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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
145/222

28



「んもう!!ヨミはベッド禁止ね、分かった!?」


「ぶーーー」



 ヨミのブーイングは完全無視、今から着替えるから君は出て行け!!と蹴り出した。




 さて…。昨日も言ってた通り、今日はちょっと女の子寄りにしてみよう。スポーティー、ボーイッシュな感じでな!


 ただ…モニクとテオファが用意した服さあ…。ねえ、ショーパンはいいけど…ショートすぎない?もっとハーフパンツ寄りだと思っていたよ?


「はい!お嬢様の生足で誘惑しちゃいましょう!」


「誘惑する気はねーんだわ…って聞いちゃいないねー」



 そんで上は当初ゆるふわ系のトレーナーって話だったが…完全に女装になってしまうので、シャツとジャケットに落ち着いた。

 だが…「サイズが大きいほうがいい」とテオファが言うので、グラスのを借りる事に。ちょ…胸元開きすぎじゃない!?それに、後ろから見ると下なんも穿いてないように見えるんだけど!


「チラリズムっていうのが男にウケるって聞いたわ。お姉様の絹のような肌、鎖骨をさり気なく見せて、パスカルを悩殺よ!!

 ただサラシが見えるのはマズいから、上からこの薄手のインナーを着てね。ぱっと見肌っぽいから」


「ねえ、2人は何を目指しているの?」



 僕はもう諦めた。

 その後は邪魔にならない程度にアクセサリー…ペンダントを1つだけ。

 白いキャスケットに、ワンポイントで青いブローチを付けて完成!やっぱドレスとかじゃないから、支度が楽でいいね。



「メイクもしましょうねー。お嬢様は必要ない程に肌も綺麗だしお美しいけど…乙女の嗜みとして、少しだけ」


「髪は後でネイにやってもらうとして。ねえお姉様、香水は?」


「………………香水は、いい……」


「え、なんで?」



 …………そう、あれは…いつの事だっただろうか?

 イェシカお母様の実家で、お父様に買ってもらった香水。僕はそれを付けて、パスカルと出掛けた事がある。

 気付いてくれるかな?いい匂いだねとか、言ってくれるかな?と思ってた訳よ。でも…



「『あれ、シャーリィ……今日はいい匂い…シャンプーちゃんと流した?』ですってよ……。

 僕…お風呂でちゃんと液を流してないだけって思われた…。いっそ気付いてくれないほうがよかった…」


「「ンフッフゥ……!!!」」


 2人が必死に笑いを堪えているのが分かって辛い。いっそ笑い飛ばして欲しい。お父様とバティストのように…




『ぶはっははあ、はっはっはっはっ!!?まさか、俺よりデリカシー無えとか思わなかったわ!!!』


『ひ、んふふ…あーはっははははは!!!パスカル君やべえ!!多分あれだわ、オーバンみてえに『男が香水を付けるのは変』って思ってるタイプだ!!!うはははは!!!』




 とまあ…彼らは呼吸困難になりかけてたよ。以来僕は、香水を付けないと決めた。

 いや、パスカルは謝ってくれたけどね?それでも…その、気を使わせそうだから…やめよう。




「そうですか…でも今日は付けましょう」シューッ


「モニクも段々遠慮なくなってきてんね!?もう…!

 って、嗅いだ事ない匂い…何これ?」

 

「えーと…フェロモン入りの香水らしいです!さり気なく男性を誘うようですよ?」


「だあーーー!!!もう!今日は一体どうしたの、なんかパスカルを暴走させようとしてない!?」



 まるで2人は僕とパスカルに、その…えと…関係を持って欲しいって思ってない!?

 それに僕、最初はちゃんとベッドで…じゃなくて!!まだ性別バラす訳にはいかないでしょー!?

 と訴えたら…2人は、少しだけ悲しそうに笑った。何、その反応は…?




「んー…いずれパスカルに打ち明ける為の布石と言うか。彼は男色疑惑があるから、性別関係無しにメロメロにする為にこうして飾るのよ!

