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林間学校! その5

 重い麻衣を引きずりながら自分は食堂へと辿り着く、この場所は一回も来たこと無いがウチの学校よりは少し狭め、それでも数百人は収納出来るレベルだ。

 この食堂に自分らのクラスの他にも数組のクラス――つまり、ここの林間で泊まる全員がここに集まっていて、今回の林間に同行する先生方も集まっていた、これはかなり重大な事件でも起きたのだろうか。


 その横に鷹見達、既に集まっていたようだ。


「羽海も来たか、それより風呂。皆耳を研ぎ澄まして興奮してたみたいだよ」

「ああー、ある人が暴れていてな。そっちに対してはサービスかもしれないが、こっちにしたらエラい迷惑だった」

「上泉が一人その声で興奮して水中でオ○ニーしてたぞ」


 そっちの絵はそっちで見てみたかったかもしれない。人前でよく自慰行為が出来るなアイツは――

 当の本人は居ない様だが……アイツは何処にいったんだ。自分の班の確認をしてみても八人いるハズなのに上泉と由里様が居ない。さっきまで居たはずなんだが、トイレか何処かにでも行ったのだろう。



「はーい、全員集まってるようなので今から何をやるのか説明しまーす」



 自分はヒソヒソと鷹見と話す。


「お前、さっきまで上泉と一緒じゃなかったのかよ、これでいなかったら自分怒られちゃうよ」

「いつか来るんじゃない? 大丈夫だよ」

「由里様もいないんだ――」

「それも大丈夫でしょ」


 自分は居ないことに心配してるが、鷹見は「大丈夫」と一点張り、コイツ他の人に関しては無神経だな。もしかしたら迷ってるとか――でも、馬鹿な上泉はともかく、由里様が居ない事が気掛かりで仕方ない。一体何処に行ってしまったのだろうか?



「ということで、今から林間の名物というのかねぇ? この館全体を使った肝試しをしまーす」


 肝試し? 色々と説明してたみたいだけど自分は先述の不安だらけで全く先生の話を聞いていなかった。何か大事なルールとかは麻衣に聞けば――って、麻衣は調子が悪いから殆ど右耳から左耳に話が抜けていて使い物にならないな。「トミー――」ダメだ、寝てた。「宮川――はぁ」寝てた。


「おい、鷹見。桧川はどうした? アイツだったら説明聞いてるだろ」

「さっきまで居たけど『本当に寝る時間だ、部屋に戻る』って言って退場してたよ」


 ウチの班はどうもこうも自由行動過ぎるんだ! 桧川は百歩譲って仕方ないとしてトミーと宮川はどうして寝てるんだよ。体育座りじゃなくて大胆に背中を床に付けて寝てるもんな。せんせェー!コイツらを注意してくれッー!



  ※  ※  ※  ※



 一組三人ずつこの広い館を歩いて、最上階にある物を取ってきてここまで戻ってくる事、でもそのある物を取るためには二つのアイテムが無かったら最上階のアイテムは渡してくれないとの事。因みに、女子部屋と男子部屋は使わない。他の部屋は全部使うらしい、流石に個室をルールに使用したらそれはプライバシーに関するから駄目でしょうね。 逆を考えれば鍵の閉まってない部屋は使用――という事になるかな。


 次々と出撃する人達、ご武運をお祈りしてます。――忘れてたけど、今回はトミーと麻衣(不調)と自分の一組で鷹見もいつものメンバーでの一組だ。


「ああ、俺の出番だ。行ってくるよ」

「鷹見、ご武運を」


 鷹見二等兵に敬礼ッ。別に戦場に行く訳では無いが、肝試しは阿鼻叫喚地獄。既に「キャー」や「ワッー」の声が聞こえてくる。


「次ー! 名柄川班! ――お前達にはちょっと期待してるからな」


 いつぞやのカレー先生は様々な意味で自分達を期待してるのだろうな。というか、先生働きすぎだよ、バーカ。





 食堂の扉から廊下に出て直ぐに麻衣が泣き始める。


「暗いよぉぉ――羽海ちゃぁぁん――」

「お前の声が怖い! 気分悪いんだろ? いいよ、おんぶしてやるから。暫く乗っててな」

「ありがとぉぉ――」


 自分の背中にズシンと麻衣が乗っかる――これは、オモイ……。お前の二つのボール+αで重いんだよ。でも言ったからには仕方が無い。クッソ、言うんじゃなかった。


「トミー、最初の行く場所って何処だ? トミー? ト……」


 しまった!? 麻衣に気を取られてかトミーが何処かに行ってしまった! もー自分の馬鹿!

