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7 また誘拐されました


 そんなおり、佐々木くんから連絡があった。なぜか伝書鳩だった。まあ、私携帯電話もってないですけどね。賢いなあ、異世界鳩。


 鳩に指定された場所は、街の中心にある駅前だった。ファンタジーっぽい西洋風の背景にところどころオーパーツ的な日常品がいっぱいある。街頭テレビはすりーでーですよ、すりーでー。思わずはしゃぎたくなるお上りチックな結城原二十五歳。いいじゃない、ちょっとくらい。


 なにか武器でも持ってくるべきだったかな。うん、呼び出されたってことは反社会的活動するってことだよね? やだ、プラカードとか準備してないんですけど。テレビにでたりとかしないよね? マスクとサングラスお店で買っておくかな、とかそんなことばかり考える。


「やあ、待たせた」


 やってきたのは、シュッとした格好の佐々木くんだった。黄色いヘルメットも火炎瓶も持ってないオサレな若者ですけど、これ。ちなみに私は動きやすい服装を心がけてジャージ。


 えっ? いやだなあ、私がオサレに着こなせると思ってんですか?


「じゃあ、行こうか」


 佐々木くんは大学に立てこもるわけでも、警察署を襲うわけでもなく、おされーなかふぇーに入っていった。やだ、みんな、見ないで。私のジャージ、見ないで。


 それにしても不思議だ。基本は西洋風の街並なのに、ジャージとかあるし。しかもニ本ラインだし。お店には小豆色とかあったし、誰が買うんだろ。


 お店に入って佐々木くんは紅茶を頼んで、私も同じものをいただく。いえね、ビールとかあればいいんですけど、トリアエズナマとか言いたいんですけど、なんだろう宗教なんて嫌いだ。


「ところで何の用ですか?」


 私は紅茶をミルクで濁らせながら、佐々木くんに聞いた。


「同じ異世界人として、ここではまだ教えてくれない秘密を教えようと思って」

「なんですかそれは?」


 単刀直入に聞く私に対して、佐々木くんは余裕の笑みを浮かべる。なんだろう、年下のくせにー、生意気だぞー。こういうときは年上の威厳を見せなければ。ええっと、なんか自慢できること、うーん、英検三級くらい? いやなんか他に資格なかったっけ? オートマ限定の免許ならあった、ペーパーだけど。


 そう思っていたら彼は信じられないことを口にした。


「僕ね、こう見えて78歳なんだよね」

「……佐々木くん、思ったより面白くない冗談いうね」


 私の言葉に、佐々木くんはむすっとする。お前には言われたくないという顔をしている。ご・め・ん・ね、寒くて!


 そして、ポケットから学生証ともう一つなにか証明書を取り出した。学生証を見ると、高校一年生だ。やだ、まだ未成年じゃない。しかし、その写真は幾分若い。あとやたらよれよれだ、もしかして洗濯しちゃったのかな、よくやっちゃうよね。


 もう一つの証明書を見る。免許に似た写真つきのそれには、異世界転移日が書かれているはずだ。あっ、私も同じもの持ってるからね! あれ、でも、少しというかかなりデザインが違うし、どっか黄ばんでる。


 その年号を見ると、六十二年前になっている。私だって年号くらい読めるようになったよ。


「えっ……」

「この世界は僕らの世界より百倍月日が過ぎるのが早いって言ったよね」


 そうだ、だから元の世界では私がいなくなってまだ一日も経っていないことになる。


「僕らの身体はそれにいくらか影響される。個体差はあれど、五倍から十五倍くらいここの世界の人より長生きだ。多分、魔力の大きさによって左右されているという見解だ」


 うおおおお!! なにそれ、なんかやっと異世界テンプレっぽくなった。やだ、それエルフみたい。耳伸ばさなきゃ、弓装備しなきゃ!


 ちょっと私、今この世界に来て一番テンションあがってる。だって、チート能力もなくて、あるとすればごみ召喚だよ。ありえないでしょ。


 でも、それをはなす佐々木くんの表情は冷ややかだ。


「僕たちはそう考えると優遇されているよね。でもね……、僕らの代わりに向こうへ行ったここの人たちはどうなるのかわかるかい?」

 

 えっと、それは。


 それは同じ理屈で言うと、私たちと反対のことが起きることになる。つまり……。


「あちらに渡った人たちは、何倍も早い老化をしていく。神の教えに従い渡った先で待つのは、急激な老いなんだよ」


 佐々木くんは笑う。冷たい、皮肉を交えた笑いだ。そこに若さはなく老成した精神が重なって見える。


「何も知らぬまま、故郷を思い死んでいくんだ」


ず んと突き刺さる現実をはなしたところで、佐々木くんは突拍子もないことを口にする。


「ねえ、魔王ってどんな存在だと思う?」


 魔王、このあいだテレビであってたやつだ。私にはよくわからない。でも、名前の雰囲気から人類の敵だということがわかる。


「……ラスボスかな?」


 私は答える。ゲーム知識の中ではそれが妥当。私は政治とかそういうのわからないので、こう答えるしかない。佐々木くんはにいっと笑い、紅茶を一口飲む。


「もし大切な人が異世界で周りの何倍もの速度で急激に老いることを知ったら、残された者はどう思うかな」


 佐々木くんの異世界を見る能力が重要視される理由がわかる。それを知ることができる。わからなくもない。


 でも一つ矛盾がある。


「少なくともこちらの世界の時間軸で考えたら、それでも長い時間生きるよね?」

 

 私は、自分の中にある異世界知識を反芻しながら、質問する。ややこしいけど、そこちらの世界で何百年かたたないとわからないことだ。そのころ、その残された者というのは皆死んでいるだろう。


「普通の人間ならね」


 佐々木くんは注釈を加える。


「どういうこと?」

「僕らならそれくらいの時間を生きることは可能だ。大切な人が騙されてそのまま絶望して死んでいくのがわかる」


 そしてその能力を持つ佐々木くん。そういえば、向こうの世界の過去を見ることができるのであれば、彼ならそれが確認できる。


「大切な人を救うために女神を倒そう、そんな勇者が『魔王』と呼ばれているとしたら」


 とんだ皮肉だ。決して、神殿のおじさんたちが教えてくれそうにない真実だ。異世界人のごく一部しかわからないことを私に教えてくれた。


「……」


 耳をふさぎたくなる。

うわー、やめてやめて。それ以上聞きたくない。でも、その答えを教えてくれる。


「僕はそんな『魔王』の配下なんだ」


 さわやかスマイルがひたすら腹黒く見えた。私はそっと伝票を取ってお金を払い出ていこうとするが、伝票は佐々木くんの指に挟まれている。とりゃ! おりゃ! 取れない、なんだ、こいつめ、私の腰が弱いことを知ってやっているのか。


「現地人の酒呑み談合よりもこちらのほうがいいですよ」

そういって佐々木くんは、ぱちんと指を鳴らした。


 ん? あれ?

 

 視界がぼやけてくる。ぐらりと歪む世界の中で、飲みかけの紅茶が目についた。あっ、これか。


 薬なのか魔法なのかわからない、でも私は盛られたらしい。


 がくんと意識を失った。


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― 新着の感想 ―
[一言] この作品、好きです。 続きも楽しみに拝読いたします!
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