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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
129/222

14



 さて、建国祭も残すところ最終日のみ。


 パスカルはものすごい謝罪して、朝食も摂らずに朝イチで帰って行った。去り際に僕の胸をチラッと見ていったが…。





 まあいいとして、今日はラウルスペード領のお祭りに参加するぞ。首都ほど盛大ではないが、ここでも屋台や見せ物がある。

 実は孤児院でもクッキーを作って売っているのだ。お祭り中はグラスもそっちを手伝っているので…顔出しに行こうっと。



「お父様、僕あれ食べたい!」


「私はあっち。その前に喉渇いたわ」


「お前ら自由だな…」


 お父様はこの3日間、ずっと町の警備に当たっていた。お祭りってのはスリや喧嘩も多発するからねえ。

 でも今日は頼もしい騎士達にお任せし、僕とロッティは両側からお父様の腕を引っ張り連れ歩くのだ。



「ったく…あんまりはしゃぐんじゃねえぞ」


「とか言いながらデレッデレの顔してんのキショいわ」


 お父様は後ろを歩くバティストを睨み付ける。当の本人はお父様の威嚇なんぞどこ吹く風、「悔しかったらお嬢様の腕を振り解いてみろやーい」とか更に煽ってる。相変わらず仲良いね。

 それとバジル、フェイテ、ネイが今日のメンバーだ。これは単なる遊びでは無い。視察も兼ねているのだ!

 更に飛白師匠も引っ張って来た。彼は自分の顔に大きな傷があるから…皆が怯えるのではないかと躊躇っていたが。


『誰も気にしないよ!とは断言出来ないけど…。師匠が他に懸念する事が無ければ、一緒に行きたいの』


『………では、護衛としてお供させていただきます』


 よし!ちなみに箏の剣士の制服は軍服だったりする。カッケエ!!師匠にも普段着用意したんだけど、まだ遠慮があって着てくれない。

 まあいい、いずれね。とにかく今日は楽しもう!

 



 



「公爵様、坊ちゃん、お嬢様!これ召し上がってくださーい!」


 歩いていたら屋台のおっちゃんが声を掛けてくれた。勧められるがままにフラフラと…いい匂い。

 なんだコレ?メロンパンサイズの鈴カステラっぽい何か!!美味しそう〜。



「んじゃコレ7個く「ナチュラルに私を省いてますね?」…チッ、8個くれ。いくらだ?」


「いやいや!お代は結構ですって、日頃の感謝の気持ちです」


「それじゃ商売になんねえだろう…」


 お金を払おうとするお父様と、受け取りを断固拒否するおっちゃん。そこに口を出したのはバティストだ。


「旦那様。領民の心を跳ね除けてはいけませんよ」


 とか言いながら、いそいそと受け取っている。お父様はそんな彼に呆れた視線を送りつつ…


「…それもそうだな。じゃあありがたくいただくわ。この礼は仕事で返すからな」


「ありがとうございます!!」


 おっちゃんは超笑顔でお礼を言った。そんなやり取りを皮切りに、皆がこれもこれもと商品をくれる。


「喉渇くでしょう?ジュースありますよー!」

「果実酒もありますからね」

「甘いもん食べたら、コッテリ系はいかがですー?」

「いやいや、サッパリ系でしょー!」

「ガッツリ肉はいかがですかー!?」


「そんなに食い切れねえよ!!豚にする気か!?」


 というお父様の返事に、町民皆が声を上げて笑った。



「……………」


「…ん?どうした?」


「お父様…ありがと」


 この地に来てくれて。皆を笑顔にしてくれてありがとう…そういった感謝を込めて、僕はお父様の腕にぎゅっと抱き着くのであった。




 


 色々貰いながら孤児院の前、子供達の屋台までやってきた。

 お。店番はグラスとアーティ、マリー、セルバのちびっ子組だ。



「お待ちしておりました、皆様」


 グラスがこっちに気付き手を振る。どれどれ、売れてるかね?


「まあまあですね。用意していた分はあと少しなので、追加をどのくらい作るか…」


 ふむ、まあ売れ残ってもいいさ。僕らが食べるし!

