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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
146/222

sideパスカル

パスカルが少し変態っぽいです。彼がお好きな方は諦めてください。



「う……?」



 新緑の匂い、少し冷たい風…優しく俺の頭を撫でる小さな手が気持ちいい…。


 ここは…?布団ではなく…硬い地面に俺は横たわっている。でも枕だけは温かくて柔らかくてすべすべで…思わず頬擦りしてしまう。…ずっとこうしていたい…。



「………!パスカル。起きたんなら、どいてくれるかなあ…?」


「んー…?」


 寝惚け眼で見上げてみれば…顔を赤くして俺を見下ろす、愛しの彼の姿が。

 ああ…俺は今、膝枕されているんだ……生足で…そうか。



 絶対どいてやらん、もっと堪能する。




「ひう…っ!?」


「んん〜…」


 寝惚けているフリをして、横を向き彼の腹部に顔を埋めた。ああ…いい匂い。香水かな?でも前失敗したから…下手な事言えねえ…。

 そして右手を腰に回し…シャーリィの柔らかさを堪能する。さり気なく手を下のほうに移動させ…臀部を撫でてみた。バレないようにチラッと横目で見上げると…



「………!!ぁ、う……!」



 彼は……更に顔を赤くし…口に手を当てて震えている。ああ……ヤバい。

 とりあえず…怒られるまで触っとこう。しかし柔らかいな……???男のケツってこんなもんか?




「(こおおんの野郎おおおおい!!絶対起きてる、起きてるよね!?寝てる人間が、こんなしっかりとお尻つまんだり撫でたりしないよね!?

 今日のデートは健全なモノって自分で言ってたよねこの男!?…いやまあ…求められて悪い気はしないけれど。

 僕だって性に興味が無いかといえば嘘になる。パスカルが相手なら…全部、委ねてしまいたいとも思うけど…もう少し我慢して!!)」



 シャーリィは暫くプルプルしていたが、俺の頬をぎゅううっとつねり上げた。いてててて。



「ええい、起きて!!風邪引いちゃうよ、移動しよう!!

 少し先にある草原でお昼にするんでしょう!!」


「風邪を引いたら…君が裸で温めてくれたら一瞬で治る自信がある」


「キメ顔で言うんじゃなーい!!!」


「それと薬は口移しで…」


「しないよっ!!!」



 彼の反応が可愛くて面白くて、俺は声を上げて笑った。

 起き上がり…彼を持ち上げ、今度は俺の膝の上に向かい合わせに座らせる。


「君、前はもっと慎み深いというか…理知的でクールな男性って感じじゃなかった?」

 

 おおう…いきなり褒められてしまっては照れるぞ。

 まあ俺もそう思うけど。君に夢中になるまでは、自分がこんなに情欲にまみれているとは知らなかったわ。

 でもまあ…他の女性はいくら美しくても蠱惑的でも、一切その気にならないんだよなあ。


「こんな事ばっかりする俺は嫌いか?」


 と、シャーリィの耳にキスをしながら言ってみた。彼は肩を跳ねさせて反応してくれるから…全てが愛おしくて仕方ない。



「僕は…どっちのパスカルも好きだよ。紳士的なのも野生的なのも…」


「…………………押し倒していい?」


「駄目!!!」



 あーもう無理…はあ〜可愛い。そんな柔らかい笑顔で好きなんて言われたら…はあ〜…抱きたい。

 しかし…今これ以上は嫌われそうな気がする。なので最後に…彼の襟を広げ、鎖骨にキスをした。強く、長く。痕が残るように、彼の隣は俺のモノだと周囲に知らしめる為に。


 シャーリィは恥ずかしがりながらも、俺の好きにさせてくれている。

 君は知らないかもしれないが…鎖骨へのキスは欲情。耳は誘惑。という訳で、俺の理性が崩壊する前に返事よろしく。



 そのまま彼を抱えてレンカに乗せた。俺も後ろに乗り、シャーリィの頭に顎を乗せて甘えてみる。

 すると彼は手綱を握る俺の手を握ってくれて……はあああ〜手綱ぶん投げてえ〜〜〜。






 次に来たのは、町からも程近い草原だ。その為休日は家族連れやカップルも多くいる。

 俺達は一応平民っぽい服装にしているので、まあ貴族だとはバレないだろう。シート代わりの布を敷いて、木陰のある場所に座る。

 弁当はシャーリィが用意すると言っていたのだが…



「じ、実は…これ、僕が作ったんだよ!まあロイやラッセル、アイシャにも少し手伝ってもらったけど…。

 でもデザートは僕が頑張ったんだ。君の口に合えばいいけど…」



 はあ〜…?毒でも全部食い切ってやる。


 シャーリィは手際良く昼食の準備をしている。そういえば彼は…幼い頃から自分身の回りの事は全てやってきたらしい。

 それが元になって…今の働き者のシャーリィになったんだよな。俺の部屋まで片付けてくれるし……申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが入り混じる。


 エリゼに「なんなのお前ら、夫婦なの?」と言われた時は、1日中浮かれてしまった。

 今だってシャーリィはほら、新妻のよう…新婚!?初夜は済ませたのか…!!?



