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第五話・某地の思い出

 私の小学校時代の話。一人だけ友人がいました。同じクラスのAちゃん。

「おうちに来ない?」 と言われて喜んでいきました。母は私の行動範囲を掌握かつ管理するタイプの人でしたので、内緒で行きました。

 遠かったけど手をつないで行きました。Aちゃんの家にはお邪魔できず、その近くの公園で遊び、そばのたこ焼き屋さんでおやつにしました。たこ焼きが一個五円だったのを覚えています。二人で立ち食いをしていたら、焼いていたおばちゃんが私に「見かけない顔やな、どこの子?」 と聞かれまして「◎◎です」 と返答しました。おばちゃんは大げさに驚いてみせました。

「へ~◎◎から? 遠かったでしょ? でも、こんなところまで来るなんて珍しい子だねえ」 と言われました。私はその意味を理解していませんでした。帰り道も途中までAちゃんに送ってもらいました。

 前置きはそこまでで、ここからイラクサ話の開始です。


 母は私がどこに行ってきたかがわかると怒りました。危ない、というのです。そしてAちゃんともう遊ぶなと言いました。学校にいるときは仕方がないけど、放課後や休日は行ってはいけませんと怒る。

 察しのよい人ならすでに「ああ……」 と思われるかと思いますが、私はなぜそんなに怒るのかが理解できませんでした。友達の住んでいるところをけなされ、泣きそうでした。

 当時から私には母の呪縛というものがあり、再度Aちゃんから「おいでよ」 と誘われても「お母さんがだめっていうから行けない」 と断りました。

 逆に私のところに来る? と聞いたらAちゃんは「行きたいけど行けない、止められている」 と言いました。まるで小学生版ロミオとジェリエットです。ばかばかしい話です。住んでいる場所でもって、つきあえ、つきあうなとは理論的に飛躍がある。子供にそんなことを強いて一体何の益があるのやら……母は世間体を重視する人でして、当時の私は母に逆らえなかった……そのうちAちゃんは私に何も言わずに転校してしまいました。

 昭和時代にもそういった土地はあるのは長じてわかってくるのですが、怖い人がいるよ、と言われても実際に遊びに行った私は怖くなかった。公園にいた人も例のたこ焼き屋さんもいい人だった。遠いでしょ、には確かに遠かったとはいえますが、悪い人がたくさん住んでいるから行くな、には根拠なく今でも母の対応はおかしいと思っています。

 まだ続きがあって、祖母に呼ばれまして説教されました。明治生まれの祖母は当時はまだ元気だったので、私を正座させての説教です。その折に明治以前の慣習を教えられてショックを受けました。いつもは優しい祖母の顔が歪んでみえ、悪意ある情報を私に刷り込ませようとしていると感じました。Aちゃんがこんな話を聞いたらどんなに悲しむだろうか……でも祖母には逆らえず、私は俯いているだけでした。

 今は先祖代々この土地に住んでいて……が、自慢にはならぬ世の中です。昔よりは多少は風通しがよいはずです。生まれた土地で育った子供に対して偏見を持つべきではないと今でも思っています。 


 祖母の話、明治時代のその手の話ですが過去の記憶遺産としては貴重とは思う。年齢的にも私ぐらいの年がそういうのを知っている最後の世代でしょう。文学として書くのにも見えぬ縛りがある。消えゆく記憶は書き留める価値が果たしてあるのか……読んで傷つく人も多かろう、というわけで私だけの記憶にとどめておく。




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