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林間学校! その7

 草餅の作業が終了、何十個も作って一体この後何個食べれるのだろうか? 作業だけやらせて、もし食べれなかったら自分は鍋で蒸してる途中でも草を破って口の中に草餅を頬張るぞ。止められても、食べるぞ。手がボロボロになるほどこっちは作業にしてるんだから、それぐらいの報酬は貰わないと。

 今は子供と遊んでいるけど、外の様子をチマチマと見ていると土を慣らして石とかを除いていた。もう子供と遊ぶのは飽きたから自分達はまた外の作業をやりたいんだけど、戻ろうとすると子供が「ヤーダヤーダ」つって行かしてくれない。自分達のひまわりの存亡が掛かってるんだから行かしてくれよ――。

 麻衣はそんな子供の事なんて気にもせずに由里様と「アルプス一万尺」をやっていた、だんだん自分の由里様のイメージが崩れるけどさ、あなた淑女しゅくじょでしょ? それらしい事をお化け役の件以来吹っ切れたかのように静かな巨人と化してるぞ。麻衣に影響されちゃ駄目だって由里様。


 民家に一台の車が停まって誰かが降りてくる。そう、先生だ。様子を見に来たのだろうか?


「やってるか? 草餅は出来たか? 畑は?」

「一片に聞いてこないでくださいよ。どうしたんですか?」

「そろそろ昼時なんだけど、レストランで食べる事になってるからそこまで集合。勿論、この車に乗ってな」

「先生気が利くぅー! 自分全ッ然しおり読んでないんですわー」

「――分かってなかったのか、名柄川よ」


 自分は子供に「じゃあねー」って言って誰よりも早く車に乗るが――気が利いていなかった。この車暑い。流石に北にある福島県とはいえ、この炎天下でも涼しくはない。そして、さっきまで作業していた家の中もそんなにクーラーも効いてるハズもなく、ダラダラと過ごしていたこの空元気を車に飛び込む前のダッシュで使ってしまった。今後は、皆と同じペースで走ろう……いや、本当。



  ※  ※  ※  ※



 ソースカツ丼というなんて男らしい食べ物を食べている。カレーとか麺類ならともかく、カツ丼なんてカロリーがエグい物をこの林間の最中に食べるのはちょっと――ほら、あそこらへんの班はちょっとソースカツ丼が出てきて引いてるじゃん。このチョイスはなんとかできたんじゃないの?


「お口元が汚れますわね……」


 ほら、由里様も――


「ソースにくせがあってお口に運びたくなりますわね」

「――ゴフッ!?」


 自分はご飯を吹いた。麻衣は濃いのが好きだし、男性陣はどんぶり好きだと思うからともかく、由里様? 由里様ッ!? もうあなた絶対に庶民だよね? でも「アレ」を簡単に渡しちゃうくらいだし――ああ、もういいや。


「由里様美味しいねー、自分もご飯が進むよ」

「ええ」


 ニッコリ、超ニッコリしてる。でも、嫌々とも言わずにモグモグと食べる由里様はどんぶりを食べるから――食べる女子って世間体じゃどうなるのかいな? よくCMとかでやるけど。


「もう、い……いらないかな? 羽海、食べる?」

「鷹見!? じ、自分もいらないよ。上泉に食べさせたらどうかな……」


 鷹見は上泉にどんぶりを渡す。まさか、外回りのサラリーマンみたいにどんぶりとか食べる人だと思ってたのに、意外と少食だったのか鷹見よ――


「おみやげコーナー見てくる……」


 上泉に残りを渡した後、鷹見はおみやげコーナーに行く。上泉以外はちょっと食べるのが遅い勢だからスローにモグモグとしていた。

 カツ丼と言えば、出汁の中にとんかつを投じて、卵で閉じるのが一般的だけど、このソースカツ丼の場合は卵に閉じずにアツアツの揚げたてをどんぶりに入れてそこからソースを掛けるんだね。他の違う所と言えば――キャベツが乗ってるぐらいかな? 自分自身、そんなにカツ丼は食べないからあんまりリポートは出来ないんだけど、違いだけはよく分かる。でもカツ丼食べるくらいだったら自分は天丼食べたほうがいいかなぁ。


 なんとか食べ終わったけど、流石にキツい。お腹が張っているんだけどまた民家に戻って作業するんだよな? いやー駄目だなぁ、この状態じゃ作業は出来ない。少食派の男と普段そんなに食べれない女の皆様は苦戦してた。でも林間の名物だし、今まで参加した奴も皆この道を通ってるんだろうな。次回から変えたほうがいいんじゃないんですかね……。

 お土産を見るけど、ご当地のお菓子しか無くて困る。そして自分はそのご当地のお菓子じゃなくてあえて「ソースカツ丼のソース」とかちょっと間違ってるソースを買う。……500mlって結構入ってるな。たまに使ってくれるくらいでいいし、また何回かお土産コーナーも回るだろうから今回はこれでいいだろう。

 鷹見は何を買ってるのか確認してみたらお菓子類を大量買い、まさかそれ全部を館に帰ったら食べる気じゃないだろうな? 別に自分のじゃないからいいんだけど――持ち帰れよ?




