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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
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「えっと…セレスタン・ラウルスペードです。よろしくお願いします」


「パスカル・マクロンです。ご指導ご鞭撻のほど、お願いします」


「と、言う訳で。1年生よりこの2人が生徒会入りだ。私達はもう引退だからな、後は任せるぞ」


「「「はい!」」」



 新学期が始まり数日、今日から僕達は生徒会役員入りだ。

 不安は多いけど…パスカルと一緒だから多分大丈夫!先輩達も笑顔で迎え入れてくれたぞ。


 ふむ…しかし女子がいない。どうやら女子は任命される事が少なく、されても辞退する人が多いらしい。

 つまらん…次の代は女子も入って欲しいものだ。



 ところで…先輩達となんか距離感じるけど…。全員に自己紹介してもらったんだが、どこか壁を感じるう…。

 というか彼らはこっちをチラチラ見ているのに、目が合うと逸らす逃げる…。

 落ち込む僕に近付いてくるのは兄様のみ。はあ…。



「仕方ないさ、皆お前らにどう接していいのか分からないんだ」


 ルキウス様とラディ兄様は引退。でも暫くは引き継ぎのため生徒会室に顔を出してくれるらしい。

 次の生徒会長はルクトル様。僕らもサポート頑張ろう…!

 

 で、接し方が分からないってなんで?



「お前らが最上級精霊と契約してるから、あまり馴れ馴れしくすると彼らの怒りを買うんじゃないかとビビってるんだ。

 それにお前は今や公爵令息だからな。まあそのうち慣れるさ」



 どこか壁を感じるのは、敬われているって事か…!僕そういうのいらないんだけど。

 でも仕方ないか…貴族ってそういうもんだもんね…。年齢よりも家柄重視、仲良しなら別だけど。


 

 僕らが公爵家の一員なのは、最早全校生徒の知るところ。何が変わったかと言うと…まず、こんな風に遠巻きにされる事が増えた。


 そして僕は…女子にモッテモテ!フゥーーー!!!

 僕は常々考えていた事がある。どうして世の中のイケメン共やハーレム主人公は…無意味に女の子を侍らしているのかと。

 その答えが判ったぜ…女の子にキャーキャー言われんの、気分いいわあ!!


 と言いたいところだが。僕の場合、家柄に寄って来ているだけなので…虚しさが勝るね。お茶会のお誘いとか…片っ端から断ってるわ。

 ロッティへの縁談も予想通り超増えたし…貴族ってやっぱめんどくせ。

 


 とにかく!生徒会メンバーとはいずれ打ち解けられると信じて…今日の顔合わせは終わった。

 現在放課後なので、寄り道でもして帰るかな〜と考えていたら…



「あ、の…セレスタン。今いいか…?」


「……お、おう」


 来た…パスカル…!結局アレ以来、2人きりになれず話せなかったパスカル…!!


「「……………」」


 なんか…落ち着かない。僕は髪を弄って、パスカルは後頭部を掻きながらソワソワしている。

 向かい合っているのに目も合わさず佇んでいる僕らを、生徒会メンバーは不思議そうに見つめているぞ。

 


「えっと…移動しよっか。どこ行く?医務室は…誰か先生がいると思うし…」


「そうだな…図書館塔か…俺の部屋、来るか…?」


「へ、へや…!?」


「あ、いや、変な意味じゃなくて…!何もしないから…!」


 されてたまるか!!とにかく、僕らが生徒会室から出ようとしたら…



「解散!!お前ら今すぐ解散、ほら出てけ!!」


「うわっ!?ちょ、副会長…!」


 お?ラディ兄様が…メンバーを全員部屋から蹴り出した?

 そしてトリオも部屋を出て…バタン!!と扉を閉める。あの、僕らまだいますが。


 僕とパスカルは、互いに顔を合わせて…プッ…と、笑った。

 これで今は2人きり。チャンス!!誰もいないので、ソファーに並んで座る。精霊達は、少し離れた所に集まっている。



 暫く沈黙が続いていたが…パスカルが口を開く。



「その…まずは、本当にすまなかった。あの時俺は寝惚けてて…でも、誰でも良かった訳じゃないんだ!

 相手が、シャーリィだったから…俺は、()()したいと思ったんだ」


「……もう、いいよ…。僕も、その…嫌じゃなかった…から…」


「え…?そ、それは、どういう…?」


「……………」

 

 うう…パスカルの顔を見れない…!多分今の僕は、真っ赤な顔をしていることだろう。

 なんか今日は…素直になっちゃうと言うか…よく分からん…!!


