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無能魔法少女  作者: 森元雄牛
第1章 知らない場所
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第13話 お金




リタと一緒に仕事をこなしながら先程の話しの内容を思い返していた。



この違う世界での魔法の認識を知ることができたこと、それもあるのだけど…そもそも人を騙したり隠し事をするのはあまり好きではない、それが恩人に対してであればなおさらだ。


まだ解決しなければならない問題が山積しているけどアリーシャさんとリタに打ち明けたことで少しだけ気持ちが軽くなったような気がする。



それにしても…このラーズ王国では魔法を使える者が疎まれないと分かった事は大きな収穫だ。

むしろ魔法を使える者-魔術師が憧れや尊敬の対象だと言う、元の世界ではとても考えられない事だが…それがこの国の常識だとすれば魔法を隠す必用がなくなるわけだ。

商会を営んでいるアリーシャさんの知識であればこの国の一般常識と考えてまず間違いは無いだろう。


後は…魔法を使える人、可能であれば魔術師に話しを聞く事ができれば懸念は完全に払拭されるのだけど…



仕分けの仕事と倉庫内に散乱した穀物の片付けを終え食堂へ戻ってきていた。



『さて、それはそうと…問題はこれからどうするかだな…』



リタが淹れてくれたお茶を啜りながら考えを巡らせる。


昨日この場所で話し合ったばかりだけど…日本の情報を得るという当初の目的はヘトキアへ行っても果たせないのではないだろうか?それとも何かしらの手掛かりを得ることが可能なのだろうか?


その事についても誰かに聞いてみなければならないか…

しかし…誰に…?誰に聞けばいい…?

自分でもよく分からない今置かれているこの状況をどう説明する?

記憶さえ戻れば…そうすれば森の近くに倒れていた原因が分かるはずなのに…それさえ分かればおのずと戻り方も分かるはずだ…



食堂のテーブルの上に視線を落として考えに耽っていると二階から降りてきたアリーシャに声をかけられた。



「仕事終わったみたいだね、お疲れ様。給金を支払うから私の部屋に来てもらえるかい?」



そうだった…色々あってすっかり忘れていたけどお給料がもらえるんだった。



「リタ、悪いけど残りの伝票の整理をお願いしてもいい?」


「はい、やっておきます。」



リタは伝票を取りに事務所の方へと向かう、さっき私が穴を空けた薪を胸に抱きながら…

あの薪、どうするのか聞きたいところではあるけれど…今はアリーシャさんに呼ばれている。




「そこにかけて。」



間取り的には商会入口ドアを挟み食堂の反対側に位置する執務室、アリーシャの後に続き部屋に入ると部屋中央にある革張りのソファを勧められた。


食堂の硬い木の椅子とは全く違う座り心地の良さを感じながら部屋の中を見回す。

ここは商談や接客などに使われるのか私の寝泊まりしている部屋よりもかなり広く商会建物内のどこよりも豪華な調度品や家具などが備えられている。

壁には西洋風の城が描かれた風景画が、チェストの上を見れば私などには価値の計り知れない花瓶や置物などが幾つも並べられている。

足元の床には─おそらく高価な─絨毯も敷かれ土足のまま踏みつけるのが申し訳なく思えるほどだ。


アリーシャは窓際にある執務机の引き出しの鍵を開け-ここからでは見えないが-中から小さな袋と箱を取り出した。


それを手に持ちテーブルを挟む形で私の正面にある飴色の光沢を放つソファに腰を掛ける。



「お待たせ、これが今日の給金ね。よく働いてくれたってリタから聞いたよ。」



そう言って小さな袋を私の目の前、顔が映りそうなほどよく磨かれているテーブルの上に置いた。



「ありがとうございます。」


「それと、これが荷崩れを防いで商隊の者達を助けてくれたお礼。」



テーブルの上に置かれていた箱の蓋を開き中から金色の丸く平たい物を幾つか取り出すと袋の横へと置いた。



「さっきの荷崩れの件は本当に助かったよ。あの棚が倒壊していたら商隊の者達に死傷者が出ただろうし商品も全て駄目になっていた、それに建物も被害を免れなかっただろう。だからこの金貨は遠慮無く受け取ってほしい。」



……金貨?