 さて。ずっと歩き回って来たので一旦休憩だ。セージが皆を中に招き入れ、お茶をくれると言うのだが…


 アーティが師匠をじっと見上げる。師匠は気まずそうに顔を逸らすが…逸らす先にアーティが回り込み、僕に助けを求める視線を送ってきた。


「ねえねえ、お兄ちゃん。それ痛いの?」


「へっ!?あ、え。い…痛い、無い」


「痛くない?んー…」


 さり気なく逃げようとする師匠を、後ろから僕とグラスで押し留める。そのうちアーティだけでなく、他の子達も集まって来た。


「しゃがんでしゃがんで」


「…うぅ…こう?」


 10人程の子供に囲まれ、逃げられないと悟った師匠は大人しくその場にしゃがんだ。

 すると…アーティが彼の傷にそっと触れて、優しく撫でた。



「おっきい怪我。痛かったよね。アーティもよく転んでおひざ怪我しちゃうけど、セレス様がなでてくれるとすぐよくなるの。

 でも、ちゆまじゅつ…?は、あんまり使いすぎるとよくないんだって。自分で治す力が弱くなっちゃうって、むつかしくてアーティわかんないけど。

 その代わりにこうやってなでなでして…痛くないよ〜ってしてもらうと、なんだかあったかくなるの。

 お兄ちゃんも痛そうだから、アーティがないないしてあげる。お怪我は治せないけど…あったかいよ?」



 アーティは師匠の頭をぎゅっと抱き締めた。それを見た他の子達も…彼の頭を撫でたり背中によじ登ったり。

 沢山の子達に揉みくちゃにされている師匠の顔は見えないが…小さな声で「ありがとう…」と聞こえてくる。


 彼が公爵家に来てから少し経つけど…まだまだ壁があるんだよなあ。そりゃ師匠は箏所属だから仕方ないけどさ。

 これを機に…領民や僕らと、もう少し仲良くしてもらえたら嬉しいな…。




 すっかり子供達と仲良くなった師匠は、そのまま連行されて行ってしまった。一緒にクッキーを作るらしい。

 そんなやり取りを皆で見守っていたら…


「お嬢様。今少し…よろしいですか?」


 他の人には気付かれないように、こっそりとグラスに呼ばれた。


「…うん、いいよ」


 彼はいつにも増して真剣な眼差しだ。大事な話かもしれないので…2人きりになれる場所を探す。




 

 悩んだ結果、裏庭までやって来た。あまり広くない庭だけど、ここにも僕の作ったブランコがある。並んで腰掛け、落ち着くとすぐにグラスが口を開き僕の目をじっと見た。


「……お嬢様。バジルに聞いたけど…昨日はドレスを着て…パスカル様とお出掛けしたそうですね」


「…うん」


「……どうして、パスカル様なんですか?おれは…やっぱり平民だから駄目なのか?」


 グラスは切ない表情で僕の顔を覗き込む。彼はまだ、僕に好意を寄せてくれているんだ…。

 僕は以前きっぱりお断りした。僕が結婚するまでグラスは諦めないと言っていたけれど…。




 それでも彼には。僕の事を過去にして、他の子に目を向けて欲しい…。

 


 

「グラ…(ミコト)。僕がパスカルを好きになったのは…身分とかは関係無いよ。

 彼の細やかな気遣いが好き。優しい笑顔で僕の名前を呼んでくれるところが好き。

 あの大きな手で触れられると…すごくドキドキする。最近エスカレートしてきてるのは困るけど…。

 ……もしもね?もしもパスカルと結ばれなくても…君を選ぶ事は無いと思う。そしてパスカルと結婚するにしても、卒業してからになるからあと2年近くある。

 僕はその間、君を縛り付けたくない。だか…」


「そこまで。その先は……言わないでくれ…」



 命はいつの間にか僕の後ろに立っていた。右手で僕の口を塞ぎ言葉を遮り、左手で抱き締められる。彼の表情は見えないが…その手は微かに震えている。



「お嬢様…どうしておれが去年も一昨年も、建国祭を孤児院で過ごしているか…分かるか?

 それだけじゃない、クリスマスや他の行事も…お嬢様の侍従なのに、側を離れているのか…。


 おれがデートに誘っても、あなたは決して首を縦に振ってくれない。ただの買い出しや世間話、仕事中なら別だけど…男女としては、2人きりになろうとしない。

 だから…パスカル様と一緒に並んで、幸せそうに微笑むあなたを…見ていたくなかった。

 

 …おれはあなたを諦められない。でも…おれには、希望は無いんだな…?」


 

 口を塞がれていて声を出せないので…僕はゆっくりと頷いた。

 酷かもしれないが…ここで拒絶しておかないと、彼は僕に依存したままになってしまう。それは嫌だ。

 

 僕が「セレスタン・ラサーニュ」だったら…彼と惹かれ合っていたのだろう。でも僕は「シャルティエラ・ラウルスペード」だから。本来の運命とは全く違う道を歩く、全くの別人だから。



