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「ゲルシェ先生から連絡来たけど。タオフィ先生、信用していいんだって?」
「うん!むしろあの人、ラディ兄様と気が合うと思うんだけど」
「そうなの?職員会議中とか、たまに寝てるような人だぞ」
「あー…糸目だからバレないのか!」
「いや。職員室の床に布団敷いてガッツリ寝てる」
「クビになりたいのあの人?」
「俺はよくその顔に落書きしてる」
「すでに仲良しじゃねえか…」
とまあ、僕は昼休み兄様と雑談中。いつも少那とかと一緒だけど、たまに2人きりでまったり過ごすのだ。
僕は相変わらずのペンギンマグカップ。兄様はチェック柄のカップでコーヒーを飲んでいる。
「ねー、また遊びに行っていい?ルゥ姉様体調どう?」
「今は安定してるよ。お前がクレイグの遊び相手になってくれると、彼女も喜ぶ」
クレイグは現在1歳、よちよち歩きが可愛い兄様の息子だ。今度絵本持って行こう、それを読んであげるんだ。
「さて皆さん、魔術祭がついに来週に迫っています。参加希望の生徒は、明日の放課後までに連絡くださいね」
今日の授業も終わり、今はホームルーム。
この時期は4、5年生のみの魔術イベントがあるのだ。下級生は観戦さ。
全員参加じゃないけれど、剣術と違って女子も参加可能さ。僕も出るつもりだよ!
今回は陛下とかは来ないけど…皇室魔術師は結構見学に来る。生徒も絶好のアピールチャンス!!
お父様は多分見に来てくれるし、張り切っちゃうぞ!
「エリゼは参加だよね」
「当たり前だ!魔術祭は精霊禁止だからな、オレが勝つ!」
「む!!むむ…負けん!」
参加は2人1組、自分で相棒を探すのだ。
確実に勝ちに行くなら…エリゼと組むべきだ。でも今回は他の人…!
「お兄様ー!魔術祭出るでしょ?私と参加しましょ!」
「いや俺だ!!セレスタン、俺と組もう!」
お、おおう!早速ロッティとパスカルから熱烈勧誘、どうしようかな?
「ふ、魔術祭は魔道具は使用禁止されていないわ、私のバズーカが火を噴くわよ」
「ぐう…!!でも俺は魔力が多い!!エリゼにも負けん!」
そうそう、僕も昔急に魔力増えたけど…あれ、フェニックスに刻印されたからみたい。
もう消えているけど…その後最上級精霊と契約したから、その度に増え続けている。
ま、宝の持ち腐れだけど。なんせ僕は、筋力上昇と飛行くらいしかまともに使えないからね。
騎士を志す者は大体、筋力上昇はマスターする。飛行は…僕の趣味。あの翼格好いいもん。
それ以外は、一々魔法陣を描かなきゃいけない。そこで役に立つのが自作スクロール!!
予め紙に魔法陣を描いておくのだ。火を放つ、水を出す等…その紙に魔力を流すだけで効果は発揮される。まあエリゼなんかは、大抵陣を省略出来るんだけど。
ただし、あまり大技を使えば当然魔力も減る。魔術祭は、魔力切れを起こした時点でリタイアである。
スクロールをいっぱい用意しても…なんらかの要因で破けたり線が滲んだりしたらアウトだし。何より咄嗟に出せなきゃ無意味。
結局…2〜3枚が妥当かな。
「でも困りましたねえ。魔道具は可ですけど…シャルロットさんのバズーカは強力すぎます。闇の精霊殿にいただいた聖遺物なのでしょう?
それとバジル君も持っているとか。ちょっと…職員会議をしなくては」
「えええーーー!!?」
放課後の教室、今はいつもの仲間とタオフィ先生しかいない。言い争うロッティとパスカルを眺めながら考え事をしていたら…先生がそう言った。
そりゃそうか、道具に三輪車とマウンテンバイクぐらいの差がある。ただしマウンテンバイクも乗りこなせなきゃ無意味だけど。
エリゼ自身反則レベルの実力の持ち主だが…それは、彼の努力の結晶だし。
「オレは構わないぞ。道具も実力の一部だ、それを含めてオレは勝つ!!」
「「「……!!」」」
「エ、エリゼェ!!なんて男前…僕惚れちゃいそう!」
「駄目だぞセレスタン!だがうっかり俺もときめいた…!」
「私もだわ…!やるわね、エリゼ…!」
「お前らな…こっちは大真面目だってのに…」
僕らの反応に、彼は呆れるように笑った。その時…突然ヨミが姿を現した?
