林間学校! その3
――午後3時
自分はうたた寝を始めてしまった。リーダーだからしっかりしなければならないのだが……そういう訳にも行かなかった。待ってるほうが長い、長すぎる。とりあえず、この館全体を見てみたかったので自分は部屋から外に出た。
長い通路があって自分達の部屋は真ん中くらい、本当に真ん中ぐらいだった。そこから右に100mぐらい行くと階段があって上に行く階段と下に行く階段がある。上は男子達の部屋に繋がっていて下はロビーらしき所に行くらしい、今回自分は下に行くことにする。林間とはいえ多少の娯楽はあるらしい、階段を降りてヘコみの部分を見ると自販機がある。ラインナップがここらでは見ない奴ばかりで飲む気にはならないな。
そこからちょっと行くとおいおい、ゲームセンターだと?そこで鷹見が遊んでいたのだ。
「おお、羽海。ここを見つけてしまったのか」
「鷹見……ここは?」
「ここ唯一の娯楽施設、ゲームセンター 先生達も少しなら遊んでもいいらしいよ」
「へー」
鷹見がスロットをやってる姿を見ると実にシュールだな……自分がチラチラと見てると
「……やってみる?」
「え? いや自分は……」
鷹見に裾を引っ張られて無理矢理椅子に座らされる。
「とりあえず、そのMAXBETって書かれてるボタンを一回押してからレバーを叩いてその三つのボタンを押すだけ」
もうやらせるのかい、人生初のスロットとやらをこの林間学校で打つのか。鷹見の通りに操作をする。すると絵柄が回りだした。
「その左下の"GOGO"っていうのが光るまで回してみて」
「GOGO?なんでGOGO――」
渋々自分は回す。暫く回してると――
ガコッ!
「うおっ!? なんだ!?」
左下のGOGOと書かれたランプが紫色に光る。こんなビックリする音がするのか!
「どう? ビックリした?」
「お前もビックリしてたじゃねぇか! 心臓に悪い!」
「一応、これで当たりだよ」
この状態で当たりなのか? 7が揃ってない気が
「次回せば7が揃うの? よくテレビとかで見るのじゃ勝手に7揃ってるけど」
「あれはカジノスロットだからね、日本のは自分で揃えなきゃ駄目なんだ」
こんな早いのを押せって言うのか? 無理だよ。とりあえず、自分は絵柄を回す。
「まず――色を見て、赤色がフッと見えるだろ?」
自分は回ってるものを見る、確かに一瞬だけ赤色の物が通る……気がする。
「それを狙って――打つ!」
「打つ!」
だけど駄目だった、窓の中に7が止まらなかった。
「諦めないで、あと二つあるから練習してみよう」
「この黒いのは?」
「後で教えるよ、今は赤」
鷹見に言われるがまま赤色の物体を目で追う。しかし窓枠内に止まることは無く、自分も苛立ちが隠せない。
「本当に止まるのかよ! もう数分位GOGOが光ってるんだけど!」
「落ち着いて、じゃあ一つ自分が止めるから参考にして!」
鷹見がボタンを手で押して一つ7を止める。――ひょっとして滑ってる?7が滑ってきて止まっているのかもしれない、ボタンを押して若干の遅延の末止まって見えた。考え方としては窓枠内に止める、と言うより滑らせる。のが正しいのかもしれない。自分はボタンに手を据えて……押すっ!
ズルリ――
やはりそうか、止まると言うより滑る。だな。
「お? 後もう一個だぞ。頑張れ」
もう一個か……7と黒いのが一緒になって流れてきている。これだったら黒いのを狙えば7が揃うみたいだな。
「よいしょー!」
自分は7を滑らせた――が。
77【黒】
という感じに止まってしまい、惜しくも7は揃わなかったが大音量で音楽が流れる。
「惜しいから音楽流れてるのこれ?」
「レギュラーボーナスだ」
「レギュラーボーナス…?」
鷹見が指を刺す所を見ると777と書かれた下に77BAR レギュラーボーナスと書かれたのが見えた。
「えっと――ボーナスはボーナス?」
「まぁ…ボーナスだけどその777よりはメダルが出ないって事」
「なんか……ショックだね」
とりあえず、ブドウをどんどん揃えてボーナスというのを終わらせた。
「これで終わり? ショッボ」
「まあレギュラーボーナスだからね」
スロットとやらも派手に始まる割には地味に終わるんですね。
「次はビッグボーナスというのを目指して次、回してよ」
「ん? ああ」
自分はBETと書かれたボタンを押してレバーを叩く、パッとさっきのランプが光った。
「あ光った」
「ええ!? 嘘だろ!?」
一番に動揺してるのが鷹見だった。さっきのがでっかい音がしてビックリしたが、今回はひっそりと光ってそんなにビックリしないんだが。
「一ゲームだよ? 名柄川羽海たったの一ゲームだよ!?」
「それがどうしたの? 中でいつに当たるとか決まってるんじゃないの?」
「約一五〇分の一を一発で当てたって事だよ!」
「え? ああー!?」
自分は事の重大さを分かった。つまり、その……箱に手を突っ込むタイプのくじ引きでガサゴソガサゴソと探って掴んだものがA賞だったっていう位ビックリということなのか? しかもその箱触るのは一番目で。っていう感じか?
