隙の無い名探偵
俺の名前は中崎、探偵をやっている。
探偵っていうと漫画に出てくるような殺人事件を解決したり、様々な謎を解いてくるものを想像していることだろうと思う。
実は全くもってその通りである。
この俺中崎は、世間にその名を轟かせる、いわゆる『名探偵』と呼ばれていた。
俺の名が売れ始めたのは三年前のこと。確かかなり有名だった芸能人の嶋善太郎が死んだ事件を解決したあたりからだ。
嶋善太郎は、それはもう有名な芸能人だった。
ほとんどの日本映画に出演していたうえに、ハリウッドからもお呼びがかかったほどの大物だったのである。
彼の死は世間に大きな衝撃を与えた。しかも死んだのは、とあるシリーズ映画製作記者会見パーティーの時だ。
その際に俺はどういった縁か、知り合いに招待されてその現場にいた。それはもう大変な事態だった。
いざこざを避けるために、こういう事件っていうのは本来隠しておきたいものだったが、よりによって報道陣の海のまん前で、嶋は死んだ。
これから映画の意気込みを語ろうかという時に、気持ちの悪いうえに、何かが纏わりついたような声をあげて死んだ。彼の胸は銃弾で貫かれていた。
言うまでもなく、その場にいた報道陣は餌に飛びつく鯉のように食いついてきた。人が一人死んだってのに呑気で馬鹿みたいなものだった。
銃殺された彼だったが、俺を含めて観客全員を調べた結果、誰からも硝煙反応は出てこなかった。
正しく事件は迷宮入りと化そうとしていた。俺も少し気になったが、残念ながら漫画のように警察の知り合いは早々いない。
俺は見ていて虫唾が走ったので、さっさとこの場を後にしようとした。でもこんなときに俺の探偵の血は騒いでしまった。
たまたま踏んづけたそれは、この事件の鍵を握る重要なヒントだった。それを俺なりに推理して、みんなの前で堂々と発表した。
すると犯人は見事的中してしまった。トリックはわりと難しいようで簡単なものだったので、ここでは言わない。
人の殺し方なんて堂々といえたところで何の勲章ももらえないのだ。
さて、そんなわけでマスコミの注目を浴びた俺は、全国の警察から引っ張りダコになっていた。
流石の俺も鼻が高いというものだ。しかもわりとその後も事件は順調に解決できていた。
いろいろと推理小説を読んできた長年の知識か、はたまた元々俺が天から送られた才能を目覚めさせたのか……よくはわからないが、あの事件以降俺はやたら頭が冴える。
しかし、俺の活躍を快く思わない連中は多く居た。犯罪者は勿論、同業者や政治家にも嫌な目で見られるようになった。
命を狙われるようにもなった。毎日毎日銃弾が飛んできたり、殺し屋が自ら襲ってくるという毎日が続いた。
でも、俺はわりと死ななかった。これでも武術には少し心得があったので、おかげで反射神経だけはわりと良かった。
あと勘も鋭かった。本来なら避けられないだろうと言われた弾まで、俺はその場の直感で全て避けていた。
おかげで『隙のない名探偵』として、俺は世間から慕われている。
よく狙われるようになってからも事件は後を絶たない。そんなわけで警察にボディーガードされながらも、俺は事件を解決し続けていた。
今までいくつの事件を解決して、何人の人を救ったであろう。その道中では恋愛や失恋も多くした。
面白いことも辛いこともあったけど、今の人生はとても幸せだと思う。
そして今、俺はささやかな幸せを満喫すべく、喫茶店でお茶を飲んでいた。
あえて隙があるように見せて、殺し屋達に自分には隙がないことを知らしめてやろうとしていた。
さすれば少しは殺し屋も諦めて減るかなと思ったのだ。逆に相手の神経を逆撫でする可能性もあった。でもそんな奴は冷静じゃないからすぐ見つかって捕まるだけだ。
さてと……今日は俺の好きな紅茶だ。ゆっくり頂こうと、俺はいつものように優雅な気分で紅茶を飲んだ。
途端、目の前が真っ赤になった。意識が途切れた。何があったのかとか、俺はどうなってしまったんだ、とかそういう疑問すら、考えられないうちに……。
「中崎探偵が死んだってのか?」
「はい、死因は毒殺です」
ブログに載せていたものをそのまま掲載。半分勢いですが、何にしてもシュールに仕上げようとしたことだけは覚えています。