 その反応を見た命は、「そっか…」と言いながらゆっくり離れた。僕も立ち上がって彼の顔を見ようとしたら…


「振り向かないで。そのままで…」


 両肩を押さえられてそう言われてしまえば、僕は動けない。


「……………それでもおれは、お嬢様の侍従としてお側にいたい。命という名も、預かっていて欲しい。それだけは許して欲しい…。


 ……お嬢様。お時間を取らせてしまって申し訳ございません。どうか建国祭をお楽しみください」


「………うん。君も、楽しんでね。それじゃあ…また後でね」


「はい」



 僕は振り返る事なく、お父様やロッティが待つ部屋に向かって歩き出す。

 皆突然いなくなった僕を心配していたようだが…


「お姉様…泣いているの?」


「へっ?あー…そう、だね」


 どうやら気付かないうちに涙を流していたらしい。ロッティがハンカチで拭いてくれるので…僕はにっこり笑ってお礼を言った。



「ありがとう。さて…じゃあ行こっか!ってバジルとフェイテは?」


「ちょっとあの2人とグラスは、今日明日お休みにしたから。それとカスリ君もクッキー作ってるしー、ネイはアーティちゃん達と接客頑張ってるし。残りはこの4人で回ろっかー」


 バティストがそう言いながら、孤児院の外に出る。僕はちらっと裏庭のほうに目を向けたが…すぐに前を向き、お父様の後を追う。



 この日以降、命が僕に砕けた口調で話す事は無かった。



 

 

 ※





「………なんか言いたい事があるんなら言えよ」


「「………………」」



 セレスタンが去った後、グラスはブランコに乗り体を揺らしていた。その顔は涙で濡れて、袖で乱暴に拭っているので赤くなってしまっている。


 そんな彼に気まずそうに近付くのはバジルとフェイテ。セレスタンとグラスの様子がおかしかったので…こっそりついて来ていたのだった。


「………ジャンさんが俺ら3人、今日明日休みにしてくれたから…このまま飲みにでも行かないか?」


「…そうかい。いやグラスは明日学園だろ?」


「サボる」

 

「そうかい…」



 その後3人は外で飲むのではなく、大量に酒や食料を買い込み公爵家の自分達の部屋で宴会を始めた。





「………だからっさあ!僕はモニクが好きっ、だけどお!他の子チラッと見るくらいいいじゃんかああ!!声は掛けてないし!

 やめようとは思ってんだけど…自然に目で追っちゃうんだよお!お前らだってわかっだろお!?」


「分かんねーな。おれにとっちゃ、お嬢様以外は令嬢も平民も皆同じだ」


「お前は一途っつーか、なんでわざわざ高嶺の花を狙うかね〜…。

 バジルとグラスを足して2で割ったらちょうど良さそうじゃねえ?」


「そう…あれはお嬢様と初めて会った日…。最初はおれ達の暮らしを荒らしに来た破壊者かと警戒したが…良い意味で破壊してくれてな…。

 それからというものの彼女は…」


「…俺も彼女欲しいな〜!出来れば巨乳で年上のお姉さんがいいなー!!」



 バジルは号泣しながら己の恋愛観を語り。

 グラスは半分目を閉じながら、セレスタンの出会いを思い出している。

 フェイテは床に転がり「俺も恋愛したい!!!」とまだ見ぬナイスバディのお姉さんに想いを馳せている。


 3人共もれなく酔っ払っており会話になっていないのだが…


「(お嬢様に完全にフラれて、もうちょい苦しいかと思ってたけど…)」



「僕もさあ、初めてお嬢様達に会った時、見惚れたんだよなあ!でも相手は貴族の坊ちゃんお嬢様だし…すぐ諦めたってえの!

 すげえよグラスは、それでもシャルティエラお嬢様を想い続けていたんだから…でも今の僕は、モニク一筋だからああ!」


「俺よー子供の頃、まだクフルにいた時…国王陛下に「成人したら後宮においで」って言われてたんだよ。

 知ってる?クフルの王様のハーレム、100人超す美人のお妃様がいんだよ。そこにゃ男も何人かいて…危うくその中に放り込まれるところだった…!

 俺とネイを追い出した義母はよー、殺したい程に憎らしかったけど…結果的にシャルティエラお嬢様と出会わせてくれたし。陛下のハーレムから逃げられたから…今では崇めたい程に感謝している」



「(こうやって馬鹿話をしてくれる奴らがいるって、すっごい救われるんだな………ん?)

