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「ま」、バイク購入指南

 林間学校が日曜日に終わって九月初頭、夏休みはダラダラと過ごしてまたいつもの高校生活へと戻った。この学校の風景が一番自分の中で落ち着く。何かとこの学校は授業中以外自由が利くから休憩中はコンビニへと向かう人が居たり、携帯でSNSを見たりとかする人が多い、中には麻雀なんて持ち出して遊んでる奴がいるが、今はそれに自分が混ざって遊んでるから文句は言えない、先生も人の物を没収するような人がいないから尚更だ。数学の先生に至っては休みあればスロットの話とかを持ち出したりする、ジュウオウとかアラジンとかなんじゃそりゃ。自分はGOGOと付いたスロット機しか分からん。


「羽海殿~」


 舞弥が2-A組のドアを開けて入ってくる。林間を挟んでの久々の登場。


「人が麻雀してる途中に入ってくるんじゃない、もう少しで四暗刻なんだから」

「そんな場合じゃありません、夏休みの間に免許取りましたよ~」

「なんだって!?」


 自分は思わず立ち上がって持っていた六筒ローピン牌をボロンと落とす。「ロン」なんて言われた気もするけど残念ながらそんなお遊びに今は付き合ってられない。


「何を買うんだ? SUZUKI? HONDA? YAMAHA? kawasaki?」

「そこはまだ決まってませんけど、今日付き合ってもらおうと思って」

「イイヨーツキアウヨーゼンリョクデー」


 バイク仲間が増えるこの時がちょっと嬉しい、他に話が出来るのが麻衣と鷹見だけなのだが、鷹見は免許は持ってないし、麻衣に至っては病気だから一般素人な自分は着いていけない話もある。ということは、同じく一般素人の砂原舞弥という存在が自分にとって今必要なのだ。――果たして、このバイク四大メーカーを選ぶのか外国のメーカーを選ぶのかは分からないけど。

 自分が乗っているメーカー以外のバイクを他の人が乗っていると案外ライバル視されたり、敵視されたりするが案外年月が経つとどのメーカーも好きになるのがバイクだが、同じメーカーに乗りすぎると病気になるのも事実だ。だからある人は一つのメーカーに固着せずに乗り換えしたり、ある人は急に趣旨が変わってオフロードからスポーツに変えたりとか滅茶苦茶……皆違って皆いい。金子さんの言葉は全部に適用出来るけど死後五〇年以上で著作権消滅してるにも関わらず、許可が必要だから漢字を織り交ぜて表記しています、あしからずって何の話をしてるんだ。


「それでは、放課後宜しくお願いします~。教室に戻ります~」

「あ、じゃあな……」


 自分は舞弥に向かって手を振る。変な形で後輩が出来たけど、気にもならない相手という訳じゃないから付き合っている。――あれ、もしかして今日アイツを後ろに乗せなきゃ駄目?


「聞いたよ、羽海ちゃん」

「ああ、嬉しい瞬間だな」

「うん!」


 いつもより麻衣が嬉しそうだった――大変、こいつをバイクショップに行かせたら暴走どころか「モード反転、裏コード」とか行きそうだ。「ほうっかご♪ ほうっかご♪」とか言ってスキップでどっか行ってしまった。絶対、絶対にHONDAの何かを勧める気だコイツ。



  ※  ※  ※  ※



 結局くっついて来たのは舞弥と麻衣、この名前の頭に「ま」がつくこの「ま」共は上機嫌、「舞」弥は自分の後ろにくっついて色々喋ってくるし、それに混じって「麻」衣はもう後ろに付いてくるだけでスラローム走行したり嬉しさを体で伝えてる。はぁー、なんで二輪の免許を取ってしまったのやら。


