虜囚 3
ピシッと鞭の音が響いた。
もう何度目に振るわれた音かわからない。
鞭が当てられるたびに傷みと衝撃で体がのけぞる。
声を殺していたが息が上がっていくのはどうしようもなかった。
白い背中に何本のもの傷が走り、うっすらと血がにじみでている。
部屋の隅に座り込み
あふれ出る涙を拭いもせず、目を見開いてその光景を見つめている紫苑。
貴人の随従としてこの部屋にやってきた5人の家来たちは、
あまりの理不尽さに皆、目を閉じて顔を伏せていた。
誰も、この二人の狂人を止められないのだ。
「よいざまよのぉ、緑華、此度の戦で必ずそちは死ぬものと思っておったが
、まさか、敵将を倒して戻ってくるとはのぉ、まこと驚きじゃ」と虎狼がいう
「そなたも運がない、
生きて帰らねばこのような責め苦を受けることもなかろうに」
後頭部をつかまれ、ぐいっと顔を上に向かされ、耳元で玉葉が囁く。
合点が言った。
過去の戦において常に前線に立たされ、死地に赴かねばならなかった理由。
実の父親に疎まれての事だったのだ。
この折檻も父の指図によるものだろう。
もう、よい、このまま死んでも、諦めの境地で目を閉じる。
「そなたはいつも静かだの。たまには泣いて見せよ。わめいて見せよ。
そして命乞いをするのじゃ。でなければ面白味がないではないか、
見よ、緑華、そなたの為に泣いてくれる女がおるというのに」
言われて目を転じると泣き顔の紫苑が目に入った。
「・・・紫苑、泣かないで・・・私の為に誰かが泣くのはつらい・・・」
苦しい息の下で女官に告げる。
「いいえ、いいえ、緑華様、あなた様はこのように誰にも愛されずに
過ごしてまいったのですか?・・・おかわいそうに、緑華様」
紫苑の言葉が胸をえぐる。
自分を可哀そうと思ったことはない。
もうずいぶん前にこの感情は捨て去ったものだった。
母が亡くなってから誰に愛される事もなかったのだから
しかし、紫苑の言葉が一滴の毒のように心の中に広がった
だめだ、自分を憐れみそうになる。
憐れんで泣きそうになる。
また鞭が飛んだ。
緑華は気を失った。
紫苑は思った。
なんとかしなければ、このままでは本当に緑華は死んでしまう。
そうだ、鄭眼様ならこの場を収めることができるかもしれない。
鄭眼様に知らせなければ・・・意を決して顔をあげ立ち上がった。
「その辺にしていただこう。商品に傷をつけられてはたまらない」
その時、開け放った扉の方から声が響いた