林間学校! その4
この林間でのリーダーとしてヒヤッとした場面があったけど、桧川が大体迷惑を掛けてる気がするこの日である。バーベキューから様々な肉を出してる訳だけど、この次の日程を見るともうそういう場面に出す肉は無いだろうし、さっき「他に肉は持ってないだろうな?」と聞いたら首を横に振ってたから大丈夫であろう。
徐々にこの班もまとまりが付いてきたし、人の扱い方が分かってきたからこの場面でも楽しくなってきた所である。
自分が片付けてる所に麻衣が近づいてくる。
「羽海ちゃん、この後はお風呂らしいよ」
「結構早いなーまだ六時だぜ?」
「何言ってるの羽海ちゃん、就寝は九時だよ?」
「はーっ!? 恐ろしく早いな! ガキでもそんな早く寝ないぞ」
「お前達は生徒なんだ、高校にいる限りはガキだろ」
カッチャカッチャと皿とスプーンで自分達お手製のカレーをガッツきながらおかわり何回もしてる先生には言われたくないな。全く、どんだけ熊肉カレーが好きなんだよ。
――さて、初日でもう濃厚な感じなんだけど、次も待ってるんだよな。片付けを終わらせて早く次に備えなくては。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「ちゃぽーん」
ようやく落ち着いてお風呂に入れる……だなんて思ってたけどまさかの全員で風呂に入る大型の風呂とは思わなかったよ。中学の時もこんなんだったけど流石に成長期のこれは圧巻、色とりどり。
その中で暴れるのが一人いるんだなぁ。
自分は後ろから襲ってくる手を掴む、さっきゲーセンで遊んだスロットの目押し反応がここで使えるとは。
「ちぇー、羽海ちゃんガード固いんだからー」
「胸触ったって何の得も無いだろ! 特に自分の胸は!」
「まったいらだもんね!」
ちょっとカチッと来たけどこんなにテンションの上がる麻衣を見るのは初めてだ。クラスの子の後ろに近づいては胸を掴んで数十秒は揉むんだから恐ろしいやっちゃ。
また自分は手を掴む、勿論後ろから。
「無駄だって、知ってんだからお前が後ろからくるのなんて」
「なんで知ってるのさ! ケチっ!」
ケチ、なんて言われたけどお前の胸の方がよっぽどデカくてマシュマロみたいな柔らかさだと思うけどな。
「あっ、お止め下さい! 聖山さん!」
「良いの持ってるじゃない! 由里さま~」
体を洗ってる途中の由里様の胸を掴んで揉む麻衣、お前は生きて帰ってこれるのだろうか麻衣。自分はちょっと不安になっちまうよ……。由里様の素性は分からないけど、こうして庶民的な生活に慣れているということは自分達と同じくやっぱり人間なんだなと思う、ここにいる皆はやっぱり仲間だ。
だがそんな仲間に不潔な事を繰り返してる麻衣は――
「もっと……もっと揉ませろ~!」
ついに麻衣はリミッターを超えたのか、何かが切れる音がした。――プッチンというよりブチッて本格的に何度も束ねたロープみたいのが切れる音。その暴走行為に出る前に自分の出番だな。
自分は風呂から出て麻衣に近づく。その近づく音に麻衣は気付いたのかこっちを向いて来た。
「名柄川羽海……だけだぁぁ! 揉んでないのは羽海ちゃんだけだぁぁ!」
普段聞かないドスの効いた声――リミッター解除するとこんなに豹変するもんなんだなー。しかし、ワンパターンであろう。こういう暴走程ワンパターン化するものは無い。
麻衣はストレートに走ってきて、ゾンビのように両手を真っ直ぐに伸ばす。自分はそれを知っていて近づいた麻衣の手を自分の手で退ける。――そして流れるように麻衣の胸を掴む!
「あ――ひぃぃ!」
「おー!」
綺麗な流れで周りがどよめく、完璧な動き。自分でもうっとりしてしまうくらい。
「麻衣ぃ――自分の胸を掴まれて揉まれるのはどうだ?」
自分は麻衣の胸をもみしだく、ハッキリ言ってこれは男の気持ちが分かるかも、両手で揉んだり片手で揉んだり。とにかく麻衣の胸をもみしだいていった。
「うぅ……変な気持ち、あっ……あっ――」
麻衣はぐったりと倒れて自分のK.O勝ち。なんとも言えない勝ちだけど勝ちは勝ち。前回の恨みもあるから強く揉んであげたが、それが効いたのだろう。風呂でこんな事するから麻衣は逆上せて湯気が出てる、頭から。
「はぅぅぅ――」
この風呂全体から拍手喝采なこの場だが、犯人の麻衣をここで放置するのは良くないだろう。自分は麻衣の腕を持って外に退場させる。
「トミー、由里様。自分達先に上がってるから。まだゆっくりしてていいぞー、ほら麻衣行くぞ」
「はぅぅぅ……」
――だいぶ参ってるみたいだな……。調子に乗ってたみたいだしリミッター解除もして暴走状態だったし。
※ ※ ※ ※ ※ ※
自分は自販機の牛乳ビンを自分のと余計に一本買って部屋に戻った。麻衣は――布団で「バタンキュー」ってなってる。もうちょっとで昇天しそうだったんだな麻衣――色んな意味で。でも罪を数えるとクラス全員……自分以外を揉んだのだから罪は多い、お前に彼氏がいたら泣くぞ……。
「うぅ――まだ気持ち悪い」
「大丈夫かよ、ほら牛乳買ってやったから飲め」
「羽海ちゃんの母乳?」
「お前はどうしてこうなったらそう聞こえるんだよ……」
麻衣は体を起こしてビンの蓋を開けて、チョビチョビと少しずつ飲む麻衣。これで少しは落ち着けば良いんだがな。
「何でお前はそんなに他の奴の体を触るのが好きなんだ……」
「私はね――」
麻衣が言い掛けた所で風呂場でゆっくりしてた二人が帰ってくる。
「聖山さん、大丈夫ですか?」
「麻衣、お前派手にやりすぎだよ」
流石に心配してたか、少し早く帰ってきた。班の仲間としては嬉しいのだが――
「由里様の胸も良かった――」
「感想は聞いてないですわよ、私は……」
「コラ~麻衣ーお前は人が心配してるのに何を言ってるんだーコラ~」
体を叩きたかった自分だが、流石に逆上せた相手を叩くのは友人でも気が引く。でもこれが麻衣なんだろうな、仕方ないから麻衣の頭をナデナデした。
「ピンポンパンポーン、常日高校生徒の皆様、食堂へ集まって下さい。繰り返します、常日高校生徒の皆様、食堂へ集まって下さい」
何かあったのだろうか、とりあえず麻衣共々食堂へと連れて行く。