「ほら、着いたぞ。降りろ」

「はい!」


 舞弥は降りてトコトコとバイクショップに一足先。残った麻衣は自分と一緒に駐輪場に置く。


「羽海ちゃんは舞弥ちゃんがどんなの選ぶと思う?」

「さぁ、本人次第だし、出来ればダブリは無しがいいなぁ」

「うん」


 他人同士で同じのは乗るのは嬉しいのだが、自分の身内で同じの乗ってると個人的に嫌だ。理由は何か? っていうと、例えば――友人同士でペアルックだったらよっぽどの同性愛じゃない限り凄い嫌な気持ちになるだろ? そういう事。だから避けてしまうのだ、麻衣からCBを乗るのを勧められて断ったのはそういう理由で断ったからだ。もし舞弥が選んだら……グーパンしてやる、いくら後輩とはいえ暴力行為には出るぞ。

 麻衣と一緒にバイクショップに入る、自分の家からちょっと遠いけど普段から麻衣と一緒に行くバイクショップで顔なじみだ。そして、一足先に中に入った舞弥は――何故か死んだ魚の目をしていた。


「どうした? 舞弥?」

「数が――多すぎます、選べません無理です」

「ええっと、まず。400ccまでしか乗れないんだから限定されるだろ。後お前が見てる所は1000ccオーバーな」

「あ、そうなんですか――じゃあこれ?」

「あーん……そっちは原付二種だ」

「えぇ? あっと……えっと……」


 ここまで分からないとはよく免許が取れたな。


「う、うう羽海殿が乗ってるSマークの付いたバイクはどこですか……」

「SUZUKIのバイクはあっちだな」


 右も左も分からない舞弥を案内する。せめてカタログとかを見て買うのを絞ったほうが良かったんじゃないのか? まぁ現地で見るのが一番いいけど。


「ほら、自分が乗ってるGSR、ちょっと乗ってみたらどうだ?」


 そう言われて舞弥は跨る。だが、身長が一六〇センチあるかどうかの舞弥は乗ってつま先立ちでギリギリだった、でも世の中にはちゃんと身長が低い人でもバイクに跨って走ってる人がいるんだから馬鹿には出来ないからバイクに身長は関係無いといいたい所だが、舞弥を見てると辛そうだった。


「キヒィー……」

「本当、よく免許取れたな……」

「頑張りました……」


 やっとの思いで降りて他のバイクにも乗ってみるが結局SUZUKIには候補は無かったみたいだ。自分の役目はこれまで、次は麻衣に託すとしよう。


「さぁ舞弥ちゃん、VTRとかCBとかCRFとかいっぱいあるよ! 全部乗ってみよう!」


 超定番のVTRとかCBR400とかに舞弥は乗るが、どうも気に入らない様子。VTRは足つきはいいものの値段はピンキリで高かったり安かったり。傷付き特化の商品もあったが、流石に初めて乗るのに傷付いてるのはちょっとね。でも悪くないと思うが舞弥は頭を傾げるだけだった。

 そして、ようやく落ち着いたのが――カブだった。


「はーっ……落ち着きました。足が着くのはいいですね」

「いいとは思うけど……うん、それでいいのか?」

「じ、冗談ですよ。冗談。50ccだと高速乗れないですし」


 以前にHONDAは好きじゃないとか言ってた気がするが、現状を見ると気にもせずに普通に乗ってたな。でも一瞬嫌そうな顔をしたのは麻衣の性格が嫌いなのか、相変わらずHONDAが好きじゃないのかの二つだな。


 漢のkawasakiコーナーをスルーしてYAMAHAコーナーへ。


「どれがいいんですかね?」


 舞弥がそう言うけど、自分達二人は苦い顔、麻衣に至ってはそっぽを向いていた。なんでこういうフリをするのかと言うと、YAMAHAのバイクに関してはあんまり知識が無い。それだけのシンプルな理由だった。話せると言ったら話せるのだが、ニワカ知識が出てきたりとかして後から文句を言われるのが困るからだ。


