恩返し
今俺の目の前には俺の命の恩人であり。何万という命を自分を犠牲に救った英雄の中の英雄。
火臥也・真羅さんの死体がある。
死体は溶液に満たされたカプセルに入っており痛まないように保存されている。
ただ体の所々が酷い火傷で爛れて抉れている。
だけど不思議なことに顔だけは一切傷はなく。そして何処か満足したような顔をして死んでいた。
そう。まるで自分が魔物暴走を食い止めて多くの人の命を救ったことを満足して誇るように。
「英雄・火臥也・真羅さん。俺、いや私と私の家族を救って下さりありがとうございます。今その時の恩を返します」
「死霊の神である我が命じる。この者の傷よ癒えよ」
その瞬間、火臥也・真羅の傷が全て治癒される。
傷を癒したらカプセルを開けて、シーツを敷いた床にそっと死体を置くと、一応女性が3人もいるし布をかけてあげる。
「神の権能発動・若くして倒れた英雄よ。数多の人々を救った英雄を。さあ今ここに甦れ。死者蘇生」
今。ここの神の奇跡が起こった。
本来ならば1年以上たった死体、それもかなりの損傷を伴ってる死体が蘇ることはほぼ不可能に近い。
だけどそこは死霊神。
その不可能を可能にして完璧な状態で蘇らせた。
「あれ?俺は一体・・・確か魔物暴走に・・・」
「お父様」「パパ」「父上」
娘達3人が思い思いに声をあげて火臥也・真羅さに抱き着く。
当たり前だが3人とも涙で顔はぐちゃぐちゃだった。
まあでも自分の愛してた家族が蘇ったんだ。それはまあ泣くよな。
ヤベエ、なんか俺も軽く感動して泣きそうになってきた。
いやまあ泣かんけど。
まあでもいい光景だな。
「調子はどうですか?多分蘇生は上手くいったと思いますよ」
死霊神としてしっかりと死者蘇生が上手く行われたという確信を持っているが念の為質問をする。
「調子はすこぶるいいです。えっと死者蘇生っていうこと。やはり私は死んでいたのですか・・・」
「まあ。そうですね。でも調子が良いのなら良かったです」
「本当にありがとうございます」
火臥也・真羅さんが俺に頭を下げる。
それを見て娘3人も頭を下げる。
「いや。いいですよ。私はただ貴方に恩を返しただけです。あの魔物暴走の時命を救われた者の一人としてね」
「そうだったのですか。ハハハ。情けは人の為ならずとはよくいったものですね」
「確かにそうですね。さて、じゃあ私は帰ります。家族4人仲良く過ごしてください」
「いや。そんな訳にはいきませんよ。せめて何かお礼をさせて下さい」
「私からもお願いします。父を蘇らせてくれたのです。何だってしまう」「私もです」「私も貴方様にか返しきれない恩がありますし」
いや。女の子がそんな何でもするとか言っちゃダメでしょ。まあでも正味性欲ないし、ここはせっかくだカッコよく決めるか。
ぶっちゃけ常識的に考えてあり得ない蘇生したけど、全然疲れてないからね。いやはや死霊神凄すぎ。
まあ異世界で万単位で蘇らすっていう更に滅茶苦茶な蘇生してるけど。そう考えると今更やな。
「う~ん。そうですね。じゃあこれからも家族仲良く4人で楽しく暮らしてください。それが私にとっては最高の報酬ですかね」
「泰斗さん・・・」「泰斗様・・・」「泰斗殿・・・」
全員違う呼び方をしながら何処かうっとりした感じで俺の名前を呟く。
これは何というかモテた?
