9話
9
耀が待ちに待った 8月25日が来た。
この日を最初は待ち遠しく思っていたが、あのコンビニの件以来、耀は優太に依存することが全く無くなった。
自信を持って、優太との関係が揺るぎないものと悟った時に、もう誰が優太に言い寄って来ても、動じない自信があった。
◇
「お母さん、約束の日が来たから、もう一度みんなで今後の事の話合いがしたい」
母親の朱里は困ったような顔をしている。 その顔も数日前からだった。
「まさか、耀が余裕でクリア出来るとは思っても見なかったわ、だから、私も一人では決めかねないから、耀の言う通り、これはまた両家で家族会議ね」
コレには耀が不服そうに言う。
「え~~、だって、やり切れば良いって、みんな言ってたじゃない」
「でも、あなた達の一生の事なのよ、心配しない親はいないわ」
「でもお~...」
耀が不服そうに頬を膨らます。
「じゃあ明日土曜日だから、明日話し合いをしたい」
「そんな急に言っても、ウチのお父さんは良しとしても、優太くんのご両親の都合もあるし、今ここでは決められないから...ねえ」
何故かその事に自信を持って、耀が朱里に言いかけてきた。
「あのねお母さん、実は、もう優太のご両親の都合もついてもらっているの、うふふ、だから良いでしょお~」
「ええ? 」
これには朱里が、開いた口が塞がらない気分だった。
「準備良すぎよ、もう! 向こうのご都合も考えたの?」
「もちろん! 優太に協力してもらったから」
また呆れる朱里。
「え~! もう。 じゃあ取りあえず、今から祐美に私から連絡してみるから、いいわね」
「は~い」
「こんな時だけいい返事ね、全くもう!」
・・・・・
「もしもし祐美?」
『もしもし朱里、聞いたわよ、耀ちゃん見事達成なんだってね』
「そうなの。 でね...」
『あ~~大体は優太から聞いてるから、明日の件でしょ?』
「そうなのよ、全くごめんね~、ウチの娘が」
取りあえず謝る朱里。
『いいからいいから。 で、何時にする? うちは明日開けといたから』
「うわ! 重ね重ねごめんね、ホント。 で、こういう決まりごとは、午前中が良いと思うの、だから今度はこっちの家で、10時ってのはどう ?」
『了解よ、優さんにも言っとくわ。 だけど、本当にやり遂げたわね、耀ちゃん』
「全く、まさかやり遂げるとは思いもしなかったから、驚きよ、私も淳も」
少し溜息をついてから、祐美が。
『耀ちゃんって、本気なのよね』
「本人はもう、いつ婚姻届け出そうかな~ なんて、気楽な事を言ってるわ」
『優太はね、 そりゃ嫁にするなら、耀に決まってるけど、何だかな~ なんて言ってるのよ』
「優太くんも、その気にはなってくれているんだよね、ただ、時期が...って言い方よね」
『そうそう。でもね、先月私たちが、軽い気持ちでOK出しちゃったから、そもそもいけなかったのよね』
「あちゃ~、って感じよね。 今更ながら、軽かったって、反省しているわ」
『ま、とにかく明日ね、本題は』
「そうね。 ゴメンね、いきなり電話して、それじゃあ明日待ってるから」
『いいのいいの、じゃあ明日』
電話を切った後、耀が朱里に寄って来て。
「どうだった? 明日でOKでしょ?」
「もうホントに、段取りの良い事で」
「褒めてもらってうれしいな~」
「褒めて無い!」
以上が女性陣のやり取りだった。
◇
明けて土曜日。
「こんにちは、お邪魔します」
「は~い、いらっしゃい、お待ちしてました。 さあ上がって下さい」
今日は小川家に、佐藤家が行き、先月に交わした件の話をしに来た。
ウキウキしている耀に対して、親たちは、神妙な表情になる。 コレからの話し合いの結末が、どうなるのか、不安でたまらない。