「……あんまり見ないでよう…」


 あっ。つい、シャーリィの動きを凝視してしまった。彼はじわじわと顔を赤くして…うん可愛い。

 結局俺は見てるだけで支度が終わってしまった…せめて片付けは手伝おう。


 彼は濡れたタオルで手を拭いている。俺にも差し出して来たので…両手を出してみた。



「拭いて」


「ええ〜…しょうがないなあ」


 こうやって甘えると、シャーリィは眉を下げて笑う。そうしてお願いを聞いてくれるので…ついやってしまう。

 小さな手で、俺の大きな手を拭いてくれる姿は…アライグマみたいで可愛い。今度一緒に動物園に行こうかな…。



 さて、弁当は……え、美味そう。沢山の具材が入ったサンドイッチに、色とりどりのおかずが…これを、俺の為に?


 はあああ〜……もう結婚した。そんで一緒にキッチンに立って料理したい。




「……………裸エプロンかっ!!?」


「急に何言ってんの君!!?する訳ないだろ馬鹿かっ!!!」



 いでっ!シャーリィが真っ赤な顔で、弁当の蓋で俺の頭を叩いた。つい妄想が爆発してしまった…。他に人もいるのに情け無い。


 でも……本気でお願いしたらやってくれそうな気がする。そん時は……「今日のメインは…僕、だよ」とか言ってもらいたい。


 うん、いつか絶対叶えよう。



「(すんごい輝く目で見られてる…無視しよう)


 それと彼は、無言でカップを差し出して来た。コンソメスープか…美味しい…。

 じゃあそろそろ食べ始めるか。何から食べようかな〜と手を伸ばした時。また俺の欲が湧いた。



「シャーリィ、食べさせてくれ」


「うん?……………うんん?」

 

 シャーリィがロッティに「あーん」としているのを…俺はいつも指を咥えて見ているだけだった。

 だが今日は違う。他に誰もいないし、俺の誕生日祝いだし!(とっくに過ぎてるけど)


 シャーリィは目を泳がせ、悩んだ末に…照れたように、はにかみながら「はい…あーん…」とサンドイッチを差し出して来た。よっしゃあ!!

 俺は笑顔で口を開け、近付いたの、だが…!



「…うん、うまい」


「「……へ?」」



 そのサンドイッチは、俺の口に届く前に…シャーリィの手を取って、誰かが横取りした…!!

 誰だこの野郎…ってエリゼ!!?奴はサンドイッチを頬張り、俺達を見下ろすように立っている。

 


「あれっ、どうしたのエリゼ?」


「んー…いや、オレも…まあピクニックに」


 おおおのれええええ………!!!シャーリィは「偶然だねえ」なんて笑っているが、そんな筈あるか!?何故邪魔をする!!



「(パスカルが暴走してないか心配になった…とか言えねえし…)本当に偶然だっつーの。ほら」


 エリゼが指差す先には…本を抱えてこっちに走って来る、フルーラ嬢の姿が。



「はあ、はあ…もう、エリゼ様!急に走り出してしまうんですから!」


「悪いな。ま、見かけたからちょっと挨拶に来ただけだ」


「あら…セレスタン様にパスカル様!ごきげんよう」


 フルーラ嬢はスカートの裾をつまみ、礼儀正しく挨拶をしてきた。俺達も挨拶を返すと、なんだか…フルーラ嬢は俺とシャーリィを交互に見比べている。



「「?」」


「どうした、フルーラ?」


「えっと…申し訳ありません、セレスタン様は女性でしたの?」


「「はっっっ!!?」」


「………………へ?」



 ん?お?おお?シャーリィが、女性?どうしてそんな勘違いを…?

 ああ、そっか。多分彼女は、男性同士の恋愛とか考えもしないのか。まあグランツじゃ一般的じゃないもんな。

(そんな彼女が手に持っている本のタイトルは『メイドは見た!!王太子と公爵令息の祝福されぬ恋』である事に、パスカルは気付かなかった)


 だというのにシャーリィは大慌てだ。心なしかエリゼも、動揺している気がする。



「な、何言ってるんだフルーラ?」


「そそそうだよ、僕男だよっ!!?」


「そうなんですの…?」


 うん?たかが子供の勘違いに…そんな必死になって否定しなくても。


 そりゃあ確かにシャーリィは女神の如き美しさと、妖精のような可愛さを兼ね揃えていて。

 全体的に小さくて、柔らかくていい匂いがして。

 グラスやジスラン、色んな男を虜にする魅力の持ち主……………で……。


 …………ん???



