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新入生、食事

__午前8時

 羽海達は2年生になった。席も変わらず、何も変わらないいつも通りの授業だ。羽海は今日もボーッとしていた。


 席も変わらんし授業も変わらん、これって2年に上がる必要ってあるのか? 何も楽しくない。一つ変わった事とあれば、扉の向こう側にまた自分を見ている奴が居るということだ、今度は女か。じっくり見てみると、アホ毛が立ってて髪の毛ボサボサで自分より身長が小さいようだ。それでガッツリ目を合わせようとするとそいつはビックリして何処かに逃げてしまう、それで放課後、バイクを跨る時にも見られてる気が。何だよ何だよ、何か言いたい事があれば入ってきて言えば良いだろう。――そういえば、三守の奴はどうしたんだ? 去年もそういうことがあったから同じ類では、まさか――?

 気になって仕方がなかった、三守よりも積極性が無く臆病者に見えたからだ――むしろ近づいてしまえばいいだろうと考えたよ。まぁ、それを実行するのは昼で――。




 ――正午

 今日はコンビニで買ってきた、自分はパンとカップラーメンとコーヒー牛乳があれば何でも行ける。さて――貴様、見てるな? 後ろから羽交はがめして要件を聞くことにしよう。

 自分は「買い忘れ」と教室を出る振り。外に居る子と一瞬目を合わせると逃げてしまった。よしよし、予定通り。麻衣に耳打ち


(ちょっと…あの子捕まえるから)

(あ、オッケー)


 よし、準備は整った。


 自分は廊下の生徒に混ざる、どうやらあの子は見失ってて頭に「?」が見える。そしてゆっくりと後ろに近づいて――羽交い締めをする!


「あわわっ!?」

「よう、ちょっと中に入ってもらおうか!」


無理矢理自分達の教室に入れる。足をバタバタと抵抗するが虚しくも地面に足が着いておらず、自分は席に無理に座らせる。


「チラチラと見て、何か用か?」

「いやっ、あの――」


 急に真っ赤になった!? どうしたどうした? 何か悪いことしたか?