いや。それは少し自信過剰かもな。
「あのう。すみません、名前をフルネームで伺ってもよろしいでしょうか?」
そういえば火臥也・真羅さんは俺と今日初対面だったな。
「上野・泰斗。しがない死霊神さ」
何となく言ってみたくなったから言った、まあ。うん少し恥ずかしい。
「では改めまして泰斗殿。この度は本当にありがとうございました。もし何か困ったことがあれば全力で手助けをさせていただきます」
一瞬また断ろうかと思ったがここで変に断ったら、また話がこじれそうだったので素直に受け入れる。このままじゃあ恩の押し売り合戦みたいになりそうやしね。
まあ俺が困るって事態はないだろうけど。ぶっちゃけ俺は世界最強だし。
「では。困った時は頼みます。あ、じゃあこれをどうぞ」
俺は死霊虫を適当に転移させる。
「これは、かなり力を持った虫ですね」
「はい。私の眷属です。一応いくらでも生み出せる存在ですが、何かあった時はすぐに連絡が取れますし、死霊転移で私含め皆さんを転移させたりも出来る優れた存在です。もちろん戦闘力もそこそこあるのでダンジョンに入っても問題なくついてこれます。というわけでこいつを側に付けさせておくので困った時は連絡します。逆に何か困ったことがあれば声に出してくれれば死霊虫が拾ってくれますから」
「なるほど。それは凄く便利ですね。にしてもいくらでも作り出せるですか。・・・ハハハ。本当に凄いですね」
「そうですね。あ、後一応この死霊虫は闇空間、ようは容量無限のアイテムボックスが使えますので、よかったらそっちでも活用してください。後は低レベルの闇系統魔法なら全て使えますし。強敵が来れば勝手に自分たちで判断して手の空いてる私の他の眷属・虹スケルトンとかリッチ・剣スケルトンを召喚しますので」
「なるほど。その虹スケルトン・剣スケルトンはよく分かりませんが。また更に凄いですね」
あ。そういえば虹スケルトンも剣スケルトンも俺が勝手になずけた眷属だったな。
一応実物を出すか。
「眷属召喚・虹スケルトン1・剣スケルトン1」
俺は適当に手の空いてた虹スケルトンと剣スケルトンをそれぞれ一体ずつ召喚させる。
「なんて魔力なの。私が前対峙した、あのドラゴンと同格なんじゃ・・・・・・」
嘘感知を持ってた白肌茶髪の美女がそう呟く。
まあ確かに弱いドラゴンとかよりかは強いだろうな。漆黒竜は話が別だけど。
そもそも俺の眷属は俺の力を、まあ神になったから100分の1受け継ぐなんてのはないと思うが、というか100分の1でも受け継いでたら普通に眷属一匹一匹が町を滅ぼす最悪の化け物になるな。
まあでも死霊神の力で眷属が強化されてるし。
普通に元の強さの何十倍の力は得てるだろうな。
あ、でも更に眷属同士のネットワークによって俺の人型の眷属は全員超一流以上の剣術を覚えてるし。
技術ってのを考えたら。見た目よりも強いかも。
「あ~。まあドラゴン程度だったら余裕だと思うよ。後そんな見た目してるけど、両方とも超一流以上の剣術の使い手であり、その他の戦闘技術も多く学んでるし人の一生では覚えきれ程の知識を持ってるから」
「そ。そうなんですか・・・。因みに質問なんですけど。このスケルトンって何体くらいいますか?」
白肌茶髪の美女ちゃんが俺に軽く怯えながら質問してくる。これはアレかな?このスケルトンの強さに怯えてるのかな?
そんな怯えることはないと思うけどな。
しっかし何体いるか。
・・・・・・・・
勝手に増えてるし分からないな。
「さあ?何体だろうね。まあ少なくともこのレベルの眷属なら万単位でいるしもっと強いのもいっぱいいるよ。というか簡単に量産出来るし」
「そ。そうですか。それは。えっと。その、えっと。凄いですね」
「なあ、このスケルトンを日本にある全てのダンジョンに10体ずつ隊を作って潜らせれば魔物暴走起きなくなるんじゃないか?そしたら俺みたいに魔物暴走を食い止めて死ぬ人もいなくなるし。市民が魔物暴走に怯えることもなくなるんじゃ」
火臥也・真羅さんのその言葉を聞き。少し考えてみる。
まあ、確かにそれは可能だ。
魔物暴走ってのは基本的にダンジョン内の魔物の退治速度が間に合わずに魔物でダンジョン内が埋め尽くされてパンパンになった結果起きる現象だ。
だから当たり前の話魔物を駆除すれば魔物暴走は起きない。
そしてそれを死んでも、というか元々死んでる代わりなら山の様にいる俺の眷属達にやらせれば。なるほど。確かに魔物暴走は起きなくなるな。
「でも駄目だ」
「え?どうしてですかって、あ」
「どうやら火臥也・真羅さんは気が付いようだね」
「はい。すみません。私が愚かでした」
「え?何で?パパの提案凄く良いと思うけど」
横から白肌金髪の美女が口をはさむ。
しょうがない説明をしてあげるか。
「それは仕事を奪うからだよ。ダンジョンによって生計を立ててる人はいっぱいいる、でもそれを俺が奪ったらその生活を奪うことになる。そしたらかなりの人が食うに困るだろうし。犯罪に走る可能性も大いにある。少なくとも一般人よりも力を持つ冒険者が犯罪に走ったら、まあ世の中地獄だろうね」
「その上。ドロップ品がほぼ全て俺の所に入るわけだから、ダンジョンのドロップ品に依存している日本経済は確実に回らなくなるし、潰れる会社も多数出るだろう。そうなったらこの国は終わりだ。よしんば何とかなって国としては生き残っても失業者と犯罪者に溢れた地獄になるね」
まあ極論を言えば全員俺が殺して眷属にすればいいけど。それをしたら俺の国になるし。自由意思もクソもないからな。それは俺も望まないし誰も望まない未来だろう。
「確かに言われてみればその通りですね。すみません。私は愚かでした」
「いや。別にいいよ。さて、じゃあ俺は帰るわ。またね」
「はいでまた。本当にありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
俺は嬉しそうにほほ笑む4人を見ながら死霊転移で寮に戻った。
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