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内緒にしなきゃ!  作者: 雅也
8/10

8話


                  8


「初めまして、耀の母親の朱里と言います。 こちらは主人の 淳です。 この度はお招きいただきありがとうございます」

「私は優太の父親で、優です。どうぞよろしくおねがいします」

「まあまあ堅い事は言わずに、中に入ってください」


 そう言って、祐美は、小川家の3人を家に招いたのは、なんと、昨日の今日だった。

 とにかく早い方が良いと、両家の意見が一致して、急遽、開けた今日になったのだ。


                △



 リビングに通されて、皆がソファーに座る。 

 

 祐美がトレイにお茶セットを持って入って来て

「まあ気楽にしてね。 それにしても、久しぶりね 淳くん、一段とカッコ良くなったね」

「はは、ありがとう、祐美...さん」

「ね? 祐美 格段に奇麗になってるでしょ?」

「いや~確かに。 でも、懐かしいな、高校時代を思い出すよ」

「そうね、淳くんて結構アレだったもんね」

「...ははは、まあいいじゃないか、その事は」


 話の腰を折るように、優が話を切り出した。


「ところで、昨日のうちに話は聞いたんですが、この子たちの付き合いについてだったですよね」

「はい、そうなんですが。 大体の事はお聞きしていると思いますが」

「条件付きの、結婚と言う話ですね?」

「はい」


 少し空気が重くなる。 こうして改めて相手方に言われると、実感が湧いて来て、さらに考え込む形となる。


「私も最近よく勉強会という事で、4人が仲良く持ち回りで、家を回って学習していたのは分かっていました。でも、あれから数ヶ月で、このような状態になっているとは、いや、そうなるかもしれないとは、何となく思ってはいたんですが、コレが現実となると、しかも、お嬢さんからの求婚とは」

「優くん、私は何も、大手を振ってOKを出した訳じゃあないのよ。分かってるとは思うけど、若い二人の事をよく聞いて、特にウチの娘に、これなら条件がクリア出来ないと思ったから、OKを出したの」

「そのようね朱里。 今の耀ちゃんなら、多分辛抱できなくなって、クリアはムリね、本人を目の前にしてナンだけど」


 これまでのやり取りで、耀は静かな闘志を燃やし始めた。


「お父さん お母さん、じゃあ、もしも私が8月の半ば過ぎまで辛抱出来れば、許してくれるのよね」

「そう言う事にしてもいい、耀」

「私達も、その条件なら耀ちゃんの条件も飲むわ」


「やった~!」


 両家の親たちが、耀の条件を承諾した形となり、期間は8月25日までと言う、まるまる一ヶ月の試練の日々が続く事となった。


 いままで黙っていた優太が、こんなにすんなりと耀の条件を飲み込むなんて、思っても見なかったので、拍子抜けした。

 (なんか、えらいことになってきたぞ、もしもコレ、耀がクリアしたら、オレ 耀の亭主になるんだ、耀はオレの妻という事になる、何か複雑になり、嬉しいやら不安やらで、参ったなこりゃ)

 そう思う優太だった。



                  ◇



 それからというものの、耀は人が変わったように、夏休み中の午前は、いつもの4人での勉強&課題をして、午後からの優太のバイトの始まりの時間からは、一切の優太との連絡は取らなくなり、我慢の日々を送ることになった。 休み中は 月~金までの午前9時から12時まで学習して、その後、昼食を摂り、その後は解散となる日々が続いた。


 ただでさえ、夏休みという事で、それなりに色んなイベントがあるのに、耀と優太はそれでも会うのを我慢して、只々言われた日まで、絶える事にした。

 それでも8月に入って、暫くすると、慣れ始めたのか、寂しい気持ちが薄れてきて、今の状況に慣れ始めてきた。 それと共に、困った問題が出始めた。


 優太の勤めるコンビニに、8月から、同じ高校の後輩で2年の 石田いしだ 麻美あさみと言う女子が、同じシフトで入って来た。

 容姿がとても良く、人当たりも良いので、すぐに客からの人気が良くなった。


「佐藤先輩、終わりました?」

「ああ、もう少しで終わりだけど」

「一緒に帰りませんか?」

「はいはい、また護衛ですね、お嬢様」

「うふふ...、今日もお願いしま~す」


 最近になって、こんな日々が続く。

 優太と、麻美はほぼ同じシフトなので、終了時間も一緒となる。 夕方でも暗くなってからなので、女の子の一人歩きは危険と言う事で、帰り一緒になる時は、途中まで送るようになった。


