第六十五話・私の前世
我が母は善人です。私は母が好きでした……過去形なのは精神的につらいことがあったから。悪気がないことが余計にストレスです。でも母を心配させたくないので黙っています。Jの一連の件でも認知症もあるので今更責められぬ。
繰り返します。我が母は善人です。そして信仰深い人です。そのため一つだけ嫌な癖があります。それは誰かが病気になったり、何らかの原因で早く死んだりなどしたら、「因縁」「罰」 だということ。
母の占い好きも相当なものでした。私の幼いころからだったので、私は成人するまでどの家庭もそれが当たり前だと思っていました。
「あなたは今年の七、八月に悪いことが起きる。だから祈祷に行っておいで」 など言われたら「そうか」 と思い神仏に祈願したりしていました。
母の信じていることはすべてが正しいと思っていた時代もあったのです。私の聴力の悪さもどこの病院の医師でも直せないのは「先祖の因縁」 だと言われて信じていました。前世を見てくれる人に聞いたら「馬を殺したから」 と言われました。私の前世は馬を洗う人で、ある時馬の耳に水をかけたため、馬が死んだ。そのため馬が祟ったので現世で耳が悪くなったというのです。それを母は信じている。私はさすがにおかしいと思いました。
「その診断っていくら?」
「三万円よ」
「結局それでどうなるの」
「馬の恨みによる難聴なら受け入れるしかないようね」
私は、その前世占い師は「競馬好き」 だと思う。でまかせだろう。
母には悪気はないし、私を心配するあまりの行動だと思っている。でもとても愚かだ。そういうのを食い物にするお商売をしている人は根拠がないので説得力のある言い方さえすればそれでお金をもらえる。霞を喰って生きるとは彼らのことだと思う。




