6話
6
「ねえ優太、お昼からどうする?」
「う~~ん...、俺ん家来る?」
「行きた~い」
午前中の学習も終わり、昼食も寛子の家で食べたので、今日の所は解散となった。 その後、優太たちは午後からどうするか、帰り道で相談している。
「じゃ 俺ん家で、だけどいいのか?」
「昨日の事を言ってるの? なら、もう吹っ切れたから」
「早いな吹っ切るの」
「だって優太のお母さん、私が優太と結婚する事を前提に、話が進んでるんだもん」
確かにそうだ、祐美は耀の名字が変わる なんて事を言っていたので、多分半分以上は本気だろう。
「言ってたな。 しかも、オレの気持ちを置いてけぼりにしといて」
「......」
「?」
「......」
「? どうした耀。 何か気に障ることを言ったかオレ」
「なんで?」
「え?」
「どうして? 優太」
「何が?」
目に涙を溜めて、耀が言う。
「私の事、嫌いじゃないよね?」
「な! 当り前だろ。 耀はオレの彼女だし、これからもずう~っとだぞ」
「ずう~っと一緒に居てくれる?」
「あったりまえだ。 一生になるぞ、覚悟しておけよ 耀」
「うわ~~ん!」
耀が人通りのあるところで、突然大泣きし始めた。
それを見た、優太が宥めに入る。
「おいおい!こんな所で泣かないでくれよ」
「うわあ~~~ん...、だって...、だって~」
「みんな観てるぞ 耀」
「うええ~~ん! ひっく、ひっく...、見ててもいいもン」
「ええ? 恥ずかしい~ オレ達」
「な、なによ! そんな事くらいで」
と言いつつ、耀が 優太の胸倉を掴んで引き寄せた。
「な!!」
言うが早いか、歩道の真ん中で、二人がキスをした。
「ふむぅ......、っパは!」
一瞬だったが、周りの通行人にはしっかりと見えただろう。
「耀、不意打ちだな」
「うふふ、どう?参った?」
「もうコレは、完全に乾杯だ、あかるさん」
「やった~!!」
嬉しがる耀。 優太は気力を無くし、ただ耀の嬉しがる姿を見ているだけだ。
周りの民衆が、 なんだよ 泣いたり、 キスしたり、 嬉しがったり、
リア充は自爆しろ、みたいな感じの雰囲気だ。
それも一瞬で、少し経つと、な~んも無かった様に、通り過ぎていくようになった。
「なんか、これから先が思いやられるな」
「そんな事言わないの」
道中ハプニングがありながら、どうやら佐藤家に到着した二人。 これからまたさらにハプニングがある事を知らないまま。
△
「ただいま~!」
「こんにちは、お邪魔します」
元気に玄関のドアを開ける二人。 すると、リビングから祐美が出てきた。
(ん? 何か変だぞ?)
異常を感じた優太が、足元を見ると、大人なパンプスがあった。 それを二人が見たが、驚いたのは耀だけだった。
「お母さん!!」
「え?!」
これには素早く優太が反応した。
すると、奥の方から。
「おかえり~、耀」
と、待ち構えたように、ニコ~っとしながら、朱里が玄関に歩いてきた。
「何で居るの?」
「何でって、この前言ったじゃない、近いうちに祐美の家に来るって」
「言ってたけど、このタイミングで?」
「あら、タイミングって、あなたもそうじゃない」
「う...」
「ほら」
言う通りである。 たまたまこのタイミングで出くわしただけの事である。
「優太くん、こんにちは。 いつもありがとね、耀を守ってくれて」
「はい、こんにちは。 それは、オレの役目ですから」
「うふふ、偉いのね。 いいな、耀は ナイトがいつも付いていてくれて」
「ナ...。 お母さんだって、お父さんが居るじゃない」
「まあね...」
話がついたところで(ついたのか?)、いい加減に玄関から、中に入りたい優太と耀。
「さて、上がって話を聞きますか」
この言葉に、優太はゾッとした。
△
「さあ、もう逃げられないわよ、二人とも」
「そうね、覚悟しなさい」
普段とは違う態度の両母親からの耳ダンボ状態の目の前で、二人はしょげながら、尋問を受ける。
「まずは出会いから行きましょうか」
(え? そこからなの?)
優太はハッキリ思った。
(あ! めんどくさ)
△
あれからもう1時間は過ぎただろう。
やっと母親たちから解放され、短時間で疲労困憊になり、優太の部屋に来た頃には、ドアを開けてすぐに布団で、二人仲良く寝入ってしまった。
◇
「ねえ見てよ朱里、18にもなって、無邪気な物ね」
「ホントだ。 二人ホントに仲がいいのね、なんだかカワイイわ」
飲み物を出そうと、祐美が優太の部屋に来てみたが、ドアを開けてみると、二人仲良く布団の上に寝入っていた。 その姿を見て、すぐに、一階に戻り、朱里を呼んで、今 母親同士で子供たちの揃った寝顔を見ていた。
「何だか疲れさせてしまったようね、悪い気がしてきた」
「そうね、ちょっとやり過ぎたかも。 ま、そっとしときましょ」
「そうね」
母親たちは、ゆっくりとドアを閉めリビングに戻って行った。
△
「う、う~~ん...」
最初に起きたのは、優太だった。
「あれ?」
(いつの間に寝入ってしまったんだろう・・・って、うわ! )
隣には、とってもカワイイ寝顔で、寝息を立てて眠る 耀がいた。
(うわ~~、カワイイ! 初めて見る寝顔だ。 見入っちゃうな)
「あれ?もう4時半だ、可哀そうだけど、起こすか」
ゆっくりと耀の肩を揺らす、するとネコが伸びをする様に、両手足を伸ばしたら、目が合った。
最初は何が起きたか分からない顔だったが、数秒で事を理解し...。
「きゃっ!」
慌ててタオルケットを手繰り寄せる。
寄せながら。
「見た?」
「?」
「見たよね、寝顔」
「うん、見た」
「......」
真っ赤になる耀。 穴があったら多分入っていただろう。だが、優太がまた追い打ちをかける一言を放った。
「とっても、可愛かった」
ボンッ と音がするかと思う程、さらに恥じらう耀。
「は、恥ずかし~...」
「いいじゃん、オレ達付き合ってるんだから」
「でも、見られたくなかったよ~」
「でも、将来は、毎日見るんだから、いいじゃん」
「とにかく、恥ずかしいの!」
「でも、オレ幸せだった。 オレの横に耀が寝ていたなんて」
「......え?」
「ん?」
「まさか、優太、さっきまで一緒に、このお布団で寝ていたの?」
「そうだが」
今度は耀の頭から、湯気が出そうな勢いで恥じらった。(プシュ~ ってヤツだ)
「なななななな...」
「な がどうした?」
「どどどどどど...」
「耀。 日本語を喋ってくれ。同じ文字の連呼は、全く分からん」
「一緒に寝てたなんて、私お嫁にいけない」
一瞬の間を置いて。
「大丈夫だ、オレの嫁になるから」
漫勉の笑みで、答える優太。
それを見つめる耀。
「もう、優太~ 大好き!」
優太の胸に、耀が飛び込んできた。
突然の事で優太は驚いたが、すぐに耀を抱え込み、優しく抱きしめ、何度も小さいバードキスをして、その後深いキスになった。