表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

レイヤーさんの無断お触り、ダメ絶対。

「いやだから、頼んでねえよ! どこの押し売りだよ!? 玄関先に押しかけてくる悪質セールスマンかお前は?」

 自称神様は俺の言ってることを無視してにやっと笑った。

「感謝しいや」


ていうか、こいつ本当に神様か? お願い、俺の話を聞いて!


「あ、あとな。大事な話なんやけど、自分のチート能力はな……」

 そこで神さま(仮)は言葉を切った。しばらくの沈黙。おーい。もしもーし?

「言っちゃだめだって」

 こつんと頭を叩いて舌を出す。てへペロ☆か! 可愛くねえんだよ、おっさんがやってもよ! おっさんのてへペロ☆なんて誰得? ていうか誰と話してるんだ、お前は?


「あとな、もう一個」

 急におっさんはまじめな顔になる。

「自分が異世界から転送されたことは、誰にも知られたらあかん」

「なんでですか?」

「そら決まってるやろ。そんなんあるって知られたら、希望者殺到や。神様に異世界転送頼む人が増えよる。これ以上増えると鬱陶しいねん」

 迷惑やねん、ぶっちゃけ。

 自称神様は真顔でそう言い切った。


「せやから、自分が異世界から来たちゅうことを、誰かに話そうとすると……」

 おっさんが顔を近づける。

「どかん、や」

「どかん?」

「爆発する」

「何が!?」

「そんなん、あれや。色々や。あっちこっち爆発するで」

 一か所じゃないんだ。ていうかあちこち、ってどこだ。


「ま、そんな訳やから」

 おっさんは、頬を上げてにいっと笑った。

 その顔は、どちらかと言うと、いや、はっきり言ってかなり不気味だった。


「頑張りや」

 辺りが真っ暗になる。暗闇におっさんの笑顔だけが浮かぶ。そしてすうと闇に溶けた。

 なんかすごく不吉なんですけど。

「嫌な予感しかしねえよ!」


 思わずこぶしを握って叫んでしまった。返事はない。真っ暗なままだ。

 しばらくそのまま立っていたが、真っ暗なまま何も起こらない。

 あれ? 画面がぐるぐるーっと渦巻くとか、急に視界が開けて森に出る、とか、こう、もっと何かないの?



 仕方がないので、手探りで歩き始める。しかしどれだけ歩いても何もない。前に突き出した手には何の感触もないし、辺りは相変わらず暗闇のままだ。

そのうち、歩いているのかなんなのか感覚がなくなってくる。


「おーい、神様? さっき言ったことは取り消すよ? ちょっと言い過ぎたってー」

小声で呼びかけてみる。そしてさらに三、四歩足を踏み出したところで、何かにつまづいた。


「うわっ」

身体が傾く。転ぶのを阻止しようと、夢中で手を前に出す。そのまま体当たりをするような形で倒れこみ、暗闇が左右に開いた。


白い光が目を焼く。


「ぐえっ」

「いたたたた……」

 身体を起こそうとすると、手に柔らかいものがあたる。

 俺は誰かと一緒に道に倒れこんでいた。

「あ、す、すみません!」

 慌てて起き上がる。俺の下敷きになっていた女性はまだ倒れたままだ。俺は手を貸そうと腕を伸ばす。

「触らないで」

 強烈に拒否された。あ、そうですか……。


 女性は自分で立ち上がる。

「本当にすみませんでした。怪我はありませんか?」

 俺はもう一度謝りながら、目の前の女性を見る。

 大理石でできたような白い肌。空や海のような、雄大な自然を思わせる深い青い瞳。輝く金色の長い髪。

 そして長く尖った両耳。



 なんだ。外国人のレイヤーさんか。イベント帰りだろうか?


「あなた、どこから来たの?」

 エルフのコスプレをしたお姉さんが腕を組む。宝石を散りばめた金のブレスレットが揺れる。ネックレスもイヤリングもやたらと豪華だ。宝石はまさか本物じゃないよな? まさかな……。はは。


「ちょっと待ってください。その前に俺から質問させてください」

 ここはどこですか? とか何年何月何日ですか、とか色々聞きたいことがある。が、その前に、どうしても聞きたい。



「その耳は本物ですか!? 触ってもいいですか?」

「え?」

 こんなにリアルなエルフ耳、どうやって付けたんだろう。

「それにしても、すごい完成度ですねー。この耳、柔らかいし、体温もある……って」

「ぎょわああああっ」

「えええええ!?」

 俺たちは同時に叫んだ。ちなみに、「ぎょわあああああっ」と叫んだほうがエルフのほうな。顔に反して悲鳴が可愛くない。


 ていうか、そう、エルフだよ。この耳、本物!

「な、なにをするの!?」

「本物!? いや、ありえないって!」

 エルフは耳を触られたことに、俺は触った耳に、驚いていた。

「お姉さんは一体何者なんですか?」

「それはこっちのセリフよ! 初対面のニンフの耳を触るなんて信じられない!」

 エルフは耳を手でかばいながら顔を真っ赤にしている。

 確かに。初対面の女性の耳を触るなんて、マニアック過ぎる痴漢以外の何者でもない。



「すみませんでした」

 俺は頭を下げる。だが、しかし……。俺はちらっとエルフを見る。

 本物か? 本物なのか?? ということは俺、本当に異世界に転送された?


「あのー、今ニンフって言いました?」

「それが何よ? 見てわかるでしょ、私がニンフ族だって」

「エルフではなく?」

「そう呼ばれることもあるけれど、正しくないわね。私たちは由緒正しき神に仕えるニンフ族よ」

 ニンフのお姉さんは胸を張って自慢する。


 ということは、やっぱりコスプレじゃないんだ。いや、もしかしたら思い込みの激しい、現実逃避が行き過ぎた人なのかも……と、俺はわずかな希望にすがる。


「それで、ここはどこなのでしょうか……?」

 俺はあたりを見まわす。木に囲まれた一本道の上に俺たちは立っている。木立の中に道があるが、昼間の日差しが差し込み、とても明るい。どこからか鳥のさえずりが聞こえるのどかな風景だ。周りに家などの建物はなにもない。


「俺たちは今どこにいるんでしょうか」

「道にいるわよ」

「それは見たらわかる」

「えっ、そうなの?」

 ニンフは心底驚いた顔をする。馬鹿にしてるのかお前は。


「いえ、だって、何もわからないって顔をしているから。記憶喪失なのかしらって」

「ええ、まあ、そんなところですかね」

「それにあなた、突然現れたように思えたんだけど」

 お姉さんは冷たい目で俺を上から下まで見回す。


あの狸野郎! 異世界転送をばらされたくないなら、もっと自然な登場の仕方にしてくれよ! こっちの世界に赤ん坊として生まれるとか、どっかの家のベッドで目覚めるとかさあ! もっとナチュラルに! まるで空気のように自然な感じで!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