23
「よし、クリア」
「30点か…まあまあね。あら…?」
お題をクリアしたエリゼ達の真横を、見覚えのある人物が通り過ぎる。黒く長い髪を靡かせ高速で走り去る少那だ。
「お兄様は…?どうして単独行動出来ているのかしら?」
「さっきランドール先輩が解説してただろう、あれは殿下の分身だ。…って、立ち止まったな…」
少那3号が止まった足下に…卵のようなものが見える。2人は顔を見合わせて…
「…まだ権利は誰の物でも無いわ、奪う?」
「う〜…ん…行ってみるか」
彼らは3号に近付き、ロッティが「こちら、よろしくて?」と声を掛ける。
すると3号はこくりと頷き卵を譲った。
「…あ!ごめんセレス、見つけた卵取られちゃった!」
「あちゃ。ちなみに誰?」
裏山から走って移動中、少那が耳に手を当てながらそう言った。
飛んで行けば速いんだけど、魔力の消費を抑える為にも節約だ。なので地道に走っていたんだが…遅かったか。
「うーん…ピンク頭の少年、赤髪の少女?これは…あの2人だね。
あ、もう1つ見つけた!ここから少し遠いよ」
「よーし、今度は取られないように飛んで行こう!!
僕は魔力多いから引っ張って行ってあげる。浮く事にだけ集中して!」
「うん、よろしくね!」
こうして僕は少那の手を取り、エリゼ達とは逆方向に飛んで行くのであった。
その頃のエリゼ&ロッティ。
「えっと…『黄金の蝶を捕まえろ!』だと?」
エリゼが読み上げた瞬間、彼らの半径約10m周囲に色とりどりの蝶々が姿を現した。
『おおっと、最恐ペアが早くも次の卵を発見したようです!!』
『正確には発見したのは少那殿下の分身ですけどね。
まあそれは置いといて…このお題、ちょ〜っとシャルロット嬢には厳しいかもしれません』
「どういう事…?この中にいるはずの、黄金の蝶を探すだけでしょう?なんで私には厳しいのかしら?」
「どれどれ…メモの詳細を見てみるか」
そう。赤い紙には裏側に、達成条件や細かな説明書きが施されているのだ。
それを2人で覗き込むと…
[無数の蝶々の中に、1匹だけ黄金に輝く蝶がいます。その蝶に触れればミッション達成。
ただし…他の蝶々に触れると、眉毛が繋がります。触れれば触れるほど、太くなります]
「い、いやあああああああっっっ!!!!?」
「あっ、コラ!!いざという時の為のスクロール!何使ってくれてんだおい!!?」
「今がいざよ!!?私はここから動かないわ、エリゼ捕まえて!!!それか棄権よ!!」
「ふざけんなーーー!!!!今こそお前のバズーカが役に立つ時だろうが!?」
『あーっと、ここでシャルロットさんが強固な結界を張って座り込んでしまいました!これによりエリゼ君は、そこから半径5mしか移動出来ない上に蝶に触れなくてはなりません!
しかし特大の魔術で蝶を一掃しようものなら、黄金の蝶まで巻き込まれてしまうのでそれも出来ない!』
『シャルロット嬢は仕方ありませんね、女性ですから。しかも婚約者(ジスラン)も見ていますから…眉毛が繋がった顔を見せたくないのでしょう。
ここで眉毛を捨てて特攻すれば、一瞬でケリはつきますが…ごんぶと一本眉が完成します』
ロッティの気持ちは痛いほどわかる。僕だってパスカルにそんな顔死んでも見せられないもの…!!
「アホかっ!!?そんなモン、後でいくらでも剃りゃいいだろうがっ!!?」
きゃああああっ!!!
いーーーやーーーーー!!!
わあああああっっっ!!
