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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
123/222

09



 劇の翌日、僕らは皇宮に招かれた。そう、美味しい和食を食べに来たのだ!お昼から。

 

「夕飯は会席料理を用意するんだけど…セレスは『寿司が食べたいマグロ食べたいイカ食べたいエビ食べたい!』という事だったから…昼食に用意したよ」


「わーい!少那ありがとおお!!」


 ヤッター十数年ぶりの米!!いつもよりハイテンションでお送り致します!

 集まったのはいつものメンバー…ではないな。ルネちゃんとジスランがいないや。用事があるから、夕方に来るらしい。

 なので今席に着いているのは僕、ロッティ、少那、木華、ルシアン、エリゼ、パスカル。そしてルクトル様もいるぞ。



「他の皆はリクエストが無かったから、とりあえず箏の家庭料理を用意してみたんだけど…お口に合えばいいな」


 少那はそう言って照れくさそうに笑った。僕もそっち食べたい!今度作ってもら…いや、食材や調味料、レシピをくれたら自分で作ろう。

 では…いただきまーす!!



「ああ…美味しい…!よく考えたらワサビ入りの寿司って初めてだわ…美味しゅうございます…お茶ちょーだい!」


 やっぱ醤油最強ですわ。美味しくて懐かしくて軽く涙が出そうだったが、堪えてモリモリ食べる。

 すると、他の皆はあまり箸が進んでいない事に気付いた。


「お前、よくこの2本の棒切れで食事が出来るな…オレには無理だ、カトラリーくれ」


「私も…セレスは器用だな」


 そういう事かー!箸ってこっちじゃあまり普及してないもんねえ。なので皆スプーンとフォークを使うが…ロッティとルクトル様は頑張って箸を使おうとしていた。




「一応前もって練習はしてみたんですが…難しいですね」


 と言いながらルクトル様は箸を使っている。少し手は震えているけど…充分使いこなせているよ?


「私も…お兄様みたいに…!あっ」


 ロッティも頑張っているが…流石に難しそう。さっきから何度も豆を落として…いやいきなり難易度高っ。仕方ないなあ…ロッティは僕の隣に座っているので…


「(…よし、お姉様や少那殿下、姫様の動きから持ち方は理解したわ。もう少し…!颯爽と使いこなして、お姉様に「ロッティすごーい!」って言ってもらうんだから…!)」


「はい、ロッティ。あーんして?」


「(やっぱやーめた!!!)はい、あーん♡」


 美味しい?と聞くと、ロッティはいい笑顔で最高よと答えてくれた。

 妹とはいえ人前であーんするのは恥ずかしいが…頑張って食べようとしているロッティが可愛くて、ついね。

 

「(い、いいなあ…!)……俺も、箸で食べてみよっかな〜…?」


「席離れてんだから無駄だぞ。とっとと食え」


「ちくしょう!」


 向かい側でパスカルとエリゼがなんか小声で言ってる。その間もロッティは「上手く掴めなぁい、お兄様食べさせて〜♡」とおねだりしてくるので、僕はにっこにこで食べさせてあげるのだ。


「あ、このお寿司も食べる?美味しいよ!」


「………………ごめんねお兄様、私お腹いっぱいになっちゃったわ〜」


 そう?残念だけど、いっぱい食べたもんねえ。




『………木華、外国ってすごいね…。兄妹であんなに仲良しさんとは…』


『(本当は姉妹だけど)そうですね…いえ、多分あの2人が異常なのでは…』


 

 


 ※※※





 食事も終わり、皆でまったりお茶にする。少那達が持って来てくれた緑茶と大福をいただいてます。


「このもちもちした食感、こっちのお菓子ではあまり無くて楽しいですね」


「ありがとうございます。確かに、海を渡ると食文化も全く違って面白いですね。そういえば…」



 なんだか少那とルクトル様が食トークで盛り上がっている。という訳で、こっちも…


「ねえねえ、木華。ルキウス様とはどうなったの!?」


「ん"んっ…!……その、この後予定が…」


 ひゃーーー!!どうやら順調に親睦を深めているらしい!