「忘れてた。セレスにも道具あげようと思ってたんだった。はい」
「え!?ええっ!!?」
ヨミがほいっと僕に渡したのは…古びた、装飾の美しい大きな本。え、何コレ!?なんか紙が挟まってる?手に取ると…説明書だ。
僕の後ろには先生とエリゼが。興味津々みたいね…えーと?
『ハーゼルリアの本
叡智の女神ハーゼルリアの魔本。使用者の魔力を燃料に、本に書かれた魔法を自在に操れる』
……魔法?魔術じゃなくて…?
「ま、魔法が使えるのですか…!?」
「すげえ…!!」
後ろの2人は目を輝かせている。詳しく説明して!!
「ではここで特別授業を。
そもそも此方達人間が使う魔術とは…魔法の完全劣化版なのです。本来魔法とは、古代において神々と選ばれた人間のみ使えた神秘。
それを魔法を極めた当時の大賢者と呼ばれる者が、誰でも使えるように改良したのが現在の魔術なのです」
ふむふむ。皆席に座り、真剣に聞く。
「そして魔法の名残が魔法陣です。大賢者及びその弟子達が、魔法の効果を図形に起こす事に成功し…魔術が生まれました。
故に魔術陣ではなく魔法陣。ここ、5年生で習いますよ」
へー!魔法陣のほうが言いやすいからだと思ってた!!
大昔のお偉いさんが魔法陣を生み出してくれたから、僕らは今使えるんだね。すごいなあ…!
「で…その本を読むと、魔法が使えるんだろう!?セレス、開いてみてくれ!!」
おおうエリゼハイテンション!よーし…!
皆の注目を集めて、僕は本を開く。うお、文字がびっしり!!だが…
「…読めるか?」
「………読めない…」
何語だよコレ…全然読めん!ルシアンが言うには古語でも無いらしい。どうしろと!?
「あ、そうだった。本の表紙にセレスの血を垂らして。それで本の持ち主に登録されるから」
ほう。ヨミの言う通り、血をぽたっと。本がパアァ…と淡く輝いた、これでよし?
もう一度開くと…読める!!すごーい!!
「へえ…相変わらず私達には意味不明の文字にしか見えないね。ねえセレス、なんて書いてあるの?」
今度は少那が覗き込んできた。僕の肩に手を置いているが、それをパスカルが複雑な表情で見ている。先生はそんなパスカルをニヤニヤと…そういうとこだぞ。
と、肝心の内容は…色々ある…。
大地を割る、天候を操るような大魔法から…卵が双子かどうか判別する、寝起きの悪い人をスッキリ起こす魔法まで…ピンキリだなあ。なんか試してみよう。
「……お。コレいいかも。では早速」
「大丈夫ですか?校舎壊れません?」
「攻撃系じゃありませんよ!んもう…【બાસ અવાજ】!!」
わ、すごい!今自分の口から、発音不明な言葉が飛び出した!
皆も固唾を飲んで見守っている。よし…
「………声が低くなる魔法を使ってみたよ」(低音ボイス)
「「「ゴボッフォン!!!」」」
僕が声を出すと…全員勢い良く噴き出した。エリゼはゲラゲラと笑い転げ、普段微笑むだけのルネちゃんも大爆笑だ。
「ねえねえ、僕格好いい?イケてる?」(イケボ)
「あっっはははははは!!!やだもう、お兄さ、あはははは!!?」
何コレたーのしーい!じゃあ次…僕らの中で、一番声が低いヤツに…!