みんながリビングに入ったところで、話はいきなり始まった。
「今回は、私達大人が甘く見ていた様で、耀がこんなに辛抱強い子とは、思っても見なかった事が、知っての通りの結果になりまして、その事についての相談と思っていますが、どうでしょうか?」
耀の父、淳が口火を解く。
「全く小川さんの言う通り。 耀さんが辛抱したのは、コレも単に優太に対する耀さんの気持ちが、一途であった事になります。 これは、優太の親にとって大変嬉しい事と思っています、ありがとうございます」
「いやはや、恐縮してしまいます」
やり取りを聞いていた耀が、居てもたっても居られずに、口を出す。
「お父さん、挨拶は良いから、早く本題に入って」
コレにはさすがに淳も。
「まあ待ちなさい。 順番に決めていくから」
「はぁい」
「ホントに言い返事ね」
本題は優から言い出した。
「今回の二人の条件付きの結婚ですが、はっきり言って、私は賛成いたしかねます」
続いて、祐美も頷き。
「私も主人の意見に賛成です」
「やはりそうですか...、ですよね」
「誰がどう見ても、早いと思うわね」
コレには耀が不満そうに膨れた。
「ブ~~!! 何でよ! 大人って勝手じゃない。あんだけ約束しときながら、今更 ダメ でしたなんて...、だったら、駆け落ちするから」
「何言ってる、そんなのもっとダメだ、耀」
「駆け落ちなんて、軽く言うもんじゃあないわよ。 第一に、どうやって生活するの?」
「こうなったら、どうにでもするから」
コレにはさらに淳が言い宥める。
「世間はそんなに甘くはない。 まして、高校生なら尚更だ」
「そんなのどうにでもするから」
「どうにもならなくなって、泣きついてくるのが目に見えているぞ」
涙目になる耀、そんな中、優太が耀を説き伏せる様に言う。
「耀、オレは何も今すぐに結婚しなくてもいいと思っている」
「優太も、大人の意見に飲み込まれちゃうの?」
「そうじゃない」
耀の意見を否定する
「じゃあ何? 今まで我慢して頑張って来た私の苦難の結果が、親たちの嘘なの? それ酷い!ありえない、そんなん絶対に、 イヤ!!」
「だから、そうじゃないって、耀」
「じゃあ何なのよ、はっきり答えてよ優太」
少し間を置いて、優太が両親たちに向かい、話し出す。
「聞いて下さい、お父さんお母さん達」
これまで黙っていた優太も、この一ヶ月の間、毎日見ている耀の様子を見て、親が出した条件を、必ずクリア出来ると見た優太が、考えて出した答えが。
「確かに、結婚は早いと自分も思います」
「ゆうたぁ~...」
「耀、黙って聞いてて」
「......」
「前にも言った通り、オレは結婚するなら、絶対に耀と決めています。だけど今まさに受験を控えたこの時期に、するなんてのは、どう考えてもおかしい。 それは十二分にオレは分かってます。でも、今まで耀が頑張って来た約束が、親の意見だけで、簡単に覆るのも、どうかと思います。どうですか?」
「そうなんだが、一気に結婚ってのが、どうも同意できないんだ」
「だったら、耀のこれまでの態度と、最近の耀の態度ってどうですか?」
「最近の耀の、何が何でも優太くんに会いたいと言うのが無くなって、落ち着いてきたかな」
「そうなんです。 オレも、最近の耀って、ただ 好きだけで結婚したいって言うのではなく、周りも見ながらの一途になってくれたんです。 コレって、すごい進歩と思います」
「だって、優太の事、信じてるもん」
「ありがとう 耀。 オレも揺るぎないから。 でも、両親の意見はしっかり聞こうね」
「うん。 うれしいよ 優太。」
「...、どうです? 自分の事ばっかりだったのに、最近は自分たち以外の事も視野に入れる余裕が出てきたんです、お父さんお母さん」