「うわー自分何をやったのかわかったわ。すいませんねぇ鷹見さん?」
「とりあえず、揃えてみようよ」
「ああそうか」
当たった所で面倒な作業があるのがこのスロット機なんだね。感動出来た所でこの面倒な作業、目押し?だったっけ?
「えっと……一番目と二番目のは赤いのを狙って……」
「最後は黒いのを狙う」
自分はボタンに手を添える。じっと見て極める。別にビタっと止める必要はなくてちょっと滑って止まるんだ。だから……タイミングを合わせれば……。
バチッと……
777と揃って軍艦マーチのアレンジっぽい曲が流れた。
「名柄川、すげぇよお前」
「ありがと……」
自分は事の重大さを知ったけどそもそもスロットという仕組みを知ってないから喜びがあまり実感出来てない。んー、でもこれでいいのか。
「それよりも鷹見、これジャンジャンバリバリってうっさいな」
「……うるさいね」
やっぱりうるさいとは思うのね。
――午後五時
なんだかんだ言って可愛いうさぎのキーホルダーを手に入れた。んー、バイクの鍵にでも付けるか。
ピンポンパンポーン……
「生徒の皆さん、夕飯の準備が出来たので外まで来て下さい」
夕飯の準備が出来たのに外に集まるんだ……。
「この場所で遊ぶのはここまでだね。それじゃ行こうか」
鷹見に手を取られる。普通に女の子の手を取って移動しようと思うのは鷹見くらいであろう。流石抵抗が無い男、鷹見である。
外に出てみると、先生方が集まっていた。しかし他の生徒は自分達の移動が早かったのかまだ集まりきれていなかった。
「お前達随分早かったな。何処にいたんだ?」
先生に聞かれる
「え? まぁ偶々一階に居たもので、放送聞いてから直ぐに駆けつけました」
「ふーん……」
な、なんだ?その目は?
「まぁ先生は深くは聞かないが、仲が良すぎるのもちょっとな……」
なんでそんな発言が? 全体を見回してみると、先生の前でも鷹見と手を繋ぎっぱなしだった。
「う、うわっ! 手を離せっ!」
ペチンと手を弾く
「アイタッ」
鷹見が手を抑えて痛がる。
「け、決して先生?そんな関係じゃないですからね? センセイ?」
「ん? うん」
なんともそっけない返し。
徐々に生徒が集まってくる。
「羽海ちゃーん!」
麻衣も遅かったがしっかりと来てくれた。
「よし、集まったな? 今からカレーを作ってもらう。素材は全部テーブルの上に揃ってるからうまく作って下さい」
昼間はバーベキューだったが次はカレーと来たか。説明が終わった所で皆が動き始める。
自分達も動き始めた。
「しっかりした……野菜だぁ……」
「なんでちょっと麻衣がテンション上がってるの?」
「だって部屋の中でこもっちゃって飽きてた所だもん」
そういえば館内は自由だけど外には出れなかったからな。動きまわる事が好きな麻衣にとってはツラい事であろう。
自分は包丁の扱いが微妙であったが麻衣に習ってじゃがいもを切る。由里やトミーには皿洗いや他の雑用を任せていた。びっくりする位に順調でスムーズだった。一方男子達はと言うと先生達に呼ばれて別の場所で何らかの準備をしているようだ。
「麻衣ー! 飯盒に入れる水はこのぐらいでいいのー!?」
「うん! これぐらいで!」
「麻衣ー!」「麻衣―!」
麻衣は他の場所へと場所へと引っ張りだこだ。ウチのクラスは料理できる人が少ないのだろうか? しかし実際の麻衣の料理はというと……。自分は酷い目に遭っているのだ……。
「やぁ、待った? カレーの調理は何処まで行ってる?」
男子達が帰ってきた。
「おう、一応野菜は全部切ってジャガイモと肉を中で炒めてる所だ」
「随分進んでるね」
一人またガサゴソとしてる人が居た。そう、桧川の奴だった。
「ひーかーわー?」
「ああ、名柄川。カレーの中にこれを入れると美味いぞ」
差し出したのは一塊の肉だった。
「ナニコレッ!? 随分獣臭い肉を!」
「熊肉を持ってきた」
「は!? 熊肉!?」
「大丈夫だ、既に柔らかくするように下準備はしてある」
「い、いやいやそういう問題じゃなくてどっから持ってきたのそれ!」
「家から」
「ご家庭にそんな一塊があってたまるか!」
「俺の家にはあるんだよ」