「そうだな……見た目で決めちゃったらどう?」


 安牌な発言を取ることにした、スペックに関してはもう何も言うまい、HONDA特性のVTECだのABSだのスリッパークラッチだのクイックシフターだの……。素人から聞いてみればもうどうでもよくなっちゃうような用語ばっかりなんだ。だったらもう見た目で決めたら一番良い事だ。見た目こそ重視すること。


「見た目……わかりました」


 舞弥はそう言って自分達の下から離れる、自立こそバイクの道だ。人の意見は一割聞くだけで後の九割は自分で決める事なのだから。そして王道の道を行くのか変態の道を行くのかは舞弥次第だ。ちゃんとここに見本がいるのだからどうなるのやらか。

 

 見た目と言って次に跨ってみたのはシャドウクラシック、早速足つきを気にしてみたのか? アメリカンバイクは基本的にシート高が低くて、乗りやすい。引き起こしも簡単なのも魅力的で、エンジンガードを付ければ尚見た目のグッドのデザイン超重視のいいバイク――なんだけど、個人的デメリットとしては、教習のバイクとか違った感覚だから慣れるのがちょっと厳しいかもって感想。でも決して我慢して乗るバイクじゃないから安心すべき。エンストで止まった時の煽られは異常だけど。


「どうですかね?」

「悪くは無いんじゃない?」

「はぁ……」


 自分のあっけない言葉にちょっと愛想尽きたか、舞弥の言葉もそっけない。これ以上に言う言葉も無いのだ。ハッキリ言って自分達は趣味乗りであり通学乗りでバイクを乗っているだけだから――そもそも、バイクを決める時はさっきも言った通り一人だからこう感想を求められても「フーン」と言った返ししか出来ない。申し訳ないが後は舞弥が決める事だ。


「うーん――あ、これは」


 次に乗ろうとしたのはホーネット、250ccの定番の一車だな。ホーネットバリオスと言われたらだれもが250ccの定番車種として知られて、語るに忘れてはならないバイクだ。どっちも似たようなデザインだが、メーカー対立してる中で申し訳ないが中身もほとんど変わらないようなものの気がする、いや絶対そうだ。決めるとしたらHONDAがいいのかkawasakiがいいのかの二つになる。どちらも中古が回っていて部品の絶版が無いからオススメの一車。


「どうですかね?」

「まぁ好きだと思えば」

「そうですか……」


 麻衣に相手を頼みたかったが、店員と何かを話し合っててこっちには来てくれないだろう。だから渋々自分が質疑応答してるわけだが、自分もハッキリ言って麻衣より知識がないから深いことを話せない。


「うーん……」

「大体参考になっただろうし、今決めるんじゃなくてまた今度にしたらどうだ?」

「そう――ですね。次回にしましょう」


 不満げだったが、夜になるしこれ以上ここに滞在しても発展は無さそうだから話を打ち切る事にする。自分だって本当は勧めたいバイクがあるけど、反対されたらそれはそれでショックだから伝えない事にする。


 外に出て舞弥は「一人で帰ります。それでは」と一言断りを入れて帰る。今回でかなり悩んだのだろう、悩めば悩むほど買うバイクに満足出来なくなるぞと言いたい所だが、最高の一台を手に入れてほしいから自分は何も言わなかった。自分達はローに入れて家に帰る――


「舞弥ちゃん何乗るのかなぁ」

「さてな、あれだけ参考を見て買わないという選択は無いだろうから」

「うん、来週辺りが楽しみだね」


 早くても来週か、遅くても今月中には決まるだろう。それまでは自分から会わないでおこうかな。



  ※  ※  ※  ※



 舞弥の期待をしていたが、ついに話題として上がらなくなり、二週間が過ぎていた。自分達は土曜日で麻衣が今度料理を作るからとスーパーで買物をしていた所だ。地獄までのカウントを自ら踏むとは不覚。大根とジャムが一緒に入っているがまさか組み合わせて作る訳じゃないだろうな? なんとかしてジャムだけを何処かに――