「ごめんね、羽海ちゃんこういう子だから、どうしたの?」


 と麻衣が優しく言う


「えっと、その――」

「ゆっくりで良いよ~」

 麻衣は言う。


「あの、羽海さんというのですか、カッコいい――です」


 衝撃の言葉、初めてカッコいいだなんて言われた。


「おう、ありがとう。それで?」

「あ、えっと、友達に、なってください――ませんか?」

「えー?」


 意地悪をする。麻衣はその言葉に激怒する。


「駄目でしょ名柄川ちゃん、こんな可愛い子が友達になってくださいって必死で言ってるのにそんな事言って、まさか本気!?」

「あはは、悪い悪い、いいよ。それで名前は?」

「砂原…舞弥…砂原舞弥さはらまや…1-B組です…」

「砂原舞弥か、自分は名柄川羽海、宜しくな」

「あ、はいっ!」


 急に元気になったな!? こういう感じの子は仁宮の野郎とは違うかな、あいつは始終変わらなかった。


「これから、羽海さんって呼んでも良いですか?」

「ん? ああ、構わんよ。好きに呼んでくれ」

「好きに……はい!羽海"殿"!」


 う、羽海殿~? 人生十七年目、初めて言われたぞ――


「あー……まぁ好きにしろ」


 自分が言ったことだ、渋々認めることにしよう。後輩が出来たな。今後はコイツを利用してコンビニまで行って何か買ってきて貰おう、ラッキー。


「友達になった印だ、このコーヒー牛乳をあげよう」

「良いんですか? では頂きます」


 紙パックを破って短い手でごくごくと飲む、服の袖が長い――萌え袖と言うやつか。中々やるな。


「ぷはっ~、美味しかったです。良いんですか? 本当に」

「全然構わん、今度も遊びに来てくれ」


 丁度いいタイミングでチャイムが鳴り昼が終わった。



  ※  ※  ※  ※



 ――放課後

 いつもの三人でバイクが停まってる駐車場に向かう、一人は麻衣、一人は鷹見だ。


「鷹見中々に影が薄くなったな。どうしたんだ?」

「いや、君達に混ざると友達に嫉妬されてね」

「成程、女友達の宿命だな」

「こうして偶に付き合う位にしか出来なくなったね」


鷹見は意外とさみしがりやなのかもしれない。今度家に行ってみるか。

「羽海殿~」


 今日出会った舞弥が短い足で走ってくる。名字は……砂原だっけか。


「さっき振り」

「羽海殿のバイクはカッコいいですな!憧れます~」


 砂原は羽海のバイクをまじまじと見る。GSR400をカッコいいと見るなんてイカしてるじゃないか。

「私のは?ねぇねぇ?私のは?」


 麻衣は聞く


「HONDAは好きじゃないです。麻衣様はこれの何処がお好きなのですか」


 バッサリとした答えで麻衣はガックリとした。 まぁ――"教習車"だもんな。というか様付けなのか…。


「貴方はバイクをお持ちなのですか?」


 次に砂原は鷹見に聞く。


「いいや? 僕は付き添い」

「あ、そうなんですか? ――そういえば自己紹介がまだでした。砂原舞弥です。宜しくです」

「うん、鷹見亨、宜しく」


 気になるのが、態度が違うし声のトーンも違う所。別に嫌ってる訳では無いと思うけど…


「砂原は何処の住まいだ?」

「わたしは市川です。良かったらで良いんですけど後ろに乗せてもらっても……」


 というが残念ながら


「悪いけどまだ免許取って一年経ってないんだ、まだ後ろに乗せられない」


 砂原に免許を見せる。今は5月、もう5ヶ月待ってもらわなくてはならない。


「そうですか、残念です。また今度にさせてもらいます」


 砂原は諦めた。麻衣は


「舞弥ちゃんは免許取るの?」


 と聞くと


「既に誕生日過ぎたのでお金が出来次第取りに行きます。」

「ほぅ、取りに行くのか。その時はバイクどうするんだ?」

「わたしは羽海殿と一緒のバイクで色んな所に行ったりしたいです!」


 複雑な気持ち。一緒のバイクか――嬉しいのか嬉しくないのか。


「まぁ――選んで買えよ、バイクは」


 と一応忠告して、麻衣と学校を去る。砂原は


「また明日ですー!」と手を振っていた。――明日は休みじゃないか。



  ※  ※  ※  ※



 ――午後5時

 母から「出掛けるから外で食べてきてね」言う事で麻衣の家に向かった。どうせ明日休みならば遅く帰っても問題はない。自分の家に門限は無いのだ。まぁ父も母も帰りが遅い場合もあるからね。

麻衣の家はマンションの三階の角みたいだ。――どうもこうもアパート住まいとマンション住まいが多すぎる、時代の流れと言うのか、自分は一軒家だから狭く感じる。高見の家もマンションだったな。


「ただいまー」

「お邪魔しまーす」


 人気ひとけが無い、留守?


「誰も居ないみたい、ささ、どうぞどうぞ」

 廊下に上がる。2LDKかなこれは。

 廊下の両方に扉――ねぇ、このタイプ日本に多い。何故廊下にこだわるんだ。


「こちらが私の部屋でーす」


 部屋を紹介される。ベッドに低い机の上にノートPCが乗ってる。そしてバイク雑誌が棚一杯に入ってる、お前は本当何処のメーカーが好きなんだよ。


「ま適当に座って」

「えーと、座る所って?」

「そこにある雑誌を集めて座って」


 なんて雑な。ひっどい。客人におもてなす心が無い。ということで人生初の雑誌座布団。

 二枚重ねて完成!バイク通販雑誌!タンデム!…って座れるか!


「もっとマシなの出してくれ」

「はい」

「はいはい――だからこれ雑誌だって!」


 なんとか座布団に座れたが結局ボーっとするだけで会話も無くゲームを進める。何でホラーゲームをやっているんだか自分にも分からない。っていうか自分が熱中しすぎて麻衣は何処かに行ってしまってるじゃないか。――はぁ。


「お待たせ、作ってみたからこれ食べてみて」


 出されたのはスープだった。色は茶色い、無臭だけど美味しそうだな。


「お、気が利くじゃないか、頂きます。――うっ!」

「これは、すっぱ――辛い、いや甘――しょっぱいしょっぱ――苦い苦い!」


 舌の基本味全て攻略された。これはマズい! 何のスープだこれ。


「味噌汁をベースにレモン汁と隠し味にジャム入れてみたの」

「味噌汁にレモン汁を混ぜるな!絶対にマズいに決まってるだろ!」

「まぁキッチンにおいでよ」


 ということで麻衣のフルコースが始まったのだ。


 スープは出たとして次は、出忘れた前菜か? それとも魚料理?


