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悲劇

 ――十二月 

 羽海と麻衣はバイクで通学する仲良しと、生徒達の中で密かに有名になった。今バイクで通ってる生徒はこの二人だけだからである。しかし、これは今の羽海という人格が無くなる瞬間でもあった。


「寒くなったね~こういう時ってどうすれば良いの?」

「うーん、グリップヒーターとかを付けて手を温めれば良いよ、ポカポカするよ」


 二人はバイクの話だらけで誰も話が分からない状態までになったのだ。唯一分かるのは鷹見くらいか。


「君たちはその話だけで日が暮れそうだね」

「まぁね~バイク好きだし」


 麻衣が喋る。羽海は側で話を聞いていた仁宮に


「仁宮ちゃんも免許取ろうよ~」

「いい……私はいい……」


 少し不機嫌そうに喋る仁宮。


「まぁ後2年あるしゆっくりでも良いよ」


 羽海はそんな仁宮を気にも止めずにバイクの免許を取ることを促す。




 ――放課後

「それじゃ、行こうか麻衣ちゃん」

「うん、行こうか」


 掛け合いをして、エンジンを起動するとそれに気付いた仁宮が近づいてきて


「ちょっと……いい? 用があるの……」


 喋りかけてきた。


「どうしたの? 仁宮ちゃん? 麻衣ちゃん先に行ってて良いよ」

「先のコンビニで待つけど長くなったら帰るからね、それじゃあね~」


 羽海は手を振って麻衣と別れる。

 羽海は仁宮の用は直ぐに終わると思いエンジンを付けたままにした。




 ――午後五時

 羽海は仁宮に付いていき、着いた場所がプール場の裏だった。ここはジメジメとしており日中人が来ない、ここで一体何の話があるのか?


「話って何? 仁宮ちゃん?」


 流石に羽海は数分歩いて特に話しかけられずに怪しい所まで連れて行かれて不安に感じる。

 仁宮は立ち止まり、羽海の方を向く。


「どうして……麻衣ちゃんと……仲が良いの……?」

「どうしてって、親友だからだよ」


 羽海は少し顔を引きつって当たり前の様に答える。羽海にとって麻衣も仁宮も大事な親友である、それもしっかりと麻衣と仁宮も感じ取っているが――


「私とは……親友じゃない……の?」

「ううん、親友……でしょ?」


 明らかに感じ取れる仁宮の様子。羽海も流石に言葉がどもる。


「どうしたの? 仁宮ちゃん――変だよ? 仁宮ちゃ――」


 突然、仁宮が棒を持ち出し羽海を叩いた、羽海はよろけてその場で倒れる。そして仁宮は素早い行動で両手を紐で縛られてしまった。「何!? ねぇ、仁宮ちゃん!?」と言うが仁宮は何も答えなかった、突然の出来事で羽海は何も出来なかった。


「羽海ちゃん……許さないんだから……」

「あたし、仁宮ちゃんに何かをしたの……? だったらあたしは謝るよ。でも、ここまですることって――酷いよ、仁宮ちゃん」


 羽海は必死に仁宮に何をしたのか問いただすが仁宮はそのまま何処かへと行ってしまった、親友だと思っていた仁宮にこんな事をされるとは思ってもいなかった羽海はショックだった。


 ここで聞き覚えのある音が聞こえた。羽海のイナズマ400だった。羽海は不覚にもエンジンを付けたままだったので鍵を付けっぱなしだったのだ、だが仁宮は乗れないし、エンジンを消す方法も分からないので重いイナズマ400を歩いてそのまま持ってきたのだ。


「仁宮ちゃん? ――何する気」


 羽海は言うが仁宮は


「そのバイクは……後……先に……羽海ちゃんを……」


 仁宮は手持ちからハサミを持ち出し羽海の綺麗な長い髪に手をだす。


「いやぁ! 止めて! 仁宮ちゃん!」


 羽海は抵抗するが、虚しく長い髪をボロボロに切られてしまった――

 産まれてから一度も切られなかった羽海の髪の毛が地面にバッサリと落ちる。


「その髪……綺麗で……長くて……嫌い……!」


 仁宮の単純な理由で羽海の髪の毛が切られた。


「……次は……バイク……」


 仁宮はイナズマ400に近づいていった、「理科室管理」と書かれたマッチを仁宮は持ち出す。


「このバイクが無くなったら……!」


 タンクキャップを開け近くにあった棒切れにマッチの火を移しタンクキャップの中に入れた


「やめて!やめて仁宮ちゃん!」


 羽海はもがくが手は頑丈に固定されており動けない、イナズマ400はボンッと破裂をし炎上した――羽海はその場ですくんでしまった。「ああ――」声を上げるしか無かった。


「全部……羽海ちゃんが悪いの……」


 少し悲しそうに仁宮は言うだけだった。



「てめぇ……何してる!」


駆けつけたのは部活中の三守だった。仁宮がバイクを持っていく所を目撃しておかしいと感じて来たのだろう。だが三守は部活で忙しく活動していたので行動が遅かった。三守は仁宮を殴り、羽海の縛られた紐を解いた。「名柄川さん大丈夫?」安静を確かめるが、羽海は何かが抜けたのか、一言も言わなかった。

ガソリンの爆発が大きかったのか他の教員もこのプール裏に駆けつけた。




 ――午後六時

 羽海は保健室に居た、保健の先生に「ご両親呼んだから――大丈夫よ」事態が落ち着くまで安静にしておいた方が良いという判断でずっと保健室に居たのである、扉が開き三守崇みかみたかしが入ってくる。


「仁宮蘭は退学処分との事だ、仁宮の両親は炎上したバイクの金額は払うってよ……まぁ、バイクは戻ってこないが、もうイジメられる事は無い……大丈夫だ」


 以前の三守とは大違いで真面目に対応していた。この状況だからかもしれないが。羽海は何も喋らなかった、この状態が一時間も続いていた。ここで、扉から二人が入ってくる。連絡を聞き付け会社を飛び出してきた羽海の両親二人だ。


「羽海! 大丈夫か?」

「まぁ!髪の毛が……! 一体何があったの――」


 父と母は驚く。

 今日、羽海は羽海では無くなってしまったのだ。

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