 どうやら皇宮にある花園を散策してからお茶にするんですって。それはもう…





 行くっきゃねえ!



 一足先に席を外した木華を、僕とロッティがこっそり追い掛ける。エリゼとか咫岐には変な目で見られたが…無視だ無視。

 これは単なる興味本位では無い、心配から来るものだ。あの朴念仁なルキウス様が女の子と楽しくおしゃべり出来るのか…超面白そ、心配だ!!


「(本音を隠せてないわお姉様。同感だけど…)」


 木華が自分の部屋に戻って数分、ルキウス様が訪ねて来た。心なしかソワソワしているような…ちなみに僕らは、廊下の遠〜くから観察中。双眼鏡欲しい。

 ルキウス様がノックすると、さっきよりおめかしした木華が嬉しそうに顔を出した。恋する乙女って可愛いわ〜!

 


「お、お待ちしておりましたわっ」


「あ、ま、待たせてすまない」


「あっ、えっ、いえ!そそそういう意味では…!」


 ……本当に進展してんのかなあ、あの2人。早く腕でも組んで歩き出せや…。

 という願いが届いたのか、微妙に距離を空けながらもようやく歩き始めた。では僕らも…と。




「「…………………」」


 2人の後方にはお付きの使用人や騎士が4人いるので…しれっと一番後ろに並ぶ。彼らには当然気付かれたが、肝心の2人にはバレてない。セーフ!!

 

 しかし2人、会話無えな!!!廊下を歩いている間も、世間話くらいしようや!!

 こっそりと薪名に近寄り声を掛けてみる。


「ねえ…あの2人、いつもあんななの?」


「はい。移動中はたまに声を発しても「いい天気ですね…」「そうですね…」で終わります」


 かあーーーっ!!!ルキウス様よ、もっとラディ兄様にするみたいに気さくに話し掛けろや!!



 結局ぽつりぽつりと会話するのみで花園に到着。

 でも花の話をするくらいで…やっぱ距離が…。



「まあ、これは青い薔薇?初めて見ましたわ」


「箏にはありませんか?」


「はい、写真でしか」


「そうでしたか…っ!?」


 あ、やべ。焦ったくて身を乗り出していたらルキウス様に見つかった。ぎょっとした目でこっちを見ている、こうなったら開き直ったらあ!!

 僕はこんな事もあろうかと、カンペ用にスケブを持ち歩いていたのさ。正確にはヨミが、だが。きゅきゅっと…

 それを掲げると、ルキウス様はあっさり読んだ。



「「青い薔薇の花言葉はご存知ですか」…?」


「え、花言葉ですか…?うーん…存じませんの…」


「あ。えっと…!(えーと…以前姉上から教わった……)元々は「不可能」や「存在しない」といった言葉だったのですが…時代と共に変化しました。

 今ではいくつかありますが…「神の祝福」や「奇跡」といった意味があるのです。ですから…」


 ルキウス様は薔薇を1つ取り、木華の髪に挿した。そして頬を染め、彼女から少し目を逸らしながら言葉を紡ぐ。



「この薔薇を、貴女に。その…貴女と出会えた奇跡に…感謝を」


「……!ありがとう、ございます…」



 うおおおおお!ルキウス様が攻めた!!気の利いた事言えるじゃん!!

 木華もすっかり真っ赤になっちゃって、いい雰囲気〜!もう一押し!!


「ルキウス様ー!こっち見てこっち!」(小声)


 僕とロッティで腕を組んでイチャイチャして見せると、ルキウス様もその意図を理解したようだ。

 怖い顔で逡巡してからスッと木華に手を差し出し…



「その…もう少し、歩きませんか…?」


「はい…!」


 木華もその手を取り、ゆっくりと腕を組み…よっしゃあ!!僕とロッティと薪名でハイタッチを交わす。

 ふ…いい仕事したわ。でもこれ以上はルキウス様に怒られそうなので、そろそろ退散します!頑張ってね!