「そうなんですよっ!!ほらパスカル、あーん!」


「もごっ!?」


 ぐお…!油断していたところに、口に卵焼きが突っ込まれた。うん、美味い。


「そう!?どんどん食べてね!」


「……じゃあオレ達は邪魔しないよう帰るわ!」


「もうですの!?エリゼ様が「今日は絶対外に行く」とおっしゃったのに…」


「セレス、うまく誤魔化せよ…!」ひそひそ


「ううう……!」こくん



 慌ただしくエリゼ達は転移して行った。本当に何しに来たんだ…?

 それより、俺はもう一度…シャーリィを観察する。



「……………(めっちゃ見てる…!いや、見た目は今更だし。堂々としていれば大丈夫!!)」



 俺の視線に気付いているだろうに、目を逸らしながらエビのマリネを頬張っている。



「!?な、何っ!?」


「いや……」


 よく見えるように、眼鏡を奪う。…ロッティと瓜二つな彼は、確かに顔だけで言えば女性にしか見えないな?

 でもそれは、あの美人のロッティの兄だから…って思っていたけど。



「………もうっ、パスカルは僕の作ったお弁当食べたくないのっ!!?いらないんなら全部僕が食べるし、今後一切作ってあげない!!」


「え!?やだ、いただきますっ!!」


 いかん、変な事を考えるのはやめよう。今はシャーリィの手料理を堪能する時だ!!


 俺が口を開ければ、彼は笑いながら差し出してくれる。周囲の生温かいような呪の籠ったような視線は気になるが…どうでもいい。

 彼の料理はどれも美味しい。「ちょっと焦げちゃった」と苦笑しているが、それがたとえ炭であろうとも完食しよう。



「(よかった、話題を逸らすのに成功した…)いい食べっぷりだったねえ。

 でもお腹いっぱいでしょう?デザート…って言ってもマフィンだけど。これは後にしよっか?」


 ふむ…確かに。弁当を全部食べたから、少し休憩したい。

 弁当箱を片付けて、木の幹を背もたれに並んで座る。その時…隣にいたシャーリィが、ずるっと倒れた。


 何事かと思いきや…今度は俺の膝を枕に、彼が横たわったのだ。そうして「さっきのお返しね」と、にへっと笑った。



 んはあ〜……俺の脳内で第一子が生まれた。


 彼の綺麗にセットされた髪を崩さないよう、額や頬を優しく撫でる。

 擽ったそうに笑う彼を眺める俺。ここは天国ですか?



 穏やかな時間を過ごしながら、もうすぐ期末テストだなあという話になった。

 シャーリィは入学当初は必ず10位以内に入っていたが…2年からはそうでもない。



『あの時は…父親に失望されたくないっていう思いが強かったの。大した取り柄も無い僕は、せめて勉強だけでも…って、がむしゃらに頑張ってた。

 でも…僕の頭じゃあ、睡眠時間を削ってまで机に向かわなきゃ、好成績なんて取れないの。

 お父様は「倒れるまで勉強なんてするな。俺はこれ以上、お前の顔色の悪い姿を見たくない」って言って抱き締めてくれるの。

 だからね、無理に頑張るのはやめたんだあ。もちろん全くやらない訳じゃないけど…それより僕は、剣を振りたいし!』



 彼はいつか、そう語っていた。それ以来は大体20位前後にいるが…本人はそれで満足気だ。俺も、そのほうが嬉しい。

 そしていつも1位のロッティと、2位争いをする俺とエリゼ…どうしても1位になれない!!ロッティは必ず満点でトップなんだ、強すぎる……!


 はあ…せめて同点1位を狙いたいが、全教科満点は難しい。ロッティは一体何者なんだ…。


 



「……また、勉強会しようね…。兄様や…お父様、バティストに教わるのも、いいけど…みんなでワイワイする、のも。僕……好きなんだあ…」



 ……シャーリィは腹いっぱいで眠くなってしまったのか、半分夢の中だ。

 勉強会か…うん、楽しいよな。大体脱線するけど…それがいいんだよな。俺とエリゼは毎回、ジスランが落第点を取らないよう…別に勉強会を開いているけど。

 今年はスクナ殿下とコハナ殿下も混じって…楽しくなりそうだ。


 本格的にシャーリィが眠りそうなので、俺は自分の上着を掛けた。おやすみ…………って。



「シャーリィ。そういえば…君の服、大きくないか?可愛いから気にしてなかったが…これ、君の服じゃないよな?」


「……ん〜…グラスの、服ぅ……」



 ぴき……



 なんで……グラスの服を着ている……?