「ジスラン。【ત્રણેય અવાજ】!」
「!!……今何かしたか?あっ?」(プリティーな声)
「ひぃあはははははっ!!!」(バリトンボイス)
暫く遊んだが、エリゼが笑い過ぎで死にかけだ。この辺にしておこう。
魔法の解除は詠唱いらないみたいね。面白かったー!大切にします。
「…いや姫もパワーアップしちゃったじゃないですか!流石に他生徒と差が「あーあ。許可してくれたらタオフィにもいい物あげようと思ってたのになあ」やれやれ此方はちょっくら学長のとこに行ってきますかねぇ!!!」
変わり身早っ!ヨミの言葉に、先生は素早く教室の外に出た。がんば。
さて、先生が学長から聖遺物の使用許可をもぎ取ってくるまで…話し合いの続きだ!急がないと、少那は早く帰るからね。
誰と組もうかな?と考えていたら、ふとエリゼが声を上げる。
「そもそも、この場の全員参加するのか?姫様なんかは、魔術はあまり得意でないと言っていませんでしたか?」
そういえば…箏の女性は、あんま本格的に習わないって言ってたな。刀を持つ事もほぼ無いらしいし。
「ええ…ですので私は、観戦に回りますね」
「うーん…俺も剣は自信あるが、魔術はなあ…」
「僕もやめておきますね」
「それじゃ奇数になってしまいますわね。私も控えさせていただきます」
あんら。木華、ジスラン、バジル、ルネちゃんが不参加かあ。
じゃあ残り…ロッティ、パスカル、ルシアン、少那の中から相棒を決めるのか。
「だから、私と組むの!!」
「俺だ!」
振り出しに戻った…。
僕の意見なんざ聞く気ねえなこの2人。まあ、どっちとでも嬉しいけど。
「ええい、埒が明かない!くじ引きで決めるぞ!!オレとセレス、スクナ殿下とシャルロットがペアになったら引き直し、さあ引け!!」
いつまで経っても平行線なので、エリゼが適当にクジを作った。2人は不満気だったが、渋々納得する。
結果。
「おお、よろしく相棒!」
「なんでまた殿下!?山賊と言い合宿と言い…!」
ルシアン&パスカルペア。何気にタッグ組む事多いな、この2人。
「むー…仕方ないわね」
「おいコラ。オレと組みたい奴がどんだけいると思ってんだ?」
ロッティ&エリゼペア。強敵だぜ!という事は?
「私はセレスとだね。足を引っ張らないよう頑張るよ!」
「こちらこそ。頑張ろうね!」
当然僕のペアは少那だ。絶対勝ーつ!!
そしてイベント内容なんだが。詳細は年によって変わるけど…簡単に説明すると、大規模な宝探しかな?
会場は学園の敷地内全部、観客席や校舎なんかには結界が張られてギャラリーの安全を確保。
参加者はそれぞれ学園のどこかからスタート、あちこちに隠されたお宝を見つけ出す!
他者に攻撃は不可だが妨害は可能。でも怪我をさせたら失格。監視用魔生物があちこち飛んでるから、不正は出来ん。
そして参加者全員に中継用魔生物が密着取材、観客席に映し出される。みっともない姿は晒せんな…!!
なので、結構参加者少ないんだよねえ。特に今年はエリゼも参戦だし…どのくらい集まるやら。
宝はただ見つければいいって訳ではない。ゲットする為にお題をこなさなきゃいけなかったり、それ以外のトラップも大量だ。
そして宝が多ければ優勝、でもない。宝にも得点があって、合計点で勝者が決まる。当然高得点ほどゲットしにくいのである。
……そういや1年の時…まだ僕が内気だった頃。確か…ルキウス様&ルクトル様。ラディ兄様&ジェイルで参加してたような…。
でもルキウス様と兄様が、宝そっちのけで小競り合いしてたっけ。
最終的に「どっちが魔術で派手な花火を打ち上げるか」勝負になり…上げすぎて同時に魔力切れ、とばっちりでルクトル様もジェイルもリタイア。
今にして思えば、全校生徒の前でフリーダムだったなあの人達。皇族の威厳も何もありゃしねえ。
それでも当時の僕は、それを楽しむ余裕も無かった。馬鹿騒ぎを目の前にして、感情も動かなかった。今だったら腹抱えて笑うのにな。
ていうか、そっか。今僕ら4年生なんだよな。初めて会った時、大人っぽいな〜って思ったルクトル様と同じ。
中身は全然成長した気がしないんだが…不思議な感じ。
「殿下。お帰りのお時間でございます」
そんな風に過去を懐かしんでいたら、咫岐と薪名が迎えに来た。
「分かった。じゃあ皆、また明日!セレス、明日の昼は作戦会議だね!」
「うん!ばいばい、少那。木華。咫岐、薪名」
「ええ、また明日ね」
僕が手を振れば、薪名も軽く振り返してくれた。咫岐は軽く会釈するだけ。相変わらずお堅いなー。
と、そこへ…入れ違いにタオフィ先生が帰って来た。頭に大きなたんこぶを作ってな…。
「ふっふ…苦労はしましたが、許可頂きました!まあ今回はバトルではなくレースな催しですからね。そこを重点的に訴えた結果…特別に、です!」
おおお〜!!ただ残念ながらロッティのバズーカは、今回のイベントには不向きだね。攻撃特化だから…。
僕は来週までに魔本を読破しなきゃ!…ところでヨミ、先生に何あげるの?