 でも本当に襲われそうになったら精霊様を呼んでね?絶対よ!」


「あ、うん…。分かったよ」


 なんか濁された気もするけど…ロッティは「じゃあ私はこの辺で〜」と部屋を出てしまった。




「………(実はね…もう、パスカルにはバレてもいいんじゃない?って思ってるの。

 お姉様本当は、女性としてお側にいたいんでしょう?お姉様の寂しそうなお顔、あまり見たくないのよ…。

 最初は少那殿下にバレる可能性が…って危惧していたけれど。殿下…一昨日のでお姉様の事気付いているんじゃないかしら…?

 そうでなくともそろそろ…正式に婚約とかして、2人を安心させたい。だから今日、自然にパスカルに気付いて欲しいのだけれど。上手くいくかしら…?)」



 ロッティが何を考えているのか分からないけど…今日も完璧にパスカルを騙してみせるぞ…!!


 髪は今日は動き回りそうだから、キッチリとセットしてもらった。ふっふー、ネイは上手だなあ。







 支度を終えたところで、丁度パスカルが来たらしい。呼びに来てくれたグラスと一緒に玄関に向かう。



「お嬢様、楽しんで来てくださいね」


「……うん!」


「………あまり気を使わないでください。おれだって完全に諦めた訳ではありません、いつでも貴女の隣を狙っていますよ。ね?」


「ふふ…もう体は大丈夫?」


「ええ、一晩眠ったらスッキリしました。ご迷惑お掛けしました…」


「ううん、全然。無理しないでね」


 

 と、以前のように…彼とは適度な距離を保てていると思う。僕にとっては、このくらいが心地良いんだ…。

 …おや?正面玄関の階段の上、お父様とバティストが…身を隠して下の様子を見ている。



「何してんの…?」


「お、シャーリィ。今日はアクティブな感じで可愛らしいな。

 いやあれ、玄関見てみ」


 …?なんとなく一緒になって隠れて見ると…






「な…なんでタオフィ先生がここに!!?まさか、セレスタンに何か…!! 」


「いやあ、誤解ですって〜。そんな怖い顔しないでください、王」


「では納得のいく答えをください!!」



 あちゃー。先生…すっげえ楽しんでる…。

 パスカルは全身で威嚇しているが、セレネはやれやれだぜ状態。ここは僕が出るべきか…?



「いえね、此方の弟がこちらで働かせていただいておりまして。何せたった1人の肉親ですから…会いに来させていただいております」


「え、と…。そう、ですか…(…嘘だとしたら、すぐバレるに決まっている。…兄弟の交流を邪魔する訳にはいかない)

 その…すみません…」


「…………(なんだろう、この罪悪感。嘘は言っていないのに…)い、いえ。此方も言っておくべきでした」



 なんか空気変わった…。パスカルは素直に非を認め、頭を下げて謝罪した。はあ〜〜〜…男らしい、好きぃ……!!

 むしろタオフィ先生が怯んでいる。よし、今度こそ出るか。



「パスカル、お待たせ」


「あ、シャーリィ…………」


 ……………?なんだろう、パスカルは僕を凝視して動かない。僕が階段から降りて、隣に立つまで…瞬きもせずに超見てる。僕穴開いちゃうよ…?



「……可愛い…」


 んんん?パスカルはボソッとそう呟いた……そ、そう?僕可愛いかな…!?

 彼も今日は、動きやすい…乗馬服を少しラフにした感じ。そっか、今日は馬で行くって言ってたな。

 僕ももちろん1人で乗れるけど、良かったら一緒に…という事で。ふぁ〜、相乗り馬デート…楽しみぃ〜。




「…………………」にやり



 んん?なんか先生が…スススと僕の横に移動してきた?



「おはようございます、姫。今日は一段と可愛らしくいらっしゃいますね!」


「おはよう、先生。いやあ、それほどでも〜」


「!!?(な、なんかシャーリィ距離感近くないか?)ぐ…!」


 お?先生…またパスカルをいじって遊んでるな?パスカルは背中に炎が見えるぞ?



「ほー…活発的な印象に、所々扇情的な工夫がされていますね。此方は年下は趣味じゃありませんけど…今日の姫は…」


 先生が僕の腰を抱き、襟元に指を掛ける。ちょ…!流石に近いって!