 自分と麻衣の二人旅になってしまった。――よく思い出せ。行く順序は一階と外と最上階のハズ。唯一地図を持ってるトミーがブラブラと行ってしまっては自分達は迷子だ。まだそんなにこの館全体を探索した事は無いから不安アンド不安。麻衣も重い、スキルで言うと鈍足持ちだから逃げるに逃げれない。


「取り敢えず――明るい所」


 麻衣を背中で抱えてちょっと明るい所に行く、それは自販機の光だった。お前は暗闇の中だと神々しいな――自分の好きなコーラを買いたい。「麻衣、ゴメンな」一度麻衣を降ろしてお金を取り出す。自販機の光だけで財布の中を探るが、五百円は疎か百円も取れない。


 そこからヒョイっと百五十円、ペットボトルのコーラが買える位の硬貨を横から出してくれた。


「麻衣? ありが――」


 ひょっとこのお面に黒タイツ、誰だお前は? 麻衣は自販機の横でぐったりしてて――自分は財布の中から硬貨を探してる中でコイツは誰? シュール過ぎて思考停止していたが、自分はようやく理解する。


「うわああああああああああ!?」

「ひょっひょっひょっひょっ」


 この変態は正に変。ジグザグ変速移動して何処かに行った。なんだ――今の笑い方は。ひょっとこってそんな笑い方すんのか?


「あ、百五十円……」


 ――入れてコーラを買ってしまおう。あのひょっとこには申し訳ないが、君の百五十円は有り難く使わせてもらうよ。


「ガコンッ」


 自分は下から取り出そうとするが、どうやら別のものを取ってしまったようだ。透明のプラスチックの筒に包まれてる中には紙が入っていた。これは――


「麻衣、地図手に入った。全部記載されてるよこれ」

「あううぅぅ――」


 相変わらずの麻衣だったが、なんとなく分かってくれたのなら今はそれでいいや。逆上のぼせてまだ数十分でそんなに休んでないで動きっぱなしだから回復するものも中々回復しないわな。それからこの館内、結構暑い。コーラを飲みながら周りを見渡すが特に人は見えない。が、明らかに悲鳴は聞こえるから皆全体的に動いてるのだろう。というか、先生がタイミングを見計らって班を開放してるから少人数であろうな。


 コーラを飲み終わり、また麻衣を背負って移動する。


「麻衣、少しッ――痩せたらどうだっ」

「――重い?」

「重いっ」

「ちょっと痩せるよ……」

「痩せてくれよ」


 地図を確認しながら目的地に向かう。



  ※  ※  ※  ※



 少しは麻衣も気分が良くなってきたか「歩くから大丈夫」という事で手を繋ぎながら歩いてくれている。地図を見るとここが目的の場所か――階段の横ある扉、間違いない。


 自販機からここまでお化けを見てないが一体何処で待機してるのだろうか、まぁ定番だろう。ここの扉開けると出て来るんだろう、麻衣はフラフラだから――


「麻衣、外で待ってもらえる? ここの扉は自分一人で入るから」

「うん――でも、怖いから早くね」

「わかった」


 麻衣は扉横で体育座りで待つ。今は自分が動く出番だから――リーダーだから。守るべき物は今ココにある。扉を開けて周りを見る、大した物は無いがこの部屋の真ん中に何かが置いてある。これが目的の物だろうか?


「お邪魔しま~す――誰も居ませんか~」

「ガタッ――」

「ああああああああああああ!!」


 自分は勢い良く扉を閉めた! 今! 今今今は何時だ!? ハッ!? 八時? 八時ですか!?


