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無能魔法少女  作者: 森元雄牛
第1章 知らない場所
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第16話 治療




───!!


「記憶を戻せるんですか!?」



驚きの表情を浮かべる私に肯定の頷きを返すセディス。


治療師とは傷の治療だけではなく記憶喪失も治す事ができるのか…!


知りたい、失った記憶を取り戻したい、記憶が戻れば自分がなぜこの世界にいるのかが分かる。

どうやって、どんな理由があってここにいるのか、そして、あの戦いの結末を…



「先に言っておくけれど、絶対に記憶が戻る、と言うわけじゃないからね。成功率はだいたい六割弱かな?王都の医療部門で働いていた時に何度か治療の経験があるよ。

この国も何度か戦争があってね、戦場で受けたショックが元で記憶を失う人っていうのは結構いるものなの、私は王都や戦場でそんな兵士の治療もしていたのよ。」



セディスは先程魔物の話しをしていたときとは別人のように落ち着きを取り戻し遠い目をして語る。


長年王都で働いていた事はリタから聞いていたけど…王都の、ここと同じような治療院で一般の患者を診ていたのだと思っていた。まさか従軍していたとは…軍属だったと言う事か?


何にせよ…失われた記憶が戻る可能性があるのなら治療を受けたい。


「ぜひ治療をお願いします、記憶が戻ればロアの森の近くでなぜ倒れていたのかも分かるはずですから。」



それが分かればこの違う世界から元の世界へ戻る方法も…もしかしたら分かるかもしれない。



「そうね、記憶が戻ればサキさんの言う[影]がいる場所も分かるのでしょうし…いいよ、治療してあげる。ただ、治療に必要な魔法器具を少し調整しなければならないから明日以降にまた来てくれる?」


「分かりました、必ず伺います。」



セディスは頷き椅子に深く腰をかけ直す、



「それはそうと、ちょっと気になる事があるの。サキさんあなた魔術師よね?魔法を使うときに何か違和感を感じないかしら?」


「魔術師って……なぜそれを…?」



ステラ商会の食堂で打ち明けるまで魔法の事はひた隠しにしてきたつもりだ、それなのに…なぜ魔法を使える事を知っている?まさか…さっきの問いかけは誘導尋問の類だったのか?私はそれにまんまと引っかかってしまったと…?

この世界では魔法を使える者が迫害を受けない、それが分かった後だからいいようなものの、もしその前だったら……


考え込む私の様子を見てセディスが微笑む。



「そんなに警戒しなくていいのよ?実はね、ステラ商会へ往診に行ったときに診察の一環であなたの魔力の流れを視させてもらったの、[視る]と言うのは治療魔法の基本で視診の事ね。それで、魔力量を視てあなたが魔術師だと言うことは分かったのだけれど…魔力に一部おかしな所があって、それが気になるのよ。」



魔力を見る事ができる?そんな技術は今までに聞いたことがない…

でも、もし本当にできるのだとしたら…話の辻褄は合うか…


この人は魔物好きの変人かと思っていたけど〔治療師〕と名乗るだけあってその分野に関しては高い技量を持っているのかもしれない。



「私の魔力がおかしいとは…どう言う事でしょうか?」


「そうね…サキさんにも分かりやすいように説明してあげる。」



セディスは背後の棚の上に置かれていた木彫りの亀とアヒルを両手に持つと私に向き直った。



「私の魔力をこの亀さんとしましょう。」



右手に持った亀を示す、突き出た頭部がゴツゴツしていて商会へ荷台を引いてきた亀になんとなく似ている。



「亀さんの魔力が体内に満ち亀さんの魔法を放出する。ここまではいい?」



なぜ亀なのかという疑問は置いておき私は頷く。



「サキさんの魔力の場合、亀さんとアヒルさんの魔力が体内に満ち亀さんとアヒルさんの魔法が出ていると思うの。」


「私の中に…魔力が二種類あると言う事ですか?」


「そう、二種類。私もこんな症状は初めてで少し戸惑っているのだけれど…因みに、二つの魔力の比率はアヒルさんを一とすると亀さんが五ね。こんなに魔力量が多い人は珍しいのよ、それでね、普通なら亀さんだけでいいのにこのアヒルさんの魔力が異質で何で存在しているのか分からないのよ。魔法を使っていて特に問題が無いのであればあまり気にする事もないと思うけれど…」



『二種類の魔力…?〔違う世界〕から来たからなのか?それに…魔力量が多いだなんて一度も言われた事がないのに…本当なのだろうか?何かの間違いでは…?』



当のセディスはそんな疑いの眼差しを向けられている事には全く気付かないようで私の胸の辺りに視線を泳がせながら顎に指を当て呻っている。



「うーん、やっぱり気になるからもう一度視させてもらってもいいかしら?魔力を高めてもらって…そうね、体の中をまんべんなく循環させる感じでお願い。」


「はい、こう…ですか?」



疑いは晴れないものの…本当に魔力が見えるのであれば悩みの原因が判明するのかもしれない…


どうして?なぜ私だけ…?そんな疑問をずっと抱いてきた…抱き続けてきた。

自分の魔力の事を知りたい、もしほんの少しでも要因が掴めるのであれば…

その思いが、縋るような願いが、疑念を拭い去り魔力を巡らせる。



「そう…んん?違うよ、今動かしているのはアヒルさんの魔力、亀さんの魔力を動かして。」



違う…?いつものようにではだめと言う事?