その一言で片された。
「と、取り敢えず皆に聞いてみるから……それから入れような? な?」
「分かった」
さてさて、皆に聞いてみる。麻衣は
「熊肉って食べたことない、入れてみる?」
トミーは
「牛肉豚肉ってのも飽き足りてるしいいんじゃない?」
由里は
「よろしくて?」
鷹見と上泉と宮川も同意見だった……。
「……桧川、どう調理すれば?」
「カレーと同じように炒めてから入れるといい」
肉いえども同じ調理方法で良いのね。
自分達の鍋だけ凄い異臭を放っていた。灰汁取りが大変で仕方がない。脂身が多いわけでは無いのだがぐつぐつと煮る度に灰汁が出てくる。
「爪楊枝で刺して柔らかくなったか確認して煮過ぎないように」
圧力鍋とかがあればもっと便利になると思うんだけど今はこの方法しかない為時間が掛かってしょうがない。茹でて茹でてひたすら茹でる。暫くしたら桧川からルーのサインが出たのでルーを入れる。ハッキリ言ったらもう全部コイツに任せても良いんじゃないのか? っていう本音が口から出そうだった。カレールーを溶かす。
熊カレーの完成……。皆は美味しそうに見てるが自分は不安だらけ。自分は王道に牛肉を入れて食べたかった。これは別のワイワイだよ、桧川……。
「さー皆配るよ」
お疲れ気味の自分に変わって麻衣がカレーを配る。ゴツゴツとした熊肉がお皿の上に乗る。ヒエーあれ口の中に入れるの? 硬そう……。
「ほら羽海ちゃんの分」
「あ、どうも」
麻衣からカレーライスを渡される。他の班はどうなってるんだろう……まぁ極一般家庭のカレーだろうな。
「お、カレー出来たか!」
先生が寄ってきて横に座る。
「今回はここの班にしてみようかな。一緒に食べても良いかな?」
「ああ、先生食べるんですか……」
何という最悪な出来事。
「だって、カレーに当たり外れ無いだろ?それに聖山の家庭の評価はぶっちぎってトップだしな」
「んんーー……。先生、ウチの班は止めといたほうが」
「いいや、先生はここから動かないぞ」
参ったな……。先生、ウチのカレーは一味違いますよ、いや二味かもしれない。
「先生、どうぞ」
宮川が先行を取る。貴様……!そして行動が早くて既に先生の分のカレーが目の前にあった。
ちょっと面白そうと思ってないか? 宮川、どうしてこの状況を楽しんでるんだお前は。
「宮川イイねぇ、行動が早くて。それじゃ頂きまーす」
先生が一口肉をいった……!モグモグと噛み砕く。
「……これ、何か違うな……名柄川、何入れた?」
いーやー、気付いちゃった……。
「えっと……肉を……」
「聞こえなかったぞ」
「……ま肉を」
「なんだって?」
「熊肉を入れました……」
「く、熊肉ぅ!?」
先生が唖然としてスプーンを落とした。
「い、いやー先生を始めて20年、林間の度に色んなカレーを食べたがこんな美味いカレーを食べたのは初めてだ!」
「……は?」
自分もビックリ
「バーベキューの時もイノシシだと鹿だの持ってきてたけどもしかしてまた?」
「はい、まだ隠し持ってました」
「桧川かぁ! まぁどうせ腐ってしまうだろうしそこは駄目だろうと言いたいけど熊肉が美味しいとは思わなかった。ありがとう!」
先生は言いたいことだけ言ってまたガツガツと食べ始めた。そんなに美味しいのか? 自分も一口肉と共に食べる。
「……美味しい」
このカレー、かなり甘みがある。カレールー自体はバー○ンド(中辛)で希望によりはちみつが貰えたがはちみつは使っていない、それなのに甘みがあるのだ。
「桧川、この甘みは熊肉から?」
「そうだ、熊本来の旨味がカレー全体に出るんだ」
へぇぇ……! これはこれは。自分も気に入った。いいカレーが出来た!
「ゴメン、もう一杯いい?」
先生がおかわりするとは。このカレーにハズレは無し。まぁカレー自体にハズレは無いのだがこの班だけは格別美味しいだろう。そして自分は謝らなければならない人物が居る
「桧川、すまない! 色んな事にケチ付けてしまって!」
「別に構わない、珍しいから食べづらいだけだろう」
「スマナイ! スマナイ!」
ペコペコと謝った後にカレーを食べる。やっぱり美味しいのだ。
ありがとう、桧川寿一。