林間学校! その2
自分ら一行はバスに乗る。いつもの観光バス貸切だ。下に荷物入れがあって大きな荷物はそこに入れる。
「いええ! 俺窓側!」
上泉ははしゃぐ、早速先生に怒鳴られ静かになる。こんな早朝から元気とかどんな神経しているんだ。ここから目的地までは数時間バスに揺られることになる。
麻衣がトランプを持ち出して早速遊ぼうと誘ってくる。自分が知ってるのはババ抜きくらいなんだが――日本のトランプの普及率って意外と低い気がする。麻衣が提案したのはババ抜きでもなく"とりあえず7並べ"らしい。
「自分、7並べがわからないんだ……」
「えーと、まずカードをシャッフルして配られたカードに図柄関係無く7を出して」
麻衣から配られたカードから7を取り出す。
「それで、最初は7のカードから前後…つまり、8か6を出す、もし無かったらパスをする。因みにパスは3回までね」
――なるほど、最初に7並べをする理由が分かった。これでちゃんとトランプの枚数があるかを確かめるんだな。いい考えだな。
自分の班の4人が集まった。自分の手札は、最初に7が二枚来て多少余裕を持った。
A|5|6|6|9|10|10|J|Q|K|K
麻衣が一枚多くて、他は平均的に十二枚持っていた。まぁ見た目だけで何のカードを持っているかは知らない。一方、男性陣は野球盤を持ってきて遊んでいた。野球盤と言ってもミニバージョン。桧川だけは花札を持ってきて後ろの班の一人にルールを教えていた。何持ってきてるんだよ……。じゃんけんをして麻衣から時計回りになった。自分は三番目だ。ダイヤの8が出される。次に由里様がクラブの6を出す。それからかなり順調に番が回る。
自分の手札は A|5|Q|K|K までになった。由里が一位抜け、トミーが残り僅か、麻衣が少し残ったくらいか。やっぱり7に近い数字を多く持ってる人が勝ち抜けしやすいようだ。自分はJを置くまでパスを一回使い、トミーは二回、麻衣は三回と残している。――おっと、どれも置けないか。
「パス」
次に麻衣は
「パス」
と出た。
トミーはもう置けないのかパスと言い出して全部のカードが置かれる。――ん? 自分も置けないなんて、なんてこった。
「パス……」
完璧に運負け。最後まで残るカードが多かったからな。順位は一位、由里 二位、麻衣 三位、羽海 四位、富子となった。――これひょっとして最初のカードを沢山持っていてパスしまくったら勝てるのか?
カードの確認を遊びで分かった上で次にやるのは、大富豪というゲームとのこと
「すまない、自分大富豪も分からないんだ」
「えー羽海ちゃん何だったら分かるの?」
「ババ抜きしか知らないけど、とりあえず大富豪について説明してくれ。付いてく」
「えー、大富豪は――」
大富豪は地域によってルールが違うらしい。因みに麻衣ルールでは革命、8切り、都落ち、スート縛り、スペ3返し とのこと――これが王道らしい。
階段だのイレブンバックだの激しばだのなんだか訳の分からんルールもあるらしいがそんなにルールを増やしたら縛りすぎて場が進まないということなので王道ルールで行くとの事。負けた人から時計回り、トミーからだからさっきと同じ順番だ。
かなりの時間遊んだが、自分はこのトランプゲームは得意のようで大富豪に留まる事が多くて都落ちが少なかった。基本的にスート縛りをして番号が高いカードを出して流す。弱いカードを一枚残して強いカードを出していけば基本的に勝てると思う。この弱いカードを残しておく理由は自分が最後にジョーカーで上がろうとしたら麻衣が
「一番強いカードでアガったらダメ―、羽海ちゃん大貧民ねー」
とか追加ルールなのか分からん事が起きたからだ。でもこの弱いカードを残しておくデメリットが一つあって、革命を起こされると上がれなくなる事だ。まぁ4か5を残せば良いのが運が悪いのか中々来ないのだ。
――正午
一行はバスを降りてバーベキュー場に着いた。先生に聞いてみるとまだ宿泊先に着かないらしい。食材を見るといつもの肉串と野菜のバーベキューセット。焼きそば、その他諸々から選べる。1班に1セットらしいので、全員に聞いてみる。因みに自分はバーベキューセットだ。まぁ、物量とバーベキュー場に来た満足感を考えればバーベキューセットで間違いないが……。「海鮮セットが良い」とか「焼きそばが良いんじゃない?」とかで中々決まらない。自分は――
「待てよ、せっかくバーベキュー場に来たんだからこれ一択だろ」
促してみるが
「……俺はこれが良い」
サッと出してきたのは――何の肉?
