愛があれば歳の差なんて関係ない。たとえ100でも200でも……
「あれ!?」
慌てて後ろを振り向くと、斧を振りかざした覆面男の背中と、その後ろからディアナがものすごい目で俺を見ていた。
「はあああああああああ!?」
やばいヤバイやばい。すごく怒っている。
「いや、これは、違うんだ、勢いが余って狙いが外れたんだ」
「ちょっとあり得なくない!? 普通ヒロインを差し置いて通りすがりの老女を助ける!?」
「いや、思ったより身体が速く動いてディアナを通り過ぎちゃったんだって……。っていうか、お前ヒロインだったの!?」
「私ほど美しい女性がヒロインじゃないなんておかしいでしょ?」
「それ自分で言っちゃう? 引くわー」
「私じゃなかったら誰がヒロインなのよ……って、そのお婆ちゃんがまさかのヒロイン?」
「いやいやいや、まさか過ぎるでしょ。16歳の主人公と80歳のヒロインって。いろんな意味で犯罪だろ! ハウルの城も動くわ!」
「いやだね、この子は。私はもう90歳だよ。全くお世辞が上手い子だねえ」
俺の腕の中で婆さんが頬を染める。やめて。胸のところを人差し指でぐりぐりするの。
「やだ、やっぱり! 結局は若い女が良いのよ! こんなことなら300歳なんて言わないで250歳って言っとけば良かった!」
「いや、変わんねえからそれ! ていうかお前はもう黙ってろ!」
俺は婆ちゃんを道の端におろし、背中でかばいながら覆面男の様子をうかがう。
あいつまだ、斧を振り上げてるよ。腕がプルプルしてる。降ろせばいいのに。会話が終わるまで待ってるなんて律儀だな……。
「何が目的だ?」
俺が覆面男に声をかけると、覆面男はあごでディアナを指す。
「決まってるだろ。この歩く宝石をいただくんだよ」
「いやだ、そんな……。私が宝石のように美しいだなんて」
ディアナは頬に手をあててもじもじする。
「言っとくけど、それは比喩じゃなくてそのまんまだからな。お前どんだけ宝石身につけてんだよ! それじゃ盗賊じゃなくても変な気起こすわ!」
「何よ!? 私が悪い訳?」
「まあともかく、狙いがその女なら、この婆ちゃんは見逃してくれるんだろ」
俺の言葉に、覆面男はあっさりとうなずいた。
「かまわねえよ。お年寄りは大事にしないとな」
あれ? 意外とこいつ良いやつ? 俺は後ろにいる婆ちゃんに振り向き、逃げるよう告げた。婆ちゃんは俺を拝みながら逃げていく。
……以外と足が早いな……。いや、いいんだけど。
「俺だってな、こんなことしたくないんだよ」
そうこうしている間に、盗賊が語り始める。
「でも、俺のフィアンセのプシュケーちゃんが、病気のお母さんのために借金をしてるんだ。俺がその千ドラクマを用意すればすぐに結婚できるって!」
「「騙されてるだろ、それ」」
俺とディアナの声がはもった。
「なんだと!? 俺たちのことを何も知らないくせに!」
「知らねえし、知りたくもねえよ。でもそれ絶対騙されてるわ」
「そうよそうよ、大体プシュケーってのも源氏名でよくある名前だし」
あ、そうなんだ。すげえ要らない異世界豆知識だけど。
「うるせえ! プシュケーちゃんを馬鹿にするな! 俺が店に行くと、俺だけにいつも笑いかけてくれる優しい子なんだ!」
「ぐひゃあっ」
盗賊が斧を振り回す。ディアナがすんでのところで避ける。
「待て落ち着け! プシュケーちゃんも、盗みで作った汚い金なんか喜ばないはずだ! 二人で幸せになるなら、まっとうに働けばいいだろ?」
「あら、それはないわ。プシュケーとかいう女にとってはこいつはただの金蔓だもの。お金だったらどんな手段で作ったお金でも気にしないわよ」
「お前どっちの味方だ!」
「私は嘘が嫌いなの!」
俺たちが言い合いしていると、盗賊は嫌な笑い方をする。
「俺はプシュケーちゃんと一緒になれるなら、なんでもいいんだ。だからその宝石、全部置いていけ!」
「嫌よ!」
ディアナが自分のネックレスとブレスレットを握りしめる。
「じゃあ、俺たちの幸せのために死ねえええ!」
覆面男がディアナの頭に向かって斧を振りかざす。