 部屋の中を、なんともいえぬ空気が支配する。時計の針の音と、自分の鼓動がやたら大きく感じる。

 それは…パスカルも同じなのだろうか?


 ちらっと横を見ると…目が合ってしまった。慌てて逸らすが…彼も赤い顔をしていた。

 これは…本当に、期待してもいいのだろうか…!?



 




「………どうだ、状況は?」


「並んでソファーに座ってます…声は…ギリギリ聞こえますね」


「ふん、男の部屋に2人きりにしてたまるか!何かあったらすぐ突撃するぞ…!!」


「ランドール、人の恋路を邪魔するやつはなんとやら、ですよ」


「……ふん」




 閉まったはずの扉は微妙〜に隙間が開いていて、トリオが張り付いて中を覗いていた。当然僕らは気付きもしないが…。

 



「……その、パスカル」


「…なんだ?」


「ぼ、僕だから、キスしたいと思ったって…どういう、意味…?」


「………!!」


 中々核心を突いてこないパスカルが焦ったくて、僕のほうから言ってしまった。

 膝の上で手をぎゅっと握る。もしもこれで「ロッティと同じ顔だから」とか言われたら…死ねる!!!

 だが、震える僕の手を…パスカルの大きな手が包む。

 




 ※





 パスカルはセレスタンの手を握り…空いているほうの手で、彼女の肩を抱き寄せる。

 

「(細いな…こんなに小さな身体で、今までどれほどの重荷を背負ってきたのだろう)」


「パスカル…?」


 パスカルは、不安そうな顔と声で自分の名前を呼ぶセレスタンを見つめる。



 かつて幼い頃に出会い…恋に落ちた少女。成長して再会し、男だと判明してからも…恋心は燻り続けた。

 今はもう、性別に関係無くセレスタンという一個人が愛おしくて仕方がない。パスカルは遂に、覚悟を決めた。


 

 セレスタンの両肩に手を添え…身体を捻り向かい合う形にした。

 不安そうに眉を下げるセレスタン。その表情も可愛らしいが…やはり彼には、いつでも笑っていて欲しい。パスカルはそう願うのだ。



「シャーリィ。俺は…俺は、君が好きだ…!」


「………へ?」


 パスカルは深呼吸してから…セレスタンの目をしっかりと見て、そう告げた。



「ずっと…初めて会ったあの時から、君の事を想い続けていた。

 君が泣いている姿を見たくない。いつでも笑っていて欲しい。ずっと…俺の側にいて欲しい。俺だけを見ていて欲しい…君を知れば知るほど、その感情は強くなる!」


「へ、あ、ふぁ?」


 最早言葉になっていないセレスタンだが、パスカルは気にせず続ける。


「以前聞いたな?俺の心に決めた人とは誰かと。

 それは…君だ。俺は他の誰でもない君と、生涯を共にしたいと思っている…!!」


「え、う、あう…!」




「「「………!!」」」


 パスカルの告白に、扉の向こうの3人も聞き入っていた。

 精霊達は「やれやれ、やっとか」と安堵する。

 


 肝心のセレスタンは…彼の告白に、目に涙を浮かべる。

 パスカルは指で、涙をそっと拭った。


「その涙は、拒絶?それとも…歓喜のもの?」


「あの、僕…!」


 セレスタンは体を震わせ涙を流す。もちろんその涙は…


「嬉しい…僕も、君の事が、好き…!」


「……!!シャーリィ…!!」


 パスカルは、答えを聞いた瞬間セレスタンの体をぎゅっと抱き締めた。

 遂に想いが通じたと…彼自身も、涙を流しながら!

 セレスタンも控えめに彼の背に手を回し、2人は互いの温もりを感じていた。





 その時廊下では…ルキウスとルクトルが両手でガッツポーズを決め天を仰ぎ、ランドールは床に伏せっていた。


「セレス…幸せになれよ…!!」


「マクロンなら大丈夫だろう、誠実な男だからな」


「あ!まだ何か言っています!」


 ルクトルの言葉に…また3人は扉に張り付いた。




 パスカルとセレスタンは、互いに顔を近付け…口付けを…する前に。セレスタンが両手でパスカルの顔を押さえた。


「ストップ!!その前に…確認しときたいんだけど!!」


「ふぁっ!?(惜しかった…!!)」


 セレスタンは完全に彼を受け入れる体勢に入っていたのだが、どうしても気になる事があった。


「あの…君は、男性が好きなの…!?」


 そう。ジスランのあの言葉を…セレスタンは忘れられずにいた。


 もちろんそれはジスランの勘違いで、パスカルは普通に女性が好きである。

 ただしセレスタンだけは…性別を超えて愛してしまったのだが。もしくは本能で、彼女が女性だと心の奥底では気付いている…という可能性もある。



 しかしパスカルの答えとは。




「(まさか…男同士だというのを気にしているのか?そうだよな…俺だって散々悩んだ。よし、ここは…!!)

