5話
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ここは小川家のリビングルーム、今まさに10数年 いや約20年ほどの時を経て、二人は再開した。
「久しぶりね朱里」
「いや~、近くに住んでいたなんて、全く知らなかったよ~ 祐美」
「何年ぶりかな? 15年、イヤ20年はなると思うけど
「そうね、大体20年は経ってると思うよ」
祐美と朱里は、高校卒業後、暫くはつるんで遊んでいたが、20歳代になると、自分の身の回りの事で、段々疎遠になって行ったらしい。
それでも、携帯でのやり取りはしていたが、それも少し経つと、どちらともなく連絡を取らなくなり、次第に就職・結婚・出産 などで全くの音信不通状態になった。
「連絡が途絶えたのはゴメン。 あれから今の主人に出会って、結婚してこの子(優太)が生まれたんだ。後は忙しいの連呼」
「あ~分かる。 私は高校からの彼(現主人)とはそのままで、進学・就職・結婚 で、この娘が生まれたんだ」
「なるほど、淳くんとはあのまま上手くいったんだね、しかし、子供まで同級生なんて、おもしろいよね」
「まったく」
祐美と朱里が懐かしんでいるのを横目で見ながら
「私達 2階にいってるから」
と言って、耀と優太は、 2階にある耀の部屋に行った。
△
「優太、あの二人って、何か怪しいよね」
「何が?」
「う~ん...、なんだろうな、なんて言うか、昔ヤンチャしてたなんて...」
「あ~~、分かる。オレの母さん、何かやってたそうな感じが強いからな」
「うふふ、今ごろ昔の話に花が咲いて、懐かしんでいるんじゃない?」
「あの口ぶりだと、ウチのお父さんも同級生だったみたい」
「あちゃ~、コレ 耀の父さん帰ってきたら、同窓会じゃん」
「それスゴ、黒歴史が聞けるかもよ」
「耀、ちょっと悪い顔してるぞ」
「えへへ」
暫く他愛もない会話をしていると、耀が優太に近づいて来て、イチャついてきた。
「ねえねえ優太、この前言った事覚えてる?」
「え~っと、何だったっけかな~?」
「あ~~!とぼけてる、優太、言いなさい、分かってるんでしょ?」
バレた、と言う顔して、優太が言い出す。
「あのファミレスでの祥たちの、2度 告りの時の後の事だよな」
「分かってるんじゃない」
「それで?」
赤くなって、優太の胸をポカスカ殴る耀。
「もう!分かってよ、女の子に言わせるつもり?」
観念して、手招きをする雄太。
「耀、こっちにおいで」
「うん」
ふたりが寄り添う形になった。
「耀って、ホントにカワイイな、最初に出会った時からオレ好みの女の子で、こんなにも理想にドンピシャな女の子って、本当に居たんだなと思った」
「私もあの日、モールでの事がキッカケで、こんな出会いがあるなんて、と思ったよ」
「あの時から、自分が知らずに、耀の事を好きになっていたんだな、今だから分かる」
「じゃあ、あの時、私達がナンパされていなかったら、この出会いは無かったという事になるんだよね」
「多分、スルーしていたと思う」
「でも出会ったんだ、私達4人」
「そうだな。 けど、この出会いは、必ず出会う様になっていたんだと思う。 そうでなきゃ、また他で出会っていると思う、オレは」
「わあ~~ん、嬉しい。 優太ってやっぱりサイコーだ、もう誰にも渡さないから」
「うわ!泣くなよ 耀。 オレだって、この出会いに感謝してるんだぞ」
「また優しい事言った~、うえ~~ん...」
「ほら、涙拭け」
そう言って、優太は耀にティッシュペーパーを渡した。
△
少しして、泣き止んで、ちょっと落ち着いた耀に。
「ほら、あかる、こっち向いて」
優太が耀の両頬を手で覆い
顔を近づけて
二人は人生初のキスをした。
・・・・・・・と。