「羽海ちゃん、どうしたの? 私ジャム買うんだよ?」

「そのジャムどうするの?」

「パンに付けるのー」

「そっか……」


 そのパン料理の行方が気になるが、どんどん商品をカゴに入れるから何の料理をするのかが気になってしまう。お前の料理は本当に怖い。まともにレシピを見て作ってはくれないのだろうか。


「後はこの商品買って終わり、行くよ」

「あ、うん」


 結局カゴ一杯になった訳だが、これをバイクで持ち帰るのは至難。ネットだけじゃどうしようもない気がするけど――本当にどうするんだこれ。荷物フックがあれどもそれだけじゃ足りない、麻衣買いすぎ。でも買ったものは仕方ないので乗るだけ乗せてみる。――勿論、左右のフックとネットを使っても一つ荷物が残った。自分はなんとかその一つを載せようとするがSUZUKIのバイクって荷物を乗せる事を考えてないような気がする。元々単車はそういうものなのだが……こういう時だけは不便だなと感じる。麻衣はと言うと別の方向を見ていた。自分もその方向を見てみるとバイクだった。


「どしたの?」

「SR400? クラシックだねー」

「そうだな、それよりこの荷物載らないけどどうすんの」

「ハンドルにも掛けちゃえば?」

「無理だって」


 悩めば悩むほど危険な事に賭けをしようとする。ハンドルになんて掛けたら本当に危ない、かといって他に掛ける所も無い。色々な手段に出ようと考えてると――そのバイクの持ち主が帰ってきた。こちらの存在に気づいたのか近づいてきた。近づいてきた人物はなんと舞弥だった。


「羽海殿? 麻衣様もここで何をしてるんですか?」

「買い物途中だけど、バイク買ったのか」

「はい! おしゃれで乗り回しやすくて、私にとって一番のバイクだったんで、これに落ち着きました。どうでしょう?」


 クラシックの超定番、SR400――スピードにも機能にも拘らない、ひたすら美を求めるのがクラシック。スポーツ、ネイキッド乗りからは「キックスタートで不便」とか「遅くて振動も激しい」とかマイナスのレッテルを貼られる事があるが、オールマイティな走りは出来るし、そこらへんの車と一緒に走るのならば問題はなし。ツーリング時にも邪魔になるような事も無いしハッキリ言ってそこまでレッテルを貼られるまで悪いバイクか? と思う素晴らしい美術品だと思う。それを受け入れた舞弥も舞弥でクラシカルな人間であるな。


「早速だが、これ載せて麻衣の家まで行ってくれない?」

「はい! 喜んで!」


 やっぱり舞弥は自分の犬であるな。いいパシリ。早速出ようとするが――


「あの、キック時間掛かるんで、待っていただけますか?」

「あー……まぁ、慣れ必要だもんな」


 自分達の普段はセルスターターでエンジンが回るけど、舞弥のSR400の場合はキックだもんな。キックもキックで便利なのは電気を必要としない事。真冬でもなんとか付く時があること、トラブルが少ないから便利は便利なのだが……


「んーしょ、んーしょ」


 ご覧の通り、慣れてない時は何回も地面に向かっては足を降ろしを繰り返す。これが大変、それを見てウタウタとする人物が一人。麻衣だった。


「私にやらせて! 一回やってみたかったの」

「あ、はい。どうぞ」


 代わって麻衣がキックする。三回でエンジンを回すが、二回目で自分が一番見たくない物を見てしまった。一度ならやるであろうあの事だ。


「太ももめっちゃ打った……」


 ケッチンである。慣れない事をするから踏み外して打つんでしょうよ。それを見た舞弥はちょっとビクビクしていた。デコンプレバーを握らないでこうキックするとももを打つんだよ舞弥、いいものが見れたな。


「じゃあ、行こうか?」

「はい!」


 こうして新しいバイカーが増えた、現実的にも興味を持ってバイクというのに触れてほしいと思う。興味を持ったらまずはバイクというのを探してみて、後から免許を取ろうか取らないか――結局、決めるのは自分なのだから。

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