第九十一話・そんなに医師と結婚したいですか?
私の過去の勤務先の名前を知ったとたんに「誰かいい男性を紹介してください」 と言われたことがあります。もちろん相手の希望は独身の男性医師限定です。夢みてるなあ……で、以下は私の心の中の声。
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勤務先のネームバリューだけで色めき立って、結婚前提でつきあえる医師を紹介してっていうような娘はどうかと思う。専業主婦希望で旦那の給料でもって楽して人生渡りたいですって言っているようなもので、見てくれはかわいいけど自分本位な不良債権候補、誰が紹介するかよ……。
……ってなもんです。ま、私も一応礼儀をわきまえた初老の女として優しく微笑んで「いつか良いご縁がありましたらね」 と社交辞令的に申しますが。
今回はどうしても医師と結婚したくて、その夢をかなえた女性の話です。Vさんとします。Vさんの場合は努力をしたので、決まったときはもちろんおめでとうと言いました。ただVさんと同じような仲間は、Vさんをよく言わなかったのでそのイラクサ的空気も併せて書いてみます。
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Vさんは幼いころから結婚相手は医師と決めていました。本人自身が医師になる気はゼロだったようです。医師夫人は女性としてのステータスがあがるものでしょうか。私にはそのあたりは知りません。医師……まじめな人ほど大変ですよ。そりゃお給料は多少はいいかもしれませんが、給料に見合わぬ激務で体調管理も精神的にも支えてやらねば……本当に女性としてのステータス向上のためだけに結婚したいというのは、医師の夫がかわいそう……そんな女は悪嫁候補だと思いますがね。
それと優秀な医師の多くは学生のうちに掘り出されて? 若いうちに恋愛して結婚してるか、婚約してしまっています。良い家柄の人はもう医大に入る前から相手が決まっていたりします。
でも、ま、Vさんは人生の大いなる目的のため? に医師が大勢集う病院に就職しました。職種は医療秘書。ちゃんと考えて努力はしています。でもまじめな医師は忙しい。それに変なコビを売る人は警戒されます。医療秘書は数は少なくても女の園です。結婚相手をさがすために働くと行動に出ます。その仕事が好きかどうかも周囲にわかりますよ、やはりね。
Vさんは毎日医師と会って仕事をしているにもかかわらず、出会いがないことを嘆き、上司に「医師ならだれでもいいので紹介してください」 とすがったそうです。年齢的にあせりもあったのでしょう。恥も外聞もないけど、Vさんも必死です。その上司はVさんは根は素直な子だし、仕事もまあまあやれると見ていました。
仮に医師と結婚が決まったらすぐ仕事もやめるだろうなあ、出産年齢的にも潮時だろうと哀れに思いました。それでホントに誰でもいいんだな、と念を押して一人だけ紹介したそうです。臨床系ではなく、研究系。◎◎で△△で、年齢も一回り以上年上の人。さすがに断るだろうと思われていましたが、Vさん、その人に決めました。
速攻仕事をやめ専業主婦、すぐに子供が生まれて幸せになりました。Vさんは人生の目的を達したわけです。職業が医師というだけで夫に尽くすとてもよい奥さんになりました。仲人になった上司は私にこう言いました。
「ほんとうに医師ならば誰でもいいって言ったけど、Vさんは言葉通りだった。夫は医師なのって思うだけで結婚自体がうまくいくってこともある。こっちも勉強になった」
私も言いました。
「あの先生にとっても、Vさんは娘みたいな年下の若い娘さんだし。Vさんも心から先生の職業を尊敬して尽くすし。双方ウィンウィンで本当によかったですね」
こういう結婚もあるという話。医師夫人になると幸せとは限らぬが、
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医師夫人になると絶対に幸せになると思い込む人は本当に幸せをつかむ
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……ということで、今回は誰も不幸にならなかった話です。幸せになるための思いが強いものほど、幸せになる良い例です。Vさんの実家は医療者ではなかった。しかし母親あたりがVさんの幼いころからお医者さんと結婚したら絶対に幸せになると繰り返し暗示をかけていたのではないか……。
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Vさんはうまくいったケースだが話を変えます。
医師限定の出会いを設定する業者がいます。医師と普段から接する機会のない女性に出会いを提供します。彼らは医大の門の前で待機して医師の卵である医学生に片っ端から登録無料だから会員になってくれ、名前だけでも貸してくれと言います。独身である学生のうちにツバつけておかないとすぐに結婚してしまうからでしょう。会員数が多いほど、女性客の会員が増え婚約成立となればもうかります。というわけで、医師の卵からすでに結婚相手としての争奪戦がはじまっているのです。
私自身はそういうところは入会はしたことがありませんが、実際に入会した人も登録をお願いされた医師も双方知っています。女性側の入会費は医師限定というだけあって高額ですが親にだしてもらったといっていました。
私はそういうところの単発で参加をしたことがあります。つまり医師限定の見合いパーティーに行ったことはあります。数十年前の話で女性の参加料は一回限りで五万円、男性は五千円でした。私の場合も母がお金を出しました。医師と結婚するとヒダリウチワよ~といって。ヒダリウチワ、通じますかね? お金に苦労しないという昭和の死語です。母もまた、娘である私も医師と結婚してラクしてほしいと思っていたのでしょう。
私の場合は、Vさんのように何がなんでも医師と結婚したいわけではなかったので、好奇心で行きました。もちろん、あわよくばという思いもありました。だから私だって人の事は悪く言えない。場所は高級ホテル。男性三名、女性三名で一つのテーブルを囲んで、現役医師、薬剤師、看護師、院生、研究者が集まります。なぜか異業種交流会になり、医療従事者同志の舌戦状態、すごく刺激的な経験をしました。
医療関係外の参加者もいましたが、所在なかったのではないか……企画者である司会はゲームも何もしなかった。テーブル移動もなし。勝手にやれという感じだった。ああいう見合いパーティーは真剣に臨むほど空回りすると感じましたが、あくまで私見ですのでお許しください。
いろいろあっても、それでよいご縁があって双方から業者が感謝されることもあろうかと思いますが、医師専門業者として経営が成り立つのはそれだけ医師夫人という職業に魅力を感じる女性とその家族が多いからでしょう。成功例となった幸せなVさんへの元同僚の冷ややかな視線も覚えていますのでとかく女の幸福は杓子定規に測れるものではないと思います。