 その後夕食の席に現れた2人は明らかに距離が近付いていて…また僕達はイエーイと手を合わせたのでした。



 でもルキウス様が僕の顔を見るなり、ぎゅーっと頬をつねってきた!そんで小声で「…ありがとう」と言ったのだった。どういたしまして!

 こりゃあ、2人の婚約が正式に決まるのも時間の問題かもね〜!




「そうそう、セレス。貴方が以前言っていた剣の指導に関してだけど。紹介したい剣士がいるんだ、今いいかな?」


 夕食は美味しい会席料理でした。ただしお造りは無かったが!この国に生食文化が無い事を考慮してくれたのだろう。

 そして最後に水菓子を食べ終えたところで少那がそう言ってきた。おお、決まったの!?


「うん。飛白(カスリ)、こっちへ」


「はい」


 少那に呼ばれて前に出てきたのは…白髪の剣士だ。黒髪や茶髪が多いという箏では珍しいな…。年齢はジェイルと同じくらいかな?

 彼は跪き挨拶をした。



『飛白と申します。申し訳ございませんが、自分はグランツ語がまだ拙く…漢語で失礼致します。

 公子の剣術指南役を務めさせていただきます、どうかよろしくお願い致します』


『あ、ありがとう。膝を突かなくていいから、さあ立って顔上げて!』


『はい』


 彼はゆっくりと立ち上がる。ちゃんと見ると…顔の左側に大きな古傷がある。こめかみから口にかけて、結構大きい…。

 痛そうだな…とついじっと見てしまい、飛白は…さり気なく髪で隠した。


『あ…!ご、ごめん!』


『いえ…公子が謝罪される事ではございません。むしろお見苦しいものを…』


『いやいやそんな事無いって!これからよろしくね、師匠!!』


『し、師匠?』


 飛白、いや師匠は僕の発言に目を丸くした。ん?師範のほうがいいかな?


『あ、いえ…その、飛白とお呼びいただければ…』


『いやいや、教えてもらう立場だもん!ところで…少那、彼にはいつ見てもらえるの?』


 僕がここに通うだけでなく、可能ならうちに来てもらいたい。そうすればグラスも見てもらえるし!

 すると少那は、よかったら僕に付いてくれていいと言った。


「元々この宮の中では護衛はほとんど要らないし、外出するにしても8人全員は連れて行かないからね。騎士もいてくれるから。

 だから貴方が望むなら、私がこの国に滞在している間飛白と共にいてもらって構わないよ」


「そうなの!?じゃあ師匠、一緒に公爵家来てよ!」


「……えと…はい」


 よっしゃ剣の師匠ゲット!!早速身支度して来るようお願いすると、彼は戸惑いながらも部屋を出て行った。

 今まで本片手に振るってるだけだったからな〜!これでミカさんを使い熟してみせるぞ!



 

 って僕1人でテンション上がっちゃってるけど…いいのか本当に!?念の為少那に確認せねば。


「ねえ…本当にいいの?もしかして本人嫌がってない?仲間と別行動させちゃって…」


「大丈夫だよ。剣士達に希望を聞いたら、彼が自分から名乗りを上げてくれたんだ」


 それは…誰も手を挙げなかったから、仕方なくとかでは…?にしても師匠、戻って来るの遅いなあ。

 


「あ。ねえエリゼ、古傷って治癒出来ないものなの?」


 もう晩餐会も終わりなので、皆帰り支度をしている。

 治癒で治るんならとっくに消えてるんだろうけど…一応専門家に聞いてみた。


「ああ。傷が塞がった時点でもう「治ってる」んだ。

 だから…そうだな。古傷の上からもう一度デカい怪我でもして…そこを治癒すれば綺麗に治るかもしれないが…」


 エリゼはそれ以上何も言わなかったが…うん。その方法はちょっと…ね。

 あれだけ大きな怪我だもの、すごく痛かっただろう。治すためとはいえ…もう一度怪我しろとは言えんな…。


「じゃあ虫歯は?あれ怪我じゃないよね?」


「いきなりなんだ?治癒は厳密に言うと、怪我と感染症に効くんだ。ただ感染症はかなり魔力を使うから、虫歯だったら普通に医者に見せたほうがいい」


 に、兄様…!今もルゥ姉様に甘えてんじゃないだろうな…!今度確認してみよう。



 友人達は皆帰ったのだが師匠はまだ来ない。どんだけ大荷物なんだ…と思ってたら来たわ。って荷物少な!!