 フライパンを使ってる様子は無い。


「はいお待たせーカルパッチョとソーセージとチーズ混ぜです」


 混ぜてきた! 前菜と魚料理を混ぜてきた! そもそも合うのか?


「頂きます、んっ――ああ普通」


 ほっとしてしまった。普通に美味しかった。チーズとサーモンがいい具合、ソーセージは除け者だけど。


 さて、お次は、肉料理か――どうして麻衣の家で夕飯を食べることになってるのやらか――自分は迷ったのかここに。さて今回もフライパンを使ってる様子も煮てる様子もない、一体何を作ってるんだ?


「お次は肉料理、ユッケです」

「ユッケ!?」


 家庭料理でユッケが出るのはおかしいと思うよ~麻衣~。


 ユッケは牛肉を細切れにし、ネギや胡麻、塩や油などで和えた物を食べる料理である。このユッケの歴史は長く、1800年代から既にあったとの事。この高校時代、羽海達の年は二〇一〇年で例の食中毒事件は二〇一一年なのでまだ危険性が麻衣には分からなかった様である。尚、現在でもユッケの販売は許されているが、十分に加熱を必須とするためにユッケが出されているのは高級店位である、まれにチェーン店でも見られるがそこまで期待するものでもない。だが、牛肉だけが安全性を求められているだけで、鮪を使ったユッケや馬肉を使ったユッケは加熱を無しに提供する事が可能である。しかし馬肉を使ったユッケはかなりお値段が張るので食べる際には財布と相談をしよう。


 牛肉を生で食うなんて不安すぎるが、麻衣はキラキラした目でこちらを見ている。食べない訳にはいかないが――これは怖い。んぐ――


「美味しいです」

「そんなに美味しかった? 涙出てるよ」


 ユッケは美味しいよ――だけど後先考えるとすっごい不安なのよ麻衣。馬鹿じゃないの。


 次は口休めが出る、確かシャーベットだったかな。これに外れは無――


「はいどうぞ」

「随分早いな――おおイチゴのシャーベットか!」


 形状そのままイチゴのシャーベットとは中々やるじゃないか。頂きま――硬い!


「硬くない? ねぇ硬くない?」

「うん、凍らせたもん」


 は? 凍らせた――だけ? 口休めにならない!


「ごめんなさいシェフ、次お願いします……」


 次はサラダか、しかし硬いなこのイチゴ、歯が折れそうだ。


「はいお待たせしました。キャベツの千切りです」


 やると思った。ていうか自慢したかっただけだろ。


 スルーして次は甘味……はぁ、甘味かぁ――


「お待たせしました。ハーゲン◯ッツ」

「高級アイス! 良いの!? 本当に?」

「どうぞ」

「それじゃ頂きま…‥」


 食べかけかよ……麻衣の口周りを良く見たら白いな。食ったべ、絶対。




 ――午後7時

 全てを食べ終わった。中々にハードだったな、主にユッケが。


「如何でしたか? 名柄川羽海様」

「シェフはそなたか?」

「はい、私が担当させていただきました。」

「後でバイク引きずりの刑に処す。牽引ロープを持ってくるので自宅待機をするように」

「ひぃぃ!? お気に召さなかったですか!?」

「最初のスープからだよ!」


 ということで、必死に謝られた。貴様の創作料理はマズい。作らないでくれ……ああ酷い。

 二度とこんな事が無ければ良いが……。




 ――月曜日

「えー、名柄川羽海さんが胃痛ということで、おやすみです。生肉を食べたようなので皆さんもお気をつけて下さい」


 自分はダウンしていた。完全にユッケが当たった。横になっても針が刺さったみたいに――どころか、槍が刺さったみたいに激痛が走る。絶対に麻衣、お前を許さない。

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