「………………ぐう」


「シャーリィ、シャーリィ?ちょ…!!」



 駄目だ、本格的に眠ってしまった……!!!く、気持ちよさそうに眠る彼を起こす事など出来ん…!

 この服が、グラスの?シャーリィに想いを寄せる男の服を…纏っているのか?



 よし、脱がそう。これがバジルならともかく…許さん!!!


 周囲を見渡し……うん、近くには誰もいない。ゆっくりと体勢を変え、念の為俺の体で目隠しにして、と。大丈夫大丈夫、男同士だから。


 まずジャケットを脱がし…ごくり。1つずつシャツのボタンを外す。……ヤバい、物凄く心臓が高鳴ってる…ん?

 全部外してはだけさせると…シャツの下にインナーを着ていたんだな。インナーを脱がせる必要は無い。無い。無、い………。




『ちょっとくらいよくねえ?俺は恋人だし、見るだけだから!』


『良いわけあるか!意識の無い相手に無体を働くなど、紳士の風上にも置けん!!!』


『でもシャーリィは、野生的な俺も好きって言ってたじゃん』


『…………いや、うーん…』



 頑張れよ天使の俺!!!

 

 

『それに…前から思ってたけど、シャーリィ胸板厚くないか?ほら、腰はこんなに細いのに。見てみたくねえ?』


「確かに…彼の腹筋は縦に割れているけど、俺とかと比べて細い。くびれもあるし………はっ!!?」


 

 俺はいつの間に、インナーを捲って…!?



『悪魔に負けるなよ俺!?今すぐ戻せ、早く服を着せろ!!…そもそも替えの服はあるのか?』


「俺のを着せる」


『俺は何を着るんだ?』


「俺は裸でも構わん!!」


『『捕まるぞ!!!?』』



 それもそうか…でもグラスの服は着せたくないしー…。

 とりあえずインナーを戻そうと、彼の腹に触れると…


「………ん…」


『『「…………………」』』



 シャーリィが、ぴくっと反応した。ちょっと悪戯心が膨れ…腹を撫でたり指でついー…っとなぞってみる。すると……



「………う、ん……はぁ……あ…」



 彼は少し呼吸を荒くして……感じているようだった……………

 耳を弄ったり、足を撫でてみたり……ヤバい、ムラッとする……しかも、さっき俺が付けたキスマークが…扇情的で……



『やれーーー!!全部脱がせろ!!!!』


『駄目に決まっているだろう!!!まず人気の無い場所に移動しろ、そしてシャーリィを起こして許可を得てから抱け!!』



 最早俺の天使は悪に染まってしまっていた。

 よし!!!嫌だけどシャーリィに服を着せて、空の弁当箱は公爵家に送って、と。



 誰もいない場所に行くぞー!!

 そう思い立ち上がろうとしたら……



 ヒュンッ——ボカンッ!! 



「だばあっ!!!?」



「あー、スイマセーン(棒)」



 い…っつぅ〜!俺の後頭部に、何か…子供用のゴムボールが、高速で飛んできた。

 そんで声のするほうを向いてみれば……ナハト先生、義兄上が立っている!!?



「誰が義兄上だっつーの」


「なんでここに!?ここはラウルスペード領だぞ、貴方は首都住まいでしょうが!?」


「父と子の触れ合いだ。たまには遠征しようと思ってな(もちろんテメーの監視も目的だが)」


 そんな彼の足元には、確か…クレイグ、だっけ?義兄上によく似た息子だ。

 父親の足にしがみ付き、俺の事をじっと見ている。そしてトコトコ歩いて、近付いて来て……ボールを回収し。



「せーちゃ」


 まだ俺の膝の上にいるシャーリィに近付き、ゆさゆさと揺らす。おい、起きるじゃないか!!!



「………おい、パスカル…どうしてセレスの服は、乱れているんだぁ………?」


「………………………」



 地獄の底から響くような低い声が……上から落ちて来る……。同時に物凄い力で頭を鷲掴みにされる…!ギリギリギリ…と締め付けられる、うぐおおおお…!!


 俺はいそいそとシャーリィを起こす。助けて。


「シャーリィ。風邪を引くぞ、起きて」


「………むーん…?おふぁよ、パスカルぅ…」


「せーちゃ」


「……あれ、クレイグ?なんで……兄様も?…ん?どうして僕、裾が出てるの?」


「…………最初から出てたぞ?」


「テメーが脱がせたんだろーーーが!!!!」




 いやー!バラさないでくれえーーー!!!




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