『申し訳ございません、遅くなりました。少々…同僚と話を…』


『そういう事か〜。じゃあ行こうか!』

 

 ルシアン達にまた明日学園で〜と挨拶をし、僕らはタウンハウスへと帰る。先にオランジュ夫妻には手紙を送っておいたから、今頃師匠の部屋を用意してくれているはず。




『自分も同席を!?いえ、馬を…もしくは御者席で結構です!』


 彼は頑なに馬車に乗りたがらないので…ふん縛って乗せた。折角なんだからおしゃべりしようよ!!

 


『ところでグランツ語は拙いって、どのくらい?公爵家は漢語分かるの僕ともう1人しかいないからさ』


「…聞く、分かる。話す、苦手」


「つまり…話すのは難しくても、聞き取りは問題ないのね?」


 僕の言葉に彼は頷いた。まあ、それなら…なんとかなるっしょ!!



 馬車の中で改めて互いに自己紹介をした。ロッティも皆も温かく迎え入れてくれたぞ。

 そして僕はタウンハウスに着くや否や真っ先にグラスを呼んだ。



「グラスー!!念願の剣の師匠が来てくれたよ、これから一緒に頑張ろうね!」


「おお…!グラス・オリエントです。よろしくお願いします、師匠!」


「か、飛白、です」


 グラスも心待ちにしていたので歓迎してくれたぞ。明日僕らが学園から帰って来たら師匠の歓迎会をやるのだ!

 と言ったら本人は遠慮してたが、残念ながら君に拒否権は無い。レベッカとモニクにごちそう作ってもらおう!



 早速今からでも教えてもらいたいくらいだが…もう夜遅いのでな、明日にしよう。

 でもその前に、是非ミカさんを見てもらいたい。僕の部屋にグラスと師匠を招き入れ揃ってソファーに座り、ヨミにミカさんを取り出してもらった。



「見て見て!昔箏からグランツに贈られたっていう刀!

 名前は魅禍槌丸、僕を主に認めてくれたんだ。最終目標は、このミカさんを使い熟す事だよ」


「どれ…名前、ある………ん?」



 ?刀身に刻まれたミカさんの名前を見せたら…何故か師匠は固まってしまった。



『……主に認められたという事は、この刀には意思がある妖刀という事ですか?』


『…………自我を持ち不思議な能力がある刀を妖刀と呼ぶなら、魅禍槌丸は妖刀だね…』


『そう、ですか…』


 

 それきり師匠…飛白は顎に手を当てて考え込んでしまった。


 え、何…?怖いんですけど。

 もしかしてミカさん、箏じゃ有名なの?何百人もの血を吸った妖刀…とか、そういう恐ろしい何かなの…?


【そのような行いは記憶に無い】


 そっすか。じゃあ、飛白は何を難しい顔をしているの…?

 


 たっぷり10分ほど沈黙が続いた後…飛白はゆっくりと顔を上げた。そして僕をじぃっと見つめて…ふいっと顔を逸らした。



『な、何か…?』


『…………………』


 

 ……んん?なんか飛白、耳赤くない…?彼が何を考えているのか分からず、グラスと顔を見合わせた。

 

 だが続く飛白の言葉に…そのまま2人で凍りついてしまうのであった。




『もしかして……公子は女性…ですか?』



腰が死んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] セレス流石!!ルキウス殿下達の結婚式が待ち遠しいです。 花言葉のシーンでニヤニヤしました笑 腰、お大事になさってくださいね!
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