口に届く前に…シャーリィの手を取って、誰かが横取りした…!!
誰だこの野郎…ってエリゼ!!?奴はサンドイッチを頬張り、俺達を見下ろすように立っている。
「あれっ、どうしたのエリゼ?」
「んー…いや、オレも…まあピクニックに」
おおおのれええええ………!!!シャーリィは「偶然だねえ」なんて笑っているが、そんな筈あるか!?何故邪魔をする!!
「(パスカルが暴走してないか心配になった…とか言えねえし…)本当に偶然だっつーの。ほら」
エリゼが指差す先には…本を抱えてこっちに走って来る、フルーラ嬢の姿が。
「はあ、はあ…もう、エリゼ様!急に走り出してしまうんですから!」
「悪いな。ま、見かけたからちょっと挨拶に来ただけだ」
「あら…セレスタン様にパスカル様!ごきげんよう」
フルーラ嬢はスカートの裾をつまみ、礼儀正しく挨拶をしてきた。俺達も挨拶を返すと、なんだか…フルーラ嬢は俺とシャーリィを交互に見比べている。
「「?」」
「どうした、フルーラ?」
「えっと…申し訳ありません、セレスタン様は女性でしたの?」
「「はっっっ!!?」」
「………………へ?」
ん?お?おお?シャーリィが、女性?どうしてそんな勘違いを…?
ああ、そっか。多分彼女は、男性同士の恋愛とか考えもしないのか。まあグランツじゃ一般的じゃないもんな。
(そんな彼女が手に持っている本のタイトルは『メイドは見た!!王太子と公爵令息の祝福されぬ恋』である事に、パスカルは気付かなかった)
だというのにシャーリィは大慌てだ。心なしかエリゼも、動揺している気がする。
「な、何言ってるんだフルーラ?」
「そそそうだよ、僕男だよっ!!?」
「そうなんですの…?」
うん?たかが子供の勘違いに…そんな必死になって否定しなくても。
そりゃあ確かにシャーリィは女神の如き美しさと、妖精のような可愛さを兼ね揃えていて。
全体的に小さくて、柔らかくていい匂いがして。
グラスやジスラン、色んな男を虜にする魅力の持ち主……………で……。
…………ん???
「そうなんですよっ!!ほらパスカル、あーん!」
「もごっ!?」
ぐお…!油断していたところに、口に卵焼きが突っ込まれた。うん、美味い。
「そう!?どんどん食べてね!」
「……じゃあオレ達は邪魔しないよう帰るわ!」
「もうですの!?エリゼ様が「今日は絶対外に行く」とおっしゃったのに…」
「セレス、うまく誤魔化せよ…!」ひそひそ
「ううう……!」こくん
慌ただしくエリゼ達は転移して行った。本当に何しに来たんだ…?
それより、俺はもう一度…シャーリィを観察する。
「……………(めっちゃ見てる…!いや、見た目は今更だし。堂々としていれば大丈夫!!)」
俺の視線に気付いているだろうに、目を逸らしながらエビのマリネを頬張っている。
「!?な、何っ!?」
「いや……」
よく見えるように、眼鏡を奪う。…ロッティと瓜二つな彼は、確かに顔だけで言えば女性にしか見えないな?
でもそれは、あの美人のロッティの兄だから…って思っていたけど。
「………もうっ、パスカルは僕の作ったお弁当食べたくないのっ!!?いらないんなら全部僕が食べるし、今後一切作ってあげない!!」
「え!?やだ、いただきますっ!!」
いかん、変な事を考えるのはやめよう。今はシャーリィの手料理を堪能する時だ!!
俺が口を開ければ、彼は笑いながら差し出してくれる。周囲の生温かいような呪の籠ったような視線は気になるが…どうでもいい。
彼の料理はどれも美味しい。「ちょっと焦げちゃった」と苦笑しているが、それがたとえ炭であろうとも完食しよう。
「(よかった、話題を逸らすのに成功した…)いい食べっぷりだったねえ。
でもお腹いっぱいでしょう?デザート…って言ってもマフィンだけど。これは後にしよっか?」
ふむ…確かに。弁当を全部食べたから、少し休憩したい。
弁当箱を片付けて、木の幹を背もたれに並んで座る。その時…隣にいたシャーリィが、ずるっと倒れた。
何事かと思いきや…今度は俺の膝を枕に、彼が横たわったのだ。そうして「さっきのお返しね」と、にへっと笑った。
んはあ〜……俺の脳内で第一子が生まれた。
彼の綺麗にセットされた髪を崩さないよう、額や頬を優しく撫でる。
擽ったそうに笑う彼を眺める俺。ここは天国ですか?
穏やかな時間を過ごしながら、もうすぐ期末テストだなあという話になった。
シャーリィは入学当初は必ず10位以内に入っていたが…2年からはそうでもない。
『あの時は…父親に失望されたくないっていう思いが強かったの。大した取り柄も無い僕は、せめて勉強だけでも…って、がむしゃらに頑張ってた。
でも…僕の頭じゃあ、睡眠時間を削ってまで机に向かわなきゃ、好成績なんて取れないの。
お父様は「倒れるまで勉強なんてするな。俺はこれ以上、お前の顔色の悪い姿を見たくない」って言って抱き締めてくれるの。
だからね、無理に頑張るのはやめたんだあ。もちろん全くやらない訳じゃないけど…それより僕は、剣を振りたいし!』
彼はいつか、そう語っていた。それ以来は大体20位前後にいるが…本人はそれで満足気だ。俺も、そのほうが嬉しい。
そしていつも1位のロッティと、2位争いをする俺とエリゼ…どうしても1位になれない!!ロッティは必ず満点でトップなんだ、強すぎる……!