『おっと、エリゼ君が眉毛を気にせず蝶の群れに突っ込もうとしたら…女子生徒の悲鳴が響き渡りましたね』
『あれでいてエリゼも、結構モテますからねえ。
容姿端麗、頭脳明晰、運動に関しては中の下ですが…魔術の天才。口と態度は悪いが情に厚く面倒見が良い。
更に子爵家ということもあり…伯爵家以下のご令嬢はかなりの数が彼を狙っているんですよ』
『なるほど。そんな彼の繋がった眉毛を見たくない、という事ですね!!』
「知った事か!!!大体オレには大事な婚約者がいるんだ、他の女共の希望なんざ聞いてられ…」
エリゼがそこまで言ったところで…彼はある事に気付いた。というか、聞こえた。
「……エリゼ様の、眉毛が…!?そんなの見たくないです〜〜〜!!」
「……………っ!」
面白がった兄様とタオフィ先生が、会場の反応をエリゼ達に聞こえるように操作をいじったのだ。
その結果彼付きの中継用魔生物から、女子の悲鳴が発せられているのだが…その中に。
彼の大事な婚約者、フルーラちゃんの声が混じっている事に気付いてしまった。
「………あああーーーもう!!触れずに倒せばいいんだろう!?やってやるわ!!!」
こうしてエリゼは時間を掛けて、ほぼ全ての蝶を魔術で丁寧に消滅させた後…堂々と黄金の蝶を捕まえたのでした。
『最恐ペア、20点ゲットでーす!』
「無駄に魔力使った…」
エリゼが蝶を慎重に倒している間(ロッティも結界の中からちょびっとだけ手伝っていたらしい)。
彼らから遠く離れた場所にある芝生の上を歩くのは…
「おや、皆頑張っているみたいですね。兄上、僕達は積極的に卵を探さなくていいんですか?」
「よい。あくまでも主役は後輩達だ、私達は…少しだけ貢献すればいいさ。
妨害だってこっちから仕掛けるのも大人気ない。向かって来たら返り討ちにするが…」
「ふふ、そうですね」
ルキウス様とルクトル様はあまりやる気は無さそう。まあ仕方ないよね、うん。
彼らの現在地は、敷地内の端にある小さな丘がある広場。天気の良い日はピクニックをしたくなるのである。
「…っと、10m先にトラップがあるな。踏むなよ、ルクトル」
「わかりました。しかし兄上の探知魔術は相変わらずの精度ですね」
「その代わり、発動中は他の魔術をほぼ使えないがな」
エリゼのようなオールマイティーでもなければ、大抵の人は得意な魔術のみ伸ばす。
例えば僕だったら治癒は例外として…筋力向上で素殴り戦法、といった具合に。今は魔本のお陰で、結構万能なんだけどね!
そんでルキウス様は、探知に優れているらしい。事前に危険を回避する…彼らしいや。それを使えば卵もすぐに見つかるだろうに、彼らはそうしなかった。もしもこれでラディ兄様も参加していれば…きっとやる気満々だったに違いない。
とにかく。彼らはいくつかの宝をゲットはするつもりだが、優勝は狙っていない。
こうしてトラップを回避しつつ、そろそろ行動を開始しようとしたその時。
「…?なんだ、後ろから何かが近付いてくる?」
「へ?…あの黒い髪…少那君ですね?」
「スクナ?…この反応は人間じゃない、そうか分身か」
そう、彼らに接近するのは少那2号。彼らは少し構えたが…2号はヒュンッ!と、ただ間を通り過ぎた。が。
カチッ
「「あっ」」
2号はルキウス様達が今まさに避けていたトラップのスイッチを踏み…そのまま去って行く。つまり…
周囲にゴゴゴゴ…という音が響くと同時に地面が揺れた。
「………な、なんだ!?」
「ああああ兄上大変です、足下が…!!」
なんと彼らの足下が…巨大なランニングマシンのように後ろに向かって流れている。
「「う、うおおおおおお!!!!」」
だだだだだだだ!!!と走りまくる2人。何故ならこの流れの先は…巨大な池に繋がっているのである!
飛んで逃げろや、と言いたいところだろうが…そう簡単な話でもないのだ。
「あ、兄上、飛びましょう!!」
「ちょ、ま、待て!!!今気を緩めたら転ぶ!!お前のほうが飛行は得意だろう、任せた!!」
「僕、だって、今は、余裕が…!!」
なにせマシン(仮)が速すぎて、一瞬でも足を緩めたら池に一直線なのである。なので彼らは今並行して必死に頭の中で魔法陣を展開している。
飛行が発動するのが先か、ずぶ濡れになるのが先か…頑張れ!!
「「くっそおおおおぉぉ!!!」」
『お?少し目を離した隙に…皇子コンビがおもし、大変な事になっています!!』
『是非この映像を永久保存したいですね。そして落ちてくれたほうが大変盛り上が、面白いですね!!』
「「後で覚えてろ(なさい)ランドールウゥ!!!」」
必死こいて走りまくる皇子コンビ。そして僕らは今何をしているのかというと。
「……元々私の分身のせいだし…ちょっと手助けしようか?」
「うん、流石に見過ごせないね…」
この近くに少那5号が見つけた卵があるので、向かっている途中だった。そこで丁度少那2号もこの辺を捜索していると、少那本体が言うので下を観察していたら…一部始終を見てしまったという訳だ。
一応ライバルだし…どうしようかと考えたけども。彼らは今にも池に落ちそうだし、行きますか!
「ルキウス様、ちょっと失礼!!」
「へっ、セレス!?」
「じゃあ私はルクトル殿を。失礼します!」
「は、はあ、はっ…!助かり、ました…!」
一声掛けると、ルキウス様は僕に気を取られて倒れそうになってしまった。それをなんとか横からキャッチし、救出成功!
少那も無事ルクトル様をゲットして、少し離れた無事な地面に2人を下ろす。重い!!