「約束だからね。ハイこれ」
「おお…!ありがたき幸せ!!!」
ヨミが差し出したのは…水晶?綺麗…占いとかに使うんか?
『クランギルの水晶
大賢者クランギルの水晶。この世界の四大元素を自在に操る』
…結構凄くないコレ?
「ふおおおぉ…!!ありがとうございます、ありがとうございます!!」
先生は水晶を高々と掲げ、涙を流しながら喜んでるぞ。その様子に皆ドン引きだが、気持ちはわかる。
「では早速試して来ます故!!」と、外に飛び出して行った。さて…僕らも解散すっか。
「他のみんなには…魔術祭が終わったら、ね」
ヨミがニヤッと笑ってそう言った。あかん、僕ら最強パーティ組めそう…!
※※※
僕とパスカルは生徒会。本日の議題は魔術祭について。不参加の役員は当日、先生達と一緒に行動する。
「会長と副会長も参加するんですか?」
「まあね。ただ…今年は参加者少なそうだよ?明日の放課後には分かると思うけど…」
どうやらエリゼの実力は、全校生徒に知れ渡っているようだ。勝負にならん、無様な姿を全校生徒に晒せるか!ってな。そして僕とパスカルも…
「いや、僕らは精霊がいなければ、単に魔力が多いだけの人ですけど」
「その魔力量が脅威だからね。それより外部のお客さんの案内を…」
そういうもんかね。会議は続く。
会議が終わったら通常業務。僕は隣に座るパスカルに…さり気なく話しかける。
「ねえ。今…んー…」
「どうした?」
「んと…。す、好きなアクセサリーとか、ある?」
「へ?」
目を丸くされた。聞き方が悪かったか…!!
「いやタンマ、今の無し!!えっと…なんか、今すぐ必要なものとかある?」
「………(まさか…俺の誕生日プレゼントで悩んでくれているのか…!?)
えっと…ちょ、ちょっと考えさせて…(なんでだ?今まで…そんなん聞かれた事ないぞ!?)」
今までクリスマスも含めて、ネクタイとか時計とか定番の物を贈ってきた。そろそろネタが尽きてきたのだ。
服は…なあ…。僕一応男だし。男が男に服ってなあ…。
それにパスカル、前「男が服を贈るのは脱がせる為」とか言ってたし…!!まあ興味はある…言えんけど。
「…一日時間をくれ」
「そこまで深刻にならなくても…!」
もっと軽い答えを期待していたんだが。「そうだなー、新しい鞄かな?」とかさ!!
「(副会長…すっげえ締まりのない顔…)」
「(俺たちは何を見せつけられているんだ?)」
「(とっとと付き合っちゃえ)」
「(お揃いの指輪とか贈ったら、副会長昇天すんじゃねえかな)」
僕らの会話はメンバーに筒抜けだったようだ。
ビシャアアァァ…ン…
「「!!!??」」
その時。屋外の魔術修練場に…雷が落ちた!?校舎はビリビリと揺れて、慌てて窓の外を見てみれば…
「見ましたかナハト先生!?ついに雷出ました!!」
「よし!!じゃあ次は、校舎凍らせてみましょう!!」
そこには…水晶片手にハイテンションなタオフィ先生。同じくラディ兄様の姿が…
「楽しそうだね、あの2人…」
「そうだな…あ、クザン先生が真剣持って走ってきた…」
その後2人はクザン先生に捕まり、お説教を喰らったとかなんとか。