 彼の手を振り解こうとしたその時、白い毛玉が先生に向かって飛んで行き…僕は前にぐいっと引っ張られた。



「おわっ!」


「………先生。その弟さんとやらに早く会いに行ったほうが良いのでは?」


「いででで精霊殿、あまり頭を齧らないでいただけませんか!?

 こほん…そうですね、では此方はこの辺で…姫。今日も泊めていただきますので、帰って来たらじっくりお話しましょうね〜!」


「は、はあ!?」


 先生は頭にセレネを乗っけたまま、ぴゅーっと屋敷の奥に引っ込んだ。楽しそうだなあの人…。

 対してパスカルは…ちらっと見上げると、般若と化している…!!よくロッティがこうなってるけど、ついにパスカルまで!!オーラどす黒い!

 そのまま彼は僕をじぃっ…と見下ろす。すると反射で…つい、顔を逸らしてしまう。デート始まる前から険悪じゃん、先生ロクな事しないんだから!!




「……では義父上、息子さんお借りして行きます。帰さないかもしれませんが」


「誰が義父上だタコ。夜までには帰せ」


「い、行ってきま〜す…」



 パスカルは僕を肩に担ぎ…皆に挨拶をしてから玄関を出た。公爵家皆の視線が生暖かいのが気になるが…無事に帰って来れますように…。






 ※※※






「「…………………」」



 今日の馬は、普段ジェイルが乗っているレンカだ。大きくて力持ち、そして可愛くて優しい馬。僕も度々相乗りさせてもらうのだが、2人乗っても軽やかに走ってしまうのさ。

 そのレンカに2人で乗って、まず最初の目的地に向かっているのだが…パスカルが、ずっと無言なんですけどお…!!

 僕は前に乗っているので彼の顔は見えないが…絶対不機嫌だよね!?

 


「……あの、パスカル〜…?先生の弟が働いてるの、本当だよ…?疑わしいんなら(心底嫌だけど)紹介するよ…?

 彼らはご両親もいないから…その、仲良し兄弟で…。先生は休日しょっ中遊びに来てるの」


「……………うん、そこは疑っていない。でも一応紹介はしてもらうけど。

 ただ…どうして俺はそれを知らなかったのかなあ…?」


 ヒイ…!!怒ってる超怒ってる!!?彼は不機嫌になる事は多々あるけど、本気で怒る事は少ないのにい…!!



「その…!弟、テオファがうちで働き始めた経緯が複雑で、えっと…。本人達の許可を得ずに言うのは、憚られ………………。


 …………ごめんなさいぃぃ!!!説明するのすっかり忘れてましたあ!!」


「そんな事だろうと思った…」


 

 パスカルは呆れたように大きくため息をついた。僕はというと、言い訳を諦め大人しく謝罪する事にした。だって本気で忘れてたからね!!!



「ひ……!?」


「それで…他は?先生と公爵家の関係、全部話して。そうしたら許してあげる」


「……分かった…」


 

 ひいい…!パスカルの手が、僕の太腿を撫でている…!!ちゃんと手綱握れや!と思ったら…レンカが安全の為に減速してくれた。気遣いが出来るなんて、どれだけ賢い馬なんだチクショウ!!!

 エロい、手つきがエロい!!そして顔が近い!!パスカルの息が耳に掛かる距離まで近付いてる…!!


 

 僕はなんとか全部説明する。

 先生はほぼ毎週末来てるとか、いつの間にか部屋があるとか。その分屋敷の仕事とか、お父様の仕事を手伝ってくれている。

 更に騎士相手に魔術の講義もしてくれているし。特に魔物に関する授業は大人気である。

 彼は僕らに害を為す気はまるでなく、普通に面白い人だと。ついでにラディ兄様とはめっちゃ仲良くなっているというとこまで。



「………じゃあ先生は、シャーリィ目当てに屋敷に来てる訳じゃないんだね?」


「違うって!先生は僕の部屋に来る時は大体大人数だし、さっきみたいに触れる事も無いし!!」


「ふーーーん……(シャーリィの顔は見えないけど…耳まで真っ赤だ…。あ、ヤバい)」


 

 …?今何か、耳に柔らかいモノが……!!!?

 


「なん、なに、何してるのっ!!?」


「何って…耳にキスしてるだけだよ」


 おごあああーーー!!!パスカルは右手で僕の内腿を弄り、左手でお腹をぎゅっと抱き締め……手綱アァ!!!