「はあっ、はあっ、はあっ、」
「ひゅ…げほ、ごほっ!はあ、はあ…ぁ」
あんら…2人共肩で息をして汗だくですね。えーと…
「【ગાળણક્રિયા】」
池の水を空ボトルに汲んで濾過する。それを彼らに差し出せば、震える手で受け取った。
「あり、がとう…いただ、こ、う…」
「ふう…生き、返る…」
ごくごくと喉を鳴らしながら飲む2人。お疲れさん…
『おお、皇子コンビは危機を脱したようです!』
『正直落ちてくれたほうが美味しかったんですが、心優しいセレスは見捨てられなかったのでしょう』
いや迷ってたよ。生命の危機だったら別だけど…とまあ、言わんとこう。
「ふう……ランドールは後でシメる。
ところでお前達は、何処かへ向かう途中だったんだろう?」
呼吸も大分整ってきたルキウス様がそう訊ねてきた。この近くに卵があるんですよーと言えば、今の礼に付き合ってくれるって。
律儀な…隙あらば大王イカを召喚しようと思ってたのに、出来ないじゃん!
まあ折角なので、4人で移動する。すると大きな木の横に、少那5号が立っているのが確認出来た。
さて、お題はなんだろな?そう思い卵に視線を向けると…赤い紙が貼ってある。
「じゃあ私が確認するね。えっと〜…『101匹わんさん大行進!!』…としか書かれてないよ?」
タイトルからしてロクなもんじゃなさそう…メモをひっくり返すと…
[わんこに首輪を付けましょう]
それを確認すると同時に、木の上から大量の首輪が降って来た。そして…
…………ドドドドドド…
大地を揺るがす衝動が…近付いてくる…!?そろ〜っと後ろを振り向くと…
「「「「げええええっっっ!!!?」」」」
なななな、大小様々なわんこが…、丘の向こうからこっちに来てるうううう!!?
ひいやあああ!!逃げ、足速!無理!!いやー、囲まれた!!!
「うきゃ〜〜〜!!あは、あははっ!くすぐった、ぶははは!!!」
「わー!ちょ、髪食べないでくれないかな!?」
「く、首輪を!皆さん、首輪を持って!!」
「お〜…よしよし、良い子だ〜。可愛いな、お前らは〜」
『おお、4人共わんこに揉みくちゃにされていますね〜。特に皇太子殿下はモテモテです!』
『あの顔は、このお題を完全に楽しんでますね。まあ彼は動物が好きだから仕方ないけど…1人だけ戦力外だと思ったほうがいいでしょう。
さて、このミッションは全ての犬に首輪を付ければクリア、高得点が約束されます。巻き込まれた皇子2人は役に立つのか立たないのか。
山賊コンビのトランプタワーも気になりますが、観客の皆様におかれましてはしばし、犬と戯れる彼らをお楽しみくださいませ』
「……いいなあ…私もルキウス様に、頭撫でてもらいたい…」
「まあ、姫様ったら!お願いしてみたら良いのでは?きっと快く応じてくださいますわよ」
「でも…はしたなくないかしら?」
「そんな事ありませんわ!奥手な男性には、こちらから積極的に動きませんと!」
僕らの様子をモニター越しに見ている木華とルネちゃんが、そんな会話をしていたとかなんとか。
「み、みんな!この犬達首輪を付けると大人しくなるよ、どんどんいきましょう!!」
「はい!では誰かが魔術で犬の動きを封じ、残りで付けて回りませんか!?」
「それなら私が近くの個体から封じていきますので、首輪お願いします!!」
「な…!こんな可愛いヤツらを封じるだと!?」
「兄上はすっ込んでてください!!!」
結局ルキウス様はひたすら犬を愛でているだけだった…。
しかし少那が拘束魔術を使うと、犬が「クゥ〜ン…」と悲しげな表情で細く鳴くもんだから…僕らの罪悪感が刺激され、地道に優しく付けて回る羽目に…!!
犬に舐められど突かれ逃げられ悪戦苦闘、全ての犬が大人しくなるまで…30分掛かったのでした…がくり。
『あ、やっと終わったみたいですね〜。これで彼らには70点が追加されまーす!』
『まあ点が入るのはセレス達で、殿下2人は完全にボランティアでしたけどね。
それより山賊コンビはいつまでトランプタワーを作っているのでしょう?あ、またバラバラに…。
なんかもう可哀想なので教えてやろう。普通に作るんじゃなくて、魔術で固定しながら組み立てていけばすぐ終わるぞ』
あー…空が青い。僕と少那とルクトル様は、芝生の上に大の字になって寝転んでいる。疲れた…。
そんでさっきから、またパスカル達が面白い事やってるみたい…。少し休憩したら、移動すっか…。
「…なあ、1匹連れて帰っても…」
「「「駄目です!!!」」」
「そうか…」
ルキウス様はしょんぼりしながら犬を撫でている。その様子に…僕らは苦笑するしかなかった。
『ではここで中間発表でーす!!
1位はエリゼ&シャルロットペア、110点!!
2位にチェスター&ジェフペア、85点!!
3位はスクナ殿下&セレスタンペア80点!!
まだまだ勝負は分かりませんよ、最後まで張り切って参りましょう!!!』
残り1時間…頑張ろう…!!
ちなみにルシアン&パスカルペア、25点。ルキウス&ルクトルペア0点。




