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3 就職しました


後日渡された斡旋の仕事は実に既視感ありありのものだったよ。なんていうの、大量の在庫、大量の返品、大量の期限切れ。それらを片付ける的な。


「はい、その箱はこの棚において、あっ、それは隣の倉庫よ」


異世界風作業着を着たおねえさんが教えてくれる。膝下スカートに下にはモンペみたいなのはいてた。エプロンをつけてるけど、もんぺやめて。

 

 よく見ると、なんか見覚えある顔だ。

 あっ、この人、身体測定のとき私のごみ召喚を笑ってたおねえさんだ。ひどい、おねえさんひどい。

 

 でも、そこは私大人です。初対面を装い丁寧な受け答えしますよ。だって、下っ端ですもの。


私、結城原は現在働いてます。前の職場に既視感ありまくりの場所で。


住めば都って言葉あるよね、うん、最初は寂しくておうち帰りたいって、思ったけど今日も私は元気です。だって、元の世界帰ってもぼっちだしさ。毎日、狭い鼠穴に戻って、コンビニ弁当かスーパーの割引お惣菜食べるだけだもん。


 最初におっさんから生活費を二か月分もらったけど、それは初任給もらうまでのつなぎと日用雑貨買い揃えるためのものらしい。それにしてもいきなりお金渡すとかおっさん、杜撰過ぎない? 八番目の会社だったら、会計は領収書持ってこないと一円も払わなかったんですけど。


 けっこう杜撰な理由はたぶん、昔、召喚されてきた異世界人のおかげかもしれない。なんかこちらの世界の通貨は大体日本円に似てるんだよね。それでもってその通貨価値も大体同じ。食べ物とかちょっと高い気がするけど、魔法があるせいだろうか、電化製品系統はけっこう安い。


 細かなことは省くとして、翻訳さえちゃんとできていれば、なんとか暮らしていけなくもない文化なのだ。やだ、助かるー。


今の職場、腰が痛いこと以外悪くないよ、お昼はちゃんと一時間きっかりとれるし、朝一時間早く来ることないし、サービス残業ないし。サービス残業ないし。サービス残業ないし。

 派遣って時間給よね? おかしいよね、絶対。


「ユーキハラ、これ分類ごとに並べて」


もんぺねーさんことパルマさんが私に書類を渡す。少しずつ勉強してるけど、やっぱこの手のはまだ難しいわ。腰が壊れる前に事務業にしてもらうには、覚えるしかないので積極的にまわしてもらってる。モンペといっても彼女は独身です。少なくとも彼女はそう言い張っています。


 なんていうんだろう、彼女の顔は落ち着くわ―。そうねー、醤油顔っていうの。おっさんですらバッハみたいな顔してんだから、この世界。けっこう派手目の顔立ち多いの、結城原落ち込んじゃう。だから、こういう暗い色素を持った平べったい顔いいよねー。


 思わず口にしたら、睨まれました。すみません。


 パルマさんは親切なので、私にこの世界のことをたくさん教えてくれる。マニュアルだけじゃいろいろ足りないことあるよね。


話によれば、女神が召喚を始めたころはすこぶる評判よかったそうですよ。いわゆる、知識チートってやつ? どうやらこちらの世界と私のいた元の世界とでは時間の流れがかなり違うらしい。この世界で千年前の召喚者の名前が現代っぽい、時間の流れの差は百倍ほどとのこと。


ええ、私ここにきてすでに一カ月ほどたちますけど、「おい、あの派遣、さぼってやがる、どこ行ったんだ」ってハゲ課長に言われてるころか。嫌だなあ、普段、何の役にも立たないのにこういう時だけ目ざといんだもん。時給減らされるか、いや、もう関係ないけど。


つまりやたら召喚されるのは「やだ、皆喜んでくれてる! 女神もっとがんばる!」ってなってるんだって。女神様は神様年齢で若いほうなので突っ走りやすいとのこと。いいんか、そういうの。ちなみにこれはパルマねーさんから聞いた話なので聖職者はもっと柔らかく言うらしい。

 

 堅く言おうが柔らかく言おうが迷惑は迷惑だ。


 パルマさんはそれを聞いて苦笑いする。


「災難よねー、うちの女神がさあ」


レギンスよりさらに残念なものをスカートの下に履いたパルマさんが言った。ここは神殿直属の下請けも多いため、同じような境遇の人がよく来るらしい。大体、数か月したら次の職にうつるというけど、私、どうなるのかしら。

 

 パルマさんがあの身体測定に来たとき、つまりそういうことです。人員が足りないから倉庫整理に使えそうな毒にも薬にもならない奴を探しに来てたみたい。


 ええ、無印レアですが、なにか?


私は神殿関係者のおっさんに聞いたことを、一般人目線としてパルマさんに何度か相談していた。

元の世界に戻れるのか、そういう月並みなことだけど、このおねーさんは耳たこだったろう。愛想笑いを浮かべながら首を横に振ってくれました。 


「あれだよね、呼ぶことはできても戻すことは難しいみたい」


そうですよね、ええ、わかってた。


正直、私にとって大切なのはどちらの世界だろうと、ちゃんと職を得られるのかが問題だ。必死に言葉を覚えなくてはいけない。喋り言葉は自動翻訳されるけど、文字はそうはいかない。ただ、幸運なことに、元となった文字は日本語と英語のちゃんぽんだった。


デザイン系もけっこう似てる。もし、私がごみを召喚するというわけわからない能力で例の栄養補助食品を出したとしよう。そっと棚に並べておけば、まったく違和感ない。そんな悪戯をするつもりはないけど、やはり腰が痛い。はよ、事務業プリーズ。


 腰痛いを連発しつつ、お仕事終了。五時(異世界換算)定時きっかりなのはありがたかった。腰痛くなければ悪くないんだけどね。





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