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第一話・題名について

 本作の題名、イラクサのかたびら……の、「かたびら」 ですが、「帷子」 と書きます。日常的にはあまり使用する言語ではありません。着物好きならば、夏の麻のきものという認識になるかと思います。源氏物語などの日本の王朝文学ならば、帷子かたびらが出てきます。部屋のしきり、へだてに使用した几帳(きちょう)のことですね。几帳越しの会話ってどんなものでしょう……この生地の帷子は薄い布ですが、それが灯りで麗人をほのかに照らし出す。和の趣を感じます。帷子の言語でもかように想像が広がります。それが本作の特性でもあります。

 帷子はまだ過去の言葉ではなく、現在でも汎用されるジャンルもあります。仏式の葬式をするご家庭ならば経帷子きょうかたびらという言葉をご存知かと思います。葬式に死人に着せる白い着物……あれも帷子の文字が入ります。

 また各場の神社仏閣などの巡礼者が着物の上に羽織る袖のない衣のことも帷子といいます。この場合の帷子は特に「笈摺おいずる」 ともいうのでこっちの方がご存知の方が多いかも。この帷子(笈摺)の生地に、確かに当地に巡礼したという証明の御朱印をしていただくことも多いです。私の亡祖母や亡父は西国三十三漢音の御朱印が入った経帷子を着て葬式に出ました……あの世に旅立ってもらいました。こうしてみれば日本では昔ほど帷子は出番がないようだが、それでも結構あると思います。

 この新しいエッセイは前回のイラクサのブーケの続きです。続イラクサですが同じ題名では芸がないかと思って帷子にしました。もちろんエッセイなのでどこから読まれても大丈夫です。どなたでも歓迎します。

 そこまでが前置きで本題にいきます。


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 帷子話はもういいよ、イラクサと帷子の関連性は? と思われるかもですが、実は関連しています。しかも私の大好きな童話とです。デンマークの偉大な童話作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンが編んだ物語の一つ、「野の白鳥」 に出てくるあのイラクサの帷子です。大体のあらすじをわかりやすく脚色してみます。アンデルセン童話としても最高の出来だと思うのでぜひ読んでほしいです。


 ある王国に、十一人の王子とエリザという王女がいました。国王と王妃と一緒に幸せに暮らしていました。しかし王妃が亡くなり、国王は再婚する。新しい王妃は実は悪い魔女。王子達とエリザをいじめ、王子達を白鳥に変えて王宮から追い出してしまう。その上、エリザが美しい少女であることを妬んだ王妃は、エリザの体をクルミの汁で汚し、髪を乱し元の姿とはかけ離れた姿に変えてしまう。醜くなったエリザを見た父王は自分の娘ではないという。

 エリザは悲しんで王宮を出る。森の中の湖で沐浴すると元の姿に戻ることができた。そして不思議な老婆に導かれ海岸で王冠を被った十一羽の白鳥を見つける。それが生き別れになった十一人の兄王子達との再会だった。しかし王子達は日が昇ると白鳥に変わり、日が沈むと元の人間の姿に戻る。 海の向こうの国に渡る季節が来ていた王子達は、エリザを網に乗せて一緒に連れて行くことにした。

目指す国に着いたエリザは、兄達を元の姿に戻したいと神に祈りながら眠る。すると夢の中に仙女が現れ、イラクサを紡いだ糸で帷子を編みなさいと告げる。それを王子達に着せれば呪いが解ける、ただし編んでいる間は口をきいてはならない、さもないと王子達が死んでしまうと教えた。エリザはイラクサを集め、帷子を編み始める。

 ある日、その国の王様がそんなエリザに一目ぼれ。どんなに話しかけても口がきけないエリザをお城に連れて帰る。側近が王様に「魔女だ」 と言って諫めるが王はエリザと結婚する。エリザはそれでも兄のためにイラクサの帷子を編み続ける。途中で材料のイラクサがなくなり、墓地にイラクサを摘みに行く。側近が「やっぱり魔女だ」 といい、王もとうとう魔女だと思い込む。そしてエリザに対して火あぶりの刑を告げる。それでもエリザは誰とも口を利かずせっせと帷子を編む。

 いざ処刑となると、どこからともなく十一羽の白鳥、つまりエリザの兄王子たちがエリザの頭上を旋回する。エリザは立ち上がり、十一枚の帷子を次々に白鳥に投げかける。すると呪いが解けて白鳥が王子に変わる。十一枚目の帷子だけが完成に間に合わなかった。一番末っ子の王子だけは、片腕が白鳥のまま。

 人間に戻った王子たちは、王様に今までのいきさつを話す。

 この話はハッピーエンドで幼い私はどきどきしながら何度も繰り返し読みました。口のきけないまま、結婚してその間もイラクサの帷子を編み続けたエリザ……どんなに苦しかっただろうか。それでも兄王子たちを白鳥から人間に戻すことができて本当によかった。これ、バレエや映画にしてほしい。私がお金持ちだったら作品化したいと思っているぐらい好きな作品。

 長くなりましたが、本作の題名、「イラクサの帷子」 は「野の白鳥」 から取りました、という説明です。

 第一話はこれでおしまいで次回から本格的な個人的なエッセイが始まります。宜しくお願いします。

 



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