 ああ…俺は、男が好きだ!!!女性にはこれっっっぽっちも全く微塵も興味は無いから安心してくれ!!!!」



 と…男らしく勇ましく断言してしまった…。




 廊下からごごごん!!!と、頭を打ち付ける音が3つ響く。パスカルはなんの音かと不思議に思ったが、それどころではなかったのでスルーした。

 精霊達は昔の漫画のようにずっこけ、セレスタンはというと…


 口を固く結び、涙目でプルプル震えていた。



「…………っ!!」


「あ…あれ?シャーリィ……?」


 その様子に「俺は何か間違えたか…?」と焦るが…もう遅い。

 セレスタンはなんとか声を絞り出す。



「パ、ス、カル…!僕、君の事好きだけど…恋人にはなれない!!!」


「ええええーーー!!!?な、なんでぇ…!!?」



 なんでじゃねーよ!!!!

 それは、パスカル以外(精霊含む)の総意だった。


 

 当然晴れて恋人同士になれると思っていたパスカルは絶望した。まさか原因が己にあるとは露知らず。

 まああれは…セレスタンの聞き方も悪かったかもしれないが。

 


「僕…君に、秘密にしている事があるの」


「秘密…?」


「そう。でも今は色々な事情が絡み合って…言えないの。多分、長くて数年は…。

 いつか僕が打ち明けた時。全てを知っても尚、僕の事を好きだと言ってくれるのなら…その時こそ、僕と恋人になってくれますか…?」


「(???よく分からないが…数年待てばいいんだな?なら簡単だ!)

 分かった、待つよ。それまでは…両想い、という事でいいのか?」


「……うん…」


 パスカルは今度こそ安堵した。しかし…



「恋人同士になるまでは、口へのキスは駄目!!」


「えええーーー!!?」


「そんなに絶叫するほど…?」


 パスカルは当然甘々な日々を過ごせると思っていたので…またも絶望した。

 眉をハの字にしながら、折衷案を出す。


「じゃあ…頬ならいいのか?額なら、首なら?手を繋ぐのはアリ?」


「えーと…うん」


 その答えを聞いたパスカルは、彼女の指に自分の指を絡め、首筋にキスをした。セレスタンは少し肩を跳ねさせたが…大人しく、受け入れる。

 

「(これは…ある意味拷問だな…。あと数年…俺待てるかな…?)」


 自分の本能と戦うパスカル。対してセレスタンはというと。



「(こうなったら…数年の間に、性別なんて気にならない程に僕を好きになってもらわないと!

 女でも関係無い、シャーリィが好きだと言ってもらうんだ…!!)」


 と、燃えていた。実はとっくに叶っているのだが…完全にやる気が空回りしていた。



 ただし普段の彼女であれば、「やっぱりパスカルは男が好きなんだああああ!!!じゃあ僕駄目じゃん!!!」と自己完結して更にややこしくしてしまうのだが…


 実は。廊下で頭を打ったまま動けないランドール。

 彼は…セレスタンに貰った恋愛成就のお守りを常に持ち歩いていた。

 それが効果を発揮し、セレスタンの心を素直にしていたのだが…それに気付く者はいないのであった。







 次の日の朝、教室にて。

 始業前、ルシアンとエリゼは2人で他愛もない話をしていた。そんな彼らに近付く影。


 パスカルは2人の肩に手を置き…



「放課後、集合」


「「……………」」


 とだけ言い残し…自分の席に座った。



 放課後一体、何を聞かされるのか…すでに憂鬱になっている2人であった。




「………………」



 そして…3人のやり取りを聞いていた者がいた事に…誰も気付かなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] セレスの作ったお守りの効果は絶大ですね!! 先輩三人組の喜びかたが可愛いです。 一歩進めたと思ったらまた壁があるこの感じがすごく面白いです~! 100部目、おめでとうございます!!
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