「あらら、こんなところでラブシーンやってるわ、ねえ祐美」
「あら朱里ホントだわ、いいわね~若いってのは」
ビックリ仰天の優太と耀、人生初のキスの瞬間を、両方の母親に目撃され、羞恥に耐えられなかった。
二人は口は離したが、まだ抱き合ったままだ、そこに。
「あ!ごめんなさい、いいから続けて続けて、おほほ」
何て、気楽に言ってきたもんだから。
「やれるか!!」
怒る優太だった。
△
「だって、そろそろ帰ろうかと、朱里と耀ちゃんの部屋に来たら、高校生のカップルの生キスシーンが丁度のタイミングだったので、二人でコソッと見ちゃった」
42歳の テヘペロだった。
「聞いたわよ~耀、優太くんと付き合い始めたんだってね。 良かったね」
少し赤みが退いた耀が。
「ありがとう、お母さん。そうなの、優太とやっと付き合えたの、幸せだよ~」
「あ~らら、ウチの息子が一人のカワイイお嬢さんを幸せにしたのね。 優太、私たちはあなた達のお付き合いは、賛成よ、でも、自覚ある行動の上でのお付き合いを望むから」
「二人とも祐美の言う通りよ。 厳しい事は言わないけれど、だらしないお付き合いなら、私たちは断固反対するから」
「「はい!」」
二人で返事をしたが、体はまだくっついたままだったので。
「もうこんなにラブラブなの見たら、私も今日主人に言って、何とかしてもらおうかしら」
「確かに、自分たちの子供に誘発されるなんて、親として...じゃなくて、えへん! もう帰るわよ優太」
「母さん、勝手だな」
「うふ...」
「朱里、じゃあ私達もう帰るわね。ありがとね、今度はウチに来て頂戴、絶対よ。それに、今度は親同士4人で会いたいわ」
「そうね、主人に聞いてみるわ、で、必ず行くからね」
「待ってるからね、じゃあ」
そう言って、祐美と優太がお礼を言って帰って行った。
◇
「そうか、いよいよ優太にも彼女が出来たか。いやあ物好きな娘もいるもんだな」
「そんな風に言わないで、とてもい娘なのよ、それも、優太にはもったいない位の」
「へえ...」
佐藤家の夫婦の会話だ。
会社から帰った主の優が、キッチンで夕食の準備をしている祐美と、今日の昼にあった出来事を話し合っていた。
「それでね、その娘の両親が、私の高校時代の同級生なの」
「え!?」
「驚きでしょ。 私も最初は優太の彼女が来たので、誰かと思ったら、いつも来ている勉強会の中の女の子だったの、でね、色々聞いているうちに、親が私の同級生ってのが分かり、今日 急遽、私も含めて優太も一緒に、その娘の家にお邪魔したの」
「驚きだな。 で、何か進展があったんだろ?」
「あ、分かる? 聞きたい?」
「焦らすなよ、祐美」
「うふふ、私たちが1階で懐かしんいるうちに、2階でね、ラブシーンがあったのよ」
「なんだって? それで、優太が取り返しのつかない事を、相手のお嬢さんにしてしまったのか?」
「落ち着いて、優さん。 大丈夫だから」
驚いていた優だが、優実の言葉に落ち着いた。
「とってもウブな二人でね、そろそろ帰ろうとして、彼女の部屋に同級生の朱里と行ったら、それがちょうど二人のキスシーンだったの」
「あははは...」
「それもね、二人はそれが、ファーストキスだったんだって。可愛いわよね~」
「あははは...」
「笑い過ぎよ、優さん。 なんかとても癒されるシーンだったわ」
「いやはや、優太にも18になってやっと春が来たか、うんうん」
「でね、それ見たら、私もちょっと誘発されて...、ね、良いでしょ、後で」
「...、あ、ああ分かった。祐美も可愛いぞ、いつまでたっても」
「もう、バカね」
「はは」
◇
一方の、小川家でも....。
「でね、その男の子が、また可愛いの、顔真っ赤にして」
「ちょっと複雑だな、娘のキスシーンなんて、想像したくもない」
