第六話・国籍
以前の勤務先に外車に乗って通勤している人がいました。Bさんとします。ある時電車が事故で遅延しており、いつ動くかわからない状況になりました。私が困っていると近くまで乗せてあげるといわれて乗りました。有り難いことです。電車が動かないせいで道路はいつも以上に渋滞していました。私の降りるところだとBさんにとっては遠回りになるので、一層申し訳ない気分でした。それで私は車には詳しくないなりにお世辞で「コレってあまり見かけない珍しい車ですね」 とBさんに言いました。
するとBさんは「褒めてくれてありがとう。でも通勤に外車に乗ってくるな、国産車にしろと文句をいう人がいるよ」 と言いました。
私は車は動けばよいと思っているので、外車も国産車も興味がない。それでもBさんがその外車が好きで愛用しているのはわかる。国産車に変えろと言われて気分を害しているのもわかる。
「外車で通勤するのがイヤって、わざわざ言いにくるのが意地悪ですね」
「ま、僕の方が相手よりずっと年下だしね。若いくせに外車に乗っているというのが気に入らぬのだろう」
「でもBさんはこの車以外にも、国産車もお持ちですか」
「いや、これ一台だよ。二台も持つ余裕なんかないよ。この車でしか通勤できない。だからぼくは言い返してやったんだ」
「なんて言ったのですか?」
「ぼくは外国籍だから外車に乗って何が悪いんだよって」
「Bさんって在日某国人ですもんね。ある意味正論だわ。それで、相手の反応は?」
「何も言わなくなったよ~よかった~」
「ホントですね」
通勤規定にが外車がダメなんて一言も書いてないのに……意地悪する人はいるもんですよね。今回の話は国籍を主張して意地悪な人を凹ました話です。在日の人は多いですが実際に話題になることはほぼありません。Bさんは日本人名もお持ちですが、先祖がその国の出身であることに誇りがあり、普段でも実際の苗字を名乗っておられました。だから私もあけすけに話題にできたのです。また在日某国人同志の連帯感の強さもつとに有名ですし、それで国籍差別に繋がると大事になると相手がひいたのかも。
戦中後のどさくさでの在日の人々による土地がらみのトラブルなどは表には出ないものの、現在でも尾を引いています。そのとばっちりで子孫が差別を受けたのは事実です。犯罪加害者の家族が迫害を受けるのと同じ心理かな。彼らもまた被害者でしょう。
世の中強引なことをして、被害者が泣く。同時に加害者と国籍が同じがゆえに被害者からトラブルになると怖いから危ないからと差別を受ける……結局、軽蔑、侮蔑や差別の感情はキャッチボールのようなもの。双方で連鎖し、感応し、増幅するものだと思います。Bさんのようにユーモアを込めた逆襲をやれたらいいですが、より広範囲な政治がらみになるともっと難しいものです。