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神の学園-ビギンズ  作者: 西田幾
発端
1/1

闇の教室

 東京都のN市にある私立の高校、西皇子学園は今、闇と静けさに支配されている。

 深夜の学校は闇の深さが際立つ場所だ。学生、教員であふれている昼間との著しい落差がいっそう闇を深くするのだ。


 闇の中でひそかなため息を吐く者がいた。A棟校舎三階の二年B組の中、戸田恵理は形の良い唇から再びす―とため息を吐くと窓際に立った。


 恵理の心臓がどくどくと高鳴っている。これから何があるのか、それを考えると足が萎えそうになる。そして三月初旬、夜は冷える。

 白のパンツに赤のセ―タ―という軽装を恵理は後悔した。春の名のとおり昼間は暖かったからだ。恵理の体は恐れと寒さに震えていた。


 と、そのとき教室のドアがゆっくりと開き、大柄な影が入ってきた、そして恵理に声が掛かった。

「へえ―ほんとに来たか」

 同学年で同じ組の岩尾勇次が恵理に近づいてきた。グレ―の制服のブレザ―姿で今時、珍しい坊主頭で脂肪たっぷり太っている。


「金持ってきたか?」と勇次がそう聞くと、

「あなたにあげるお金は無い、そう云いに来た」と恵理はきっぱりと言った。せいいっぱいの勇気を振り絞ったのだ。


「ふーん」と勇次はヘラヘラ笑いながら恵理を見た。

 恵理はショートカットに、形の良い眉と唇、輝く瞳、身長は百六十センチというところだ。


 勇次の顔はドス黒い欲情で歪んでいるようだった。

「いいのか、終わらないぜ、いじめ」

「かまわない! お金は絶対あげない」と恵理は勇次を思いっきり睨んだ。


 勇次はにやりと笑った。

「だってさ、みなさん」と勇次が声をかけると、二人の人影が教室に入ってきた。


 何! と驚愕した恵理の前に三人の男子が並んだ。みな勇次と同じく制服のブレザーを着ている。恵理の知った者達だ。


 進学校で有名な西皇子学園だが、どこにでも落ちこぼれはいる。彼らは進学校にあって負け組で不良ということになる。数は少ないから目立つ存在だった。


「な、来たろ。こいつ気が強いんだ」と言ったのは長髪の渡会亮一だ。この中で亮一だけがB組ではない二年A組だ。神経質そうなしぐさで指の爪を噛んでいる。


「ちぇ、損したよ、戸田は来るわけないって思っていたのに」と舌打ちしたのは外岡忠だ。背が一八〇センチ以上だが痩せている。細い目がねっとり恵理を見ている。


「みんなで賭けをしたんだよ。戸田が来るかどうか、負けたのは忠だな」

 勇次がそう云うと、忠が言った。

「負けた代わりに最初は俺にやらせろよ」


 恵理は戦慄した。やらせろ! 私に何をするのか。


「いや、それはじゃんけんだ」勇次はにやにやしながら恵理を眺めながらそう云った。

「ジャンケンポン!」三人が一斉に声を挙げた。

「やった!」忠がガッツポーズを取った。


 恵理は恐怖に震えた。この人達まさか私を? いやここは学校だ。そんなはずがない。


「あなたたちいったい、どういうつもり?」恵理は悲鳴に似た声で三人に問うた。


「金を持って来なかったから。体で払ってもらうんだ」と勇次が平然と言った。

「警備員が来るわよ」

「警備員のおっさんはこの時間、仮眠をとっている」

 勇次がそう云った瞬間、恵理はドアに向かって走った。


「逃がさねえ!」勇次がすばやく恵理を追いかけた。そして恵理の腕をつかむと羽交い絞めにした。勇次は大柄で力が強い。恵理にはかないっこない。


「おい、こいつを抑えていろ」勇次の言葉で後の二人が恵理の体に群がった。


 恵理は力の限りに男たちの手に逆らった。しかし女一人の力ではどうしようもない。亮一が恵理の腹に拳を叩き込み、顔にビンタを見舞う。恵理の唇に一筋の血が流れた。


「おとなしくしな」勇次の言葉に恵理は愕然とした。私は強姦されるのか、まさか学校でこんな事されるなんて信じられない。恵理の眼に涙が溢れてきた。


 忠がズボンとパンツを脱ぎ、下半身を露わにした。

 勇次がにやにやしながら言った

「忠、いったい何回やるつもりなんだ?」

「才色兼備の恵理ちゃんだ。何回でもいいぜ」


 そう云いながら忠が恵理のパンツを脱がせショーツに手をかけた瞬間、いきなり「ぐぇ」と唸ると床に忠が転がった。その裸の尻は真っ赤だった。

 凄まじい蹴りが亮一の尻を襲ったのだ。

 そして闇の中に大柄な影が立っていた。


「西条てめえ!」勇次が唸った。

 勇次にそう呼ばれたのは西條誠だ。大柄でがっちりとした体がすっくと立っている。スポーツ刈りで端正な顔が今は怒りに満ちていた。西条誠は全く四人に気づかれることなく教室に入ってきたのだ。


「恵理から手を離せ!」と誠は凛とした声を発した。

 勇次が誠を睨みつける

「西条、引っ込んでろ」

「そうはいかない。恵理は幼馴染だからな」


「ヤロー」と怒鳴り勇次の右拳が誠を襲う。誠は素早くそれをかわすと、両の手で勇次の右手を抱え込むと腰を回転させた。一気に勇次の体は誠の背中に乗り。そのまま床に叩きつけられた。一本背負いだ。 床に二人の人間が転がっている。


 誠は、唯一残った亮一に向かって問うた。

「お前もやるか」

 唖然とした状態だった亮一はあわてて答えた。

「いや、俺はやらん」

「お前利口だな」と誠が言うと、

「そうでもない」と亮一は答えた。


 誠はにやり笑った

「じゃ、俺たちは出てゆく、恵理、ズボンをはけ」そう云うと誠は四人を睨みながら恵理と共に教室を出た。恵理は混乱の極みににあった。事が多すぎて、理性が追いついてゆけない。


「西条君、あたし……」

「今日は何も云うな。送っていくから家に帰れ。明日も嫌なら学校を休め。なるべく早く今日のことは忘れろ」

 短く、断定するような言い方に、恵理はかえってほっとした、よけいな、いたわりの言葉などこの際無用だからだ。疲れがどっと恵理を襲ってきた。


 体を誠に支えられながら、恵理は校門前に着いた。校門の傍らの警備員室に明かりは灯っていない。

「大丈夫か、門を乗り越えられるか?」

「大丈夫」

 恵理は誠の力を借りて門を乗り越えた。


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