第十六話・争族
過日、某弁護士さんとよもやま話ができたので今回はその内容を考察してみました。人は誰でもいつか、死にます。裸で生まれて裸で死にます。土地やお金などは持ってあの世に行けません。
そこで、です。
残された遺族は金銭や土地、宝石などを分け合いますが、あなたはこっちの通帳のお金をあげるね、そちらは、金庫の中の宝石ね、私はこっちの土地をもらうね、じゃあ、これでいいね~……とはなかなかうまくいかないです。
通帳のお金も等分にすべき。
宝石もきちんと分けろ。
土地をもらうのはずるい。私も欲しい。
死ぬまでの数年間の介護は私がしたからその分多く欲しい。
実は隠し子がいます~。
遺留分以上のものをよこせ。
……私の父なんか、祖父が亡くなったとき、父の異母弟から裏で、権利を主張したら娘(私のこと)に危害を加えると脅迫されていましたからね。表にでなくても犯罪行為も結構あるのではないかなと思います。以上前置き。
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で、たまたま法律関係機関に行った折に世間話の一つとして話してみました。ちなみに男性で年は推定五十才代後半。彼は私がこういうエッセイを書いていることは知りません。Gさんとします。
私の方から「争族って漢字の当て字が普通にありますよね。近年そういうの、多いでしょ?」 と水を向けるとそのGさんは「もちろんむっちゃ、多いです~」 と眉をひそめて言いました。
人の争いに中に割って入るというのが弁護士さんの仕事内容の一つになりますが、いろいろあるのだろうなと私は彼の眉間のシワを眺めていました。それで私は父の死後に判明した父の異母弟の脅迫行為に怒っていますのでその話をしました。けど、Gさんは「総合的な話として、表に出なくて結果的に横車をおしたものが有利にすすむもので相続が終了したなら、それはそれで終わりなんですよ」 と言いました。私は呆然。Gは平然とした表情。以下は会話です。どっちがどっちのセリフか、おわかりになると思います。
「だって、過去に脅迫行為があったからといって、今更訴えるなどはしないでしょ」
「それはまあ」
「だったらそれで終了です。どちらか片方が動かないと調停も裁判もないからね」
「じゃあ聞きますけど、なんでもやったモノ勝ちなの? 無理を通したものの勝ちなの?」
「くやしい気持ちはわかるがしようがないとしか言えない。もう終わった話だと割り切って別の道に頭を向けた方がきみのためになるよ」
「それはわかる。私もその手の相談を受けたらそう言います」
「でしょ? きみの場合、父方の親戚も、母方の親戚もご両親がそういったことに疎いがゆえに、相続の蚊帳の外に置かれ、いいように小切手だの土地の売買だのに利用されまくった。たがそれはそれ。割り切ったら? その方が絶対にいいね。今からでもそりゃ希望があれば、裁判だって原告側として協力しますけど、コレ数年かかるしお金もすごくかかるっすよ?」
そういわれてはっとする私。確かにもらうべきだったお金に執着するのは私次第ですが、調停や裁判などにすると時間とお金が飛んでいく。
裁判って何年も続くといいますが、一カ月に一度、口頭弁論というのをして双方の言い分を面識もない第三者の裁判官に証拠と証言を見せるだけです。それも大体二十分ずつです。一か月に二十分だと、少ないです、面倒な案件がいくつもあると、「次にしましょう」 といって次の口頭弁論へ向けた証拠集めなどをするわけです。膨大な時間がかかるうえに、いざ判決が出ても納得するものがないと高等裁判ついで最高裁で裁判の続きをするわけです。数年かかるのも当たり前。証拠集めをそのたびに弁護士さんに依頼したら彼らに支払うお金も別料金が発生して高額な報酬を払う羽目になります。
その時間と手間とお金を考えたら別の楽しいことをやっていく方が自分のためになる。間違いなく。
相続は争族になります。私たちは父方の祖父が亡くなったときは絶縁になりました。父の継母と異母弟は勝ちました……くやしいと恨みに思う気持ちは今もあります。でも割り切ることにしました。
一番悪いのは後妻業みたいなことをする女を引き入れた祖父ですからね。先年例のオバンが百三歳の長寿で老衰でなくなりましたが地獄というのがあれば苦しんでいるといいなあ、と思います。
そして母方も争族になりました。母の実妹Jを信用して実印を数年預けっぱなしでいいように扱われていました。前シリーズで詳細を書いたので省きますが、J、開き直ってますね。J自身が告白しないと先へすすまないのがようくわかっている。
金融業の知識を生かして金融に疎い両親をカモにして暴利を貪り、父を休日ごとに呼び出して田畑仕事にこき使ったことは絶対に忘れない。いろいろなことが判明してJは、前の職場(金融)に告発した私のことを「恩知らず」 と怒っているそうだが正体はばれているのでもう怖くともなんともない。Jは地獄に落ちるといいと思っている。
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いきなりですが、天国と地獄というのはある意味立場の弱い信者にとってのアメとムチみたいなものだな、と思っています。アメは悪いことをしたら神仏が代わりにバチをあててくれるなと思って心を落ち着かせるのです。
ムチはだから善い行いをしましょう……でも世の中やったモノ勝ちということを、はっきりと言い切ったGさんの言葉は衝撃でした。私もこれまた真実だと理解しました。
人を泣かせてまで暴利をむさぼれる人は結局心も強いものです。被害者の心を鎮めるために宗教があるのかとまで思います。
あともう一つ、Gさんは犯罪者の弁護士もされました。状況証拠に決定的なものがない場合、犯人の立場は一番立場が弱いようで非常に強いらしいです。ために状況証拠を固めて、警察や刑事さんは犯人が反省もしくは逃げられぬと観念して自供できるように心を砕く……でも犯罪前には状況は戻りません。
犯罪とその犯人は、そうやって被害者の人生を変え、まわりを振りまわす……それを見ても結局はやったモノ勝ちというのもわかるような気がします。