「「「「......」」」」
「どうしたの? みんな?」
「......」
「......」
「耀 変わったな、ここ一ヶ月で」
「そうね、段々大人になってきているのね、耀」
親たちが、最近の耀の変化に感心している。
「どうでしょう、オレ達の結婚はムリでも、一緒に暮らすと言うのはどうでしょうか?」
この優太の意見に、大きく目を見張る 耀。
優太の発言に、祐美が問う。
「何が言いたいの? 優太」
「母さん、ハッキリ言うね」
「いいわよ」
一呼吸おいて、親たちに向かい。
「オレと耀で、同棲したいです!」
コレに耀が反応した。
「ゆうた! それって...」
「だって、親たちが結婚はダメって言ってるだろ? だったら、同棲はどうかな? と思って」
「う、嬉しい...。 嬉しいよ~、ゆうたぁ~」
だが、それには朱里が言い返す。
「結局二人で暮す事に、変わりがないじゃないの? 優太くん」
「違うんです」
「どう違うの? 説明して頂戴」
優太が、淳と朱里向き直って、思っている事を言う。
「佐藤家の2階で同棲したいんです。 オレの親の監視の中で」
「「「「...!!!!...」」」」
コレには両家の親が、驚いた。
耀の努力を無駄にしたくない、そう思っていた優太の、考えぬいた提案だった。
「どうでしょう? 折角頑張った耀に、全くの労いも、褒美も無いなんて、いくら何でも可哀そうでしょう? だったら、こっちも条件付きの二人暮らしと言うのも、考えてくれてもいいでしょう?」
「う~~ん。 そう言う事もありかな? どうだ朱里」
「え~~っと...。 そうねぇ~...。 まあ、祐美たちが一緒なら、不安は無いけど、二人暮らしってのには、程遠いんじゃないかな? 例えば毎食親と一緒になる訳でしょう?」
「あ、そこは大丈夫です」
「どういう事かしら? 優太くん」
「ウチ、2世帯住宅なんです」
「「!!」」
そうなのだ。 佐藤家は一階と二階、もともと今の親は2回に住んでいて、祖父と祖母が一階に住んでいたから、2階だけでほぼ生活する事が出来る。
今は、祖父母共に、二人で気楽に暮らしたいと言って、すぐ近所にある、二人暮らしのマンションに 一昨年に引っ越している。
一階が空いたので、今は優太の両親がそこに住み、2階は3部屋と、小さいながら、シンクがあり、トイレ 小さなお風呂まであるのだ。
つい2年前まで使っていたので、ちょっとのメインテナンスで、十分使えると言う訳だ。
「どうかな? 父さん母さん。 二人だけの同棲よりも、親との半同居って感じになるけど、許してくれないかな?」
「私からも、お願いします」
耀が親たちに頭を下げる。 真剣だ。
すると、朱里が淳に向けて微笑みながら言う。
「もう許してやったら? こんなに二人が真剣になっていたんだから」
いささか不服そうな表情で、溜息をつきながら淳が言った。
「そうだな...。 優太くんの耀に対する気持ちは本物だし、監視の目がある同棲と言うよりも、同居になるからな......。いいだろう、それなら」
「主人もどうやら折れたみたいなので、そう言う事にしてもらえるかしら祐美」
祐美が優に向かって、微笑ながら同意を得ようとする。
「私はそれなら許しても良いと思うわ、どう? 優さん」
「そうだな、俺たちの監視が効いている中での同居と言う事なら、いいだろう」
「ありがとうございます!」
耀が双方の両親に頭を下げて、お礼を言った。
「父さん母さん、認めてくれて、オレも嬉しいよ、ありがとう」
「ただし。 羽目を外さないように、監視はしてるからな、その事は肝に銘じておく様に」
「「はい!!」
という事で、優太と耀の監視付き二人暮らし? が決まったのだった。