「ありがとう先輩」

「ああ、じゃあ気を付けてな」

「はい」

 そう言って、彼女は何だか嬉しそうに後ろ姿を見せ、帰って行く。


 そんな日々が続いていた8月半ば。


「いいじゃん! 教えてよ」


 レジカウンターから、悲痛な声が聞こえた。


「こ、困ります、今は業務中ですから」

「じゃあ終わるの待ってるから、何時? 終わるの」

「ですから、困ります」

「ねえ、何時?」


 困っている麻美を見た優太は、店長を呼びに行った。

 すぐに来てくれたのは、店長では無く、店長の奥さんだった。


「え~っと、ウチの店員になにか?」


 一瞬怯んだ男が、店長の奥さんに向かって。

「今この娘と話してんだ、あんたには関係ない」

「あら、そうはいきませんよ」

「なに?」

「ウチの店員なので、責任がありますから」

「だから、終わってからの話だ、そこどけよ!」

 男は、カウンター越しに、奥さんを勢い良く手で払った。 そのせいで、奥さんがよろめき、軽く倒れた。


「何するんですか。 いくらお客でも、コレは不味いでしょう」


 こんどは 優太が止めに入るが、すぐに男が暴言を吐く。

「お前にも関係ないだろ? 良いからその娘と話がしたいだけなんだよ、どけ!」

 優太は怖気る事無く。

「どきませんね。 それに、他のお客さんにあなたは迷惑かけてますよ、ほら後ろ」

 見ると、4~5人程この光景を見ている。

「それに、防犯カメラにバッチリ声と映像が残ってますよ。いいんですか?」


 優太が言うと、男は持っていた商品を、レジカウンターに置いて、防犯カメラの方を一度見て、出て行った。

「大丈夫ですか? 副店長」

 

 ゆっくり起き上がっている奥さんをに声を掛ける。

「何でもないから、気にしないで。 で、 ありがとう、彼女を助けてくれて」

「先輩。 ありがとうございます」

 礼を言った麻美の手が少し震えていた。


「たま~にああいうのが来るけど、久しぶりだったわね、でも佐藤くんが居てくれて、助かったわ、本当にありがとう」

 たまった客のレジを済ませながら、へへっと 笑顔で返事をする雄太だった。



                 △



「お疲れ様でした」

「はいお疲れ、今日は変な事があったけど、次もちゃんと来てね、石田さん」

「はい」


 シフト終了後、挨拶をしている麻美と副店長。 麻美を見る目が少し心配なのが見てとれる。


「お疲れ様です、じゃあ帰りますね」

 優太も挨拶して店を後にした。


「今日もありがとうございます。送ってもらえて」


 毎回の事で、この石田の送迎も日常となっている感覚があった。


「まあ、あの後だろ、この帰り道でまたアイツに出会ったら怖いだろ?」

「はい」

「今日は家の近くまで送るからな、副店長も心配していたし」

「すみません、ありがとうございます。 でも先輩、何か彼女さんに申し訳ないです」

「はは、オレの彼女ちょっと有名だからな」

「とてもカワイイですよね」

「まあな。 そう言う石田も、彼氏が居るって聞いてるぞ」

「あ! 知ってました?」

「ああ、たしか柔道部だったかな?」

「はいそうです。おなじ2年です」

「ラブラブか?」

「とっても」

「あちゃ~!こりゃ参った、後輩から彼氏惚気を聞かされるとか」

「うふふふ」


 いつもの帰り日、普通に帰っていたのだが、このタイミングで不意な事が起きた。



「優太!」


 声の方を見ると、そこには 耀と母親の朱里が歩いてきた。


「耀! お母さん、こんな所で」

「優太くんこそこんな所で、しかも、女の子と一緒にどうしたの?」

 

 耀の両肩が震えている、明らかに何かを耐えている感じだ。 その耀の言葉が痛烈だった。


「何やってるのよ、優太。 私の居ない時を狙って浮気でもしていたの? まさか、その子といい関係になりたいために、私と距離を取ったの?」

 目には涙を溜めてさらに言い放つ。

「優太はそんな男の子じゃないと思ってた、私だけを見ていてくれると思っていた。なのに、なによコレは、その子と二股掛けようと思っていたの、 優太のバカ! 信じらんない」