「そんな事言わないで、相手の男の子の母親は、あの祐美よ」
「え!!」
「そうなのよ、高校の同級生の祐美の子なの」
「へえ、そうなんだ、子供がこれまた同級生なんて、驚いた」
あの祐美がね~、っと、心の中で呟く淳だった。
「それにしても、ずいぶん久しぶりだな、もう時期に20年くらいにはなるだろう?」
「そのくらいにはなると思うわ、でもね、いまだに綺麗だったわよ、彼女」
昔の祐美の姿を想像してみる純。
「こら!妻の前で他の女を思い出して微笑まないで」
「あ、ゴメン。 でも、いい女になってたんだ」
「あ~...。でね、近いうちに、その旦那様と私達4人で、会わない? って事になって、いま、祐美と話し合ってるの」
今日あった時に、祐美と朱里は連絡先を交換しているので、いつでも準備はOKだ。
「そうだな、優太って子は知ってるし、優実のご主人がどんな人か、一度会ってみたいな」
「そうでしょ? 私もあの祐美を射止めた人を、見て話したいの、楽しみでしょ?」
「そうだな」
「でね...」
「なんだ?」
「その...、娘のキスシーンに誘発された訳じゃあないけど、...後で いいかな?」
「はは、しっかりと誘発されてるじゃあないか...。 いいよ、後で」
「うん」
あっちもこっちも、子供に誘発された親が、その後どうなったかは、知らない。
◇
「「あははは...」」
「笑うなよ祥 寛子」
「もう、恥ずかしいから笑わないで、寛子」
今日も午前からしっかりと勉強会だ。 さすがに耀と優太の部屋では、昨日の今日で、気まずいので、今日は寛子の部屋で行う事にした。
昨日の事を祥と寛子に話したら、思い切り笑われた。しかも二人に、腹を抱えられて。
「とにかくあのタイミングは無いと思った」
「でもそのタイミングはすごいぞ優太。 お袋さん達もさぞかし喜んでいただろうな」
「しかも ファーストキスだぞ? ありえないだろ」
「優太も耀も、もう見られちゃったら、親公認だね。 かえって良かったんじゃないの?」
「それは、確かに両親公認にはなったけど、暫く気まずいかな~、でも、優太の部屋には行きたいし」
「いいんじゃない、公認だから、堂々と行きなさいよ耀」
「なるほど。 寛子の言う通りだな。俺たちもう公認なんだから、お互い部屋に行く時は、堂々と行けばいいかな」
「そうしなさい優太」
「分かった」
やはり友人てのはいいもんだ、話して良かったと、優太と耀は思った。
△
「あ~ 疲れた~」
「ホント、もう11時半だね。今日はこれくらいにしようか、みんな」
朝9時からの勉強会、しっかりと頑張って、2時間半、疲れが見えたのと、キリが良い所になったので、今日はここまでにした。
頃合いを見て、寛子がみんなに聞く。
「今日私がお昼ご飯を朝から作っておいたので、外でなく家で食べて言ってよ」
素早く反応したのは、祥だった。
「お! 寛子の手作りだな」
「そうよ。 おにぎりなんだけど、おかずは定番の空揚げと卵焼き、あとはド定番のタコさんウインナーで~す」
「わあ、ありがとう寛子。私おなか空いた~」
「さっきから耀 腹鳴ってたもんな」
「もう、優太ったら~」
優太と祥がローテーブルの上を片付けて、寛子と耀がお茶とトレイを運んできた。 高校男子も居る4人前なので、結構沢山作ってくれた。
「脂っこいものだけじゃなく、ちゃんとサラダも食べてね」
そう言って、サラダボウルに入った緑色一杯のサラダもテーブルの真ん中に乗せた。
おしぼりで手を拭いて。
「「「「いただきま~す」」」」
一気にかぶり着く男子達。 それを見た寛子が。
「こら! 二人とも、ガッつかないの!」
「お行儀悪いわよ、優太」
「「すんません」」
「うふふ...。シッカリ食べてね男子」
お喋りしながらの、4人での昼食はとても美味しかった。