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5 秘密結社に入団しました

『なんだよ、これ』


 Aさんが顔を歪めて料理酒を見ている。Cさんも混乱した顔で、佐々木くんはじっとお酒のラベルを見ていた。


 お酒は普通賞味期限なんてない。ちゃんと保存すれば十年以上持つらしい。だから私は調理酒を選んだ。しょっぱいけどいける。あとビールもいける、もち賞味期限切れ。ふふ、私の無価値召喚術を舐めるな!


 他人にはごみでも私には宝だ! ちなみに空き瓶空き缶は魔法陣に戻してる。


『……』


 いたっ! 痛いよ、なに、三人ともその目は! これは創意工夫の結果です、大体賞味期限切れたって少しなら食べられるんですよ、そうもったいない。もったいないはおばあちゃんの口癖!


「よくやれるね。異端審問官に見つかったら、髪の毛剃られて変な服着せられて市中回されるよ」


 佐々木くんが呆れながら言った。


 なにそれ、怖い!


 どうしようそんな目にあいたくない、今度からもう少しこっそりしよう。しかし、ここの人たちはやっぱそれに対して理解があるようだ。


『宗旨替えもできないのに、変な戒律を新たに作る。それがうちの女神さんだ。召喚っていう独りよがりの慈善を押し付けるなら、もっと違うことしろよな』


 ああ、わかるわ、それ迷惑。いるよね、私はいいことやってるんですってタイプの子。悪気がないだけでほんと迷惑だわ。


「……」

『どうした?』


 あれ? そうなると一つ疑問ができた。この世界では一月に五十人くらい異世界召喚されてて、しかも日本人が多いとのこと。んでもって、時間の流れはこちらのほうが百倍速いってことは。


 私は目を細めて疑問を口にする。


「私たちの世界では年間六万人連れてかれてるんですか?」


 多すぎだろ? そんなにいたっけ、年間行方不明者?

 その三分の一日本人だとしても二万人、年間行方不明者がこんなにいてはさすがにおかしい。


「その点については」


 はい、二十代佐々木君!


「魔法の世界なのにここでは妙なところで物理法則が働く、つまり同じ数だけ、向こうに異世界人がわたっていると推測される、というかされている」


 いや、もっと混乱するでしょ! 日本人はグローバルの波で精いっぱいなのよ、必須外国語増やさないで。それとも翻訳機能はちゃんとできてるの?


「女神はよく似た人間をおくり、周りの人間を記憶操作する。つまり人間をすり替えるわけさ」

「つまり私と同じぼっちが元の世界に」


 今頃、課長に怒られてるだろうか。ごめんね、身代わりぼっち。


「問題対策のためかコミュ力が高い人間が選ばれる」


 やだ、ぼっちじゃない結城原、なにそれ矛盾。まるで泡のない生ビールじゃない。


「困ったことにそれは志願者が向かうんだ。必須として、現地の言葉は覚えてもらうけど」


 女神の信徒の中には異世界に憧れを抱く者もいる。隣の芝生が青いだけなのに。そんな人たちなんで、割と優秀だったりする。そんで異世界わたりのあとも問題はないらしい。


 なぜそんなことに詳しいのかといえば。


『俺の伯母は異世界わたりをした』


 ちょっと地味だったCさんがようやく口を開いた。


「んでもってこれが僕の魔法。さっきお返しに面白いものを見せるって言ったよね」


 佐々木くんは水が入った器を持ってくる。水面を撫でるとスクリーンのように映像が映し出される。


 そこには本来私が理想としていた私がいた。私に似ているのに、なんでみんなとフレンドリーなの? まだそっちは半日も経ってないはずでしょ。詳細はそれ以上言わない。私がショックで、さらに腰が痛くなった。あーお酒飲みたい、賞味期限切れてないやつね。


「おもしろかったでしょ? 時差があるから、正しくは過去の映像なんだけどさ」

 

 いやショックでした。


「この能力のせいで僕は神殿から重要人物として扱われている」


 うん、そうだと思う。こんなの見せられたらショックだよ、腰のぎっくりがぎぎっくりになるくらいショックだよ。きっと、私以外の異世界人も皆ショック受けちゃうよ。


『俺たちの目的はわかるか?』


 ええ、信者がいればアンチもいますよね、そゆこと。


 彼らは反社会的組織なんだろう。そんでもって、同志を集めていたのだ。お酒が飲めないことと異世界に勝手に召喚されたことに不満を持つ私を引きこもうってやつ。


 なんとなく意図はわかるし、それを否定できない点もある。


 でも……。


 私は小市民、たとえどんな駄女神相手でも反社会的活動には参加できない。正社員の道は遠いかもしれないけど腰痛いかもしれないけどノーというしかない。私が口を開こうとすると。