「あの...」

その時麻美が口を出そうとしたが、その前に、朱里が優太に聞いてきた。


「優太くん。 今この状態はどういう事か、説明してくれるかな?」

 その時、優太の横から麻美が説明し始めた。


「実は私 佐藤先輩と一緒の高校に通っています、2年の 石田いしだ 麻美あさみと言います。 で、この今の状況なんですが...」


 麻美は先ほどあった事件から、いつも暗くなる帰りを送ってくれる事、それに麻美にはきちんとした彼氏がいて、絶賛ラブラブ中である事を、事細かく、朱里と耀に説明した。

 最後には、優太が耀の事を本当に一途に好きである事を、いつも聞かされている事も付け加えた。

 


「本当なの?優太」

「あのなあ、オレには耀しか居ないっていつも言ってただろ? このオレ達の沈黙期間が無事過ぎた時には、もうオレ覚悟できてるから、分かったか? 耀」


「うわ~~~ん!」

また耀が薄暗い歩道の真ん中で泣き出した。


「あっちゃ~!また泣いちゃった、まいったな~...、お母さん助けてください」

「聞いてて、私やってらんないから、この子今から捨てて行くんで、後お願いね、優太くん」

「あ!お母さん...」

(わ、ひどい、オレ達ほったらかしだ~)


 そそくさと、朱里は帰ってしまった。


 暫く3人の沈黙が続く。


 また暫くすると、やっと耀が泣き止んだ。

 その頃合いを伺って、優太が耀に聞いた。


「そもそも何でこんな時間に、お母さんと二人で歩いていたんだ?」


「コンビニに、アイスを買いに行くつもりだったの」

 ふう~...っと息を吐き、優太が落胆する。

「なんだそう言う事か。 ま、耀の家ココから近いからな、納得」

「でも、今まで一度も先輩同士、道中合わせてコンビニで会ってませんよね」

 麻美が不思議そうに聞いてくる。

「俺もそう思う、家近いのに無かったな」

「時々は言ってたけど、もうちょっと遅い時間が普通だったからかな?」

 すっかり泣き止んだ耀が言う。


「それはそうと、何ですか?佐藤先輩 さっきの覚悟って?」


 ギクぅ!! と、音がするくらいに、優太と耀がキョドッた。


「はは、オレ そんな事言ったかな~...な? あかる~」

「あはは、そんな事言って無いよね、ゆうた~」


「?......、ま、良いですけど、こんな所でイチャつかれたら、私も彼に会いたくなるじゃないですか」

「あ、スマン 石田」

「私もうココでイイですから、後は小川先輩を送って行って下さいね、じゃあまた明日です」

「おう、気を付けて帰れよ」

「心配なく、すぐそこが家ですから、では」

「じゃな」


 麻美が去って行った後、何か気まずい雰囲気になる。

 だが、喋り始めたのは耀の方だった。


「石田さんって可愛いんだね。 一緒に居て嬉しんでしょう? 優太」

「ば...、何言ってるんだ、自分に彼女が居るのに、横恋慕するほどオレは器用じゃないからな」

「そうね、優太は私に夢中だからね」

「お、おう、その通りだが、ちょっとこっちに来い」



 そう言って、耀を街路樹の陰に誘い込み、短く深い キス をした。



 照れた頬が間だ冷めやらない耀が


「優太、好きよ 大好き」

「はは、残念だな、多分オレの方が好き度は高いぞ」

「もう! なにそれ、雰囲気台無し~」

「はは、でも、オレ達らしいだろ?」

「それもそうね、うふふふ」



「後一週間だな、約束の日まで」


「うん、私頑張るから。 あ、でも。今日のコレはイレギュラーだから、カウントに入らないよね? 優太」

「ああ、今日のは無しだ」

「良かった~...。なら、覚悟しておいてね」

「もうしてる、出来ているから」


 心からの微笑で、優太を見上げる耀。


 久しぶりの勉強会以外での耀との会話に、優太も心の奥底から和んだ。

(やはり 耀と居るのが癒されるし、和むな)

 そう思う優太だった。


「アイス買って帰ろうか? 耀」

「もういいの、このまま優太と帰る」

「いいのか?」

「うん」


(もうこの人を離してはいけない、この人を信じて、一生一緒に生きてゆこう)

 耀は優太と手を繋ぎ、その温かさに信頼と言う言葉が、こういう事だと身に染みて分かった。


 



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