「羽海ちゃん――?」

「ハイッ!?」

「大……丈夫?」


 病みスマイル……麻衣は気分が悪くて動揺が少なかったのだろう、良かった――お陰様で落ち着いた。ちょっと物が揺れただけだろう、何を心配してるんだ名柄川羽海。まだ正体も確認してない相手にびっくりする程ではない。だだ、大丈夫だって――ねね、ねぇ?


「羽海ちゃん――?」

「ハイッ」

「大丈夫……でしょ……?」


 流石病みスマイル、でも可愛い。麻衣は自分が怯えてる理由が分かってないと思うけど何とか入る決心が付いた。


「うんっ、入るよー自分は入るよー?」



「……」



 シーンとしていたが、息を止めて扉を開ける。暗かったが特に異常も無かった。――なんだったんだ?

 早速中に入って扉を閉める。よくよく見ると壁には一つ、小窓が開いていて月の光が刺していた。徐々に目が慣れていき真ん中の物が見えた。


「懐中電灯――か?」


 自分はそれを手に入れた。何回も懐中電灯のスイッチを入れるが壊れてはいないしシッカリとした懐中電灯だった。自分はこの部屋の周りを照らしてみる。どうやら防災道具だらけだからここは保管室なのかな? 早速帰ろうとして扉を照らすと――


「ばああぁぁ――」

「オウッびっくりした――」

「ばああぁぁ――」

「モブちゃん、可愛いね。よしよし」

「ば、ばあぁ……」


 自分はこの子の頭を撫でて上げた。衣装も可愛いし、顔も可愛いじゃない。


「あっ、キュン――」

「いい? 誰かに質問されても動揺しちゃ駄目だからね? そうしないと皆部屋に入ってびっくりしないじゃない? 因みに何処のクラス?」

「ヒソヒソ……」

「うん、2-D組? ありがとうね。ちゃんとお化け役頑張ってね」

「ありがとう――」


 その子はまたダンボールみたいな所に隠れて手を振る、フフ。可愛いお化けだなぁ。自分はこの部屋を後にした。麻衣はちゃんと待っていて「用が終わったよ、ほら懐中電灯」と見せると「良かった……ね?」と病みスマイルを見せてくれた。まだ調子悪いか、麻衣。




 地図を見ると次の目的地は外らしいが、館の裏――か、自分は何かの裏に行くのは本当に嫌なんだが。仕方ない、これは林間のイベントだから。この時点でも麻衣は手を握ったままなだけで言葉は一言も喋らなかった。


「麻衣、大丈夫か? 無理に付いて行かなくたっていいんだぞ? 部屋に戻ってろよ」

「今のままが好きなの――そのまま手を握っていたい」

「あ、ああ――でも無理はするなよ」


 麻衣は別に無理をするような人じゃないけど、今だけはちょっと無理してる気が――


「ウィッス」

「ああぁぁ――ああ? あぁ?」

「ドモッス、モクテキチはここマッスグですよ。ナカにはオフダがあるのでそれをモって、ツギのバショはサンガイにムカってクダさい」

「ああ、ハイ。なんか――どうも」

「オレはキガイはナイのでアンシンしてクダさい」


 何処かに行ってしまった――そろそろ着くのか。森林深くの開けた所に小屋が建っていた、ここが目的地の場所か――流石に、この夏でヒンヤリしてる所に行くのは肝が冷える、まさに肝試し。

 ツギはマイをツれてトビラへとハイる――イカンイカン、さっきのお化けの言葉使いがうつってしまった。


「ちゃんと握ってろよ」

「うん――」


 扉を開けて――部屋を懐中電灯で照らす。スコップとかこの館周りを整備する道具が多く置いてあった。また部屋の真ん中の机に確かに御札が置いてあった。どうせさっきの事だ、一人はお化けを仕込んでいるのだろう。


「おい、誰か居るか!?」

「……」


 気が強い奴なのだろう、特に反応は無かった。自分には懐中電灯があるし今は麻衣もいる。強く手を握ったまま真ん中に寄る。


「取るぞー! 取るぞー!」

「……」


 やっぱり反応が無い、ありがたくこの御札を貰っておこう。今一度この部屋の周りを見るが特に問題なし。――なんか引っかかる。

 扉を開けるがやっぱり何も無かった――


「うおおおおおおおおお!! 名柄川ああああああああああ!!」

「うわあああああああああああ! 油断させんなよおおおお! 麻衣! 麻衣逃げるぞ!」


 扉を開けて直ぐに走る。この手は離さない、絶対に。今まで通ってきた道を走って逃げる。館の入り口まで――!