 仕方ないので僕が綱を握る。すると遠慮なく何度も僕の耳やら首にキスしたり、舐めたり…やりたい放題だなぁ君は!!?

 


「今日は俺のお願い、なんでも聞いてくれるんだろう?」


「……ぅ、んぐぅ…!こういう、のは、違うぅ…!」


「…………まあ、いっか。確かに馬上じゃ危ないし…今はこの辺にしておこう」



 や、やっと離れた……!!しかし初っ端こんなんで…今日1日、僕の心臓保つのか心配だよ…。

 ただし後ろをチラッと振り向けば、パスカルは上機嫌になってるから…まあいいか、と思ってしまうのだった。まだ足は撫でられているがな。






 ※※※





 まずやって来たのは…僕も幼い頃来た事のある泉。近くにレンカを繋ぎ、畔に並んで腰を下ろす。あまり覚えていないけど…僕達はこの近くで、魔物に襲われた事があるらしい。



「魔物に!?怪我はしなかったか?」


「大丈夫だよ。正直僕は…「なんか怖い思いした」くらいにしか覚えてないの。

 ロッティはハッキリ覚えてるらしいんだけど…詳細は教えてくれなくて」



 この泉は夏でも涼しく、絶好の清涼スポットである。今の季節では肌寒いけど…その分パスカルがくっ付いてるので、温かい…。

 

 綺麗な景色、静かな空間。持って来たお茶を飲みながら、穏やかな時間を過ごす。たまにはこういうのもいいね…。



「本当に綺麗な場所だな…よく来るのか?」


「うん、毎年夏には来てるんだあ。去年は釣りをしてね、大物が掛かって。ロッティとバジルと3人で踏ん張ったんだけど…大きすぎて糸が切れちゃった。

 それで反動で後ろに吹っ飛んで…バジルを下敷きにしちゃって。その後魚はアクアが持って来てねー」


「……うん、うん。へえ…」



 僕の話を、パスカルは楽しそうに聞いてくれている。

 他にもお父様が水深どのくらいか調べようとしたら、足攣って溺れかけたり(アクアが助けてくれた)。

 僕がお弁当に夢中になっていたら、精霊達が木の実や果物を沢山採って来てくたり。

 周囲の探検に行ってみる?ってロッティに言ったら…何故かバズーカを常に構えた状態で歩いていたよ。サングラスと咥えタバコの幻覚が見えたのは誰にも内緒だ。



 暫く思い出話に浸っていたけど……それらは全部、ここ2〜3年の事なんだなあ…と、思い知らされる。



「………シャーリィ…?」


「……………ラサーニュ家でも、夏はここに来ていたの。でも…僕は、輪の中には入っていなかった。誰も構ってくれないから、ひたすらお弁当ばっかり食べていた。

 だから…自主的に留守番するようになったの。ロッティとバジルは「一緒に行こう」って言ってくれたけど。…眼前でロッティだけが可愛がられている状況が……どうしても、嫌だった。

 ………その時は、こんな未来が来るとは思っていなかった。大好きな家族がいて、信頼出来る優しい使用人がいて…隣に愛する人がいるなんて。

 僕ね。今…すっごい幸せなんだあ」


「……うん、俺も。こうしているのが幸せ過ぎて、夢じゃないかと不安になる」


「夢じゃないよ」


 そう言いながら頬にキスをすれば、パスカルは微笑んで抱き締めてくれた。



「(これからは、俺がずっと側にいよう。絶対に…彼に寂しい思いはさせない。

 …………!!!こ、この角度は…!!ふ、服の中が…見えそう!だけど覗き込む雰囲気じゃないし…!!もう、ちょっと…!)」


 

 ……?彼は僕の腰に手を回し、密着しているのだが…なんか、鼻息荒くない?目ぇ血走ってない!?微妙にプルプル震えてない!!?

 

 


 今度は水着を持って来て泳ぎたいねーと何気なく言ったら、パスカルが「今すぐ泳ごう!」と服を脱がせに掛かって来たので………



「ちょ、ダメだって!こんの……おらああっ!!」


「ぶしっ!」



 頭突きを喰らわせて、暫く寝かせる事にしたのである。



 

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