おやすみ
よる。
うちの家は、近所の中では比較的新しい一軒家なんだ。
家の中からじゃあんまりよくわからないね。
ぼくは、掛布団をどけてベッドの上で上体を起こす。
パジャマのワンポイントは人気ゲームのキャラクターだ。いいだろう?
カーテンを少し開けて外を見ると、まっくらだ。
向かいの家の屋根の上に浮かんでいるのは月じゃないよ。
今日は空が曇っていて、頭上の天体たちはこの町を見ることができないはずだから。
常夜灯のエレクトロルミネセンスでだいだいに染められたカーペットに足を踏み出すと、ネコが開けたのだろう部屋のドアのすきまから、廊下がこちらを覗き込んでいる事に気づく。
まあ、しょうがないよ。ネコのやる事だもの。
ぼくは、ドアを閉めて、片付いた自分の部屋を後にする。
短い廊下を後にすると、見えてきた階段を足元に気を付けながら下りた。
ぼくは、最近気にしていることがあるんだ。
この家の事なんだけど、なんかお化け屋敷だって言われるんだよ。
ああ、近所の人たちだね。
悪い人じゃないと思うんだけど、うそをついているなら悪い人になるのかな?
実際のところどうかって? どう思う? 全然さ。
全くお化けなんて出ないよ。
今だって一階のトイレに向かっているんだけど、怖さなんて感じないよ。
しいて言うなら、前に住んでいた家と違って、一段一段が狭い階段くらいのものさ。
その階段だって、置いたビー玉が勝手に転がって行ったりして、面白いところもあるんだ。
一階の廊下の先にうっすらと玄関が見える。
玄関の扉には鍵が5つも付いているから、外から悪い人が入ってくることは絶対ありえないよ。
それに一階の窓にはてつごうしっていう上り棒みたいなのが付いているから、すごく細くないと窓からも入れないんだ。
ぼくでも無理だね。
トイレの電気のスイッチを入れて中に入る。ちょっと失礼。
さて、戻ろう。
トイレの電気のスイッチを切って、玄関の方を見る。まっくらで何も見えないのは、目が明かりに慣れてしまったんだろう。
お父さんとお母さんを起こさないようにそっと廊下をぬける。
そういえば、夕飯の時に引っ越しの話が出たんだけど何だったんだろう。
ぼくは、最近ようやくこの家にも慣れてきたばかりなので、なっとくいかないなあ。
どうせ引っ越し先も近所なんだから、ここでいいじゃないか。
パチッ
新しい家にはよくある家鳴りだ。時々怖い話大好きな人がラップ音なんて名前で呼ぶけど、サランラップのラップと関係があるのかな?
階段を上がると、足元を冷たい風が吹き抜けて行った。わずかに木のにおいがする。
またネコがやったのだろう、ぼくの部屋のドアが開いていた。
ネコはこんなふうに、勝手にぼくの部屋のドアを開けたり閉めたりするんだ。
ああ、イヌ飼いたいなあ。ぼくは、イヌの方が好きなんだ。
小っちゃいやつじゃなくてゴールデンレトリバーみたいな大きいのがいいんだけど、お母さんはペットは飼っちゃダメって言うんだ。しょうがないね。
部屋に戻ると、ベッドの横の窓を閉めて、ばさばさとカーテンをゆらしている風を追い出す。
窓の外はまっくらだ。
ぼくは、カーテンを閉めてベッドに戻る。
明日も学校があるから早く寝ないとね。
「おやすみ」
「おやすみ」