「がッ――はぁ……はぁ……麻衣、大丈夫か? 急に走ってゴメンな」

「うん――大丈……夫?」


 走ったからか、ちょっと疑問詞になっていた。病みスマイルがお前の特技みたいになってるぞ。とりあえず、逃げては来たが、間違いない――アイツは上泉だ。自分の名前を知ってるのは自分ら2-A組のクラスくらいだし、あの声は上泉。


 ――今回のお化けたちはこの二年クラスの選別された人達、そして男女別に三人組になるように指定されてる。――そして気付いた。由里様がこのお化け役に選別されてしまったんだ。ということは、何処かに絶対由里様はいる。




 三階、ここに来る時、何度も驚かされたか大丈夫だ。廊下ですれ違う人ばかり――学校のね。自分自身は比較的学校で有名人に入る人だからお化け役の人の中で自分を知ってる人はちょっとビビってる、麻衣はちょっと元気を取り戻していた。


「羽海ちゃん――次は三階だね?」

「ああ、地図だと奥の部屋――これは先生の部屋だな」


 もう、ここまで来て会ってない人が居るから察し、恐らく中にはあの人が居るのだろう。部屋の扉を開けて躊躇ちゅうちょもせずに中に入る。――だが、予想外! 真ん中に既に立っていた、お化け役の人が!


「あの――紅茶は如何いかが?」

「……貰おうか」

「羽海ちゃん、その人由里さ――」


 自分は麻衣の口を抑えた、由里様っていうのは分かっている。でも分かるんだ、由里様が演じるのに精一杯なんだ! ――由里様の手が震えてるのだ。


「私は紅茶ババァ――紅茶漬けにしてやる……ぞー?」

「……」


 今までの由里様とは思えないほどの怪演技? なのか? 多分必死に学校で何の役をやろうかと由里様は考えたのだろうけど、紅茶ババァって……


「――紅茶にしちゃいます……ぞ?」

「……無理、しなくてもいいんだよ?」


 そう言われたのがちょっと心にきたのか由里様はうつむいて泣き出してしまった。自分はそばに寄って頭を撫でる。今回は頭を撫でる事が多いな。ついには由里様とは膝枕の形になってしまった。


「こんな暗い所に一人で寂しかったのですよ――」

「うん」

「しかも大事な役なんですよ、来た皆にこの数珠を渡す事」

「うん」

「もう怖くて――」


 とにかく由里様は不満を言う普段見ない由里様だ。


「あのさ、由里様がこんな役してるの自分は忘れる。だから、今だけはちょっとゆっくりして――」

「はい――名柄川さんは優しい――」


 自分は何も否定せずにそのまま時間が過ぎた――




「ええッ!? 私はどうなるの!? この肝試しどうなっちゃうの!?」




 麻衣は大きな声で叫ぶ。


「ああ、スマナイ。 じゃあ由里様、行ってくるから。もう直ぐで終わるよ」

「はい、名柄川さん。――ありがとう」


 自分は数珠を貰って部屋を出る。


「麻衣、ちょっと嫉妬してんだろ?」


 麻衣のほっぺたが膨らむ


「ゴメンって、でもちゃんとお前も相手してるし、自分は平等に接したいんだよ」

「んーーもう」


 更に麻衣のほっぺたが膨らむ。というか、すっかり麻衣は元気だった。――全く。

 次の目的地の場所を確認する。――最後は食堂だと? わざわざ一周させたのか、この館を。この企画を通した先生か生徒を殴りたい。自分は元に戻る作業っていうのがちょっと嫌いなんだ。