『まともな酒飲める世界作ろうぜ』

「滅ぼせ、女神!』


 Aさんのいかつい手と握手していた。


 こうして私は悪の組織の末端団員になりましたとさ。悪乗りしすぎた。でも、Aさんが『これは特別だ』とお酒くれた。

 わーい、お酒、賞味期限切れかけのなんか酢にならないか心配になるようなお酒じゃない。うん、濁り酒、どぶろくだよ、我儘いえば清酒がいいなって。


 あと煙草も禁止されてるからってくれたけど、いらないっていったら殴られた、ひどい、暴力反対。






 異世界派遣生活二か月たちました。今日も平和に腰痛い。お仕事もだいぶ覚えたよ。あれから、反社会的組織から特に指令など受けてない。本当に平和そのもの。


 パルマさんは私が思ったより覚えがいいってことで違う部署に移りました。わーい、認められたぞ、って思ったけど、このだだっ広い倉庫ぼっちで片付けろってことです。うふふ、帰りに薬局で湿布買おう。そうそう、そろそろ事務仕事に移れないかって離したんですけどね、それが。


 いや、ここはここでいいんですけど、やっぱ腰がね。


『せっかく慣れたんだ契約期間一杯までこれでいこうか』


 って、酷くない! 酷くない!


 私は今日も腰に湿布をはったまま、重い在庫を片付けます。うーん、それにしてもほんと前の世界と変わんないじゃない、この生活、向こうでは身代わりが上手くやってんだろうな。


 孤独な派遣時代を思い出す、ほろりと涙が出そう。一日の会話が課長とレジのおばちゃんだけだったなあ。こういうとき家族って思い出すもんだけど、うちそういうのあんまりなかったのよね。二年くらい帰ってないし、帰っても誰もいないし。


 悲しみつつ、返品の不良在庫を眺める。山のような廃棄品を見てうんざりする。


 これ持って行くのしんどいんだよなー。結局、捨てるだけだし。ん? 捨てる?


 私が召喚できるのは地球の廃品、無価値なものばかり、それでもって空き瓶などリユース品なら魔法陣が引き取ってくれる。


 佐々木くんが言ってた女神の召喚を思い出す。同じ価値のものを交換すると、だから私の代わりに身代わりが向こうの世界にいると。


 もし、それと同じ法則がここでもあるとしたら……。


 私はためしに廃品の山を魔法陣に載せてみた。どういう理屈かわからないけど、私が魔法使うぞーってなると手が光って地面に魔法陣が出てくるのだ。


 消えろ、消えろ。


 念じてみる。すると、魔法陣の底がゆらりと揺れて、廃品はその下へと吸い込まれていった。


 廃品がすべて消えた。そのかわり――。


 ガタッ!


「っ痛!!」


 頭になにか落ちてきた。つむじあたりを撫で半泣きになりながら、私は落ちてきたものを確認する。


「……これ」


 それは、地球にあるはずの廃品だった。表記がちゃんとした日本語、妙な海外産の日本語表記みたいなこちらの世界のものとは違う。


 つまり。


 私の魔法は廃品召喚、だと思っていたが違ったようだ。


 等価交換、どこぞの漫画で聞いたことある単語だ。私が今まで期限切れのお酒を呼び出すかわり、それと等価値のものが消えていた。それとなくパルマさんに聞いてみたら笑いながら、


「あんただったのね。いくらごみでも一言いってよね」


 と、廃棄酢を飲んでることにされた。

 さすがにそんなもの飲まないもん!元お酒だと言われたらちょっと……揺るがないんだからね!


 基本、私が呼び出すものは無価値、ゴミみたいなものだ。だから、最初の魔法検査の時もなにか消えたと誰も気づかなかったのだろう。消えたものは多分、私が触れたことがあるものだ。


 だからなんだというけど、そうなると少し気になることができた。


 今日はたまたま第一異世界人の神殿のおっさんを見つけたので、話しかけることにした。


「ちょっと勉強したいんですけど」


 そういえば基本善人のおっさんは私に説明してくれる、それを知っていた。


「私でも練習すれば女神みたいに異世界のモノを召喚できますか?」

『はは、異世界に干渉できるようなら、君は神殿で保護しなくてはいけないな。とても重要人物だよ』


 私、嘘は言っていない。ただニュアンスを曖昧にしただけだ。


 私は異世界の者を召喚したことない、物は召喚できるけど。 


 佐々木くんが向こうの世界の映像を見せる能力で神殿に睨まれてると言っていた。それは情報規制かなと最初思ってたけど発想を変えてみる。


 異世界に干渉すること事態が禁忌だとしたら。 


 こんな小さなカマですが、私の蚤の心臓ばくばくしてます、はい、一口お酒の力借りました。匂いしてないか気を付けてガム噛んで来たけど大丈夫よね?

 これでお酒がばれたら髪の毛そられちゃう。そんな危険をおかしているのだから聞くこと聞いておかないと。


「そういえば最初、私見てなにか言ってがっかりしてましたけど」


 よくわからない意味不明の単語だった。


『ああ、それか』


 おっさんは苦笑いをした。


『えっと、向こうに代わりの言葉がない単語なんだ、それだけだ』


 おっさんは曖昧に答えた。


「そうですか、ありがとうございます」


 私は礼を言って、その場を立ち去った。




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