指摘されている亀さんの魔力が全く分からない、私には感じ取れない…



「ごめんなさい…ちょっとやり方が分からないです。」


「やり方が分からない??もしかして…今まで亀さんを使っていなかったの?」



珍妙な物でも見るように首を傾げながら私を視ている。


魔力を使っていない…?わからない…元の世界では日常的に使っていた、それにこの違う世界にあってもなんの問題もなく使えている。

それが全てセディスさんが言うところのアヒルさんの魔力であったとするのなら…認識すらできなかった亀さんの魔力はずっと使っていなかったのか…?



「分かった、それじゃ両手を上向きにここに出してもらえる?」



セディスに言われるまま両方の手の平が見えるようにテーブルの上に置いた。



「私が魔力のイメージを送るからサキさんはそれに亀さんの魔力を同調させてみて、同じ種類の魔力だから分かるはず。動かし方はアヒルさんの魔力でできているからそれと同じね。」



そう言って彼女は私の両手に自らの手を重ね合わせる。



「はい、それじゃいいかしら?目を閉じて…集中、イメージを感じ取って…分かるかしら?」



目を閉じ重ねられた手の平に意識を集中させる。

最初は分からなかったが、しばらくするとセディスの方からなんとなくイメージが伝わってきた。



「ぼんやりとですが…分かります。」


「そこまでは良さそうね、それじゃそのイメージに同調させる感じで自分の中の亀さんの魔力を動かしてみて。」



亀さんの魔力…

一瞬商隊の亀車を思い出してしまったが首を振りすぐにそれを打ち消す。



『亀さんの魔力…亀さんの魔力…』



しばらく集中するも…亀さんの魔力が自分のどの辺りに存在しているのかさっぱり分からない。



「すみません、やっぱり亀さんの魔力を感じる事ができません。」


「だめ?そうね…それじゃ私の魔力をちょっと流してみるよ?」



重ねた手の平から流れ込む魔力を感じ取れる…腕がじんわりと温かい。



「亀さんと同じ種類の魔力を流し込んでいるから自分の中のこれと同じ魔力を探してみて。」



そう言われ、目を閉じたまま自分の中の魔力に集中する。

しかし…感じられるのはいつも使っているアヒルさんの魔力のみ、相変わらず亀さんの魔力を感じ取る事ができないでいる。


その様子を視ていたセディスは眉を寄せ痺れを切らしたように私の手をがっちりと掴んだ。



「あなたの魔力はなかなか頑固だね、ちょっと強めに流してもいいかしら?」


「えっ?ちょっと待っ…」



そう言いかけた瞬間セディスの手から大量の魔力が流れ込んで来る。



『うわっ…!?』



体中の魔力が無理やりかき回される!

体が傷付けられるようなことはないが全身がぞわぞわして決して気持ちのいいものではない。


セディスはしばらく作業を続けた後、ふぅと一息ついて魔力を止めた。



「それじゃもう一度目を閉じて集中、私からのイメージに同調、今度は分かるでしょ?」


………………………


───!!


『魔力が…!』



信じられない…さっきまで感じ取ることのできなかった魔力が……確かに私の中に存在していた。

今までとは比べものにならない魔力量…!魔法に目覚めて以来自分の中にこれだけの魔力を抱えるのは初めての事、驚きを通り越し戸惑いを感じている。



『凄い…!ずっと…ずっと悩んでいたのに…それを…こんなにも簡単に…!』



ゆっくり、ゆっくりとではあるが、しかし確実に今まで自分の中で滞っていた魔力が動き出している事が分かる。

魔力の増加が本当の事なのだと実感するにつれ戸惑いは驚きにそして体の奥から込み上げる昂ぶりへと変化していった。


セディスは目覚めた魔力の動きを追い指示を出す。



「そう、そのイメージ、そのままゆっくりでいいから体の中を動かしてみて。」


『ゆっくり…ゆっくり…』



のっそりと、次第に動き出したそれを体の隅々まで行き渡るようにゆっくりと動かしてゆく。

確かに、今まで使っていたアヒルさんの魔力よりも大きい、セディスさんが言うには五倍だったか?動かすのにも一苦労だ。



「それでいいよ、今度はもう少し早くしてみようか?」


『早く…早く…』



もう一つの魔力、その全容を今はっきりと感じ取れる。



『…これが…私の魔力……!』



いつも使っている魔力を循環させるように滑らかに体の中を巡らせる。

全身に今までに無い魔力の漲りを感じる…これはっ…!



『あっ…ああっ!』



体から魔力が溢れそうだ、いや…溢れてしまっている。

目を開くと私の体から青白い魔力の粒子が立ち上っている…!