「あの…」


「んん?金貨十枚じゃ少ないって言うのかい?」



眉をひそめるアリーシャに慌てて首を振る。



「いえ、少ないとかではないです、その…金貨という物がよく分からなかったので…」



私の言葉を聞いて少し怪訝な顔を覗かせるも、「ああ」と呟き納得したように頷いた。



「サキの故郷とは貨幣が違うんだね?それじゃ鉄貨・銅貨・銀貨も…分からないのかい?それじゃ教えてあげるから、その袋を開けて中身を出してごらん。」



アリーシャに言われ先程目の前に置かれた小袋を手に取る。

よく見ると袋は布ではなく何かの動物の革で作られているようで、袋の口を縛ってある紐も革でできているようだ。

結んである革紐を解き中身をテーブルの上に取り出した。



金属音を立て出て来た物は金貨と似通った形をした、銀色の物が五枚、銅色の物が二枚とくすんだ鉄色の物が八枚であった。


それを一種類づつ指差しながらアリーシャが説明をする。



「いいかい?この鉄で出来ているのが鉄貨、銅色の物が銅貨、銀色の物が銀貨、そしてこっちの金色の物が金貨だよ。

この辺りの国では基本的にこの四種類の通貨が流通しているんだ。その他にもあるけど、あまり一般的ではないから今は覚えなくていいよ。」



そうか、これがこの世界のお金か…



それぞれの価値は、


鉄貨十枚が銅貨一枚

銅貨十枚が銀貨一枚

銀貨十枚が金貨一枚


だと言う、とても覚えやすい。



「アリーシャさん、このお金でどの程度の物が買えますか?」


「そうね、この街だと…小さめのパン一つがだいたい鉄貨五枚、大きめのパンは一つだいたい銅貨三枚、宿屋一泊が銀貨五枚。それで…そこのランプが金貨五枚ってところだね。」



執務机の上にあるオイルランプを示す、金属部分に精巧な細工が施されていていかにも高そうだ。



日本円に置き換えるとどうなるのか?


鉄貨五枚で小さめのパンが買えると言っていたから…

鉄貨一枚十円位かな?



そうすると、


銅貨一枚は百円

銀貨一枚は千円

金貨一枚が一万円ってところかな?


ちょっと強引な気もするけど…まあそんなに間違ってもいないだろう。


と言うことは、


今日のお給料が五千二百八十円、荷崩れのお礼が…十万円!?



「この金貨ちょっと貰いすぎだと思いますけど…!」



私がテーブルの上に身を乗り出すと笑いながら手で制する。



「いや、それは正当な金額だと思うよ?だって考えてもみなさい、あの棚に積んであった商品が全部だめになったら幾らすると思う?それに建物に被害が出たら修理に幾らかかる?その上、人死にまで防いでくれたんだ、受け取ってくれればいいよ。私ら商人はね金にうるさいけど対価はきっちり払うんだ、それを渋る奴は間違いなく三流だね。」



私としては大したことをしたつもりがなかったし散々お世話にもなっていたから金貨はいただけないと何度か断ったのだが、半ば押し付けられるように受け取る事になってしまう。

テーブルの上に出されていたお金を革袋へしまおうとしてふと気付いた。



「あ、そうだ、これで天井の修理代払えますか?」



受け取ったお金をそのまま差し出す私を見てアリーシャは商売人の笑みを僅かに見せる。



「修理代は謝礼金からちゃんと差し引いてあるよ、だから穴の件はもう気にしなくて大丈夫、今渡したお金は旅の資金に充てなさい。」


「ありがとうございます、建物を壊して本当にすみませんでした。」



頭を下げると同時に少なからず安堵していた。


すぐに帰れると思っていたから後で弁償してもらえばいいかと安易に考えていたのだが、それが叶わない事態に陥ったため天井と屋根の修理代をどう工面すればいいのかずっと悩んでいたのだ。

それが解消された今、少しだけ肩の荷が下りたような気がする。


それに、これだけお金があれば当分は困らないはず、旅へ出たとしてもすぐに野垂れ死ぬ事は無いと思う。



「サキ、少し話をしたいけど構わないかい?」



テーブルの上のお金から顔を上げるといつになく真剣な表情のアリーシャがじっと私を見つめていた。




ありがとうございます!

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