虜囚 5
「済まなかったな、紫苑、なかなか王を説得できなかった」
鄭眼は二人が出ていくのを見届けてから呟くようにそう言った。
「鄭眼様・・・」
「早く皇子をおろしてさしあげろ」
屋敷に仕える使用人が即座に動いた。手首の戒めはとかれそっと床に降ろされる。
誰一人、皇子を奴隷として扱うものはいない。
主の芝居であることは皆、重々承知していたのだ。
床に降ろされた皇子はぴくりとも動かない。
背中にうけた無数の傷跡は薄紫色に変じ無残な有様だったが
致命傷にまでは至っていないようだった。
今、目が覚めたとしてもただ、痛みを感じるだけだろうから気絶しているのは
むしろ好都合だったかもしれない。
「アッ・・・」
鄭眼から渡された傷薬を塗ろうとして皇子の背中に触った紫苑は思わず声を漏らした。
体が熱を発している。
それから三日、三晩、皇子は高熱に晒された。
意識が戻ったのは三日後の朝だった。
三日の間、皇子はずっと夢を見ていた。
あの宮殿で暮らした屈辱の日々を
久しぶりに義兄と義姉にあった事で
思い出してしまった。
これは、夢だ。そうわかっていても鮮明によみがえった記憶は
脳裏からなかなか離れてくれない。口惜しさと辛さで
涙がこぼれる。
紫苑は皇子の目が覚めたのに気が付いたがしばらくの間
声をかけることができなかった。
むせび泣く皇子の姿を見ていられなくてそっと部屋をでていく。
今は一人にしておくしかないのだとそう理解していた。