「これはまた…凄いね…」



立ち上る光を目にしたセディスが驚嘆の言葉を漏らした。



「それじゃ魔力を巡らすのをゆっくりにして抑えてみようか?」



息を吐き魔力を巡らす速度を再びゆっくりに戻してゆく、それに伴い魔力も落ち着き体から立ち上る粒子も消えた。



「いや、驚いた。サキさんは今まで本当に亀さんの魔力を使っていなかったのね?」


「はい、私も驚きました…私にこんな魔力があったなんて…でも、どうして今まで使えなかったのでしょうか?」



そう…今新たに動き出した魔力があれば私の過去は違うものになっていたのかもしれない…



「それは分からない、亀さんの魔力の流れが完全に止まっていたとしか言いようがない。あと、分からないと言えばサキさんの中のアヒルさんの魔力もね、今改めて視させてもらったけど明らかに私達の魔力、つまり亀さんの魔力とは違う、異質なのよね。」



一つ解決したかと思ったら分からない事がまた増えてしまった…



「それじゃついでだから亀さんの魔力に慣れるためにもさっき話した魔物の混沌を[視る]方法、要は視診なんだけど、それを覚えちゃおうか?アリーシャからの手紙に書いてあったけどサキさんゴブリンとやり合うかもしれないのよね?それなら覚えておいて損は無いと思うから。」



私には読めないあの手紙にはそんな事まで書いてあったのか…アリーシャさんは私が依頼を断らないと見越していたのか?それとも…

いずれにしろ魔物とそうで無いものの見分けをつけたい私には覚えておきたい技術だ、断る理由は無い。


私が頷くのを確認すると、しばらくセディスによる講義が行われた。



「はい、それじゃ私の魔力を視てみて。」



指示に従い目に魔力を集め集中するとセディスの体に重なりぼんやりと青白く流動的な物が見える。



「ぼんやりとですが、青白い光が見えます。」


「凄いね、もう見えるの?かなり筋がいい。そんなに早く出来る人はなかなかいないけど…サキさんと相性がいいのかな?」



セディスさんの指摘通り魔力で肉体強化を行う私との相性はいいのかもしれない。


実際、昨日監視塔からゴブリンを見たときのように魔力を集中させ視力を高めたりある程度夜目をきかせる事はできる。

基礎が出来ているような状態なのだから飲み込みが早いのは当然なのかもしれない。



「もう少し頑張れば魔物を視たときに混沌も見えると思うよ。魔物の胸の辺りに纏わり付いている黒っぽいモヤね、その辺りに集中して視てごらん、後は練習あるのみ。」



セディスは優秀な生徒に満足そうに微笑む。



「サキさーん、いますかー?」



その時、待合室の方からリタの声が聞こえてくる、どうやら買い出しが一通り終わって迎えに来てくれたみたいだ。



「はーい!ちょっと待って、今行くから。」



リタに返事を返しセディスに向き直ると頭を下げた。



「セディスさん、色々とありがとうございました、他に聞きたい事もあったのですがまた記憶の治療の時に質問させて下さい。それで、治療費は幾らでしょうか?」


「魔物の話しができたから治療費は無しでいいよ、久し振りに楽しかったもの。」


「いえ、そう言うわけには…」


「え?それじゃ明日の朝まで魔物の話しに付き合ってくれるの?」


「いや、それもちょっと…」



そんな問答を繰り返しているとき……何だろう?遠くから金属が打ち鳴らされるような音が聞こえてくる。



「ん?警鐘?よほどの事が無い限り鳴らさないはずだけど…」



セディスが怪訝な顔をして音の鳴る方へと視線を移す。



「この方向は…北門みたいね、何があった?」


『北門…?まさか…』



北門と聞いて緑色の魔物の姿が頭をよぎるが…アリーシャさんの話しではまだ猶予があったはずだ。


『何が起こったにせよ…買い出しはまた後にした方が良さそうだな。』


一度商会へ帰ろうと椅子から腰を浮かせかけたとき…



「ゴブリンだー!ゴブリンが攻めてくるぞー!」


「自警団は武装して北門へ向かえ!」


「戦えない者は屋内に退避!退避だ!」



男達の緊張に満ちた叫声が建物の中まで聞こえてきた。



「サキさん!商会に戻りましょう!」



青い顔をして部屋に飛び込んできたリタ、彼女をヘトキアへ送り出せなかった事を口惜しく思う。

今、アリーシャさんもきっと同じ思いをしていることだろう。



「サキさん、行くの?」


「はい。」



席を立ち礼を述べた後、少女達は治療院を出て商会の方向へと走って行った。



それを見送り一人部屋に戻ったセディスは椅子に腰を掛けながら日の当たる裏庭を眺める。

先程、ゴブリン襲来の知らせを耳にして纏う空気が変わった黒髪の少女の事を思い出しながら…


テーブルの上のカップからお気に入りのハーブティーを口に運び薄く吐息を漏らす。



『あの子は…まだ若いだろうに、どれ程の修羅場をくぐってきたのか…』




ありがとうございます!

最近忙しいため更新ペースが少し遅くなると思います。

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