第十八話・他人の話は聞きたいけど自分の話は決してしない人は、他人の家は行くけど自分の家に他人は決して招待しない人が多い。
八十歳代の母がHという母の幼友達のことで愚痴をこぼすのでエッセイにしてみました。そんなに不快なら縁を切ったら? というと母は黙る。
本人に言えなくて娘の私に愚痴るのね? 私は母のそういうところが、キライだわ。でも母に言わせると「我が子だけに本音を言いたい。わかってよ」 と言う。
私は母を見て育ったので、相手に直接言わず、陰口を言う人が嫌いになりました。良い人ぶって、私には本音をいうのはなんの解決にもなりません。しかし母は、いくらいっても理解できないようです。で、今回はそのHさんの話です。
Hさんは実は母の遠縁です。家が近いので双方元気な折は、足しげく通っていました。母はバカなのでHさんの聞かれるままに家の貯金額、父親や私の給料……普通では話さないことでしょうに、すべてしゃべっていました。そういうところが、母の実妹であるJも、長じて母の実印を使って好きなようにお金を動かしていた原因になったと思っています。
私は幼いころは母の人形で意思を持たなかったので母を尊敬していましたが長じてだんだんと嫌いになってきました。それで家を出て距離を置いたのですが、私の実妹Zの暴言と暴力が出て結局私が引き取る羽目になりました。
で、そのHさん。
我が家のことはなんでもご存知ですが、Hさん自身のことは一切言わない人なのです。一度母とHさんがお茶をしているときに私が帰宅しまして「ああ、異動になって帰りが一時間遅くなったね。大変ね~」 と言われたことがあります。それぐらいならいいですが、母を引き取った後に
「保険金はゆうちょのが二つあるね、JAは火災保険だけだったから何も出ないけどね。請求のために診断書をもらうのを忘れないようにね……」
と言い出す。金額まで知っている。年金も遺族年金の金額も通帳の暗証番号まで知っている。私は気味が悪くて暗証番号などは母を引き取る際に全部変更しました。
で、Hさんに対しての最大のイラクサは、Hさん自身のことは一切言わぬことです。それでいて、他人の家の中の事情は知りたがる。知恵がついてきた私は母に厳重注意。
「Hさんの家の改築したこと知らないでしょ? 我が家の改築時には毎日様子を見に来ていたのに」
「Hさんのお孫さんに病気が見つかったけど、手術したそうよ。コレ別の親せきから聞いたけどね、知らないでしょ?」
母はHさんにだけ実妹Zの暴言を相談していましたが、嬉しそうに「あなたが産んだ娘さんだから本当はヨイコのはず。長い目でみてあげてね」 というだけでした。私はHさんが好きでも嫌いでもないのですがさすがに「自分のことを一切話さず、我が家のことばかり意見するのっておかしくない? 私のことも話のタネにしないでちょうだい、不快だ」 と言いました。
私がHさんに会った時は、わざとHさんの持病の様子や、不仲の義理姉妹さんの近況を聞いたりしました。だからHさん自身は私が苦手なはずです。しかし、母はHさんを慕う。母には愚痴を何でも聞いてくれるHさんが必要なのです。
そして現在。母は病気で倒れ、遠方に嫁いだ私が引き取って介護中です。Hさんに病気の愚痴を聞いてもらおうと電話すると、Hさんは「とにかく安静にしてね、私は忙しいから」 というだけ。
特に母の実妹Jと土地と実印トラブルが発覚してからHは一切母と関わらぬようになりました。母は最初土地がらみでJから騙されたと泣いて怒っていたのですが、Hさんは黙っているだけ。Jの批判などは一切しない。Hさんは母と同様Jとも親戚になりますので、Jの機嫌を損じたくないのでしょう。Hさんは会社経営にかかわっており、創業者一族でもあります。某の出資者として今も金庫番をしており元金融業のJとはつながっています。専業主婦で働いたことのない母にはわからぬ事情があります。
母はHさんが「Hさんは私の愚痴を聞いてくれなくなった、ひどい」 といいます。
「いいじゃん、あんな人。こちらの施設で友達を作ってみれば? デイケアでもたくさん知り合いもできたでしょ?」
「いやよ。慣れた人がいい。今更友達を作りたくない」
母って万事受け身でこんな感じ。こんな女に私は育てられたのかと思うと嫌になります。そりゃ実妹Zからも金づるとしか見られないはずです。
Hさんは母の娘である私とJが真っ向から対立していると見て取るや、見事に母に近寄らなくなりました。世の中、やったモノ勝ちで結局そんなものですね。
でも私は母と違う。Hさんがいなくても平気。係争はまだ続いていますのでJに関するエッセイはずっと後になると思います。(元凶のJは母の実印を不正使用していたことを全く悪いと思ってない。先日事実無根のうそをまたつかれ、怒っています。Jは私の聴力に触れ、耳が悪いから何でも聞き間違えて悪い方に取るのねといい、こいつだけは絶対に許さないと決めました)
ここに書くだけでは解決しないですが、私の実妹Zは母に死ねといい、母の実妹Jは母の実印を不正使用したことで娘の私が証拠収集中。父方の親戚も相続時の犯罪まがいのトラブルもあり、これは時効切れで告発もできぬ。この世は結局やったもの勝ちかとも思ったりしています。
それを思えばHさんは金銭がからまぬ小物かもしれませんが、母が慕う分、地味に小型イラクサが採取できますので書きました。