 一回まで戻る時に偶然鷹見に出会う。


「鷹見! ちょっと心配したが大丈夫か?」

「うん、上泉も見つかったよ。アイツ驚かしてきたけど別に大した事はなかったよ」


 強い、鷹見は強すぎる。一方宮川は「オレはダイジョウブだ」とか何処かで聞いた口調で安否を。


「――あれ? そっちは三人? 桧川は帰ったはずじゃ――」

「えっ――? 君は誰だい?」


 鷹見チームと自分ら羽海チームは焦る。――明らかに一人多い。


「ひょっひょっひょっひょっ」

「「うわああああああああ!!」」


 またお前か! ひょっとこぉ! マジでコイツだけにはビビる! またひょっとこは何処かに行ってしまった。この肝試しで一番怖いのはこのひょっとこだ。 お前だけはこの「名柄川羽海という女」シリーズのレギュラーにはしないぞ! 絶対にだ! 自分の中でコイツはもう許さん!


「なんだったの――アイツ」

「怖いよ、あの人」


 流石の鷹見も麻衣もビビっていた。というか、麻衣は一回会っているはずだが、あの時はまだ調子が悪かったのか覚えていないのだろうな。


「鷹見、帰ろう」

「うん、羽海」


 自分たちは食堂へと向かった――



  ※  ※  ※  ※



 食堂の扉を開けると、真っ暗だった。――目的の場所はここなはずだが、人気ひとけが無い。


「先生!」


 叫んでみたが、特に何も声は還っては来なかった。


「麻衣、鷹――」


 後ろを見ると、鷹見どころか皆居なかった。そして、自分は扉から出て一歩ぐらいしか歩いていなかったのにもう扉から数十メートルは離れていた。――自分はそんなに歩いたっけ? 食堂も歪んでいる気がする。なんだ? これも何かのトリックか? ちょっと気分が悪い。


「羽海――おい、羽海ッッッ!」

「――トミー? おいトミーなのか?」


 自分は周りを見るがトミーの姿が見えない。確かにこの食堂にトミーの声が響いてるのに姿が見えない。


「こっちの世界には来ちゃダメだ! ここの館の死の境界線は強すぎる!」

「――何ボケた事言ってんだよ? トミー」

「アタイも冗談だと思ってたけどあの食堂の扉を跨いだ時にノマれたらしい! もうアタイは駄目だ!」


 ――冗談ではない? これは怪奇現象? マジの事に自分は引っかかったのか?


「羽海! 今まで――ありがとうな」

「何言ってんだ? トミー……」



 立ち眩み――



「う……羽海……羽海ちゃん!」

「――――!」


 明るい食堂、さっきまで暗かったはずなんだが……何だったのだろう?


「トミーは? 阿賀町あがまち富子とみこは何処だ!?」


「――――阿賀町富子?」


「ああ、そうだ! トミーは何処にいった!?」










「 そ ん な 子 知 ら な い よ 」










 ――そんな子知らない? 嘘だ、一年生から二年生までずっと一緒だったじゃねぇかよ――麻衣。


「……どうしたの? 麻衣? 阿賀町富子だぞ? 自分のいつもの喧嘩相手――お前はいつも止めてくれたじゃねぇかよ。知ってるだろ?」

「知らないよ。でも羽海ちゃん知ってるって事はそれは中学校とかの友達で私が知らない子じゃないの?」

「――は?」


「鷹見は知ってるよな? トミーを」

「うーん」


 鷹見は記憶を絞り出しているようだが、最終的には首を横に振った。


「おう、お前ら。全部のアイテムは集まったか?」

「先生! 先生、先生、先生!」

「ど――どうしたどうした?」

「阿賀町富子! 阿賀町富子を知ってるか!?」

「――誰だ? 俺は少なくとも知らないな」


 

 自分を疑ってしまう。阿賀町富子は確かにいたはず。さっきまで声を聞いて話していたのだから。

 生徒一覧表の「あ」の欄――一番先頭なのに、名前がない。


 ――トミーは何処に行った?

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