「桧川ァァ! 何の肉か分からないから皆食えないし、そもそも何であるんだよ!」
「鹿もあるが?」
「何でそんなのがあるんだって!」
「俺が狩って持って来た」
コイツの所在地がますます怪しい。山の中とか?
とりあえず、落ち着いてバーベキューセットになった。どこと無く、他の班より豪華になってるが、結局持ち込んだ物を先生は「腐ってしまうから食ってしまえ」という事なので豪華だ。他の班は海鮮だったり焼きそばとかで大いに盛り上がっていた。
「それより、まだ火付かないの?」
「まだ付かないよ」
バーベキューする醍醐味は火付けにもある。今男性陣が必死こいで火をつけている。……チャッカマンで付けて炭を燃やすだけなのだがどうしてこう上手く行かないのだろうか。
「桧川、まだ付かないの? 遅くない?」
――嫌な予感がするのは自分だけなのだろうか?桧川のやり方は恐らくチャッカマンとかを使う方法では無いだろう。この様子だからちょっと見に行こう。
「まだ火付かないの? ねぇ……おい」
「ああ済まない名柄川、風が強くてな……」
「誰が"火打ち石"でやれと言った?」
「現代の物には頼れない、石でやるべきだ」
一生懸命に火打ち石でカチカチと火種に火を付けようとしていたらしい。自分は呆れてしまった。
「あのな、時間決まってるからさ、チャッカマンでやるぞ。あとお前ら男二人も桧川を止めろよ」
宮川は
「僕は止めたんですけどねぇ…チャッカマンでやるの嫌だったみたいで」
自分はカチッと付けて火種を炭が入ってる所に落とす。これだけで火が移るのに男性陣の火付けは十分と掛かっていた。多分、まとめるのに一番時間が掛かる班であろう。一致団結は可能なのだろうか。
食事中は流石に静かだった。何度かイノシシとか鹿を貰いに来た班が居て案外この肉達も需要があるのだなと思った。流石に牛肉より硬かったが、まぁ偶には悪くないのかもしれない。しかしよく持ち込んだ物だ。
「本当は鍋とかが美味しいんだけどな」
「成程、鍋か――今度家に持ってきてくれないか?」
桧川と鷹見は何を話してるんだよ。自分が逆に桧川の家に行ってみたいわ。その鹿鍋と猪鍋を食わせろよ。
目的の地までまたバスに乗る。この班だけモタモタとして点呼も遅れ予定より遅くなったらしいのでお土産を買う一回目は無くなったらしい。片付けするのも上泉は遊び、お上品な由里様は動かなくてトミーは雑にやって後から整理するのも大変で使えたのは五人だけだった。それでも体力の無い麻衣はギブしてしまったので四人で片付ける事になった。やっぱりこの班に一致団結は無いようだ。
……後に控えてる行事もちゃんと出来るのだろうか?
――午後一時
バスの中で自分はボケーと外を眺めていた。食事を取ったはずなのだがどうも食べた気がしなかった。後の運動量の方が多かったのだろう。
「名柄川さん」
自分に声を掛けてくれたのは由里だった。
「先程お疲れでしたでしょう、良かったら」
水筒からお茶を注いで渡してくれた
「ありがとう、ズズズ……んん!?」
お茶なのか? 麦茶では無いな……ナニコレ?
「由里、これお茶?」
「失礼な、れっきとしたお茶ですよ。今日はダージリン茶です」
ダージリン? 麦茶じゃない!
「麦茶の一つ?」
「いいえ、インド産の葉を使った紅茶です、気持ちが良くなりますよ」
こうして言葉だけを聞くとアブナイ薬みたいな言い方だな。でも由里が言うとおりにさっきまでモヤモヤしてた気分が良くなってきた。
「紅茶って飲んだこと無かったけどたまには良いね、ありがとう」
「いいえ」
お茶の事に関して勉強してみようかなぁ……。
なんだかんだで、ポチポチと携帯のキーを押してお茶に関して調べてた。結構な数あるんだなぁ。ここで景色が変わって森林の真ん中で停まった、バスの前には建物、着いたのだろうか。
「皆さん、ここで二日間過ごして頂きます。前から順に降りてください」
ここに辿り着くだけでもお腹いっぱいなんだが。ちょっと帰りたい気分だ。
「……」
女子一同は無言。十畳の何にも無い部屋。荷物を押し入れに突っ込む。早速由里はユリワールドに入り、麻衣はトランプを使って一人遊び。トミーはどっかいった。因みに男子諸君はこの建物の三階中三階の部屋にいる。隔離されてるのは当たり前だろうな。ニャンニャンな遊びが始まったり、忍び込んで自分達の下着を奪われそうな。男は下心でいっぱいなハズだ。
自分は周りの様子を見てニヤニヤしながら過ごした。