 おい待てフェイテ、今サラッととんでもない事言わなかったか?お前奴隷だったんだよな、なんで国王と顔合わす機会あったの?」


 フェイテとネイはこれまで一度も自分の過去を語った事がない。周囲も敢えて聞かずにいたのだが…



「あれ?言ってなかったっけ。俺は元々クフルの貴族だったんだよ。

 クフル王国ってな、貴族は一夫多妻が一般でな。俺の父さんも妻が3人いてな。沢山兄弟いたんだけど…俺は長男で跡取りだったんだよ。

 そうじゃなきゃ4ヶ国語も使えるかっつーの、それなりに教育受けてたんだよ。俺んちは外交関連の商売してたからな。

 俺の母さんは一番父さんに愛されていたとかで、他の夫人からからすんげえ恨まれてたんだわ。

 そんな母さんが…パーティー会場で国王の目に留まっちまってハーレムに引き抜かれてな…アッサリ父さんの事捨ててたわ。

 そんで捨てられた父さんは酒に溺れるわ、母さんの子である俺とネイまで恨まれるわ。終いにゃ酒代とか言って俺ら義母に売られるし…親の色恋沙汰に子供を巻き込むなっつーの」



 フェイテはスルメを齧りながらぐちぐちと語るが、グラスは開いた口が塞がらない。バジルは酒瓶を抱えながらすでに眠っている。



「そんであの日、シャルティエラお嬢様を見かけた時。なんつーか…「この人だ」って思ったんだよ。

 優しそうっていうのもあったけど、この人は信用できる。ネイを守ってくれるって感じたんだ。俺の勘、間違ってなかっただろ?

 もしあの日お嬢様と会えなかったら…ネイ連れて()()持って王宮に行こうかと思ってたんだわ」


 フェイテはおもむろに立ち上がり、引き出しから1つのブレスレットを取り出してグラスに放り投げた。

 それは金で出来ているようで、チャームの部分に何かの紋様が刻まれている。


「なんだコレ…?」


「んー。現国王の徽章」


「……はああああっ!!?」


 グラスの絶叫などお構いなしに、フェイテは言葉を続ける。



「ハーレムにおいでーって言われた時に渡された。コレ持ってきゃ俺はハーレムの一員にされる代わりに…安全は保証される。

 ネイは女官として雇ってもらうか、あるいは陛下の目に留まって妃の1人にされたかもしんねえが…娼館よりは遥かにマシだ。陛下は未成年には手え出さねーし」


「いや、それよりお前!この徽章持って来ていいのか!?国に返さなくていいのか!!?」


「いいんだよ。貰った時点でもう俺の物だから。まあ悪用したり、偽造したら死罪待ったなしだけどなー」


 あっはっはっと笑うフェイテに、グラスは頭を抱えた。


「そんな貴重なモン、雑に管理すんな!!ジャンさん、いや旦那様に言って金庫に仕舞ってもらわなきゃ…!」


「意外と神経質だなー、お前。

 あっ、そういやチラッと聞こえちまったけど…お前の本名、(ミコト)っていうんだなー」


「………そうだよ」


「んな怖い顔すんなって、俺もバジルも誰にも言わねえから」


 

 グラスはこの半日でセレスタンにフラれるわ、同僚の過去を聞いてしまうわで…自棄になり酒を呷りまくった。

 そうしていつの間にかバジルと並んで床で眠ってしまったのだが…それをフェイテがベッドの上に乗せた。




「…………聞こえてねーだろうけど。俺が聞いた噂じゃ、かつて箏に「命」っつー名前の王子がいたんだよ。

 現国王陛下、凪様は本来王位継承権第三位だった。そして命様は第一位…だが命様はすでに亡くなっているらしい。

 それ以上は知らねーけど…まさか…な。そういう話なら、命様は凪陛下より年上だろうし…。でも、なーんか引っ掛かるんだよなあ…」



 フェイテはグラスの頭をべしべし叩きながら呟く。同じようにバジルも布団に寝かせて、自分もベッドに横になった。


 次の日彼らは酷い二日酔いに悩まされ…バティストが大笑いしながら看病するのであった。





「あ、ジャンさん……コレ、クフル王国の陛下の徽章だそうです…。管理お願いします…」


「……………へ?あ、この紋様確かにクフルのだねー。

 ……寝るなグラス!?なんでこんなモン持ってんのか説明しろーーー!!?」


「zzzz…」



 バティストの叫びは届かない。その後オーバンと2人、徽章をどうするかで頭を悩ませるのであった。



もしもフェイテとネイがセレスタンと出会わなかったら。

兄妹揃って国王の妃になっていましたとさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] アーティが可愛いです d=(^o^)=b フェイテ、貴族だったんですね。びっくりしました!何ヵ国語も話せるってすごいな~とは思ってたのですが笑 グラス、頑張れ!!
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