はあ…せめて同点1位を狙いたいが、全教科満点は難しい。ロッティは一体何者なんだ…。
「……また、勉強会しようね…。兄様や…お父様、バティストに教わるのも、いいけど…みんなでワイワイする、のも。僕……好きなんだあ…」
……シャーリィは腹いっぱいで眠くなってしまったのか、半分夢の中だ。
勉強会か…うん、楽しいよな。大体脱線するけど…それがいいんだよな。俺とエリゼは毎回、ジスランが落第点を取らないよう…別に勉強会を開いているけど。
今年はスクナ殿下とコハナ殿下も混じって…楽しくなりそうだ。
本格的にシャーリィが眠りそうなので、俺は自分の上着を掛けた。おやすみ…………って。
「シャーリィ。そういえば…君の服、大きくないか?可愛いから気にしてなかったが…これ、君の服じゃないよな?」
「……ん〜…グラスの、服ぅ……」
ぴき……
なんで……グラスの服を着ている……?
「………………ぐう」
「シャーリィ、シャーリィ?ちょ…!!」
駄目だ、本格的に眠ってしまった……!!!く、気持ちよさそうに眠る彼を起こす事など出来ん…!
この服が、グラスの?シャーリィに想いを寄せる男の服を…纏っているのか?
よし、脱がそう。これがバジルならともかく…許さん!!!
周囲を見渡し……うん、近くには誰もいない。ゆっくりと体勢を変え、念の為俺の体で目隠しにして、と。大丈夫大丈夫、男同士だから。
まずジャケットを脱がし…ごくり。1つずつシャツのボタンを外す。……ヤバい、物凄く心臓が高鳴ってる…ん?
全部外してはだけさせると…シャツの下にインナーを着ていたんだな。インナーを脱がせる必要は無い。無い。無、い………。
『ちょっとくらいよくねえ?俺は恋人だし、見るだけだから!』
『良いわけあるか!意識の無い相手に無体を働くなど、紳士の風上にも置けん!!!』
『でもシャーリィは、野生的な俺も好きって言ってたじゃん』
『…………いや、うーん…』
頑張れよ天使の俺!!!
『それに…前から思ってたけど、シャーリィ胸板厚くないか?ほら、腰はこんなに細いのに。見てみたくねえ?』
「確かに…彼の腹筋は縦に割れているけど、俺とかと比べて細い。くびれもあるし………はっ!!?」
俺はいつの間に、インナーを捲って…!?
『悪魔に負けるなよ俺!?今すぐ戻せ、早く服を着せろ!!…そもそも替えの服はあるのか?』
「俺のを着せる」
『俺は何を着るんだ?』
「俺は裸でも構わん!!」
『『捕まるぞ!!!?』』
それもそうか…でもグラスの服は着せたくないしー…。
とりあえずインナーを戻そうと、彼の腹に触れると…
「………ん…」
『『「…………………」』』
シャーリィが、ぴくっと反応した。ちょっと悪戯心が膨れ…腹を撫でたり指でついー…っとなぞってみる。すると……
「………う、ん……はぁ……あ…」
彼は少し呼吸を荒くして……感じているようだった……………
耳を弄ったり、足を撫でてみたり……ヤバい、ムラッとする……しかも、さっき俺が付けたキスマークが…扇情的で……
『やれーーー!!全部脱がせろ!!!!』
『駄目に決まっているだろう!!!まず人気の無い場所に移動しろ、そしてシャーリィを起こして許可を得てから抱け!!』
最早俺の天使は悪に染まってしまっていた。
よし!!!嫌だけどシャーリィに服を着せて、空の弁当箱は公爵家に送って、と。
誰もいない場所に行くぞー!!
そう思い立ち上がろうとしたら……
ヒュンッ——ボカンッ!!
「だばあっ!!!?」
「あー、スイマセーン(棒)」
い…っつぅ〜!俺の後頭部に、何か…子供用のゴムボールが、高速で飛んできた。
そんで声のするほうを向いてみれば……ナハト先生、義兄上が立っている!!?
「誰が義兄上だっつーの」
「なんでここに!?ここはラウルスペード領だぞ、貴方は首都住まいでしょうが!?」
「父と子の触れ合いだ。たまには遠征しようと思ってな(もちろんテメーの監視も目的だが)」
そんな彼の足元には、確か…クレイグ、だっけ?義兄上によく似た息子だ。
父親の足にしがみ付き、俺の事をじっと見ている。そしてトコトコ歩いて、近付いて来て……ボールを回収し。
「せーちゃ」
まだ俺の膝の上にいるシャーリィに近付き、ゆさゆさと揺らす。おい、起きるじゃないか!!!
「………おい、パスカル…どうしてセレスの服は、乱れているんだぁ………?」
「………………………」
地獄の底から響くような低い声が……上から落ちて来る……。同時に物凄い力で頭を鷲掴みにされる…!ギリギリギリ…と締め付けられる、うぐおおおお…!!
俺はいそいそとシャーリィを起こす。助けて。
「シャーリィ。風邪を引くぞ、起きて」
「………むーん…?おふぁよ、パスカルぅ…」
「せーちゃ」
「……あれ、クレイグ?なんで……兄様も?…ん?どうして僕、裾が出てるの?」
「…………最初から出てたぞ?」
「テメーが脱がせたんだろーーーが!!!!」
いやー!バラさないでくれえーーー!!!




