食堂
相変わらず、眠そうな顔をして羽海は電車に揺られていた。
(一時間半も掛けてなんでこんな学校に行かなきゃ行けないんだ……)と、心のなかでそう思っていた。一日目なのに気が重くなっている。
電車が駅で止まり羽海の目の前に麻衣が現れた。
「おはようー!」
「おはよう……朝から元気だね」
「元気じゃなきゃ何も出来ないよ! 元気元気!」
麻衣は電車の中で大声を出し、朝の気の立っている時間帯だからか、周りの人はムッとしていた。
「電車の中ではお静かに――ね?」
「――流石に張り切りすぎたかも」
この後ずっと小声で話す麻衣がいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
――正午
羽海が通う学校は給食か弁当かを選べて、給食は三百円、和か洋を選べる。
弁当を持参の人は大体コンビニの弁当だったり、サンドイッチとか軽いものを買って食べる人が多かったが、羽海は初日給食を頼んだので食堂に居た。
「場所は場所はっと、ここで良いかな」
羽海は誰も居ないテーブルを選ぶ、一人で食べるのが好きらしい。麻衣は弁当で「もっと皆と仲良くなりたい!」との事で他の人と食べている所であろう。
羽海が一人で食べてる中、そこに
「隣いいか?」
席が隣の鷹見亨が話しかけてきた。
「おう、別に」
急に来たからか、敬語も忘れて羽海は言葉を返す。
「えっと、隣の?」
「うん、鷹見亨 宜しく」
「あ、はい――名柄川羽海です、よろしくお願いします」
羽海は本当に急すぎてキョトンとしてしまった。入学式では喋ってこなかったので羽海の中ではコミュニティ障害だのビビリだのと思っていたからである。
「中学校の時も一人でこう食べていたのかい?」
「えーと、一人が一番だから、喋りながら食べるとかあまりよくないから」
「へぇ、でも別によくないと思ってるだけで、喋る時は喋るんだね」
「そりゃ、君がこう近づいてきたから――こう、喋るでしょうよ」
ちょっとずつ羽海は顔を真っ赤になってしまった。直視出来ず、うつむきながらも
「これから、よろしく……」
羽海は一言
――午後五時 放課後
初日の様に、麻衣と帰る。鷹見亨は別の方向らしく反対側の国鉄の駅へ行ってしまった。
「隣の鷹見亨って知ってる?」
「うん、どうしたの?」
「今日食堂で話しかけられてさ、渋々」
「そういうのって長い付き合いになるよね」
「君の方が長い付き合いになりそうだけどね」
いつもの様に電車に乗り、麻衣と別れ、一人で帰る。
家に帰る途中で今日出会った鷹見に出会った。
「あ、食堂で……」
「名柄川さん?」
「こっちの住まいだったの? 国鉄の方に乗ったから千葉市の方かと思った」
「うん、私鉄使うより、国鉄使ったほうが安くて」
「へー、同じ住まいだと親近感湧くね」
「はは、そうだね」
ここで、羽海はとある疑問に引っかかる。
「鷹見くんって……あれ? 中学校は?」
「僕は元々成田市に住んでたんだけど不便だからって、こっちの住まいになったんだ」
「ということは、わざわざこの学校の為に」
「賃貸住まいばかりだから慣れっこだよ」
羽海と鷹見の家は離れていたが同じ市の住まいであった。
そして、元々鷹見は成田市の住まいだったという事、それで羽海は納得出来た。そしてこの鷹見という存在も麻衣と同じく長い付き合いになるとは、羽海は予想もしないだろう。
こうして、名柄川羽海の初日は終わる。