 時間が来て車に乗る、特に今が楽しい訳でも無くダラダラとする。自分は飽きっぽいから失礼とも思わずに片足をドアに引っ掛けて過ごしてる。夏間近で暑いし、ひまわりの種を埋める作業は今男性陣がやってるから女性陣はやることもなく暇になってる。自分は班長で昨日も昨日で疲れてるし――何よりも車のエアコンが効いて無くて暑い、一番モチベーションを下げる行為である。ジャージも厚手で風通しはイマイチだし、シャツは汗で気持ち悪くなってる。替えようにしてもシャツは館の方に置いてあるから替えられない。

 結果――皆集中できない、今日ぐらい風が来てもいいんじゃないのだろうか。


「羽海ちゃん――暑い」

「うん」

「涼しくして」

「うん」

「羽海ちゃんバーカ」

「うん」

「はぁ――」


 もう何もしたくないし、楽しい? と聞かれても今は楽しくない。後で草餅は貰えると先生から聞いたけどアツアツの草餅食べた所でこの暑い中で熱い餅を食べて体が熱くなるだけで自分は熱い餅を食べたくない。こう言いたいことをややこしくするほど今はダレてる。明日は帰るのだけれどどうしてこんなに帰りたくなるのだろう。



  ※  ※  ※  ※



 サクッ、サクッ、サクッ


「ホクレン!」


 鷹見達がこっちを見ながらクワを順番に地面にさして「ホクレン!」なんて言われたけど、自分はサッパリ分からない。多分、この作業が嫌になって遊びに出たのだろう。自分達もようやく畑仕事に戻ったけど子供が走ってきてはジャージの下のゴムを引っ張って逃げるから集中できん、このエロガキめ。


「んっ、美味い……美味い……」

「麻衣ッ! ヒマワリの種を食べるな!」


 ついに痺れを切らしたのか麻衣も暴走行為に出る、お前はハムスターか。確かにヒマワリの種は人間でも食べれるし栄養価も高いけどこれから埋める種をお前が食べてどうする。


「由里様も……んっ、食べる……?」

「ええ、いただきますわ」

「由里様も食べない!」


 数あるヒマワリを食べるなんて! しかも食べる人が増えたし。……美味しいのかな? っていやいや、気になっちゃダメだ。さっきソースカツ丼食べたばっかりなんだから。自分は麻衣達からヒマワリの種を取り上げる。


「羽海ちゃん独り占めするのー!?」

「ズルいですわー」

「これは一回農家の人に預けるだけだから! ヒマワリの存亡をお前らが食いちぎってどうするんだよ」


 ということで、一回預ける。だいぶ数が減ったけどなんとか埋める穴の数だけのヒマワリの種は残った。――一個は貰っていいかな? 自分は麻衣達に見られないようにそーっと食べる。……塩気が無いのによく多く食べてたな。


「羽海ちゃんみーつけた? どしたの? モグモグして」

「いや! 何でもない」

「そう? 気になってヒマワリの種食べちゃったとか?」

「んーんー?」

「そう……」


 ちょっと疑ってまた元の位置に戻った。――ヒマワリの種はどうして人の心を動かすんだ? よくわからないな。さてと、もうちょっと頑張ればこの作業も終わる訳だからとっとと――




 ビチャッ……




 ……。何か自分のジャージにくっついた、そして落ちた。――緑色の大きい物体、そして濡れてるし何だこれ。


「ごめーん! 名柄川、そこの用水路のコケを鷹見に投げようと思ったら間違って」

「……ああ、そう。お陰で中のシャツまで汚れちゃったんですけどッ……」


 自分は上泉に一発上段蹴りを入れる。普段体が硬い自分だけど、有り得ない程高く上がっちゃってビックリした、人間やれば出来るもんだなぁ。暴力行為? いいえ「制裁」です。首元にガチの入っちゃって流石の体育系の上泉もよろけて地面に手を着く。


「今回限りだと思うけど、次はふざけてもやるなよ?」

「……はい」

「次はその鼻折るからな」

「はい」


 まぁ、次に上段蹴りは出ないと思うので次は鉄拳だな。換えのシャツは相変わらず館にあるから仕方なく緑色の何かが付いたまま作業を始める。日もちょっとだけ傾いてきた。


「えー、後はヒマワリの種を埋めるだけだからねー」


 久々の佐藤さんのセリフ。さっき預けたヒマワリの種を貰う。


「麻衣達はあっちでゆっくりしていいから、って言っても由里様はもうゆっくりしすぎてるからそのままゆっくりして」

「はーい」


 多分、ヒマワリの種をまた麻衣が食べると思うからあっちで由里様と一緒に待機させる。お前の信頼の無さは随一、こういう事に関してはな。

 種はこの位の高さでいいのかな? 指の第二関節くらいでいいんだよな。皆もそうやって埋めてるのだから間違いない、ぜったい間違えてない。




 さて、作業が終了して待ちかねたのか分からない草餅を食べている。アツアツではなかったので普通に食べれた。中は餡だけど甘さ控えめで美味しい。疲れた体にはやっぱり甘いもの。――しかし、食べる量が尋常無いのが麻衣よりも由里様なんだよな。結構美味しかったのかな?


「いやー、この時間ぐらいになると風が出てきて涼しいな」

「そうだねー、この後風呂だねー」

「またか」


 コイツは夜になると風呂のことしか考えてないんじゃないのか? どんだけ風呂が好きなんだよ。どうせ毎回同じような事が起こりそうなので詳細は割愛させて頂きますけど、自分は別に百合でも何でもないので。

 今日は、そんなこんなでヒマワリの種を埋め終わって、咲くのは七月か九月頃、結構ひまわりって成長が早いらしく直ぐに咲いて直ぐに枯れるらしい。自分達はその姿を写真でしか見れないと言うのだから寂しいな。出来れば現地で見たかったけどなぁ、せっかく頑張って畑を耕して色々作業をしたというのに写真って……大体男性陣がやってたから苦労の微塵もないとは思うけど、少しは作業したんだから努力した一人として認定してもらえるでしょ、力量によるけど。

 ――さて、明日は何が待ってるか分からないけど、班長としてまた明日も頑張らねばならない。――どうか班の皆さん、落ち着いて行動しろよ。

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